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専門家に聞く建設業界の魅力

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専門家に聞く建設業界の魅力

若者にとって魅力ある業界に変わり始めた建設業界

これまで現場の人手不足が課題となっていた建設業界に、大きな変化が起こっています。技能者の待遇改善、育成方法の変化などによって、魅力ある業界へと変わり始めている建設業界の現状と今後の見通しについて、建設労働問題の専門家である蟹澤宏剛氏に聞きました。

業界分析

建築業界が変わり始めている

厚生労働省が行った建設労働者に関する調査では、建設業への新規学卒者の就職者数は、平成20年を境に年々増え続けている(下図1段目)。
また、建設労働者の年収額は、これまで製造業を下回ってきたが、平成25年に製造業を上回り、全産業の平均年収と比較しても高水準を維持している(下図2段目)。

新規学卒者の建設業への就職状況
「建設労働者を取り巻く状況について」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_ Roudouseisakutantou/0000090621.pdf
図4.(新規学卒者の建設業への就職状況)より作成
建設業の生産労働者の年収額の推移
「建設労働者を取り巻く状況について」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_ Roudouseisakutantou/0000090621.pdf
図14.(建設業の生産労働者の年収額の推移)より作成

専門家プロフィール

芝浦工業大学建築学科 教授(工学博士) 蟹澤宏剛(かにさわ ひろたけ)さん
芝浦工業大学建築学科 教授(工学博士)

蟹澤かにさわ 宏剛ひろたけさん

プロフィール
千葉大学大学院工学研究科修了。芝浦工業大学建築学科教授の傍ら、国土交通省「専門工事企業の施工能力の見える化等に関する検討会」座長、国土交通省・厚生労働省「建設工事従業者安全健康確保推進専門家会議」委員長などを歴任し、建設業界の労働環境改善に取り組む。専門は建築生産、建築構法(主に木造)。工学博士。

建築生産 ものづくりから見た建築のしくみ
「建築生産 ものづくりから見た建築のしくみ」(ものづくり研究会編著(蟹澤宏剛、木本健二、田村雅紀、堤洋樹)/彰国社) ものづくりから見た建築生産のしくみをわかりやすく解説した本。

活躍の場があるのに人手が足りない建設業界

建設業界では、10年ほど前から現場の人手不足、特に日本人の若い技能者の不足が大きな問題となり、厚生労働省や国土交通省が人材確保の対策を行ってきました。その結果、2005年から2010年までの5年間は建設業労働者の数が激減していたのですが、2010年からの5年間は、減り方が緩やかになってきています。

それでも、技能者の高齢化が進んでいることによって、今後20年ぐらいの間に現場で働く人が大幅に減ることは確実です。一方で、今後の建設投資の見通しは、建築物の維持管理、耐震工事、訪日外国人の増加によるホテル等の新築などが見込めるため、需要が大幅に減ることはないと予想されています。

つまり、建設業界には需要があり、活躍の場があるにもかかわらず、現場で働く人材が足りない状況が今後も続くと言えるでしょう。

若い人が早く技能を身に付け高賃金が得られる職場に

これまで、建設業界になかなか若い人が入職してこなかった要因に、「技能を身に付けるのに10年以上かかる」「休みが少ない」「労働の割に賃金が安い」といったマイナスイメージがあったことは間違いありません。そのため、高校の就職担当の先生が、生徒に対して自信を持って建設業界を推薦できなかったという話も聞きました。

そういったマイナスイメージを払拭し、魅力ある職場にするため、建設業界は5年ほど前から大きく変わり始めています。かつて多くのゼネコンやハウスメーカーでは、技能者の確保や育成を下請けの協力会社に任せきりにしてきました。ですが今では、協力会社を子会社化して人材育成をしたり、技能者を本社社員として採用したりして、内部で育成するケースが増えてきています。また、技能者の待遇面に関しては、休日の確保、賃金の底上げなどの面で改善が見られ、今では製造業を上回るほどになっています。そして、若い入職者の技能習得に関しては、「親方の元で10年間修行」といったような古い体質を改め、座学を含めた技能訓練を実施したり、将来、会社を担う社員として、短期間に技能を身に付けさせようという会社も出てきています。これから建設業界は若い人が早く技能を身に付け、高賃金が得られる職場になっていくだろうと思います。

重労働は機械に任せ精緻な仕事は技能者が行うように

AIやGPSなどの登場により、建設業界にも最先端の機器が導入されるようになってきました。特に土木の分野では、これまで人間の重労働に支えられてきた分野が最先端の機器に取って代わりつつあります。建設業界全体においても、科学技術の発達によって、単純労働のような分野は機械が人間に代わって作業してくれるようになるでしょう。けれども、どうしても技能者の力が必要な作業分野は、今後も人間でなくてはできません。

住宅建築などでは、ゼロエネルギーハウス(ZEH)のような省エネルギー化がますます進むことが予想され、これまでのいわゆる伝統的な日本家屋を作ってきた技術では通用しなくなり、全く新しい技術が必要となってきています。また、何棟も同じタイプのマンションを建てるというケースは減り、オンリーワンの一品生産の住宅が欲しいという志向も高まっています。そうした住宅を完成させる際には、機械ではどうしてもできない精緻な仕上げの技能が求められます。これからは、つらい仕事が減って、付加価値のある、やりがいのある仕事が残っていきます。今後、若い技能者には、人間にしかできない技術が期待されているのです。

私は、重労働や単純作業を機械が行うことによって、全体としてのコストダウンを実現し、その分を、技能者への賃金アップにつなげることが大切だと考えます。また、優秀な技能者が正当に評価されるためにはIDカードのようなシステムも必要です。育成システムを充実させることによって技能者の技能レベルがアップしつつ、賃金も上がるという、いい循環を作っていくことが重要であると考えています。

※ 所属・役職・年齢・入社年数は取材当時のものです。