ものづくりマイスター / ITマスター / テックマイスター事業

企業・学校の活用事例

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令和4年度 中小企業・団体編
業務用ITソフトウェア・ソリューションズ(福島県)

オンライン3Dモデリングツールを学び実務で使える作図方法の習得を目的とした技能指導

指導先

福島県建具・木工組合連合会

事業内容

福島県の建具家具製造業者を会員とし、時代の進展に順応するため必要な事業活動を行うと共に会員相互の福利増進と社会的地位の向上を図ることを目的とし、以下の事業を行う。

  • 会員の共同、団結意識高揚に関する事業
  • 生産販売に関する連絡事項
  • 設備の近代、高度化に関する事業
  • 資材に関する調査研究と共同購入の指導
  • 会員(組合とその構成員)の事業経営、運営に対する指導
  • 建具・木工生産技術、技能の向上発展に関する事業
  • 職業訓練に対する積極的協力
  • 広報活動の充実強化に関する事業
  • 建具・木工業に関する情報および資材の回収とその提供
  • 建具・木工業に関する関係機関への協力要請
  • 福利厚生に関する事業
  • その他本会の目的達成のための必要な事業
会員数
38事業所
ITマスター

鈴木 睦(すずき むつみ)さん

令和元年(2019年)ITマスター認定(ITネットワークシステム管理職種、業務用ITソフトウェア・ソリューションズ職種、ロボットソフト組込職種)

福島県内の独立系のソフトウェア開発会社に就職後、通信インフラ、鉄道、交通、電力関係の大規模システムや、家電のデジタル化、デジタル映像機器の開発等に携わる。東日本大震災後は、復興事業にITを使って役立てたいと廃炉作業のロボット製作や再生可能エネルギー関係の開発など最先端事業にも関わってきた。ゴールの見えない長いプロジェクトに取り組む中で、これまで見えてこなかった身近な日常のITへと意識が向くようになった。まだ大勢の方がITを知らないという実際を知り、自分の経験を活かしてITリテラシーの底上げの教育に貢献したいと考え、ITマスターに申請。現在は小規模のシステム開発を行う企業に転職し、在職しながらITマスターの活動を行っている。
主な指導内容は、将来のプログラマーやシステムエンジニアを対象にシステム開発(汎用系・Web及びオープン系・制御系)における設計・製造・試験、プロジェクトマネジメント、セキュリティなどの一連の作業の他、教材を利用した座学や統合開発環境を利用したプログラミング実習など。対象者のレベルに合わせてITやコンピュータの基本から応用までの実技指導を行える。

実施したプログラムの内容

実施プログラム

実施内容
オンライン3Dモデリングツールの環境構築、機能の説明、基本や応用の実践
目  的
お客様が使用されることもあるオンライン3Dモデリングツールの習得を通じて、お客様のご要望に的確にお応えした商品のご提供
受講者
10名
実施日程
令和4年2月 1回あたりの実技指導は3時間
1回目
オンライン3Dモデリングツールの環境構築、機能の説明、基本や応用の実践

実技指導の目標と目標への到達度

No. 目標 到達度
01 オンライン3Dモデリングツールの環境構築、機能の理解 全員、目標とするレベルに達していた。
02 課題として「テーブル」の作図をしながら、基本及び応用の操作を習得する。 モデリングツールの経験者は、配付資料の手順に従って課題をクリアし、アレンジを加えるなどの工夫をしていた。一方、未経験の受講者については、課題が完成しないまま終了となったものの、基本操作については習得できた。

実技指導の成果

実技指導を受けて、オンライン3Dモデリングツールの環境構築を自ら行い、基本操 作を習得し、基本の図形を製作できるようになった。

今後の課題

未経験の受講者については課題が完成しないまま終了となったが、講習中に配付した資料は今後も実務で使えるよう作成したので、引き続き建具や家具製作の現場において、製図等の製作に活用できるようにする。

