婦人子供服製造

指導先:千葉県立館山総合高等学校(千葉県)

ものづくりマイスター:稲荷田征さん

千葉県立館山総合高等学校

家政科、商業科、工業科、海洋科で構成されている総合高校です。「明るく・清く・正しく」を校訓に、特に生徒が技能を身に付けた状態で社会へ進出できることを目標としています。平成30(2018)年には文部科学省からSPHの指定を受けました。

*SPHとは、専門高校において大学・研究機関·企業などとの連携強化により社会の変化や産業の動向などに対応した、高度な知識・技能を身に付け、社会の第一線で活躍できる専門的職業人を育成することを目的とした制度のこと。

実技指導を依頼した背景

就職してからも役立つ知識と技能を習得してもらいたかった

当校では積極的にキャリア教育などを取り入れています。生徒が現場の環境やプロの仕事に触れることで、実際に就職する際に役立つ知識や技能を習得してもらいたいという思いが強くあったためです。現在はものづくりマイスターに実技指導をお願いし、実践的な技能の習得に取り組んでいます。地域と連携することを通じて、就職後に結び付く学びを得ることにも力を入れています。具体的には地域の方々に生徒が行った研究発表を見ていただき、感想やアドバイスをいただくことなどを実施しています。様々な立場の方から意見をいただくことによってプロや消費者の視点を学ぶことにも繋がります。

実技指導を受けたことによる効果

自分たちで製作した難易度の高い裏付きジャケットでのファッションショー

マイスターに指導をお願いすることにしたのは、プロ・現場の仕事を生徒に見せてあげたいと考えたためです。当校では全国高等学校家庭科技術検定被服製作(洋服)1級取得のため、裏付きのジャケット製作が授業に組み込まれており、これまで当校の教員が指導していました。このジャケットの製作は非常に難易度が高く、思いどおり作品を仕上げる事ができませんでした。しかしマイスターの指導を受けてからの作品の完成度は高く、満足できる作品になりました。マイスターに実技指導をお願いしてから3年目の令和元年度に作品発表の場を作りたいと思い、ファッションショーを計画しました。令和元年の文化祭で開催したファッションショーのオープニングで生徒たちがマイスターの指導で製作した服を着用しランウェイをすることができました。とても高い評価をいただきました。このことはマイスターの実技指導を受講した生徒たちの技能がめざましく向上した1つの証であると思っています。

千葉県立館山総合高等学校
家庭科担当教諭

瀬戸 せと 佳子 けいこ さん

作ることを楽しみ、着ていただくことを喜ぶ
常に新鮮な驚きに満ちた実技指導

ユニークで的確、だからこそ楽しみながら学べた

実習では全10回にわたって裏付きのジャケットを製作したと伺っていますが、稲荷田マイスターがご指導する中で注意されていたことはどのようなことでしょうか。また、宇山さんが製作を通じて感じたご自身の心の変化についてお聞かせください。

稲荷田 講義で心掛けていることは、「難しい」という言葉を使わないようにしていることです。指導する側である私が難しいと言ってしまえば生徒たちは身構えてしまいます。そのため難しいことや大変なことも楽しく教え、出来上がった時の感動を味わってもらえるように意識しています。高校生は私がこれまで指導してきた専門学校の生徒とは異なり、進路を決めていない子が多いように感じています。まずは楽しんでいただいて、洋裁を好きになってもらえたら私自身嬉しいです。

宇山 私はもともと、洋服を着ることは好きでしたが作ることに興味を持ってはいませんでした。当校の家政科は2年時から選択科目として調理・保育・被服のいずれかの科目を多く学習します。1年生で専門科目の基礎的な内容を必修として学んだことで、洋服作りの楽しさを知り、被服を選択しています。洋服作りを学ぶようになってからは、洋服を購入する際にも縫い方などに目が行くようになりました。稲荷田マイスターの指導を受けるようになってからは、稲荷田マイスターのユニークな人柄もあって、より洋服作りを楽しめています。

未熟でまっさらな生徒だからこそ、自分の手で洋裁の真の楽しさを伝えたい

プロの仕事を生徒たちに体感してもらうことが、マイスターに指導を依頼した1つの理由であると伺っています。実際のプログラムではどのようなことを指導されましたか。また、宇山さんは実技指導を受けて心に残った出来事などはありますか。

