Vol.17 建築空間をつなぎ、演出する建具には限りない多様性がある
建具製作技能士 1級
木製建具手加工作業
(平成8年度度取得)
二村 淳彦さん
1968年生まれ
株式会社 山二建具
建具製作技能士とは
「建具」とは、建物の外部に使われるものと内部に使われるものの2種類に分かれ、外部の建具は建物への出入口、また建物を風雨から守り建物の外観を整える役割もします。内部の建具は、個室の出入口、大部屋の間仕切、クローゼットの扉、和室では代表的な襖、紙貼り障子、書院障子、欄間等です。それらに使われる組子細工は200種以上もあり、その部屋を美しく創り上げるのに役立っています。建具は木製、アルミ製、樹脂系などとその素材も多くなっていますが、木製建具の製作には高度な技能が求められます。「建具製作職種」は、建具の製作の仕事を対象としています。
二村 淳彦さんのお仕事
建具について、機能のことだけで説明すれば、建物や部屋への出入り口などで、開け閉てのできるもの」ということになります。ドア、障子、襖、欄間といったものです。
しかし、建具を単なる仕切りと考えたことはありません。戸を閉めれば二つの部屋という空間が生まれ、戸を開けることで一つの大きな空間が生まれる。建具には、建築空間を変化させる機能があるということです。それは、人間の位置付けも変えていきます。ドアを開けることで、人間は世間とつながっていきます。部屋のドアを閉めれば、その人個人になります。オフィスや作業場に置かれれば、また違った役割を果たすことになります。一方では、木という素材が醸し出す安らぎ、伝統的なデザインが生み出す美しさなどを与えてくれます。
建具製作とは、建築空間をつくり、演出する仕事だと言えると思います。
建具製作のお仕事に興味を持ったきっかけを教えてください。
父が友人と一緒に昭和45年に木製建具製造の会社を立ち上げました。子どもの頃から、時には掃除を手伝ったりするなどして建具製作の現場に馴染んでいました。自然に後を継いだような感じです。
でも、木製の建具づくりに対する興味は強かったのだと思います。その興味があるからこそ、この世界に入り、今に至るまで建具の技術や知識を学び続け、思いもよらない建具の製作を依頼されたり、文化財の修復に携わったりする機会に恵まれてきたのだと思います。
木製の建具製作技能士の取得までの経緯を教えてください。
入社してすぐ、建具の訓練学校に通いました。そこで、鑿、鉋などの手工具の使い方、木工機械の使い方、木材の性質、製図を学びました。その頃は、仕事の後や休日に、友人たちと練習し、卒業してすぐに、建具製作技能士2級の資格を取りました。
資格を取るためには、自分の仕事に関する知識を単に持っているだけでは足りません。幅広い知識が求められます。
このことは、受検のことだけに限らず、日々の仕事の中でも実感しています。勉強は受検の時で終わるわけではありません。建具に限らず、仕事には、できる、できないという差が生まれますが、この差は、仕事に取り組む人の姿勢、意識、努力の差があらわれてくるものだと思います。
1級の資格を取得して良かったと思うことを教えてください。
私にできることが明確になった、ということです。やりがいのある仕事を任せてもらえるようになり、自分の一生を賭ける仕事が見付かったということです。技能士の資格を取るという取り組みには、単に合格すること以上の、もっと広い意味があると思います。いま自分ができる仕事に満足せずに新たな仕事に挑戦していく下地をつくるためにも、自分の知識や技能の幅を広げていくことは大切です。技能検定への取組みは、良いきっかけになるはずです。
二村さんにとっての仕事のやりがい、面白さを教えてください
建具製作というものは、製作するための技能だけではなく、用途はもとより、デザイン、サイズ、使用する木材の種類に至るまで実に多種多様な知識と経験が必要です。
また、建具の機能もさまざまです。防火、防音、防犯、あるいは通気性、人によっては建具から生まれる気配のようなものを求める方もいます。
お客様からの注文にも、難しい仕事、これまで経験したことのないような建具製作などいろいろあります。それでも、お客様の、「ぜひ木でつくって欲しい」という求めに応えるため、これまで蓄えた知識、それで足りなければ新たに勉強して得た知識を総動員して、きちんと約束の日までに納める。そこに、仕事の醍醐味を感じます。
仕事のやりがい、面白さというのは、難しさや苦労と裏表の関係にあるのかもしれません。難しい、大変だと感じるよりも、あれこれ考え、工夫を凝らし、お客様が満足できる建具をつくり上げることの充実感を追求するほうが楽しいですから。
