- 指導先
- ものづくりマイスター
有限会社秀工社
発電所向けのタービン部品や船舶用エンジン搭載のターボチャージャー部品など、エネルギー・海運産業に関する部品の製造を行っています。「顧客第一の信念に徹し作業を通して社会に貢献する」を経営理念として、創業以来、技能面での努力を重ねてお客様のニーズに応えてきました。現在では、仕上げの塗装も社内で手掛けており、社員の技能向上を推進しています。
橋本 誠夫(はしもと よしお)さん
県内の高等技術専門校で長年指導。現在は、職人の高齢化や若者の技能低下を危惧し、技能の継承や人材育成を目指し、小学生対象のものづくり体験教室から企業への実技指導まで、幅広い世代に対する指導を続けてきました。塗装の基礎・基本を重視し、指導先に合わせたプログラムを作成して、柔軟かつ工夫を凝らした指導を行っています。
ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由
お客様のニーズ
に応えられる
塗装のイロハを
学びたい
有限会社秀工社
工作部 部長
久保 淳一郎(くぼ じゅんいちろう)さん
背景
お客様のニーズを
より満たすための学習
当社では、エネルギー・海運産業に関する部品の製造を行っていますが、近年では組立て後に塗装までを施すご依頼が増えています。製品によっては、元々塗装までを請け負っていましたが、専門の部署はなく、「組立係」や「仕上係」が塗装を行っていました。お客様のご要望の変化に伴い、塗装技能を高める必要性を感じていたところ、社長から「ものづくりマイスター等事業」を活用してはどうか、と提案されました。これまで自社内で取り組んできた塗装技能を基礎からプロに学ぶことで、お客様の満足度を高められるのではと考え、社員の技能向上のために、ものづくりマイスターの指導を依頼することに決めました。
効果
難しい要望もこなせる力を
自分のものにする
橋本マイスターは30年以上、塗装の技能を磨かれてきたスペシャリストであるということで、今回は塗装作業に携わる「組立係」と「仕上係」の担当者、計4名に対する指導を依頼しました。実技指導では「塗装におけるイロハ」から教えていただきながら、当社の業務内容に沿ったプログラムを組んでいただきました。基礎から教わった上で、実務経験を伴う技能検定2級レベルの技能を身につけることができたのではと実感しています。お客様からの新たな依頼に応えることができるように、実務でも役立つ効果がいくつも得られている感触があります。今後も塗装に限らず「部品加工」や「溶接」等、それぞれの担当者にも技能を磨く機会として、ものづくりマイスターによる実技指導を依頼していきたいと思っています。
実施したプログラムの内容
このプログラムでは、塗装の基礎をしっかりと理解できるように、講義と実技を並行して指導を実施しました。秀工社の業務内容に合わせ、講義は塗装全般の知識を、実技はラッカー塗料を主体として指導を行いました。ラッカー塗料を主体としたのは、乾燥が速いことから、次の工程に進む待ち時間が短縮されるため、指導時間を確保することができること、また、技能検定試験2級の金属塗装作業でもラッカーエナメルを使用した塗装が出題されていることが理由です。素地の調整から下塗り、上塗りまで一通りの実技演習を行い、技能検定2級レベルの技能を習得できるように取り組みました。
実施プログラム
- 実施内容
- 塗装・塗料に関する概論解説と実技指導
- 目 的
- 技能検定2級レベルの技能の習得
- 受講対象
- 社員4名
- 1回目
- 塗装、塗料についての概論解説
- 2回目
- パテの取り扱い方などの指導
- 3回目
- スプレーガンの取り扱いと吹き付け指導
- 4〜8回目
- パテ付演習、スプレー塗装演習
Crosstalk Interview
基礎から丁寧に学ぶことで
塗装への興味・
技能習得の意欲が増す
Talk member
ものづくりマイスター(塗装)
橋本 誠夫(はしもと よしお)さん
有限会社秀工社
溶接・組立課 組立係 係長
林田 好幸(はやしだ よしゆき)さん
有限会社秀工社
溶接・組立課 組立係
中村 優也(なかむら ゆうや)さん
各社の実情や目的に合わせた
指導プログラムの作成
ものづくりマイスターの指導を依頼した秀工社さんは、お客様の塗装へのニーズの高まりを感じて依頼を決めたと言います。
橋本マイスター近年、部品の製造、組立てから塗装までを含めた依頼が増えているそうで、お客様からのよりハイレベルなご期待に応えるために、ものづくりマイスターによる実技指導の依頼をされたとお聞きしました。社内には塗装専門の部署がないとのことでしたので、まずは「塗装とは何か」という基本から理解していただけるように、指導プログラムを組みました。
