機械を自動化する
プログラミング
プロが描く
「思考の世界」に触れる

令和3年度 
中小企業・団体編
電気機器組立て

このページを印刷

  • 指導先
  • ものづくりマイスター

株式会社オノモリ

石川県能美市でB to B機械メーカーとして、コンバーティング業界・食品業界を中心に取引を行なっています。製造する機械はライン製造で量産するようなものではなく、「一品一様」のものづくりに取り組み、想いをカタチにすることを心がけ、お客様・社会・社員の三方の豊かさの実現をものづくりの柱として、事業に取り組んでいます。

東 輝明(ひがし てるあき)さん

大学を卒業後、ソフトウェアエンジニアとしてキャリアを重ねてきた、東マイスター。工場生産設備の電気回路設計、シーケンス制御設計、製作、据付調整に携わりながら、技能向上に努めてきました。勤め先からの紹介で本事業を知り、若者への技能伝承に興味を持ったことから、「ものづくりマイスター」の認定を受けて、活動開始。以来、シーケンス制御作業の実技指導を中心に地元企業等に指導を行っています。

ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由

ゴールなき、
ものづくりへの道
さらなる技能向上を
目指す

株式会社オノモリ
総務部 部長
小野森 喜子(おのもり よしこ)さん

背景

基本技術を底上げし、技能の社内
平均値のレベルアップを図りたかった

当社ではマイスターの指導を受ける以前から、積極的に社員育成の場を設けてきました。例えば、資格取得や技能習得を目指す社員を対象に、終業後の時間を「ラーニングタイム」と称し、学習手当を支給してサポートしてきました。また、「未来塾」と名付けた研修では月に1度、社外講師を招き、経営や原価管理、マネジメント力などを向上させる実践的な講義をお願いしています。こうした取組みが示すとおり、当社は業務時間外にも社員それぞれが自己成長できる機会を設ける会社です。その流れから、技能面でのさらなる向上のきっかけを探していた際に「ものづくりマイスター等事業」に出会いました。当社の作業現場では、電気、板金溶接、機械加工、検査、組立てなど幅広い専門性と新たな知識が求められるため、社外の熟練技能者に指導いただくことにより、基本の底上げを通したレベルアップが叶えられたらと考え、指導をお願いしました。

効果

専門外を学ぶことで、
実務への取組み方に変化

実技指導を実施するにあたり、普段の業務内で電気機器に触れる「電気制御課」の社員だけでなく、機械設計に携わる「開発課」の社員にも参加してもらいました。「電気制御課」の社員たちにとっては、「社外の技能者の方から専門的な指導を受ける機会は少ないため、非常に貴重な経験となった」と聞いています。また、「開発課」の社員に参加してもらった理由としては、専門外の領域を学ぶことで知見が広がり、社員の役に立つと考えたためですが、実際に指導を受けた社員からは「設計の段階から、実際に形にする際のことも考えられるようになった」と聞いており、業務への良い影響を感じました。私たちの会社で扱う機械は「一品一様」であり、ものづくりに決まった形はありません。それゆえに社員のスキルもさらなる高みを目指す必要のある、「ゴールなき、ものづくりの道」を行くのがオノモリです。今後も技能向上のために、マイスターの指導をお願いできたらと考えています。そしてゆくゆくは、社員同士でもしっかりと教え合えるレベルまで技能を高めたいと考えています。

実施したプログラムの内容

PLCまわりのソフトウェア設計、ラダープログラムのプログラミング、ソフトウェアを用いたデバッグ作業など、PLCを正しく確実に仕上げるための実技指導を実施しました。プログラミングは作業に集中できる環境が大切なため、できるだけ物音が聞こえない静かな環境下で、一人一台の実習機を使用し、指導を行いました。

実施プログラム

実施内容
シーケンス制御作業の実技指導
目  的
プログラミングの基本から応用までを身につける
受講対象
社員3名
1回目
オンディレータイマ、オフディレータイマ
2回目
コメントの扱い
3回目
ニーモニックコード
4回目
スキャンの考え
5回目
I/Oリフレッシュ、END処理
6回目
立ち上がり微分、立ち下り微分
7回目
2進数、8進数、10進数
8回目
数値演算命令
9回目
BinデータとBCDデータ、変換
10回目
BCOデータ、デジSW、7Seg表示器①
11回目
BCOデータ、デジSW、7Seg表示器②
12回目
論理演算命令
13回目
比較演算命令
14回目
16Bit演算、32Bit演算
15回目
演習:制御回路と出力回路
16回目
演習:往復台車モデル①
17回目
演習:往復台車モデル②
18回目
演習:過去問
19回目
ペーパー試験レベルのGx-Works2の使いこなし、ほか
20回目
ペーパー試験レベルのタイムチャート、PLC機器選定、ほか

Crosstalk Interview

正しく巡る、思考の先で
正しく機械は、動き出す

Talk member

ものづくりマイスター(電気機器組立て)

