技能の土台を固めるには
基本と本質を理解すること

令和3年度 
中小企業・団体編
金属プレス加工

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  • 指導先
  • ものづくりマイスター

松代金属株式会社

松代金属は、昭和20年の創業以来、高品質な金属製品づくりに取り組んでいます。主力製品の「キャッシュドロア」は、取引先である国内外のレジスターメーカーから大きな信頼を得ており、製品は小売店・飲食店・サービス業などの店舗で採用されています。現在はこれまで培ってきた金属加工の専門技術を活かし、新分野への展開を挑戦しています。

山口 孝徳(やまぐち たかのり)さん

長野県に本社を構える半導体用パーツメーカーで、金型の部品加工、組立て、調整、メンテナンスを担ってきました。長年、業務に携わる中で幅広い経験を積んできたことから、金属加工に対する知見は非常に深く、製造工程全体を見通した指導に定評があります。現在は、設計から製造まで一気通貫で理解できる金型職人の育成に取り組んでいます。

ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由

徹底した基本の指導が
金属プレスの
技能向上につながる

松代金属株式会社
工場長
赤塩 政男(あかしお まさお)さん

背景

「自己流」を「松代流」に統一したい

金型に関する技能は職人的なものですから、若手への指導は昔から「見て覚える」のが当社の主流でした。最近は、「言葉で伝える」という機会も多くなりましたが、それでも業務中は仕事に集中しているため、時間をしっかり確保して教える余裕はそれほど多くありません。加えて、体系的に指導ができる環境も整っていないため、職人によって教え方や内容もさまざまでした。これでは若手も教わる「先生」によって、知識や技能にバラつきが出てしまいます。そこで、これまである種「自己流」を認めていた職人たちの知見を、松代金属として統一したものにできないかと考え、ものづくりマイスターに指導いただき、特に今回は金属加工についての見識を広げることで、当社の事業領域を拡大できたらとも考え、受講に至りました。

効果

年間の品質不良を「ゼロ件」に

今回のプログラムは、金属プレスの基礎について座学を中心にご指導いただきました。普段、業務では使用しない機械や部品、加工方法についても丁寧に教えていただいたおかげで、一人ひとりの知識量が格段に増え、金属プレスについての理解を深めることができました。基本が身につくことにより例えば業務中に不良品が出た際、これまでは属人的な感覚に頼って機械を再調整していたところを、「なぜ、不具合が起こったか」「どうすればミスを防げるか」を誰もが具体的に検討できるようになりました。その結果、これまで年間に数件は出てしまっていた品質不良を「ゼロ件」にすることができ、指導の大きな成果を感じています。今後は、座学に引き続き、実技指導を予定しており、学んだ知識を応用できるような技能を身につけさせていきたいと考えています。また、今年度は受講者全員に技能検定の金属プレス加工職種2級を受検させるなど、会社としてスキルアップとモチベーションアップのための支援も行っています。

実施したプログラムの内容

技能検定2級のテキストを用いて、基本を網羅できるように指導しました。指導は一方的な講義スタイルではなく、受講者との対話形式で行っているため、わからない箇所や疑問点はその場で解決できます。学科の指導を終えたあとは、実技指導も控えており、知識と技能の両方から学びを深められるプログラムです。

実施プログラム

実施内容
技能検定2級レベルの指導
目  的
技能検定2級レベルの「金属プレス加工」の技能習得
受講対象
社員5名
1回目
金属プレス加工方法
2回目
金属プレスのいろいろな加工種類
3回目
金型の構造、製作、取り付け、潤滑、加工上の製品の問題点①
4回目
金型の構造、製作、取り付け、潤滑、加工上の製品の問題点②
5回目
品質管理、材料に関する学習
6回目
機械工作に関する学習
7回目
油圧と空気圧に関する学習

Crosstalk Interview

基本を知って、
はじめて応用ができる
体系的に知識を身につけ、
「本質的な理解」を深める

Talk member

ものづくりマイスター(金属プレス加工)

山口 孝徳(やまぐち たかのり)さん

松代金属株式会社

櫻井 祐(さくらい ゆう)さん

一部ではなく
すべてを身につける大切さ

山口マイスターは、さまざまな企業や学校で実技指導をされていると思いますが、松代金属さんに伺った最初の印象を教えてください。

山口マイスター松代金属のみなさんは、ものづくりに対する熱意が非常にあると感じました。一人ひとりが、技能をレベルアップさせたいという向上心がある。そうした土壌のある環境にお伺いできることに、嬉しく思いました。

