建具製作

指導先:宮城県石巻工業高等学校(宮城県)

ものづくりマイスター:佐藤 正美さん、菅原 幸記さん、高平 厚さん

宮城県石巻工業高等学校

いかなる困難や苦境に耐え、あらゆる努力を試み、運命の展開をはかろうとする粘り強さ「堅忍不撓」を校訓に掲げた歴史ある学校です。機械科、電気情報科、化学技術科、土木システム科、建築科の5学科で構成され、学校運営方針は「地域社会で工業技術者として即戦力となる人材の育成」と「自ら考え判断し、意欲的に行動する、誠実で思いやりのある人材の育成」です。

実技指導を依頼した背景

マイスターの建具製作の技能に触れながら、「自ら考える」力を育てたい

本校では「ものづくりマイスター等事業」を、6年前から活用し始めました。実技指導を依頼したきっかけは、製図室に設置する木製製図棚とテーブルの製作でした。その当時、生徒5名が中心となって製作する計画でしたが、製図棚の差し込み部分やテーブルの精度を得ることが難しいという問題が生じました。製作期間が約1カ月と短いこともあり、宮城県技能振興コーナーを通じ、優れた建具の技能を持つ佐藤マイスターに実技指導を依頼したことが始まりです。翌年以降、菅原マイスターと高平マイスターにも加わっていただき、3名のマイスターに実技指導をお願いすることになりました。その理由は2つあります。1つは、建具製作では工作機械を複数台、また、鑿(のみ)や鉋(かんな)などの刃のある道具を使用しています。その危険な機械や道具を正しく使用し、安全に受講できるように複数のマイスターから指導を受けることが必要であったこと。もう1つは、マイスターのアドバイスを14名の生徒が適時受けられるという観点からです。高度な技能を持つ3名のマイスターを間近に感じ、製作体験を通して生徒自身が考え、作業中に生じる問題を解決する力を身に付けることで、ものづくりへの意識向上をねらいました。

実技指導を受けたことによる効果

生徒が一丸となって取り組む課題製作が協調性を育む

今年度、建具職種の3名のマイスターには、伝統的な組子細工を取り入れた「掛け障子」の製作と、建具製作の基本的な木材加工の知識や技能を学ぶため、「人の役に立つ」共同作品を作るプログラムを実施していただきました。今年度は「コロナ禍における三密を避けるためのベンチ製作」のデザイン案を、受講している生徒全員が考案した後、1つの案に絞り製作に取り掛かりました。3名のマイスターに生徒の目線に立ったコミュニケーションを図っていただいたことで、生徒たちは、質問しやすい雰囲気の中で受講することができました。また、言葉に加え、作業手順のお手本を見た後に実際の作業に移る指導は、生徒の理解度を高めると改めて感じました。生徒たちにとって、大勢で1つのベンチを製作することは初めての試みでしたので、お互いに声を掛け合い、息を合わせることで共同作業の醍醐味も得られたと思います。

宮城県石巻工業高等学校
建築科 教員

房前 ふさまえ 有理 ゆり さん

宮城県石巻工業高等学校
建築科 教員

加藤 かとう せい さん

3名のマイスターの豊富な経験と強みを活かした、
層の厚い実技指導で生徒の技能を向上させる

生徒と共に課題を解決し進めるプログラム

マイスターのお三方はものづくり(建具製作)の経験がほとんどない生徒たちに対して、どのような伝え方や取り組み方を大切にしましたか。また生徒の方は受講して感じたことを教えてください。

佐藤 私が大切にしていることは、仕事を始める際は形から入るということです。作業の姿勢1つにしても身体の構えや物事に対する態度、心構えを教えるようにしています。例えば、鋸(のこぎり)を使う時は、墨を見て、押さえて、挽くという3つの動作が重要です。「墨を見て」とは、木材などを切断する箇所の目印として引かれた墨の線を意識することです。これは、鉋(かんな)をかける時も同じですから、まずはそれら道具の使い方を指導するように心がけています。

菅原 単純にものを形作るだけではなく、工程の中で課題が出てきた場合に、生徒と一緒になって解決していくというスタイルを心がけています。また、学校側が作成した学習指導案に基づいて、何を教えるべきかを明確にしながら、3名のマイスターと教員、コーディネーターが情報を共有し合い、共通理解を図ることも重要です。そうすることで、生徒に対してもスムーズに講義を展開することができます。

