- 令和4年度 中小企業・団体編
- 業務用ITソフトウェア・ソリューションズ(長野県)
業務プロセスを可視化し、DXを通じて業務を効率化する手法を学ぶ
本事例はITマスターの実技指導ですが、DXをテーマに実施していることから、テックマイスターの実技指導で検索した場合でも、本事例をご覧いただけるようにチェックボックスの設定をしています。
株式会社相模組
- 事業内容
-
- 建築事業
- 土木事業
- 住宅事業
- リフォーム事業
- 社員数
- 94名(2022年4月1日現在)
飯嶋 宏(いいじま ひろし)さん
令和元年(2019年)ITマスター認定(業務用ITソフトウェア・ソリューションズ職種)
ITサービス関係の企業に38年間勤務。在籍中、主に自治体のオンラインシステム、自動車メーカーの生産情報ネットワーク、住宅建材メーカーのWebシステム構築など、システムエンジニアとして携わる。令和元年にITマスターに認定され、主に企業での指導を中心に活動している。
主な指導内容は、企業へのITコーディネータのプロセスガイドラインに沿った最適なITシステムの計画・調達・導入における進め方、各企業の課題からDX推進による改善指導。情報セキュリティリスク分析から対策推進の指導など。
実施したプログラムの内容
実施プログラム
- 実施内容
- 業務改善の可視化手法、業務改善へ向けた問題分析手法、DX活用方法、情報セキュリティポリシーについて
- 目 的
- 業務の効率化を図り、セキュリティポリシーについて学ぶ
- 受講者
- 3名
- 実施日程
- 令和4年5月〜令和4年9月 1回あたりの実技指導は3時間
- 1回目
- 業務プロセスの可視化手法について
- 2回目
- 自社の基幹業務プロセスを表現してみる
- 3〜4回目
- 業務改善へ向けた問題分析手法について
- 5〜6回目
- 問題解決へ向けたDX活用方法について
- 7〜8回目
- 情報セキュリティポリシーの作成方法について
実技指導の目標と目標への到達度
No. | 目標 | 到達度 |
---|---|---|
01[指導の1、2回目] | [指導の1、2回目]業務プロセスの可視化手法について学び、自社の基幹業務プロセスを洗い出す。 | 業務プロセスを可視化することの重要性を理解し、書き出すことで問題点などの課題を見つけることができたので、目標を達成したと言える。 |
02[指導の3、4回目] | [指導の3、4回目]業務改善のための問題分析手法について学び、課題の原因を突き止める。 | 「問題点連関図」という問題分析手法について理解し、課題となっている社内業務に時間がかかっていることに対して、真の原因を突き止めたことから目標を達成したと言える。 |
03[指導の5、6回目] | [指導の5、6回目]問題解決のためDXの活用方法について検討する。 | 社内で共通のデータベースを作成し、情報共有を図るための営業情報システムの導入、業務や書式の標準化などを検討することができたので、目標を達成したと言える。 |
04[指導の7、8回目] | [指導の7、8回目]社内の情報セキュリティポリシーの作成方法について学ぶ。 | 企業の実態に合った会社のセキュリティポリシー作成方法について理解し、作成することができたので、目標を達成したと言える。 |
実技指導の成果
実技指導で業務プロセスを可視化することで課題が見つかり、その課題を解消するため、見積書、請求書、営業情報システムのIT化を図るシステムの導入を検討し、導入を予定するまでに至った。社員への説明等を行い理解を得たところであり、今後、段階的に全社的な取り組みとして進めて行く予定。
今後の課題
営業情報システムの企画段階で、導入・運用には至っていないため、運用上で起きる問題対応など。また、業務を効率化し残業時間削減への取り組みを行いたい。
ITマスターの
実技指導を依頼した理由
株式会社相模組の取締役 相模 悠貴(さがみ ゆうき)さんに、
実技指導を依頼した背景や指導にあたっての準備などについて伺いました。
背 景
私自身は主に人事業務と総務業務を担当しています。今回は実技指導を依頼した担当者として、また受講者として参加しました。会社として社員教育には力を入れており、若手の技術者が入社した際は、離職の防止や技能の伝承などを目的に1年間一人につき先輩社員が1名ついて、教育を行うといった取り組みをしています。
今回、お越しいただいた飯嶋ITマスターには、長野県主催の講座でセキュリティのセミナーに以前、参加させていただいたご縁があり、DXについての指導もされているということを聞き、長野県地域技能振興コーナーを通じて、実技指導を依頼することになりました。参加した社員は私の方で声を掛け、社内のネットワーク関係でITに明るい社員を1名、あと営業の担当者で20代半ばの社員が1名、総務からは私が入り、全部で3名が受講しました。