櫻井私たち自身、少し焦りがあったのかもしれません。実は新型コロナウイルス感染症が流行し始めたころ、経済がストップした煽りを受け、生産数が少し落ち込んでしまったのです。それで、「このままではいけない」と社員みんなが感じたのでしょう。ピンチをチャンス変える、今の苦しい時間をムダにしない、という方針の中で「新しい技能を習得して事業に活かそう」と考えて、今回の指導に臨みました。

山口マイスター「金属プレス」と一括りに言っても、使用するマシンや金属素材、加工方法は企業によって異なります。そのため、どの会社にも当てはまることですが、職人のみなさんは自社で必要な知識や技能しか持ち合わせていないのが現状です。しかし、これではよりよいものづくりはできません。金属プレスの基本から応用までの、幅広い理解が大切なのです。

櫻井まさに、知らないこと、触れたことがないものが多すぎる、というのが私たちの課題でした。もっと言うと、自社で必要な知識や技能でさえ、先輩から後輩へと「感覚的」に指導されてきたので、体系的に教わった経験がありませんでした。本当にイチから学び直すつもりで、山口マイスターから教えを請いたいと思いました。

本質がわかると
良い疑問が生じてくる

今回の指導は、座学での講義形式だとお聞きしました。どのような内容だったのでしょうか。

山口マイスター「金属プレス加工職種」の技能検定2級テキストを使用して、問題・解答・解説を一セットに、私と受講者でコミュニケーションを取りながら指導を行いました。

櫻井今回の指導には5名の社員が参加しまして、一人ひとり順番に問題が出題され、その問いに答えるという形式でした。そのため、事前にテキストを読み込まないと授業についていけず、仕事と両立するのが大変で……。ただ、テキストを使って勉強すると、金属プレスを体系的に知ることができるので、これまで仕事で使っていた知識も、「なるほど、そういうことだったのか!」と改めて理解できました。

講義を受けてみて、特に難しかった箇所などありましたか。

櫻井「電気」に該当する箇所は、普段は触れることがない分野なので理解に少し苦しみましたし、「電気抵抗」などは学生時代以来、久しぶりに学び直しました。授業の中でわからない点があった際は正直に伝えると、イチから噛み砕いて教えてもらえたのがとても新鮮でした。テキストの問題と答えを丸暗記させるのではなく、「どうして、その答えになるのか」を、一つひとつ丁寧に説明していただけたことが、より深い理解に繋がったと感じます。

山口マイスターやはり、私がみなさんに目指してほしいのは、「本質的な理解」なのだと思います。単にテキストの問いと答えを覚えただけでは、真に知識を会得したとは言えません。本質を理解することで、問いが変わった際も答えを導けますし、何より業務での応用が利くようにもなります。理解が深まると自ずとポイントをついた疑問も生じますから、お!と思うような質問が出たときは、みなさんの学びに繋がっているなと感じて嬉しくなります。

「ものは、人なり」
己という人間を磨きゆく

櫻井さん、山口マイスター、お二人の今後の目標などを教えてください。

櫻井私は作業チームのリーダーを担当していて、今回の指導を受けてチームのさらなる実力アップに励みたいと思います。まずは、講義を通して知識を蓄えましたが、次回はマイスターから実技についてご指導いただけることになっているので、学んだことをチームでの実技指導に活かしていけたらと思います。

山口マイスター知識が広がると、物事の捉え方も変わります。例えば、「なぜ、プレス機械はこういう形状なのか、この素材を加工する際はどうしてこの方法が適切なのか」など、あらゆる理由がわかるようになる。機械や素材は時代を経て進化していくけれども、本質を理解していればその変化にも十分に対応できるようになります。そうした応用の利く人材を育てていけたら、指導者として本望です。

櫻井当社は「キャッシュドロア」の製造を強みとしてきた会社です。しかし、昨今の社会の変化を受けて、一つの強みだけではいけないとも感じています。新たな技能を身につけ、新製品や新サービスに挑戦していく。今回の指導を受けて、お客様のご要望に応えられる幅を広げていく大切さを学びました。

最後に、山口マイスターから一言、お願いできますでしょうか。

山口マイスターものづくりは基本を理解してはじめて応用ができるものです。まずは体系的に知識を習得して、本質を理解する。それが一番大切なのではないでしょうか。また、ものづくりにはつくり手の姿勢が表れます。製品を見れば、どれだけ愛情を持ってものづくりに向き合っているかは一目瞭然です。私は常々、「ものは、人なり」と捉えており、自分という人間を磨くことが一番大切だと考えています。ぜひ、業界の未来を担っていくみなさんには、自己研鑽を怠らずに、懸命にものづくりに向き合っていただけたらと思います。