「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 15

平成30年度

日田市伝統技能活用協議会

PROJECT DATA

運営組織:日田市伝統技能活用協議会

拠点:大分県日田市

開始:平成23年7月

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Overview

日田の文化を守るために、
日田の職人を守り、育てる。

大分県日田市。この地域には、国指定重要文化財である草野家住宅やユネスコ無形文化遺産に登録された「日田祇園祭」で市内を巡行する山鉾など、古くから伝わる文化財が数多く残されています。重要文化財を守り抜いてきたのは、日田市で代々、技能を継承してきた職人たち。彼らの技能を次世代に伝えていくために、平成23年、日田市伝統技能活用協議会が発足しました。技能士会、「本物の伝統を守る会」をはじめ、地元の各種団体が協力し合いながら、技能の継承、後継者の育成に取り組んでいます。

代表者
Interview

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

日田市伝統技能活用協議会
事務局長

財津 幹雄 さん

昭和28年、大分県生まれ。昭和50年、大分県内に財津幹雄建設を設立。「現代の名工」に選ばれている故佐藤実氏を会長として、日田市伝統技能活用協議会の発足に従事。現在は、協議会の事務局長を務める。

背景・きっかけ

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日田の未来のために、
日田市内の団体が、一同に集結。

前会長の佐藤実さんが発起人となり、日田市内の関係団体に広く呼び掛けるために、日田市と相談しながら団体を立ち上げたのがはじまりです。呼びかけに賛同して、技能士会、「本物の伝統を守る会」、建築士会など、各団体の代表者が、集まりました。日田の伝統ある文化財などを守るためには、職人の熟練技能を、次世代に継承していく必要がある。後継者の育成は、どの団体も課題に感じていたテーマでした。

これまでの取組み

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職人から未来を担う子どもたちへ。
伝統技能の魅力を伝えていく。

伝統技能の魅力を伝えていくために、協議会の多くの会員が、それぞれの分野で培った技能を活かして、主に小学校での実技披露などの活動を行なっています。また、日田独自の取り組みとして、市に伝わる伝統技能を持つ職人を「ひた伝統技能マイスター」に認定。現在は、年に二回、小学校や高校への指導を行うほか、多くの人に知ってもらうために、技能大会や「木と暮らしのフェア」などのイベントで熟練した技能を披露しています。

今後について

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長く続けられるように、
無理なく継続できるよう会を運営。

技能継承のためには、協議会の取組みを継続していくことが第一。メンバーは現場の第一線で活躍されている方ばかりなので、どうしても日々の仕事に追われてしまいがちです。しかしながら、会を継続して運営できるように、前向きに参加していただける雰囲気づくりを大切にしています。また、現在では木造建築の需要が減りつつあり、技能を継承できる現場も減りつつあります。仕事の機会を創り出すための活動も、今後積極的に取り組んでいきたいと考えています。

PROJECT STORY

日田の文化を守り抜くため、
日田の職人が、ひとつになった。

日田市豆田町伝統的建造物群保存地区にある草野本家の周辺。
ひた伝統技能マイスターのうち2名が修復に携わっている。

三松 健次さん 塗装職人

(写真_右から2番目前)平成26年度、「ひた伝統技能マイスター」に認定。日田市文化財保護員を務める。国指定重要文化財、草野本家の修復には昭和57年の第一期から携わる。