当社は建設業ということもありITに知見のある社員が少なく、生産性の向上、効率化を図るためDXの重要性というのは理解しているつもりでしたが、当社で抱える課題をどのようにIT化していけるのかなどが全くわからない状態でした。
準備・環境づくり
指導が始まる前に一度、打合せの機会を設けて、おおまかなプログラムを決めました。最後の「情報セキュリティポリシー」は、ITマスターから加えた方が良いという提案をいただき入れました。実技指導自体は、当社の会議室を利用して実施しました。ご指導いただくにあたり、ITマスターからの直接の講義以外に他社の好事例の紹介や問題解決に向けた手順の資料の配布・ホワイトボードを使用した解説など、受講者の状況や進度を見ながらご指導いただきました。
指導内容
ITマスターの飯嶋 宏(いいじま ひろし)さんに、指導の詳細について伺いました。
1回目は、「業務プロセスの可視化手法について学ぶ」というテーマで実施しました。まず、DXについて説明をしました。DX、デジタルトランスフォーメーションというと、すぐにIT化するためのツールの導入、プログラム作成、システム開発といったことが思い浮かぶかと思うのですが、そもそもの目的は働き方改革や、生産性向上を目的に実施するため、改革しなければならないのはシステムではなく業務であるということをお伝えしました。ツールから入ってしまうとツールの導入が目的になってしまうので、まずは自分の業務がどうなっているのか、どこに改善のきっかけがあるかに気づくことが大切です。
「業務プロセスの可視化」とは、会社全体を俯瞰的に見ると、顧客から受注したものの製造、検品、納品、請求書の発行、また仕入れ先への発注など多岐にわたり、それぞれの部署に担当者がいるため、自分が行っている業務以外は分からないということが多いです。そのため、「会社全体としてどのようなフロー(流れ)になっているかを見える化(可視化)し、また、見えてきた業務をどう変えていくかを考えることがDX推進のスタートである」という内容を講義しました。
2回目は、「自社の基幹業務プロセスを表現してみる」というテーマで指導しました。受講者の方へは2回目までに全ての業務を書き出すことを課題として出し、書き出した業務の中でどういった箇所に手間がかかっていて、どのように改善できそうかという洗い出しを行いました。
3、4回目では、「問題分析手法」について指導しました。これは「問題点連関図」という手法を使って、問題が起きている一番の直接的な原因を探る方法です。相模組さんでは業務が忙しいことが問題となっており、指導の2回目で業務を洗い出してきた中で見えてきた部分、見積作成業務が忙しいのか、お客様対応が忙しいのかといった問題が起きている原因を突き止めて分析を行います。これは、問題点連関図のサンプルを用意して、見ていただきながら説明をしました。
もし見積業務が忙しいということであれば、なぜその業務が忙しいのか、例えば件数が多く、今までデータを共有せずに一から作っていたので、そういったところが問題ではないかといったことをどんどん深掘りしていきました。その中で、ルール化できていない部分などがあり、ルール化で解決できるものと、DXを推進することで解決するものの2つに分けて整理をしていくことができました。これが問題分析手法によってわかりました。
具体的には相模組さんの場合、営業に関する情報を管理するためのExcelで作成したファイルが複数あり、担当者毎に個別のExcelファイルを持ち、そのファイルを共有していないので、資料を作成する度に一からデータを打ち直すといった作業が発生していることがわかりました。
また、見積書作成の際はExcelを使用して一から作っており、時間がかかっていました。建設業は注文を受けるためにも見積書を作成するところから始まりますが、受注されない見積書はムダになってしまうので、できるだけ効率的に作成する必要があります。本来は建設現場管理などの別業務にもっと時間を充てるべきところ、見積書作成などの業務に追われてしまい、社員が負担に感じていることがわかりました。
これ以外にも、業務のフロー図を書き出すことで、見積書作成業務をただDX化すれば良いという問題ではなく、そこから派生して、マニュアル作成などの必要な改善項目が見えてきました。
5、6回目では、4回目までに何をDXとして推進するのか、何が単にマニュアルなどを作成して運用すれば業務が改善するかが明確になったので、具体的にどの部分をデジタル化して効率化できるか具体的な検討を進めました。
