- 指導先
- ものづくりマイスター
株式会社島根ナカムラ
島根ナカムラは、主にアパレルブランドのOEMを行う企業です。ニットやカットソーに特化した安心・信頼のおける高品質なものづくりを行っています。お客様からの注文どおりに仕上げるのはもちろん、柔軟な考えと発想力を伴って、最適な縫製をご提案させていただくことも重要な仕事だと考え、社員一同が業務に取り組んでいます。
落合 貴美子(おちあい きみこ)さん
高校を卒業後、洋裁店に就職し、洋服作りひとすじに勤しんできた、落合マイスター。結婚を機に退職し、自宅で洋服の仕立てを始める傍ら、通信教育で洋裁の学びを深め、自ら洋裁教室もスタート。以来40年近く、指導者としても活躍されてきました。ものづくりマイスターに認定されてからは学校や企業などへ赴き、婦人子供服の縫製指導を行うなど精力的に活動しています。
ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由
洋服作りの可能性を
拡げ
事業の幅も
拡げていきたい
株式会社島根ナカムラ
代表取締役
中村 健宏(なかむら たけひろ)さん
背景
少数スタッフゆえに、技能教育に
人手と時間をかけられなかった
当社の縫製工場は、安来市の自然豊かな地に構えており、従業員も18名と少数のスタッフでものづくりに励んでいます。アットホームな環境でのびのびと洋服の製作に携われるものの、技能教育という面では人手も時間も足りておらず、縫製技能の向上や伝承していくための方策に悩んでいました。そんなとき、当社に勤める外国人スタッフが技能検定を受けることになり、島根県職業能力開発協会を知りました。そのご縁で、当社若手社員に向けての技能研修を行えないか相談したところ、「ものづくりマイスター等事業」をご紹介いただきました。洋服製作のプロフェッショナルの方から縫製技能を学ぶことができると伺い、実技指導をお願いしました。
効果
腕が磨かれ、感性が刺激され、
ものづくりが楽しくなる
令和2年度に初めて落合マイスターから熱心なご指導をいただき、社員が専門的な縫製技能を学ぶ良い機会となりました。社内でも大変好評で、今回、社員の方から相談があったことから、令和3年度も実技指導をお願いし、実現しました。指導の内容はマイスターにお任せしましたが、唯一、私からは「普段の業務では扱うことがない種類の洋服を課題にしてほしい」とだけお願いしました。やはり業務の中で縫製する製品は種類が限られるため、新たな技能を身につける機会が少ないと思うからです。受講している社員も多様な洋服作りを学ぶことで、腕が少しずつ磨かれ、感性が刺激され、ものづくりが楽しいと感じているようです。そうして、広がる興味関心を仕事でも活かしてもらえたら最高だと思います。社員一人ひとりの技能向上をきっかけに、私の心境も変わりました。人材育成を積極的に行えることがわかり、日本人スタッフの増員を考えるようになりました。
今後の目標は、技術の伝承・育成を行い、国家資格を持つスタッフを育て上げ、OEMだけでなく自社ブランド製品作りなど新しいビジネスにもチャレンジしていけると嬉しく思います。
実施したプログラムの内容
ニット生地を使用した、ワンピースとテーラードジャケットの製作を行いました。限られた時間の中で完成までの工程を学べるようにパターンなどは事前に準備し、受講生には縫製にできる限り時間を充てられるようなプログラムで指導。実製作に取り組みながら、わからない箇所などを適宜質問してもらう形で進めました。
実施プログラム
- 実施内容
- ワンピースとテーラードジャケットの製作
- 目 的
- ニット生地を縫製する際の基本から応用までの技能習得
- 受講対象
- 社員2名
- 1回目
- ワンピースの表地・裏地・芯地・裁断
- 2〜4回目
- 縫製
- 5回目
- 縫製・仕上げ
- 6回目
- テーラードジャケットの表地・裏地・芯地・裁断
- 7〜10回目
- 縫製(フラップポケット、胸箱ポケット、袖口あきみせ、センターベンツ付)
- 11回目
- 仕上げ・座学
Crosstalk Interview
新たな技能が身につくと
洋服作りは
もっと楽しいものとなる
Talk member
ものづくりマイスター(婦人子供服製造)
落合 貴美子(おちあい きみこ)さん
株式会社島根ナカムラ
湯浅 海菜理(ゆあさ みなり)さん
株式会社島根ナカムラ
早川 めぐみ(はやかわ めぐみ)さん
難易度の高い
新素材へのチャレンジ
指導を受ける湯浅さんと早川さん。普段の業務内容とマイスターの指導を受けようと思ったきっかけを教えてください。
湯浅私は本縫いミシンとロックミシンを使用した縫製工程を任され、Tシャツやパーカーを手がけることが多いです。最近では、お客様であるアパレルブランドの試作品として、縫製サンプルも製作しています。私自身は、普通科の高校から当社に入社したこともあり、縫製の基礎を学んだことがありませんでしたので、入社後に業務の中で先輩から縫製を教わりました。マイスターの指導を受け、技能をもっと高めて、多種多彩な洋服を作れるようになれたらと思い、受講を希望しました。