森 力さん 木彫刻職人

(写真_左から4番目)平成26年度、「ひた伝統技能マイスター」に認定。ユネスコ無形遺産、日田祇園の山鉾の修復、横木や助け板の彫刻関係を全て請け負う。

手嶋 榮さん 建築大工

(写真_左から3番目)平成28年度、「ひた伝統技能マイスター」に認定。現在行われている草野本家、平成の大修理に関わる。

畑 秀樹さん 表具職人

(写真_一番左)平成28年度、「ひた伝統技能マイスター」に認定。日田市技能大会には第一回から参加するなど、技能士会の活動にも精力的に参加している。

ひとり欠けたら、
守れない。伝統技能を
絶やさないために。

三松さん 塗装職人として、草野本家の修復には昭和57年の第一期から携わっています。当時は、教えを乞う相手がいないから、材料も修復方法も白紙状態。手探りからのスタートでした。その時の苦労が身にしみているからこそ、次の担い手を育てていかなければならないと強く感じています。「ひた伝統技能マイスター」として、文化財の修復現場に子どもたちを招いて、実習をするなどの取組みを行っています。地域の子どもたちへの啓蒙活動の他、職業訓練校での実技指導、関係職種の研修会や講演会などに参加して、塗装の技能振興のための活動に従事しています。協議会で協力しあって、その機会を増やしていけたらと思っています。

森さん 例えば、山鉾を一基つくるにも、大工、人形師、漆器職人、彫刻師など、何人もの職人が関わります。どの職人が欠けても、山鉾は完成しません。私は、木彫刻を何十年も続けてきましたが、同じような木彫刻の専門は、大分県内でも当社一社だと思います。伝統技能を守り抜くためにも、何としても彫刻の技能は絶やしてはいけないと常々感じています。

100年単位で考える、
昔を今に伝える技。

三松さん 一般住宅の場合は、50年持てばいいという考え方。文化財の場合は、次の世代に受け継いでいくために、100年単位で考えなければなりません。雨漏りやシロアリなどの対策をしながら、いかに長持ちさせるか。その辺りは、大工さんと一緒に知恵を出し合って一緒に作業を進めています。

森さん 文化財は、自分勝手には修復できません。神社仏閣などの文化財の修復を行うことも多いのですが、昔のままの状態を保存するには、職人の技と知恵がいる。もう何十年も彫刻の仕事をしていますが、いくつになっても難しいですね。

手嶋さん 我々は、自分の「我」を出したらいかんのです。継手や仕口といった、昔ながらの技法に則って修復するのが鉄則ですね。使える材料は最大限に利用するため、解体の時は、最後に元通りの位置に戻せるように、柱の一本一本、瓦の一枚一枚、すべて番号で管理をしていきます。草野本家の今回の改修では、解体作業だけで、丸2年かかりました。気の短い人にはできない仕事だと思います(笑)。この歳になって、草野本家のような文化財の改修に携われるのは、職人冥利に尽きますね。

仕事がないなら、
創ればいい。まずは一棟、
木造建築を建てよう。

畑さん 日田は大分県内でも有数の文化財の多い町。修復ができる人がいなくなったら、後がない。そういう気持ちは、職人であれば誰もが等しく持っていると思います。

手嶋さん 実際にものを見て、手を動かして、体で覚えないと伝統技能の継承は難しいと感じています。高い技能が求められる現場で、私が若い連中に教えられることは、すべて教えていきたいと思っています。

畑さん 文化財がある以上、その修復をする仕事がなくなることはないと思います。修復する技能を後世に残せるかどうかは、私たち協議会での取組みにもかかっていると思うのです。職人を志す人を、一人でも二人でも増やしていきたい。私が表具屋を目指すようになったのも、子どもの頃に近所の表具屋で職人さんの仕事ぶりを見て、憧れたのがきっかけ。やはり技能の魅力は、間近で見てみないと分からない。技能の実演は、これからも協議会として、続けていきたいと思います。

Column

プロジェクト関係者に聞いてみました。

普段は目に触れることのない伝統技能。子どもたちが触れる機会を増やしたい。

活動を通して、子どもたちが地元の職人さんと触れ合うことで、たくさんの学びが得られるので、ひた伝統技能マイスターをはじめ、協議会の活動は非常に意義のある取り組みだと感じています。ちょうど今、市が学校に働きかけて、キャリア教育の一環として職業を学ぶ授業を、実施していく取り組みも始まっています。技能士会やマイスターの皆さんにボランティア講師として、ご参加いただく予定です。伝統技能は、普段子どもたちの目には触れないもの。だからこそ、多くの子どもたちの目に触れさせる機会を、市としても積極的につくっていきたいと考えています。

日田市 商工観光部 商工労政課 雇用・労働環境係 主幹(総括)
江田 智美さん