ITマスターの
実技指導を依頼した理由

福島県建具・木工組合連合会 事務局長の金澤 良一(かなざわ りょういち)さんに、
実技指導を依頼した背景や指導にあたっての準備などについて伺いました。

背 景

私自身ものづくりマイスターとして学校向けの体験教室を行うだけでなく、福島県建具・木工組合連合会の事務局の立場で、会員向けに建具製作の実技指導をお願いするなど、ものづくりマイスター制度についてはよく知っていました。そのような中で、ものづくりだけでなく近年、建具店・木工所として当たり前となっている業務に必要なパソコンでの作業を学び、組合員のITに関する技能のレベルアップを目指したいと考えていました。依頼のきっかけとなったのは、業務で使用する施工図は、それぞれの事業者が所有するCADのソフトウェアで製作することが一般的なのですが、顧客の方でも作図して提案する事例が増えてきたことです。お客様が使用されているソフトウェアの中でも、特に「Sketch Up」というオンライン上で作成できるソフトウェアを利用した作図が多く見受けられたことから、まず事業者が率先して学び実際に利用できるようにしたいと思い、福島県地域技能振興コーナーの担当者に相談したところ、福島県内のITマスターの方に実技指導をお願いできることがわかり依頼に至りました。

「Sketch Up」とは、アメリカのTrimble社が開発・提供している3Dモデリングのソフトウェアで、主に建築や建設、インテリア業界等で使用されている。無償版と有償版があり、実技指導では無償版の「Sketch Up for Web」を使用して指導した。

準備・環境づくり

実技指導の日程については、福島県建具・木工組合連合会の総会で、県内全域の職人が集まり、青年部の若手の職人も参加することから、この機会に実施することにし、Wi-Fiの環境がある会場を借りました。受講者は、青年部の会員10名が参加し、それぞれノートパソコンを持参して指導に臨みました。

指導内容

ITマスターの鈴木 睦(すずき むつみ)さんに、指導の詳細について伺いました。

最初にお話があった時点で、「Sketch Up」を教えてほしいということでした。福島県建具・木工組合連合会の金澤さんからは、若手の職人の多くが、製図は手書きではなく、デジタルツールを利用して作成されているということ、ただし技術の習得には、ばらつきがあるということをお伺いしていました。そこで、まずは目標として「Sketch Up」を共通のモデリングツールとして操作方法を覚え、作りたいものを作図してみようということになりました。

この「Sketch Up」はモデリングツールとしての基本的な機能や操作に関しては、他の一般的に販売されているソフトウェアとの大きな違いはありません。WindowsでもMacでも使用でき、直感的に操作ができるもので、ツールバーから直線や円弧、長方形や円、ポリゴンなどを選択してアウトラインを作成し、「プッシュ・プル」というツールで3次元に見えるような立体にすることができます。このようなモデリングツールの経験が少しでもあれば、「こういう場合どうするのだろう」と思いながらメニューをちょっと触ってみると、「これはこういう機能である」とか、「これでこういうことができる」というのが比較的わかりやすいと思います。「Sketch Up」は有償版と無償版がありますが、今回は導入編ということで、無償版のWeb上で使用できる「Sketch Up for Web」を使用してお教えすることにしました。

実技指導にあたり、講師の紹介を含め指導の概要を示した10枚ほどのPowerPointのスライド資料と、70ページほどのテキストを作成しました。テキストでは、まず「Sketch Up」の概略、利用するための環境構築のための設定の作業とホームバーやツールバーの名称と使い方、実際の作図方法の手順などを説明しています。実技指導でお伝えするのはもちろんですが、独学でもテキストを見れば習得できるように、もし講習会で全ての項目に触れることができなくても、自宅に持ち帰っても使えるような教材にしようと考えて作成しました。「Sketch Up」は業務等で使用したことがなく、講師として指導をするために、機能等の習得に10時間ほどかけました。過去に3Dモデリングの開発に携わったことがあったので、操作方法の習得にはそれほど時間は要しませんでしたが、他には講習会のテキストの作成に20時間程度、スライド作成や講義の予行演習に10時間程度を費やしました。

実技指導は3時間ですが、当日は会場セッティングのため講習の2時間前から準備を始めています。受講者が10名ということで、私と同じ勤務先に所属するITマスター1名に補助者として入ってもらい、予備機としてノートパソコン2台を用意しました。

実技指導当日の具体的な内容としては、目的及び目標について、「Sketch Up」の概要、アカウント作成、動作要件・仕様の説明を行い、基本操作の演習として立方体、円柱、球体の作成、応用操作の演習としてテーブルの作成を行う予定でした。最終的にはテーブルの表面を加工するなど、実際の仕事で使えるサンプルを作れるようになることを目指しました。

実際の指導では、前半の作業環境の構築について職場に持ち帰ってもできるように受講者全員にノートパソコンを持参いただき、オンライン環境で使用するためのアカウントの設定から始めたのですが、受講者のパソコンの基本的な操作スキルにかなりのばらつきがあったことと、パソコン本体のスペックや機能などの理由から設定に手間取ったことから、思った以上に時間がかかってしまいました。そのため、予備機として用意した2台のパソコンも両方とも受講者に貸し出して進めることになりました。