高平 以前から、小学校や中学校からの依頼で建具製作の仕事内容や実演を通して教える機会があり、その中で若い世代への技能継承に関心を持っていました。現在、石巻工業高等学校には3名のマイスターが建具製作を通して技能を教えていますが、それぞれの強みを活かして指導しています。私が得意としていることは、建具製作を実演することであるため、全体の進め方やコツを指導することに注力しました。

横山 ものづくりマイスターの講義では、私たちが考えた新型コロナウイルス対策用ベンチを作りました。これまで、建築物の図面を描くことや、模型を作ることはありましたが、椅子などの大きくて実用的なものを製作したのは初めてでした。また、1人ではなく、大勢で1つのものを作ることも今までなかったため、受講する前は不安と楽しみな気持ちが半々だったと思います。実際の製作では、予想しなかった出来事が起こるなど、問題を抱えてしまうこともありましたが、3名のマイスターからそれぞれに的確なアドバイスをいただき、また質問にも親身に答えてくださいました。こうしたご指導から、問題を乗り越えることを学び、無事にベンチを完成させることができました。

大切なのは失敗を恐れず、繰り返しチャレンジし続けること

マイスターの方々は、実技指導の際にどのようなアドバイスを生徒に伝えましたか。また、生徒の方は指導を受けて何を得ることができたのでしょうか。

佐藤 生徒のみなさんは、これまでにものづくりの経験がないため、最初はなかなか上手くいきませんでした。しかし、それは当然のことで、その都度「失敗してもいい」ということを伝えて、繰り返しチャレンジし続けることが技能職にとって大事なことだと教えています。そうやって実技を繰り返していく中で、私たちのアドバイスを聴く眼差しからは、真剣に取り組む熱意が感じられました。

菅原 建具製作の技能を生徒たちに指導する中で特に意識したポイントは、専門用語をできるだけ使わないことです。私たちマイスターの中では当たり前のように使っている言葉も、ものづくりの経験がない生徒たちにとっては理解できない場合が少なくありません。そのため、専門用語は噛み砕いて誰もが分かる言葉に変換したうえで説明しています。また、建具に関する歴史を織り交ぜながら、時代の変化による技能の変遷を伝えつつ、将来、課題に直面した時にそれを解決する能力を身に付けてほしいと願っています。

高平 まずは実演を行いながら、実際の製作シーンを見てもらうことから始めました。それを参考にしながら、とにかくやってみることが重要だと伝えています。その中で、できるだけ言葉をかけてコミュニケーションを図り、鮮度の良いアドバイスをすることを大事にしました。また、作業中に良いところを見つけて褒めることにも重点を置いて指導をするようにしています。

横山 ベンチを組み立てている最中に、脚にヒビが入ってしまったことがありました。私たち生徒は、作り直さなければという発想しかありませんでしたが、マイスターはヒビ割れ部分にボンドを付けて瞬時に直してくれました。これは、マイスターの方々が今までの経験から作り直さずに、活用する方法をいくつも知っていたからこそできたのだと思います。問題に直面したときに解決する力を持つことの必要性を感じ、指導いただいた中で、特に印象深く心に残っています。

古き良き建具の技能は、新しい時代にも役立つ

マイスターの方々は、建具製作で培った技能や経験は、これから先の社会でどのような価値を生み出すとお考えですか。また、受講された生徒の方は、受講を通じて学んだことや学んだことをどのように活かしていきたいか、教えてください。

佐藤 住環境は時代と共に大きく変化しており、純和風の住宅から今はほとんどが洋風住宅に変化しています。町工場の建具屋の数も減りつつありますが、日本の伝統である建具の技能を身に付けることは、建具以外でも必ず役立つと私は思っています。そのため、受講者のみなさんには、建築や家具など大小にかかわらず何でもできる職人になりなさいと伝えています。将来的には、受講者の中で1人でも多くの方が、身に付けた建具の技能を活かすことで起業して自分の店舗や工場を持ち、努力し続けて欲しいと願っています。

菅原 最初、生徒のみなさんは自分たちの気持ちを表現することもままならないことが多かったようですが、こちらから何でも聞いていいよと声がけをするようにしてからは、コミュニケーションが円滑に図れるようになりました。特に、生徒自らが「ここは、こうした方が良いのではないでしょうか?」と、私たちの気付かないことを逆に指摘する場面も見られるようになりました。これからも、生徒の視点に立ったものの見方や技能継承の方法を模索していきます。

