溶接は、ものづくりの基盤
技能向上は可能性を拡げる

令和3年度 
学校編
電気溶接

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  • 指導先
  • ものづくりマイスター

秋田県立小坂高等学校

創立100年を超える県内有数の伝統校。元々、鉱山の町として栄えた地にある小坂高校は、工業の学び場としての役割を担ってきた歴史があり、現在は普通科と環境技術科で生徒たちが学んでいます。校訓の「和親」は「和の精神」を象徴するもの。生徒一人ひとりが新しい時代を生きる人間として希望と誇りを持ち、「地域の振興や発展に貢献できる人材育成」は、教育方針へと受け継がれています。

相原 幸夫(あいはら ゆきお)さん

秋田県内の大手製造会社に勤務し、石油天然ガス装置をはじめ、さまざまなプラントの製造に関わってきました。ものづくりマイスターは、溶接の各種競技会で好成績を収めたことをきっかけに認定を受けました。現在も同社で取締役として経営企画に携わりながら、会社だけでなく業界の人材育成に力を入れ、社内外に関わらず技能の伝承を行っています。

ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由

現場での経験に蓄積された
実践的な溶接技能を
学んでほしい

秋田県立小坂高等学校
環境技術科 教諭
永井 浩仁(ながい ひろひと)さん(右)

環境技術科 実習教諭
畠山 忠大(はたけやま ただひろ)さん(左)

背景

ものづくりマイスターの細かなポイントを押さえた指導を身につけさせたい

環境技術科はさまざまな技能を学びますが、溶接は難易度が高く、教員たちは基礎を教えることができても、細かなポイントまでは指導しきれずにいました。そこで数年前から他職種で依頼をして、技能が向上すると非常に好評だった「ものづくりマイスター等事業」を活用し、電気溶接の指導を依頼することに決めました。授業時間に組み込んだ指導プログラムは、学校で行う実習レベルの一段上の難易度となっています。実際の現場に近い技能を用いるため、求められる事柄は多くなりますが、生徒たちは意欲的に学んでいます。マイスターにご指導いただくことで、実践でも活きる溶接の技能習得に役立っています。

効果

マイスターの指導から体感する、溶接の面白さや達成感

当校は生徒数が少ないため、環境技術科機械系の生徒16名全員が実技指導を受けています。マイスターご自身の技能レベルの高さはもちろん、指導の経験も豊富なので、生徒たちの反応はとても良いと感じます。教科書には載らない現場で役立つ技能もご指導いただき、生徒たちは普段の授業実習より積極的に取り組み、達成感を感じているようです。教員たちでは教えることのできないJISによる溶接評価試験に相当する内容をマイスターから学ぶことができたことも、生徒たちにとっては貴重な経験です。なかには溶接に面白さを感じて溶接工を目指すと決めた生徒もおり、イキイキと学ぶ姿をみて、今後も継続してご依頼できたらと思っています。

実施したプログラムの内容

生徒の習熟レベルを学校側と確認し合い、溶接評価試験基本級課題「A-2F」で求められる技能の習得を最終目標にして、安全指導から基礎、応用作業実習を行います。開先加工の作業、仮付け溶接、本溶接を行いながら、アークの出し方、適正なアーク長、また溶接したい場所に確実にアークを出すなどの練習を重ねて加工精度を上げていきます。

実施プログラム

実施内容
電気溶接の作業実習
目  的
JIS溶接評価試験基本級レベルの実技課題に必要な技能の習得
受講対象
機械科生徒16名(2年生)
1回目
溶接作業における安全の確認
2回目
溶接の基本作業(開先加工、仮付け、本溶接)の指導
3回目
溶接の応用作業(広い面の溶接)の指導
4回目
溶接評価試験基本級課題「A-2F」レベルの実技指導

Crosstalk Interview

少しの工夫で
仕上がりは大きく変わる
作り手の熱量も
伝わるから溶接は面白い

Talk member

ものづくりマイスター(電気溶接)