設定が終わった後は、テキストを参照しながら使い方を説明し、基本操作の立方体や円柱、球体の作成を行う予定でしたが、前半の設定にかなりの時間がかかったことから、基本操作はほぼ割愛し、応用操作で予定しているテーブルの作成を行いながら、基本操作を伝えることにしました。応用操作のテーブルの作成に、当初、最後の1時間程度の配分を考えていたのですが、受講者によって進捗の度合いが異なることもあり、開始から残り1時間半の時点で応用操作のほうにシフトして、じっくり説明することにしました。受講者の方たちは、日常的に市販のソフトウェアを使用されている方がいる一方、半数の方が初心者ということで、一から丁寧にお伝えする必要があり、特に専門用語や表現に注意を払いながら進めていきました。普段から実務で使用されている方は、空いた時間で似たようなものを作るなどしていましたが、初めて触れるという方には、補助者のITマスターと協力して丁寧な説明など、工夫して進めました。また、新たな項目を学ぶ度に、理解度の確認などをしました。作業に手間取り、手が止まりがちな受講者も見られたものの、基本の操作までは全員ができるようになりました。一部、応用のテーブル作成まで到達しない方もいましたので、保有するパソコンのスペックやモデリングツールの使用経験などを事前に調査しておく必要があったと感じています。

テキスト抜粋

実技指導を終えて

建具・木工組合連合会 事務局長の金澤 良一さんに、実技指導を通して感じたことなどを伺いました。

会員の技能向上のため、ものづくりの技術や技能検定課題に関する講習会を年に数回開催しています。今回のITマスターによる実技指導は、令和元年度の時点で計画をしていたもののコロナ禍もあり、なかなか実施することができなかったのですが、感染防止対策をしっかり取りながら令和4年の2月に実現させることができました。受講者からは、「事務作業の効率化という点でも手書きではなく、こういった3DCADのようなツールを使うことを考えなければいけない時期であったので、目的が分かりやすく受講して良かった」という声を聴いています。受講者にはCADの使用経験者もいれば、初めて触れる者もおり、教え合いながら進める場面もあったようです。今後も、こういった講習会が実施できれば良いと思いますし、「Sketch Up」はもちろんですが、他に事務作業を効率化できるようなIT習得の場があれば、組合員の要望を聞きながら、今後も実技指導をお願いしたいと思います。

受講者の黒須 誠(くろす まこと)さんに、実技指導を通して感じたことなどを伺いました。

祖父の代から私で三代目の家具店経営と主にオーダーの建具・家具の製造に従事しており、今年で13年目です。仕事でCADは使用していましたが、3DCADではないので、立体的に描くことはできず、我々のような専門業者にとっては図面から立体を想像できても、一般の方にとっては、なかなかイメージの沸くようなものは作図できません。指導を受けるにあたって、「Sketch Up」について初めて聞きインターネットで調べてみたところ、これならばお客様に見せた際に一目瞭然で分かるものが作図できるとわかり、興味がわきました。

実際に受講してみて、3時間という時間があっという間で、もう少し長くてもよいくらいでしたが、私自身はテキストを見ながら、演習課題のテーブルを完成させることができました。作図に時間のかかっている受講者もいましたが、お互いに教え合うなどして進めることができました。

仕事でもオーダーいただいた商品の完成イメージを作成するのに、「Sketch Up」を活用しており、こちらの伝えたいイメージをすぐに理解していただけるようになりました。ただ、簡単なテーブルや真四角な棚などを作ることはすぐにできるのですが、もう少し凝った作りのものは時間がかかってしまうので、今後練習して、もっと使いこなせるようになることが今後の目標です。

ITマスターの鈴木 睦さんに、指導して感じたことや受講者へ伝えたいことなどを伺いました。

モデリングツールのPCでの操作は、初心者も多く、最初は受け身の方もいましたが、実際に声をかけ、操作の方法や、どういうところで悩んでいるかなどを聞くよう努めました。受講者の方も課題をクリアしていくことで、できる喜びを感じたようです。「次はこうしてみよう」と次のステップに進む前向きな様子も見えました。ものづくりが好きな方々へ実際に手を動かして頭で考え実践するというこの実技指導は大変教えがいがありました。

講習会の終わり際に、受講者からこれからモデリングツールを使っていきたいので、必要な機材や、どのようなツールを使ったらよいかなどの相談を受けました。また講習をお願いしたいという声を聞いて、お教えして良かったと思います。