高平 建具は古くからあるものです。今は機械を使う作業も多いですが、手作業でなければならない作業もあります。具体的な例として、京都や歴史的建造物などの古い建具を修復する時は、分解してバラバラにしますが、その時代ごとの技能者の腕は本当に素晴らしいものです。そんな建具は、戸建てを中心とした住宅などに必要なものであるため、無くなることはありません。ただし、形状やデザインは、使用材料などの依頼内容に応じて変わります。受講された生徒のみなさんにも、変化に対応しつつ、日本の伝統的な技能を絶やさず育んでほしいと思っています。

横山 今回、デザインしたベンチをより良いものにするために仲間と話し合うことや、製作するにあたって、道具を安全に正しく扱えているかをマイスターの方々に確認していただきながら、1人では出来ないものづくりを通じて、協力することの大切さを知りました。そして、マイスターのご指導を通して、自分で考えて行動する力が大切であることを学ぶことができました。社会に出たときにも活かしていきたいと思いました。

宮城県石巻工業高校
建築科3年

横山 よこやま 可門 かもん さん

ものづくりマイスター
佐藤 さとう 正美 まさみ さん

平成26年度 厚生労働省「ものづくりマイスター(建具製作職種)」認定

技能指導の実績
企業向けの建具製作実技指導
学校向けの建具製作実技指導

中学校を卒業してすぐ工務店に入社し、職業能力訓練校に4年間通い、学科と技能を習得。建築大工と建具の部門で13年勤務。その後、起業して42年間ものづくりの事業を展開しつつ若年技能者の人材育成にも尽力しています。

ものづくりマイスター
菅原 すがわら 幸記 こうき さん

平成28年度 厚生労働省「ものづくりマイスター(建具製作職種)」認定

技能指導の実績
学校向けの建具製作実技指導

高校卒業後、父親の後を継ぎ建具製作の道に入ることを決意。建具業に従事しながら経営の知識を得るため夜間大学に通い、卒業後は知人の企業で付加価値を高める技能を習得。また、お客様の希望や目的を把握してものづくりに取り組むことを大切にしています。

ものづくりマイスター
高平 たかひら あつし さん

平成29年度 厚生労働省「ものづくりマイスター(建具製作職種)」認定

技能指導の実績
企業向けの建具製作実技指導
学校向けの建具製作実技指導

地元の普通校を卒業後、建具屋を営む父親の後を継ぐことを決め、外部企業で修行。4年間務めた後に、建具の中でも高度な技能が必要とされる「組子」を身に付けるため、組子を専門で扱う企業で2年程勤務。その後家業に戻り現在に至ります。
プログラム内容
実施課題 建具製作
目  的 建具製作及び建具製作に関連する木材加工の基本的な知識・技能・技術の習得
受講対象 建築科3年生14名
  • 第1回
  • コロナ禍における三密を避けるためのベンチ製作
    (デザインプレゼンテーションおよびデザイン案の決定)
  • 第2回
  • コロナ禍における三密を避けるためのベンチ製作
    (図面の確認、木取り、脚の製作準備)
  • 第3回
  • コロナ禍における三密を避けるためのベンチ製作
    (図面の確認、脚の製作、幕板木削り)
  • 第4~5回
  • コロナ禍における三密を避けるためのベンチ製作
    (幕板枘、脚の墨付け、加工)
  • 第6回
  • コロナ禍における三密を避けるためのベンチ製作
    (脚枘穴加工、脚および座面の仕上げ)
  • 第7回
  • コロナ禍における三密を避けるためのベンチ製作
    (1台仮組みおよび本組み、他4台仕上げ)
  • 第8回
  • コロナ禍における三密を避けるためのベンチ製作
    (4台仮組み、本組み)
    および掛け障子製作(図面及び部材の確認)
  • 第9回
  • 掛け障子製作(墨付け、加工)
  • 第10回
  • 掛け障子製作(墨付け、加工、組子製作)
宮城県石巻工業高等学校

〒986-0851 宮城県石巻市貞山5-1-1

設 立 年 昭和38(1963)年
学 校 長 今野好彦
学  科 機械科、電気情報科、化学技術科、 土木システム科、建築科
在校生数 603名(令和2年12月現在)