機械検査

指導先:学校法人不二越工業高等学校(富山県)

ものづくりマイスター:山本 洋さん

学校法人不二越工業高等学校

総合機械メーカー株式会社不二越の創業者である井村荒喜氏が「社会の要求に応える技術者を養成する」という思いのもと設立した工業高校です。工業科(情報機械科)の中に機械システムコースと制御システムコースの2つのコースがあり、「創造・誠実・情熱」という校訓のもと、生徒たちは専門科目と一般科目をバランス良く学びながら技能習得に励んでいます。

実技指導を依頼した背景

成果物を評価するという責任の重みを理解してほしかった

機械検査は、時間をかけて作られた製品や部品に対しての合否を決定するため、責任の大きい技能であると考えています。なぜなら合格であればその製品の品質の保証をし、不合格であれば再び製作を強いるものだからです。そのため、ただ技能についての指導を行うだけではなく、自身の仕事がどれだけ周囲に及ぼす影響力が大きいものであるかを生徒たちに自覚してほしいと考えていました。そこで、実際の現場で経験を積んだものづくりマイスターに長年の実務経験に基づいた実技指導をお願いしました。

実技指導を受けたことによる効果

実務に向けた技能習得と技能者としての意識を形成

目に見える成果としては、生徒たちが各種の測定器を素早く正確に扱えるようになったことです。それに加えて技能者としての責任感や社会人としてのマナーなども身に付き始めています。具体的には時間を守ることや、報告・連絡・相談をしっかりと行えることなど、社会人・技能者としての基礎を正しく築くことができました。山本マイスターの実体験に基づいたお話を伺ったことで、技能者として機械検査を行うにあたり、自分たちが評価する製品や部品がどのような過程を経てどれだけの人が関わり、検査を受けるまでに至ったかを、想像し敬意を表することができるようになったと感じています。またマイスターの指導を受けたことにより、卒業後に「就職する前に高いレベルの技能を学べて良かった」と話している生徒がいることも耳にしています。

学校法人不二越工業高等学校
実習教諭

岩城 いわき 孝志 たかし さん

たゆまぬ努力の継続が
現場に適応できる技能を育む

現場に即した技能習得に向けて、モチベーションの維持が必要だと考えた

今回受講の目的の1つとして掲げている、技能検定「機械検査」2級レベルの技能の習得は、かなり難しいものだったのではないかと思います。そこで指導にあたって重視したことなど教えてください。また、生徒の皆さんはどのような想いで受講されましたか。

山本 今回、具体的には技能検定「機械検査」2級レベルの技能習得を目指すということで、お話を伺っていました。生徒たちがこのような実践的技能の習得に挑戦することを考えたときに、機械検査の工程全体に関する知識が要求されることから、経験不足が問題となると考えていました。しかしより本質的な問題は、生徒たちのモチベーションが必ずしも高くはないということです。これは私の経験ですが、生徒たちが実技指導を受ける際、自分の意志ではなく先生方から勧められたからとか、就職活動に必要だと話を聞いたから、など自発的ではない場合が多くあります。そのためどのようにしてモチベーションを上げて、継続してもらうかということが問題であると考えました。私自身、常に目標を立てて、その目標に向かって努力することを何より大切であると考えていることもあり、努力を継続することの重要さが技能と同様に伝わっていたら嬉しいです。

宮川 山本マイスターには技能検定2級の試験で実際に出題された実技ペーパー(計画立案等作業試験)という形式の問題を通して、ご指導いただきました。これは本来、社会人の方々が実務の経験をもとにして解く問題です。実務の経験が無い自分が、より実践に近い技能を習得できるのかということには不安がありました。マイスターの講義を受講した当初は理解が追い付かず、自分には難しいのではないかとも考えました。しかし、山本マイスターから丁寧にご指導いただくうちに、段々と今の自分が学ぶべきことが見えてきたように思っています。

山﨑 山本マイスターの講義を受ける前から講義内容の難しさについては先生方から伺っていました。今回の実技指導の内容は技能検定「機械検査」2級レベルの技能ということで、これは社会人が学ぶレベルであるということです。本当に自分にできるのかと受講前から弱気になっていたことを覚えています。また、私はマイクロメーターでよく数値の読み間違いをすることがあったため、果たして新しい課題に立ち向かうことができるのかということも考えました。しかし受講を続けてきて、現在では少しずつ手ごたえを感じています。まだまだ実際の現場で仕事をしている自分を想像することはできませんが、将来に向けて少しずつ実力をつけていきたいと考えています。

実際の現場をイメージできる指導で、実務経験がない生徒たちの弱点を補う

現場経験のない学生たちにとって機械検査の現場に即した技能を習得することは大変困難であると伺いました。そこで、指導に当たって工夫された点などを教えてください。また、生徒の皆さんは受講されてどのようなことを学びましたか。

山本 今回の指導では実際に技能検定「機械検査」2級の試験で出された課題を題材としました。具体的には学科と実技の2つです。実技についてはさらに2つに分かれていて、測定作業と実技ペーパーがあります。測定作業については訓練を積むことで対応できますが、実技ペーパーについては説明図の作成が必須であり、簡単な訓練では身に付けることが困難です。説明図の作成は図面の見方や測定器、測定用補助具の使い方、さらには実際にどのような段取りでどのように測るか、ということまで考えなくてはなりません。実際に近い測定用補助具を準備してもらい、それらでより具体的に説明し理解できるようにしました。また、説明図、段取り方法、測定方法から得られた測定値を使って、必要な寸法・角度を計算するための基本的な考え方、書き方をできるだけ分かりやすく説明しなければなりません。この問題を乗り越えるために、私は技能検定の過去問の解説資料を独自に作りました。資料を通して生徒たちには実際の現場をイメージできるように指導できたと思っています。

