知識を広げ、技能を磨き
建築板金の未来を築く

令和3年度 
中小企業・団体編
建築板金

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  • 指導先
  • ものづくりマイスター

岩手県板金工業組合

当組合は、板金業(建築用・厨房用・冷暖房用に供するもの)を営む中小企業者の団体であり、登録建築板金基幹技能者、1級建築板金技能士などが所属する、建築板金の「匠」集団です。より高度な技能・知識を習得するための教育研修や、建築板金に関わる情報収集・提供、技能向上のための講習会の開催を通じて、組合員が属する企業の成長に貢献し、業界の発展に寄与しています。

鈴木 正二(すずき しょうじ)さん

神社仏閣などの銅板葺屋根の施工及び屋根用銅板製飾品の製作加工に従事。鬼板(おにいた)の加工、擬宝珠(ぎぼし)加工、大唐破風(おおからはふ)など、その高い技能で手掛けた屋根の数は百を超えます。現場での指導、県職業訓練校の講師などの経験を活かし、ものづくりマイスターとして後継者の育成にも力を入れています。

ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由

一流の技能に触れて
組合全体の
技能向上を目指す

岩手県板金工業組合
事務局長
戸部 豊作(とべ とよさく)さん

背景

組合に所属する若い職人たちの
技能向上を図りたい

当組合に加盟する企業の中には数少ない職人で仕事に携わるところも多く、若手技能者の育成に人手が足りていない状況でした。しかし、どの企業も技能検定1・2級レベルの技能を保有する技能者を育てたいと考えており、どうにか技能向上につながる機会はないかと探っていました。そこで、当組合主催の講習会を開くこととし、指導経験の豊富なものづくりマイスターに指導をお願いしました。これまで何度か講習会を開催していますが、申込時には加盟企業からの多くの問い合わせが寄せられるなど、ご好評をいただいています。建築板金の技能がしっかりと身につくだけでなく、仕事に向き合う姿勢や経営のヒントになる話まで、マイスターから貴重なお話をお伺いできる機会となっています。

効果

技能検定や技能競技大会でも
指導の成果が「かたち」に

正直な話になりますが、受講者の中には会社から促されて参加する方もおり、初めは消極的な姿勢が見受けられることもあります。しかし、マイスターの卓越した技能に触れ、指導回が進むにつれて、真剣な表情や姿勢に変わっていくのを目の当たりにすると、これもマイスターの凄さだと敬服しています。そして、その結果受講者の中には、技能検定試験や各技能競技会で好成績を残す方も出てきました。こうした成果は各企業にとって、新たな仕事を受注する際のきっかけになっているとも聞いています。また、「ものづくりマイスター等事業」では、指導いただくにあたって費用の一部を助成していただけることもあり、今後も組合員の技能向上のためにも、ぜひこの取組みは続けていきたいと考えています。

実施したプログラムの内容

建築板金の現場では、神社仏閣の屋根や繊細な加工品をはじめ、多くの実作業で手加工の技能が求められています。プログラムでは技能検定課題の製作を通して、マイスターが培ってきた技能に触れながら、道具の使い方や加工の仕方など建築板金の基本から学び、その先にある高度な技能の習得までを目指します。

実施プログラム

実施内容
建築板金作業実習
目  的
技能検定1級レベルの技能習得
受講対象
岩手県板金工業組合員及びその従業員10名
1回目
技能検定1級レベルの学科・実技試験課題の確認と指導
2〜3回目
実技課題製作の実施、その過程において必要な技能を指導
製図、段取り、直線・曲面板金作業、はぜ組みによる接合など
内外装板金作業、ダクト板金作業に必要な技能全般

Crosstalk Interview

時代を経て継承された技能を
若い世代に伝え、
本物の技能者を育てる

Talk member

ものづくりマイスター(建築板金)