東 輝明(ひがし てるあき)さん

株式会社オノモリ 電気制御課

宇賀神 大地(うがじん だいち)さん

株式会社オノモリ 開発課

中村 公彦(なかむら きみひこ)さん

ソフトウェアを扱える
技能者育成の第一歩

株式会社オノモリで働く、宇賀神さんと中村さん。お二人がマイスターの指導を受けようと思ったきっかけを教えてください。

宇賀神私は普段、電気制御課で電気系統の配線など「ハード面」を手掛けています。実は入社して10年ほど経つのですが、最近、現在の課に配属になりまして、改めて一から電気に関して学びたいと思い、受講に至りました。

中村私は入社4年目で、以来当社製品の「ハード面」を設計する、開発課に所属しております。機械本体やパーツなどを手掛けてはきたものの、それらをどう動かすかの「ソフト面」については関わっておらず、より良い製品を生み出すためには、専門外の技能についても学ぶ必要があると考え、プロの指導を受けたいと思いました。

東マイスターは、オノモリの社員の方々の技能について、最初にどのような印象を持ちましたか。

東マイスター非常に高いレベルのものづくりを行なっている印象でした。電気機器の技能に関しても、相当に訓練されていると感じます。しかし、会社の規模に対して電気周り、特にプログラム作成などの「ソフト面」を担える技能者が数えるほどしかいない、ということを知り、これは業務を遂行するのが大変だろうな、と思いました。そのため、今回の指導を通じて、新たに電気機器を扱える方を少しでも増やし、オノモリさんの事業に貢献できたらと感じていました。

プログラムを正しく理解して
適切な指示を出してみよう

今回の指導のポイントを教えてください。

東マイスター「電気機器組立て」の技能の中でも、機器を動かすためのプログラミングを重点的に指導しました。やはり、PLCを正しく確実に仕上げるためには、プログラムが大切です。プログラミングの文法をしっかりと理解し、適切かつ正確に指示を出せるように、技能検定1〜2級レベルの内容をもとに、指導に取り組みました。

宇賀神指導では、ラダー言語を重点的に指導いただいたのですが、学校でも会社でも学んだことがなかった分野だったので、本当に一から教えていただきました。例えば初級の問題では、「スイッチを押すと電球が点灯する」プログラムを組んでみたのですが、最初は、スイッチをオンにしても、思うように点いてくれませんでした。そのようなときは、マイスターにプログラムを見ていただき、間違いをご指摘いただきました。

中村初級では簡単な問題を解いてみるのですが、20回の実技指導の回を重ねるごとに課題がどんどん複雑化していきました。最終的にはフリッカー回路をつくる課題に挑戦し、例えば「スイッチオンで電球が10秒後に点灯→その後一度消えた後、5秒間灯り→再度暗転、20秒後に再点灯」といった難しいプログラムを組み上げました。

東マイスター指導では、一人一台に実習機が割り当てられ、コンピュータに向き合って作業に取り組んでもらいます。しかし、黙々と作業に取り組むだけでは、受講者同士のコミュニケーションが取りづらく、その結果、受講者がより良い解決策を見つけられない、という弊害も起こり得ます。全員がプログラムを共通理解できるように時には、手を止めて発表・公表する時間を設けるように工夫しました。

中村「共通理解の時間」では、東マイスターにホワイトボードを使ってプログラムの解説をしていただきました。自分では気づかない文法、そして、シンプルかつ美しいプログラムを目の当たりにし、プロの仕事に触れられて非常に勉強になりました。

手は止まっていても
頭の中では書いている

改めて、東マイスターからプログラミング初学者の受講者に対してアドバイスなどありますでしょうか。

東マイスタープログラミングというのは、基礎となる文法などはあるものの、100人いれば100通りのプログラムがあると言われる程、自由度が高い生産物です。この意味で、「考えることこそが、プログラミングそのもの」と言っても過言ではありません。小説家が原稿を書いていない時間も頭の中でストーリーを描いているのと同じで、プログラミング技能者もコンピュータ上は手が止まっていても、頭の中ではプログラムを書いている。ぜひ、その思考を巡る面白さ、ときには苦しさかもしれませんが、楽しんでもらえたら良いかと思います。

実技指導を終えて、受講者お二人の今後の目標や夢を教えてください。

宇賀神直近の目標は、まずは学んだ内容を活かして、「電気機器組立て」の技能検定にチャレンジしたいですね。資格を取得し、さらに自己研鑽に励んで、ゆくゆくはソフトとハードのどちらも手がけられるエンジニアになれたらと思っています。

中村私は、機械の設計者として今回の指導に参加させていただいたのですが、実務では専門の担当者に任せきりだった「機械を動かすこと」を学んだことで、今後、設計する際にも自分なりの配慮ができそうだと思っています。エンジニアの世界では、ハード(製作側)とソフト(設計側)がぶつかり合うことも多々あるため、両方の知識を持つことで、事前に実装を踏まえた設計ができるのではないかと感じています。

最後に、東マイスターから今回の指導の感想などをお聞かせください。

東マイスター私は、会社員時代から若い人たちを指導することに興味を持っていました。それがマイスターになったきっかけでもあり、後世への技能伝承にかける想いは、今でも変わりません。PLCをはじめとしたテクノロジーは、日を追うごとに進化していきますが、基本的な技術は変わりません。教える側としても若いみなさんから刺激を受けることも多く、指導を通して一緒に頑張っていけたらと思います。