実際、DX化ということで、先ほどのExcel管理していたものを「営業情報システム」の導入の検討をすることで解決できるのではないかという話をしました。このシステムでは、今までExcelファイルで管理するか、紙ベースで共有していた顧客情報などをデータベースとしてシステムに打ち込むことで建築部と営業部、また見積書や請求書を作成する部門と情報共有が図れるものです。今までは、営業部から紙ベースやメールで建築部へ渡していましたが、建築部や土木部でそれを受け取ると、それをまた一から手入力する必要がありました。
導入予定のシステムは、営業システムに一度、顧客のデータを営業部が入力すれば、今後展開されるであろう見積書や請求書のデータに使い回せるようになります。また、建築の際に必要な情報についても入力しておくことで、担当だけでなく関係する人たち全員が情報を共有することができるようになります。
7、8回目では、「情報セキュリティポリシーの作成」の指導を行いました。社内のデジタル化を進めていくと、セキュリティリスクが高まります。デジタル化だけ進めても情報資産を守るための会社の取り組み、ルール、考え方をしっかりしておかないと事故が起きます。そこで、会社のセキュリティポリシーを作成することにしました。
作成にあたっては、IPA※が提供しているひな型などを参考に相模組さんの実態に即したリスクの場所を診断する必要があります。例えば、業務用のPCを外出時に持ち出しているかどうかなどによってもリスクが変わります。リスクがどこにあるかを突き止めた上で、効率的に最適なポリシーを整備していきました。
IPA:独立行政法人 情報処理推進機構
実技指導を終えて
取締役の相模 悠貴さんに、実技指導を通して感じたことなどを伺いました。
私は総務部所属ではありますが取締役という立場でもあり、建設業という点からも生産性向上をどうやっていくか、例えば社員の休みを増やし日頃の業務をどれだけ楽にできるかというのは常々考えていました。社長からは、ITを利用して業務効率化する目標をもって、先頭をきってやるようにと言われておりました。
私自身、社員の見積書作成には手間がかかっているという認識はあり、恐らくここが改善できるのではと見当を付けてはいたのですが、実際に見積書を作成しているわけではないこともあり、問題の重大性が見えてこなかったところがあります。それを今回ご指導いただいたことにより明確化することができました。
営業管理システムのDX化にあたっては、飯嶋ITマスターのご指導の下、見積書や請求書、営業情報など電子化するという目標は達成しつつあると思っています。
また、システム導入にあたっては、社員へ説明の機会を設けているのですが、若手が簡単に使っている様子を年配の社員も見て興味を持ってきており、説明会で分からなかった部分を年配の社員に説明するなどすることで、スムーズに進むのではと思っています。
今後の目標ですが、これを元に残業時間の約3割削減を目指したいと思っています。建設業は就職先としてあまり人気がないのですが、なくてはならない仕事だと思っています。そういうところで相模組は先進的な取り組みや、効率化にどんどん挑戦している姿を見せて、地域の建設業の担い手の確保に繋げていきたいです。
ITマスターの飯嶋 宏さんに、指導して感じたことや受講者へ伝えたいことなどを伺いました。
指導した到達度としては、概ね予定どおりできたと考えていますが、指導で思ったように進まなかったのは「問題分析手法」でした。日頃から何が問題化を考えている場合はいいのですが、思考が止まっていて日々考えていないと何が問題かに気付くのに時間がかかることがあります。この場合は「他社でこういった課題があり、原因はこうでした」など具体的な事例を出すと、自社でも同様の問題があることへの気づきにもなるので、少しヒントを伝えながらお教えしています。また、他に指導で気をつけていることは、俯瞰して洞察できる人材を育てていくことだと思っています。
相模悠貴さんが経営者層で実務も担っているということで、若年の受講者ではあるのですが、経営者としての意識をもって取り組んでいました。中小企業のDX化は、一番は経営者が理解していることが重要です。今回は、若年層へのDX化の人材育成ですが、経営者の意識が変わらない限りは中小企業のDX化は進まないと感じています。ですからDX化という観点からいくと、経営者や幹部の方の意識を変えていかないと競争に勝てないことを認識していただけると、もっともっとDX化は進みます。そういう意味で、この先もフォローアップしていきたいと思います。
DX化に関する指導などでは、会社によっては講座の際に社長が同席するケースもあって、そういう会社は多分、DXについてもどんどん進んでいくと思いますが、若手が受講するのみで経営者の方が姿を見せないところはお教えしても話が進むかは分からないところです。若い方はデジタル化について抵抗感がないので、ITを使った業務改善についてはベテランの方より活発に意見が出るので、とにかく会社全体をどう見るか、そこを理解できるように全体像を描き、問題点を追究してうまくお伝えできるよう続けていきたいと思います。