稲荷田 はじめて館山総合高等学校に来た時には高校生の技能の未熟さに驚きました。しかし、その未熟さを目の当たりにした今では、あえてまっさらな状態の生徒たちを育てて服飾業界に引き込みたいと考えています。だからこそ指導の際には本来なら学校では使わないような、プロが使っている材料を持ち込んで使っています。反対に、家庭用のアイロンであったとしても、プロの技能を見せることを意識しています。例えば、アイロンは台に洋服を置いて平面で作業を行いますが、完成形は人が着用するため、平面ではなく立体になります。このように人の身体にフィットするように洋服を立体的に製作する作業を、家庭用のアイロンでやって見せることもありました。これによって洋裁の奥深さを生徒たちに伝えられているのではないかと考えています。ただ、あくまで自分だけが満足するのではなく、誰かがその洋服を着て喜んでくれたことこそが、作り手の喜びであるということを伝えたいと思っています。

宇山 稲荷田マイスターの技能はどれもすごいですが、中でもアイロン1つで洋服の形を作ってしまったことには驚きました。アイロンの概念が変わったように感じています。他にも初めて学ぶことが沢山あるため、それらを身に付けながら全国高等学校家庭科技術検定1級の合格を目指していきたいです。

大量生産から個人生産へ、世界に通用するメイドインジャパンのために

プログラムの全工程を通して感じたことや、今後の展望、期待などについてそれぞれお聞かせください。

稲荷田 これからの服飾業界は、大量生産の時代から個人生産の時代へと変化すると考えています。個人の手でどこまで自分の色を主張できるかが問われるのではないでしょうか。そのような時代においても通用する人材を育てることが、私にとって1つの目標です。また洋服の流行はたいていの場合ヨーロッパからやってきます。日本から輸出することはほとんどありません。指導した生徒たちの中から、世界に通用するメイドインジャパンを作る方が出てきたら嬉しいですね。

宇山 館山総合高等学校で授業を受け、そして稲荷田マイスターの指導を受けて、洋服を作ることがどんどん好きになっています。私は服飾業界へ進もうと考えているため、今後は洋服の形を進化させることや、今までになかったような技能で、より新しいデザインの洋服を楽しく創造していきたいと思っています。

千葉県立館山総合高等学校
家政科3年

宇山 うやま ゆい さん

ものづくりマイスター
稲荷田 いなりだ すすむ さん

平成26年度 厚生労働省「ものづくりマイスター(婦人子供服製造職種)
(紳士服製造職種)」認定

技能指導の実績
学校向けの婦人服製作実技指導
企業向けの婦人子供服製造の実技指導

都内の大手百貨店でイージーオーダーの業務から洋裁の仕事を始め、海外の技能を学ぶ必要を感じ渡米。その後大手企業で33年間働き、各地の学校で講師を務めたそうです。現在は服飾系の大学院での名誉教授やものづくりマイスターとして活躍しています。
プログラム内容
実施課題 裏付きプリンセスラインジャケットの製作
目  的 生徒の技能向上のため
受講対象 家政科3年生8名
  • 第1回
  • 表布、前後の身項作り、ポケットのフラップ作り
  • 第2回
  • ポケット付け
  • 第3回
  • 裏布の身項作り
  • 第4回
  • 前端の始末、袖作り
  • 第5回
  • 袖作り
  • 第6回
  • 襟作り、肩縫い、脇縫い、すその始末(表)
  • 第7回
  • 袖付け(表)
  • 第8回
  • 袖付け(裏)
  • 第9回
  • 襟付け、すその始末(裏)
  • 第10回
  • ボタン付け、アイロンを使った仕上げ
千葉県立館山総合高等学校

本校舎 〒294-8505 千葉県館山市北条106
水産校舎 〒294-0037 千葉県館山市長須賀155

設 立 年 平成20(2008)年
学 校 長 渡邉 嘉幸
学  科 家政科、工業科、商業科、海洋科(以上全日制)、普通科(定時制)、専攻科
在校生数 411名(2020年5月1日現在)※定時制及び専攻科を含む