- 令和4年度 中小企業・団体編
- 業務用ITソフトウェア・ソリューションズ(山梨県)
工場の稼働状況についてデータ収集と可視化、分析を通した
業務用ITソフトウェア・ソリューションズの技能習得
Y社
- 事業内容
-
- 真空事業
- ユニット事業
- 医療機器事業等
- 新規開拓に関する事業
等
佐藤 康一郎(さとう こういちろう)さん
令和元年(2019年)ITマスター認定(ウェブデザイン職種、ITネットワークシステム管理職種、業務用ITソフトウェア・ソリューションズ職種、ロボットソフト組込職種)
長年ITセキュリティ製品の提供、ネットワーク環境に関するサポートサービス、自社独自のソリューション開発等を手がける企業で自社システムのネットワーク管理、企業システムのプログラム作成から設計・プロジェクトマネジメントまで、またロボットを使った自社社員向け技術教育、顧客からの依頼によるウェブアプリケーションの作成、維持管理等に携わる。
定年退職後は、ITマスターとして、小中学生向けのロボットプログラミングに関する体験教室や工業高校におけるウェブデザインやオフィスソフトウェア・ソリューション指導から企業へのウェブデザイン、業務用ITソフトウェア・ソリューションズの指導を行っている。
得意とする指導内容は、自社ネットワーク内において、PCネットワーク接続(インターネットを含む)からトラブルシューティングについての対応や与えられた仕様を満たすシステムの構築に必要な作業についての説明、プログラムの設計から、製造、テストまで。また、教育用ロボットを使用したプログラム作成、HTMLマークアップ、コーディング、ウェブデザイン技能検定課題を題材とした指導など。
実施したプログラムの内容
実施プログラム
- 実施内容
- 工場内のデータ収集と分析を通したY社開発部社員への業務用ITソフトウェア・ソリューションズの指導
- 目 的
- 新入社員教育及び若手中堅社員へのリスキリング教育
- 受講者
- 社員8名
- 実施日程
- 令和4年5月~令和4年7月 1回あたりの実技指導は3時間
- 1~2回目
- Raspberry Pi※とPythonを使用したIoT技術指導
- 3~4回目
- Node-REDを使用したIoT技術指導
- 5回目
- PostgreSQLを使用したデータの蓄積
- 6回目
- Power BI Desktopを使用した蓄積したデータの可視化、KNIMEを使用した分析
ラズベリーパイ(Raspberry Pi)とは、イギリスのラズベリーパイ財団が2012年に教育目的で開発したプログラミング教材で、コンピュータに必要な最低限の基幹部品を1枚の回路基盤に搭載したシングルボードコンピュータのこと。
実技指導の目標と目標への到達度
No. | 目標 | 到達度 |
---|---|---|
01[指導の1、2回目] | [指導の1、2回目]Raspberry Piのセットアップと工場内への設置方法の習得。 | 教えた知識をもとにセットアップ及びプログラミングをし、実際に工場内に設置することができたことから、目標を達成したと言える。 |
02[指導の3、4回目] | [指導の3、4回目]Node-REDを使用したセンサーからの情報取得の方法を理解し、情報収集及びデータの可視化を行う。 | Node-REDのインストールを行い、Raspberry Piから送られてくるデータを集める仕組みを作ることができた。また、Node-REDの機能を利用して、可視化することまでできたので、目標を達成したと言える。 |
03[指導の5回目] | [指導の5回目]PostgreSQLの機能について理解し、データベースの蓄積を行う。 | Raspberry Piから取得したデータをNode-REDに送って集め、PostgreSQLに蓄積する方法について理解し実践することができたので、目標を達成したと言える。 |
04[指導の6回目] | [指導の6回目]PostgreSQLに集まったデータを可視化するソフトウェアについて理解し、グラフ等の作成、統計分析を行い、業務に応用できるレベルとする。 | PostgreSQLに集まったデータを可視化するPower BI DesktopとKNIMEの使い方について理解し、業務に応用できるようになったと言える。 |
実技指導の成果
指導したRaspberry Piのセットアップや設置、そこから取得されるデータの収集とその情報の可視化までの方法について習得することができた。
今後の課題
受講者や経験年数によって、理解度の差がありました。ある程度の理解までができている方は今後、業務で実践しながら知識や技術のさらなるレベルアップが必要です。ほぼ問題なく理解し実践できた方は今後、業務での応用にも取り組んでいただきたいと思います。
ITマスターの
実技指導の依頼を受けた背景
ITマスターの佐藤 康一郎(さとう こういちろう)さんに、
実技指導の依頼を受けた背景や指導にあたっての準備などについて伺いました。
背 景
Y社は製造業ではありますが、情報システム関係の部署がある企業です。その部署の若手社員、特に新入社員への教育と中堅社員のリスキリング教育を目的として、工場内の機械にセンサーを設置し、そのデータ収集と分析方法の学習を通じたIoTの指導依頼がありました。新入社員の方は情報システム系の部署への配属ということで、学生時代に専門学校等でプログラミングを学ぶなどの経験がある方々です。中堅社員の方は製造業ということで、組み込み系のプログラムの経験がありました。ただ、IoTのようなシステムとしてのプログラミングは経験がないということでしたので、データの収集から集積、最終的にはデータ活用まで、一連の流れの技能指導を行うことになりました。
準備・環境づくり
指導内容については、基礎的なプログラミング経験がある方たちが対象ということもあり、当初もう少し短い期間で提案しました。企業側から「多少時間をかけても丁寧に指導してほしい」とのことで、打合せの中で6回という回数が決まりました。事前の打合せはメールなどで、4~5回やりとりをして指導の詳細なカリキュラムを決めていきました。
指導で使用するパソコンや機材などはY社の担当の方に必要なものをお伝えして、ご準備いただきました。今回使用したRaspberry Piは企業がIoTの導入で取り組みやすく、コストも抑えられるという面からも適当と思いましたので、今回の実技指導に採用しました。