宮川 実技ペーパーに取り組む中で計算問題が出されました。この計算問題は一般科目とも通じるものがあり、例えば三角関数などを利用して問題を解くような場面も多くありました。初めの頃は計算が出来ない上に、説明図を描くためにかなり時間がかかっていましたが、山本マイスターが受講毎に配布してくださる資料を見ながら訓練を重ねたことで、今では受講開始当初とは比較にならないくらいすらすらと説明図を描けるようになったと感じています。そのため、以前とは異なり苦手な計算に時間をかけて取り組めるようになりました。

山﨑 僕はなかなか図を綺麗に描くことができずに苦戦していました。加えて使用する測定器や測定用補助具には聞いたこともないようなものも多くあり、それらをどのように組み合わせて検査を行うのか見当もつきませんでした。しかし山本マイスターはそんな僕にも丁寧に指導してくださり、不明な点については、講義中にその場で質問することもできました。のびのびとした環境で訓練できたことで、難しい問題にもポジティブに取り組めたのではないかと考えています。今では図を以前よりも綺麗に描くことが出来るようになりました。

ものづくりの基礎である機械検査が持つ、大きな責任とやりがい

機械検査という技能が大変難しいものであることがこれまでの取材で分かってきました。機械検査を極めたマイスター、そして習得しようとしているお二人が思う、機械検査の魅力とは何でしょうか。

山本 機械検査というものはものづくりの基本だと考えています。ものづくりの世界では測れないものは作れない、ということがよく言われています。製造現場で作られているものが設計通りに出来ているか、また設計通りだとしてもその出来栄えがどうか、ということを評価する機械検査は、ものづくりの重要な基礎であると言えるのではないでしょうか。機械検査の業務を通じて合格・不合格の評価を下すことは、お客様や社内、取引先に対して責任を持ち、また納品や作り直しをはじめとする業務の増加など大きな影響を与えることを意味します。このような自身の担当工程を越えた全体的な視点を持ちつつ、機械検査の大きな責任とやりがいを実感していただきたいです。機械検査はものづくりの世界に進む人にとっては必ず役立つ技能でもありますから、生徒たちには継続した努力のもと、現場で通用する実力を養っていただきたいです。

宮川 今回山本マイスターから学んだことを今後の人生に役立てたいと考えています。具体的には、在学中に学んだ機械検査の技能以外での知見を活かして、作業者へのリスペクトを忘れない機械検査の技能者になることです。山本マイスターの講義を通じて、自分が検査して合格させた製品や部品が、取引先の会社や世の中に出て社会に貢献していくことにこれまで以上に大きな魅力を感じるようになりました。このことは技能を学ぶだけにとどまらず、山本マイスターが機械検査という技能に関わる多くの物事、考え方を教えてくれたからだと考えています。考え方を知ったことで、これまで以上にマナーやルールにも気を遣うようにもなりました。

山﨑 僕も機械検査の分野に進みたいと考えています。責任の大きい機械検査という仕事に自分が携わることを考えたとき、自分が合格という評価を下した製品に不具合があったら怖いとも思いますが、「なぜこの製品が合格で、この製品が不合格なのか」ということを論理的に説明できることの大切さを、山本マイスターの講義を通して学ぶことができました。今後はさらなる技能の向上を目指して山本マイスターのような技能者になりたいと思います。また、山本マイスターのように周囲への配慮ができる技能者になれるよう、マナーやモラルの意味を考え、それらを守っていきたいと思いました。

学校法人不二越工業高等学校
情報機械科2年

宮川 みやがわ かなめ さん

学校法人不二越工業高等学校
情報機械科2年

山﨑 やまざき 琉聖 りゅうせい さん

ものづくりマイスター
山本 やまもと ひろし さん

平成25年度厚生労働省「ものづくりマイスター(機械検査職種)
(機械保全職種)」認定

技能指導の実績
学校向けの機械検査作業の実技指導

長年に亘って民間企業の計測部門に勤務。自社・協力会社が製造した製品や部品の測定や現場で使用する測定器の校正・修理を行うとともに、測定に関する指導を行っていました。勤務先の企業では機械検査技能士取得の社内研修を行いました。また、課内では全員が機械検査技能士を取得するという目標を立て、2年間かけてこれを達成しました。様々な人への指導経験をもとに、現在は後継者の育成に取り組んでいます。
プログラム内容
実施課題 機械検査
目  的 技能検定2級レベルの実技ペーパーの訓練 / 社会で通用するマナー・モラルの習得
受講対象 情報機械科2年生2名
  • 第1回
  • 機械検査作業の基礎、ノギス・マイクロメータの測定方法基本、測定器を扱う上での注意事項・ポイントなど
  • 第2回
  • 実技ペーパーの概要、測定問題の基礎
  • 第3回
  • 品質管理問題のまとめ
  • 第4〜9回
  • 過去問題をベースにした課題の解説・演習
  • 第10回
  • まとめ
学校法人不二越工業高等学校

〒930-0964 富山県東石金町7-5

設 立 年 昭和12(1937)年
学 校 長 西島 克巳
学  科 工業科(情報機械科)
機械システムコース、制御システムコース
在校生数 418名(2020年11月現在)