鈴木 正二さん(すずき しょうじ)さん

有限会社 及留板金工業所

菅原 克典さん(すがわら かつのり)さん

「手加工」の技能を
一つひとつ理解しながら磨いていく

指導にあたり、鈴木マイスターが工夫された点などをお伺いできますでしょうか。

鈴木マイスター昨今の建築板金の現場では、大型重機などの機械を使って屋根板を取り付けるような仕事が増えました。しかし一方で、人の手で加工する技能を学ぶことは建築板金の基礎技能を磨くことにつながるため、非常に重要だと私は考えています。そこで指導の中では、「手加工」を重点的に指導しました。受講者にとっては普段あまり目にしない道具も使うので、講習会では基本的な道具の使い方から指導し、わからない箇所は積極的に質問を受け付け、こちらからも理解度を確かめる質問を投げかけるなど、一つひとつの工程を丁寧に確認して進めました。実技指導では、受講者自らがやってみたいと思えるように、私自身がまず手本を見せるように心がけています。

受講者の菅原さんは、鈴木マイスターの手本を見て感じたことはありますか。

菅原鈴木マイスターが手がけられた数々の施工実績は過去に拝見したのですが、実際の作業中の姿を見るのは初めてで大変勉強になりました。マイスターは非常に簡単そうに作業されるのですが、いざ自分が手を動かしてみると難しい作業であることがわかります。作業の手が止まるたびに、マイスターがアドバイスをしてくださるので、理解を深めることができました。

鈴木マイスター質問を多くされる方が教える側も張り合いがあります。実際の現場では細かい技能まで教える余裕があまりないので、時間をかけてじっくり指導できるこのような実習の機会は貴重です。本来なら何年もかけて自分で身につけなければならない技能を、講習会を通して教わることができる。これは若い職人たちにとって非常に恵まれた場だと思います。

道具の使い方や技法を学び
仕事に自信が持てるようになった

講習会で指導された道具の使い方や技法について教えていただけますでしょうか。

鈴木マイスター例えば、「さしがね」の使い方を改めて教えました。「さしがね」はいわゆる「モノサシ」にあたるのですが、電卓よりも数値を素早く割り出せることを知らない受講者たちが多く、使い方を教えると多くの人が感心していました。その他にも、「はぜ組み」や「八千代折り」をはじめとする技法も見せて、受講者には実際に取り組んでもらいました。昔から使われてきた技法は、どんなに機械が進歩して必要ではなくなっても、一度は経験しておいてほしいと思っています。

手加工を行う際に気をつけることは、どのような点でしょうか。

鈴木マイスター自身が作業をする際の「クセ」を理解することが大切です。図面どおりに作っても、手加工ではどうしても誤差が出るものです。想定したよりも小さく仕上がったなら、図面を描くときには少し大きめに線をつけるなど、寸法どおりに正確に作るにはどうすべきかを考えながら手を動かしてほしいと思います。

道具の使い方や技法を学んだ感想を教えていただけますでしょうか。

菅原改めて道具の使い方を学び、非常に勉強になりました。「さしがね」に関してはさまざまな使い方があることに驚き、今までは十分に道具を使えていなかったのだと気づきました。「はぜ組み」と「八千代折り」についてもコツを教えていただいて何度か挑戦することで、徐々に上手くできるようになりました。現場ではなかなか教わることができない技法をこの講習会で習得でき、より自分の仕事に自信が持てるようになったと感じます。

お客様のお声がけに恥じない
丁寧な仕事を積み重ねる

菅原さんはマイスターの指導を受けて、ご自身に何か変化などはありましたか。

菅原鈴木マイスターの丁寧で技能レベルの高い仕事に触れ、私自身も建築板金の道をとことん極めたいと思うようになりました。ご指導をいただいてからは現場の仕事においても、何よりも丁寧に確実に仕事をやり遂げることを心がけるようになりました。今回、ご指導いただいたことを根底に据えて、今後はこれまで以上にお客様に喜ばれる仕事を手掛けていけるように精進していきます。

今回の指導を終えて、マイスターのご感想をお聞かせください。また、これから建築板金の仕事を続けていく若い世代にどのようなことを伝えたいと思われますか。

鈴木マイスター課題が完成して受講者が喜んでいる姿を見ると、指導した甲斐があったといつも思います。この仕事は、技能が身についてお客様に指名されるようになると、次はそのお声がけに恥じない仕事ぶりが求められます。それからが勝負です。適当な仕事をしていると必ず信用を失います。大切なのは丁寧な仕事をモットーとし、時間を要しても自分が納得できる仕事をすることです。私も若い頃からどんな場面でも手を抜かないことを心がけてきました。そうして仕事にしっかりと向き合う先にお客様の喜びが待っています。若い皆さんには、ぜひ頑張ってほしいと思います。