テキスト
IoT関連のセミナー講師などをやっている関係で、様々な企業様に伺った経験を元に作成した基礎的な資料はありましたので、それを今回の指導内容に合わせて準備し、受講される方にお渡ししました。
指導内容
指導内容は、工場内にデータ収集のためのセンサーを設置して取得したデータを集積し、分析を行うための一連の必要な知識と技能の習得です。
1~2回目では、工場内のデータ収集を目的にセンサーを繋げたRaspberry Piの設置をしました。そのためには、まずRaspberry PiにOSをセットアップし、ネットワーク環境の設定を行いました。その際、導入の敷居が低く学習しやすく、一般的によく使用されるPython言語を用いてプログラミングし、センサーからの情報を取得するようにしました。
セットアップやプログラミングだけでなく広い工場内に複数のRaspberry Piを設置し、そこで収集したデータを1カ所に集めるためにRaspberry Pi同士を繋げる必要があり、実際に手を動かして繋げたのですが、受講者は経験者ということもあり、概ねスムーズに進みました。
3~4回目では、Node-REDを使用して、センサーからの情報取得を目的に指導を行いました。Node-REDはAPI※及びオンラインサービスを相互に接続するために開発されたオープンソースのソフトウェアです。コーディング作業を極力減らし、プログラミングに必要な処理をブラウザベースの編集画面にあるパレットに並ぶNode(ノード)を結びつけてフローを作成することで、簡単にアプリケーションの処理が完成するツールです。このNode-REDをサーバ用Raspberry Piにインストールを行い、設定することでセンサー側のPythonプログラムから送られてくるデータを集める仕組みを作りました。
更にNode-REDの機能であるダッシュボードを使用して、集めたデータを可視化するところまでを指導しましたが、ここまででも指導を受けた方の技能の向上を感じられました。残りの回で更にデータベースに蓄積できるように指導しました。
API(Application Programming Interface)とは、アプリケーションをプログラミングするためのインターフェースのこと。
5回目では、PostgreSQLについて指導しました。PostgreSQLは、オープンソースの無償で使えるソフトウェアです。学習用だけでなく実際に企業さんが業務などでも使っているようなソフトウェアで、データベースの役割を果たします。センサーから取得したデータをNode-REDに送って集め、PostgreSQLに蓄積します。5回目では、このデータベースへの蓄積について、指導をしました。
6回目では、PostgreSQLに集まったデータを可視化するソフトウェアについて説明し、実際に各自のパソコンにインストールして使用しました。ソフトウェアとしてPower BI DesktopとKNIMEを紹介しました。Power BI Desktopはデータをまとめて、こちらである程度の指示を入れると自動でグラフ等を作成し、報告書のような体裁にしてくれます。またKNIMEは、統計分析を行うためのツールです。どちらも無償で使えるのが特長で、この両方を使って分析を行いました。今回は、可視化し分析するツールとして、この2つを紹介しました。どちらも意識して検索すれば見つかりますが、やはり知らない方が多いと思います。そういったきっかけを作ることも目的の一つでした。
受講者によって、ある程度の技能の差があり、業務へすぐに応用できるような方もいれば、もう少し知識や技能の習得が必要な方もいましたが、前提として、プログラミングとかシステム構築の知識をお持ちの方です。「こういうツールがありますよ」とか「こうやって使えますよ」とお教えすることで、実務でどうやって利用していくかを考えられるようになったと思います。現場で更に使い込んで技能レベルを上げていただくという目的は果たせたと感じています。
また、一斉に同じ条件で実施するセミナーなどと違って、このオーダメイドとも言える実技指導では、より現場に近い環境での受講となります。今回は、企業様にご準備いただいた機材が全て同じではありませんでした。受講者はそれぞれ異なる条件下で取り組むことになったのですが、こういった経験は実際の業務にも生かせる実践的な学びになります。
機材の違いによるトラブルは、ある程度は想定の範囲内でしたが、実際、例えばネットワークにうまく繋がらない、センサーが同じ情報は取得できるけども、なぜか情報の種類が違うといったことや、同じ温度を測定しても、違うメーカーの機材であるためにプログラミングにちょっとした違いが出るといったことが起きました。まさに現場で起こりうることで、このような場合、AメーカーとBメーカーの機材の違いをセンサーのデータシート(仕様書)で確認した上で、改めてセンサー用のPythonプログラムを修正したところ、うまくデータの計測ができるようになるなど、それぞれの機材の特徴を理解し、機材選びの目を養うこともできたと思います。
実技指導を終えて
今回、受講者は新入社員の方などもおり、積極的に学ぶ姿勢があり質問も多く出ました。指導は概ねスムーズに進んだと思います。機材の違いによる作業時間の問題はありましたが、現場では必ずといってよいほど起こりうることなので、できるだけ実務に近い形という点では受講者にとって良い経験になったと思います。
受講者には何かトラブルに遭ったときは「なぜそうなったのか」ということを、自分が納得するまで調べてほしいと思います。例えば先輩に聞くと、その場は解決するということはありますが、「解決したからよし」ではなくて、なぜそうすると解決するのかまでを時間が空いたところで突っ込んで考え納得するというのがスキルアップへつながると思うので、実践してほしいと伝えています。また、企業さんへ教えに行き、一度教えた方が若手を指導できるようになれば一番いいと思います。また、なかなか難しいとは思うのですが、その中で経験のないことについて指導の依頼があれば、教えに行くというようなサイクルが理想ですし、そうなると企業さんは自力で育っていけると思います。