相原 幸夫(あいはら ゆきお)さん

環境技術科(機械系)2年

木村 哉人(きむら かなと)さん

環境技術科(機械系)2年

齊藤 一晟(さいとう いっせい)さん

ものづくりの面白さ、奥深さがわかる
手作業での電気溶接

長年、溶接に携わってきた相原マイスター。溶接の魅力はどこにあるのでしょうか。

相原マイスター溶接というのは、ものづくりの基盤みたいなものです。自分の技量次第で世の中にあるいろいろな種類の材料をつなげることができる非常に奥の深い世界です。自分の技能が上がれば、さらにグレードの高い素材、難易度の高い溶接も可能になり、結果的に素晴らしい製品を作り上げることができます。仕上がりを見れば、技能の高さが一目でわかるところも面白いですね。溶接が完成して強度試験を通ったときの達成感や面白みは、何度経験しても格別なものがあります。

生徒のお二人にお聞きしますが、溶接の作業をしている時に感じていることを教えてください。

齊藤溶接する際は温度が高く少し怖いのですが、上手にできたときの達成感が好きです。旋盤などは機械に頼りますが、溶接は自分の手で作業するので、自分が作ったんだという実感があります。

木村手作業なので、自分の手加減次第で仕上がりに違いが出たりするのが面白いです。僕は丁寧に細かく作業を進めるタイプなので、きれいに仕上げるのが得意な方だと思います。

響きの違いに耳を澄ませる
五感で覚える溶接作業

溶接を指導する上で、難しいのはどのようなことでしょうか。

相原マイスター溶接は五感を頼りにするので、私自身の感覚を生徒たちにどう伝えるかというのが一番難しいところです。例えば、溶接棒と溶接する材料との距離はとても重要なのですが、溶接中にその幅を測ることはできません。けれども、ちょうど良い幅のときは音の響きが変わります。言葉だけでは伝わらないので、自分で実演してみせて、音を聞かせる。それから、生徒の手を取って一緒に作業をして感覚を覚えてもらうのが、私の指導方法です。作業をする際の姿勢や、溶接するスピードも大切なポイントとして、伝えています。

実際に、マイスターに手を取ってもらい一緒に作業をした感想を教えてください。

木村溶接している最中にスピードが速くなることに自覚がなく、マイスターが手で支えて適切なスピードで動かしてくれて、初めて自分の癖とわかり、それからは速度に気をつけるようにしました。すると、作品も以前と比べて、きれいに仕上がるようになりました。

齊藤僕は、溶接棒と溶接する材料の距離が問題でした。これまでは、少し離れ気味だったことに気付いていなかったのですがマイスターに手を取って指導してもらい、感覚を掴むことができました。その後、一人で作業していたときも、溶接棒の間隔が離れるたびにマイスターがアドバイスしてくれたので、その都度修正することができました。いまは音を聞くだけで、ちょうど良い距離がわかるようになりました。

技能が向上するとできることが増える
やりがいや達成感を得て、成長してもらいたい

生徒さんたちに指導するうえで感じるのは、どのようなことでしょうか。

相原マイスター溶接に限らず、ものづくりに必要な作業を熟練の技能者が若者たちに教える機会があるというのは、ものづくり産業が発展するうえで非常に有意義だと思います。高い技能を持つ指導者に仕事の面白さを直接聞き、ものづくりの難しさや楽しさを知った若者たちが、のちに後進の指導にあたってくれることを期待しています。また、直接ものづくりに携わらないにしても、この経験を通して得られる「何かに熱心に取り組むこと」から、やりがいや達成感を得る瞬間を、多くの若い方に感じてもらいたいと思っています。技能が身につき嬉しそうな生徒たちを見ると、私は本当にやりがいを感じます。人に教えるということは、自分の勉強にもなりますので今後も引き続き、ものづくりマイスターの活動を続けていけたらと思っています。

生徒のお二人は、マイスターの指導を受けてみていかがでしたか。

木村実際にプロの作業を見せていただいたことが、刺激になりました。マイスターのご指導がきっかけで、資格を取りたいと思うようになりました。指導いただいた中で印象に残っているのは、やはり手を取ってマンツーマンで教えていただけたことです。なかなか掴みにくい感覚的なところも、身体で覚えることができました。

齊藤マイスターに教えていただいたことを活かして、ちょっと作業を変えただけで作品のでき栄えが大きく変わったときは、驚きました。今後の目標はクラスで一番溶接がうまくなることです。いずれは、溶接の技能競技大会にも出てみたいと思います。