早川先輩の湯浅さんと同じく縫製工程に携わっています。私は洋裁の専門学校を卒業後、アパレルの販売職を経て入社し、1年弱となります。卒業から時間が経過していて、先輩たちに比べると知識も技能も不足していると痛感しています。自身の腕を磨いてもっと会社に貢献できたらと思い受講しました。
島根ナカムラさんでの指導は2期目だとお伺いしました。先期と今期の指導内容での違いなどありましたら教えてください。
落合マイスター製作する課題は、今期も先期と同様に「ワンピースとテーラードジャケット」としました。ただし、使用する生地が先期とは大きく違います。先期は、「綿生地」を使用した課題を出しましたが、今期は、「ニット生地」を使用します。素材が変わるだけで縫製する難易度は格段に変わりますので、伸縮性の高いニット生地の扱い方がポイントになるでしょう。同じパターンを用いても、ニットはサイズ感のズレが生じやすいので、裁断から縫い代の取り方に気をつけることが肝心です。
マイスターの熟練の縫製のコツも
積極的に吸収して
今期指導のプログラムのポイントと指導を終えての感想などを教えてください。
落合マイスターワンピースには裏地を付けるのですが生地が薄いため、ヨレないように上手に縫製するのがポイントになるかと思います。また、テーラードジャケットは、衿付け止まりがずれないようにする 四つ止めや袖山のいせの整え方等、きれいに仕上げるためには、パーツごとの作業を丁寧にすることが大切になると思います。
指導中、受講者のお二人は、日頃より早くきれいにできるよう、考えながら作業をされていると感じました。私も指導をしながら学ばせていただきました。
お二人は、マイスターに指導いただく中で、どのようなことを学びたいと思い受講されましたか。また、今回の指導で身についたと思うことをお教えください。
早川私はニット素材でのワンピースやジャケットの製作は初めてでしたので、どのような工程があるか詳しくわからなかったのですが、とにかく新しい洋服作りへのチャレンジになるので、受講者は私と湯浅さんの2名と少人数ということもあり、わからない箇所は積極的に質問し、短い時間の中でも多くの技能をマイスターから吸収できたらと考えて受講しました。
今回のテーラードジャケットは裏毛で厚みのあるニット生地での製作だったため、ポケット、背中心の裾部分のベンツ、そして袖口の開き見せ等の重なりがある部分の縫製が大変でした。その中でも厚みのある生地で、ウエストダーツを縫う際、縫い代を落ち着かせて倒すテクニックとして、共布を縫い付けてそれごとアイロンで倒すことで、きれいに落ち着くというやり方を教えていただき、細かいことでも、事前にやっておくとでき上がりのきれいさが格段に違うということを学びました。他にも、四つ止め等の手縫いの技能や、ニットの伸縮に合わせた伸び止め(接着芯)の貼り方を教えていただいたので、今後の業務に活かせると良いと思っています。
湯浅今期は製作物のクオリティとスピードにこだわり、技能のレベルアップを目標として臨みました。以前は、縫製する際に生地がヨレないように「紙ヤスリ」を滑り止めとして使用することを教えていただきました。そのような裏技は見たことがなかったので、大変勉強になりました。今では実際に業務に取り入れていますので、そうした私たちが知らないような「縫製のコツ」も、積極的に吸収していきたいと考えていました。今回は、早川さんと同様にテーラードジャケットの背中心の裾部分にあるセンターベンツの生地が重なっている箇所などの縫製が、難しいと感じましたが、4枚の布を手で縫って美しく見せる四つ止めなどの方法を身につけることができました。今後、マイスターから教わったこういった技能をどんどん実践していけたらと思います。
マイスターの洋服づくりへの
熱意と意識が確実に受け継がれていく
受講者のお二人の今後の目標や夢をお伺いさせてください。
湯浅縫製工程に携わって4年ほど経ちましたが、今後もさらに技能の向上に努めて、マイスターのような高い技能を持つ作り手になれたら嬉しいです。そのためには、今回、実技指導で製作しているような異素材や、これまで手がけたことのない種類の洋服作りにもチャレンジしていけたらと思います。パターンを見ただけで、ある程度の作り方が想像できるくらいに、しっかりと応用できるようになりたいと思います。
早川私は先輩や上司のように、まずは一人前の作り手になれるように精進していきます。今回、せっかくマイスターの技能を間近で学べる貴重な機会をいただけたので、業務に活かすことはもちろんですが、多くのことを学ぶ中で技能検定も身近に感じるようになり、次は資格取得にもチャレンジしてみたいと思います。
最後に、落合マイスターが「ものづくりマイスター等事業」に込める想いをお聞かせいただけますでしょうか。
落合マイスター以前、指導先の学校の先生から「確かな技術力、他者を受けとめる姿勢に人はついていくことを学びました」と感想をいただきました。私は今でも指導の際にはこの言葉を思いながら指導に当たっています。これまで培ってきた技能を一方的に押し付けるのではなく、受講生の方々に寄り添って、できる限りの知識を吸収していただく。「教える」ということに対して謙虚な姿勢を忘れることなく、今後も指導に携われたらと思います。そして実技指導だけではなく伝えたい思いとは「洋服作りは楽しい」仕事であるということ。一人でも多くの方に縫製の楽しさを伝えられるように、今後も精進していきます。