そういう時に支えになってくれるのは、昔の人の知恵や工夫です。これは、いつも素晴らしいものだと感じています。
文化財の修復を依頼されることがありますが、解体したりすると、自分の知らないことがいっぱい出てきます。「先人は本当によく木を知っているなあ」と驚かされます。古ければ古いほど、昔に作られた建具には優れた技能が隠れていると感じることもあります。
ついでに言えば、接着剤に頼り過ぎるのも良くありません。木というものは動くのです。そのことを忘れて、ただ接着剤で貼り合わせるというのは駄目です。
お仕事の中で、心がけていること・気をくばっていることを教えてください。
何よりも安全が第一です。社員には、事故や災害が起こらないように注意を促いています。どの社員も、日々の仕事をこなすだけでなく、もっと上の知識や技術を目指して勉強しています。一所懸命に頑張っています。そういう人たちが事故によって建具製作の道を絶たれるようなことがあれば、とても大きな失望を味わうに違いありません。そんなことは絶対に起きて欲しくありません。
技術面で木製の建具にとっては、木目というのはとても大切です。これは、見た目の問題だけではなく、機能の面でも重要なのです。建具をつくる時には、木目をしっかり読んでいくことが欠かせません。
木を伐採するのは、林業の方の仕事ですが、木を選ぶ目は建具を製作する側の責任です。しっかり見極めて素材を選ぶ必要があります。そういう目を養うためには、日頃から精進する気持ちを持っていなければいけません。
今はトラックなどで運びますが、昔は木を伐リ出した後は、筏にして川を下りました。そういう知識を蓄えていくことも、建具職人の勉強の一つです。
二村さんがお仕事のなかで「輝いている」と感じる瞬間を教えてください。
建具を製作する仕事は、一つ一つの作業をコツコツと積み重ねていくものです。「輝く」という感じとは違うような気がします。それでも、敢えて言えば、お客様の要求に応えて仕事を終えた時かもしれません。
ある時、かなり大きな建築物の内廊下に、何枚も続いていく障子を据え付ける仕事があったのですが、設計者の意向で、この障子に連続性を持った曲線の桟を横に施していくことになりました。すると、縦の桟を、この曲線の横桟で止まるように付けるには、あの1センチにも満たない桟に一つひとつ縦の桟を受ける穴を彫っていくことになります。しかし、桟のように薄いものに穴を彫るとなると機械には頼れず、手で彫るしかありません。膨大な作業でしたが、皆でコツコツと彫りあげ、とても美しい仕上がりになりました。
こういう作業を重ね、お客様が満足してくださり、この建物を訪れた方々が美しさを感じてくださったとすれば、そこに私たちの仕事の輝きがあるように思います。
二村さんの今後の夢や目標を教えてください。
建具とは何か、という話と重なりますが、建具は空間と空間をつなぐものです。そして、空間の雰囲気を醸し出すものでもあります。その空間にいる人が、その空間を心地よいと感じていただけるような、ものづくりを続けて行きたいです。
最後に、これから木製の建具製作技能士の資格を目指す人へのメッセージやアドバイスをお願いします。
資格を取るためには、自分が携わっている仕事の範囲を超えた、幅広い知識を身に付ける必要があります。向上しようという意識を持って学んでいって欲しいです。
大切なのは、受検を終えて資格を取得した後です。これで一段落などと思わないで、志を高く持ち、精進していくという姿勢を保つことです。資格を取ろうとして勉強するのですから、いつまでも持ち続けていってほしいです。
そのためには、私自身が勉強しなければならないのです。自分の仕事の視野にとどまらず、木のことは当然ですが、そのほかの材料や建物、機械・工具などの知識、昔の智恵や工夫を学び、もっと上の技術をつかむという心構えを忘れないで欲しいです。その先には、はかり知れない知識と技能の宝庫が待っているはずです。
私たちは人のために、この技能を使っていかないといけないと感じています。
プロの道具~建具製作技能士編
建具技能士の道具
写真の右から順に
うづくり(木材の木目を浮き出させる道具)
かんな
二丁白書(精密な木工作業用の線を引く道具。二つ合わせているので二丁)
白書
向待ちのみ(木材に穴を掘る道具)
彫刻刀
鍔鑿
かまけびき(木材の面に平行な線を引く道具)
面取りかんな(木材の角面を削る道具)
二村 淳彦さんのある日のスケジュール
- 7:00
- 出社 スケジュール確認 段取り指示
- 7:50
- 始業 製作所で社員の作業等を確認
- 10:00
- 休憩(15分)
- 12:00
- 昼食 休憩
- 13:00
- 作業再開
- 15:00
- 休憩(15分)
- 17:00
- 終業
- 18:00
- 帰宅