林田受講前に別の機会で橋本マイスターに塗装に関するお話をお伺いしました。塗装技術の歴史や、外国から塗装が伝わってきた過程などをお聞きして、そのお話がとても興味深かったことがきっかけで塗装への興味がわきました。その後、自分の担当する部署で塗装の実技指導があることを聞いて「自分も技能を習得したい」と思い、受講を決めました。
中村実務では正直な話、まれに塗装面での不具合やクレームが発生していました。お客様のご期待にお応えできず不甲斐ない思いをしたのはもちろん、製造担当者として「完璧なものを作りたい」という思いから、技能を向上させたいと思いました。
綿密なヒアリングで
受講者に合わせた指導内容を調整
塗装の専門部署がないという秀工社さんに対し、橋本マイスターは実技指導の内容をどのように考えられたのでしょうか。
橋本マイスター「塗装を基礎から学びたい」と伺い、講義と実技指導を併用した形でプログラムを組みました。依頼者である久保さんにヒアリングしつつ、講義では全般的な知識を教え、実技ではラッカー塗料を中心に演習をすることにしました。秀工社さんは耐熱塗料を主に使っていましたので、その状況を踏まえつつ、技能検定2級レベルの技能習得ができるように指導内容を決めていきました。
受講者のお二人は橋本マイスターの指導を受けて、何か感じたことはありますか。
林田これまで当社の塗装作業は、スプレーガンで部品を塗る程度のものでした。しかし今回、塗装前の準備や下地の仕上げ方、パテで下処理した塗装方法などを教わり、さまざまな種類の塗装に関する技法を理解することでとても視野が広がりました。橋本マイスターが丁寧に教えてくださったことで、塗装の基礎が十分にわかったので、ご指導いただいてから製品の仕上がりは見違えるように変わりました。
中村今まで塗装に関する知識がほとんどなく、いま使っている塗料はどんなものなのか、成分はどうなっているのかなどまでも詳しく教えていただき勉強になりました。もともと学びたいと思っていた塗装の基本的な内容に加えて、パテ付けのような仕上げについても教えていただきました。最初は上手にできませんでしたが、パテのこね方やヘラの使い方に対して細やかな手ほどきを受け、自分でも徐々に上達していくのを実感しました。
塗装の仕上がりに明らかな変化
仕事の幅を広げ、後輩にも指導を
講義を受け、具体的にはどのような成果があったのでしょうか。マイスター、受講者のお二人それぞれの感想などをお教えください。
林田よりわかりやすく興味を持てるように教えていただけて、実務では味わえない貴重な経験になりました。特に、塗料をきれいに塗れたときはとても嬉しく気持ちが良かったです。また今後の目標として技能検定2級を取得したいと思い、橋本マイスターにも相談しました。他部署に塗装2級に合格した社員がいるので、「組立係」からも合格を目指して、勉強してみようと思っています。
中村指導を受ける前の塗装作業を振り返ってみると、自分の中では「完璧にできている」と思い込んでいたのですが、橋本マイスターが仕上げたものと比較すると、まったく精度が違いました。実技指導を受けるうちに、スプレーガンと部品の距離、塗料を塗っていくスピードなど、正しい手順による塗装方法を詳しく教えていただいたおかげで、完成品にツヤが出るようになりました。塗装の重要性を充分に感じられたことから、一層興味がわいてきたので業務外でも目についた製品などの塗装が気になるようになりました。
橋本マイスター指導では、塗装に興味を持てるように内容を面白くしたり、プリントを配付したりと指導方法を工夫しました。二人とも教えたことを素直に吸収してくれて、こちらとしても教えやすかったです。
林田さんと中村さんは、この講義で学んだことを今後にも活かしたい、と語ります。
林田当社では、私の所属する「組立係」だけではなく、「仕上係」でも塗装作業をしているので、仕上げ工程での塗装作業も学んでみたいですね。仕事の幅を広げながら、今回学んだことを活かしていきたいです。
中村スプレーガンの動かし方や塗料を塗るスピードなど、具体的な方法論はすでに仕事に活かしています。私は近いうちに技能検定の受検を考えていて、まずは着実に3級を取得してから、2級に挑戦したいと思っています。また、こうして教わったことを、後輩や新入社員にも伝えていきたいです。
橋本マイスター若者たちには、日本の伝統的な技能を今後も受け継いでいってほしいと思っています。そして、技能をしっかりと後世にも引き継いでいってほしいですし、そうした意味でも若いみなさんには希望を持っています。やはり日本と言えば、「ものづくり大国」だと思っていますので、これからを担う方々に活躍してもらい、今後も「ものづくり先進国」であり続けてほしい、と切に願っています。