ドレス製作を
デザインから手がけ
技能と発想力を育む

令和3年度 
学校編
婦人子供服製造

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茨城県立水海道第二高等学校

地域の女子教育の拠点として設立された、創立110周年を迎える伝統校です。平成7年度から男女共学となり、普通科・商業科・家政科の3学科に、それぞれの学科の教科を横断的に学習する特色のある教育活動を行う進学校として教育に取り組んでいます。「自律」「協和」「優雅」の校訓を礎に、豊かな人間性を培う「自律」と「協和」の精神を育み、たくましい心身と「優雅さ」を併せ持った、社会に貢献できる人材の育成に励んでいます。

ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由

「高校時代」に
プロから技能を学び
感性を磨いてほしい

茨城県立水海道第二高等学校
家政科教諭
松田 智子(まつだ ともこ)さん

背景

生徒たちの技能を高め
クリエイティビティを育みたい

家政科では生徒たちに2年次から「課題研究」の時間が設けられており、ドレス・着装・食物・保育・福祉の5分野に分かれて学習を進めます。「ドレス製作」の授業では、ギャザーを寄せたり、ドレープを活かしたり、ドレスならではの専門的な縫製の技能が多く必要とされます。生徒それぞれの描いたデザインを作品に仕上げていきますので、教員自身の技能が及ばないことも出てくるなど指導方法で悩んでいました。生徒全員に対して十分な技能指導を行いたいとも考え、「ものづくりマイスター等事業」を知ってからは毎年ご指導いただいています。高校生という時期にものづくりマイスターと接しプロの技能を学べることは、生徒のクリエイティビティを育む貴重な機会になっております。

効果

技能のレベルアップと
生徒の成長を実感

一連の製作を通じて、パターンメイキングの技能が身につくよう、1回3時間、8回のプログラムを組んでいただきました。特にドレスはディテールの違いで雰囲気が違ってきますので、生徒が作りたい形を実現できるようにパターン製作には力を入れていただきました。各自描いたデザイン画は実際の製作を考慮した検証・修正が重ねられ、各工程についても専門的な技能を惜しみなく教えていただき、生徒は試行錯誤しながら全員がドレスを完成させています。生徒の技能のレベルアップと、次第に自信が生まれていくのを感じております。課題研究の集大成として、校内ファッションショーで作品の発表を行っておりますが、ショーも生徒達の企画・運営によるものです。発表の舞台を作る中で、生徒達には自主性や意欲的な姿勢も育まれ、この経験が卒業後の進路選択へつながるなど、マイスターのご指導がもたらした生徒たちの成長をとても嬉しく思います。

実施したプログラムの内容

学内ファッションショーでの披露を目標に、生徒それぞれが考案したデザインドレスの製作を指導します。生徒達の洋裁の技能レベルに合わせて、イメージを具現化しやすいように、作りやすい方法を一緒に考えます。例えばフリルの希望があれば、実際に5分の1サイズで作って見せるなどの工夫をしています。装飾のバラの花作りを実演したり、マイスターがこれまで製作した作品(ドレスや帽子など)の展示により、生徒達の創作意欲を高める指導をしました。

実施プログラム

実施内容
婦人服子供服製造の技能実習
目  的
ドレス製作技能の向上
受講対象
家政科12名
1回目
デザイン画を見て型紙づくりのアドバイス/身頃の型紙づくり
2回目
身頃のシーチング仮縫い確認/ベアトップアンダーのつくり方/スカートの型紙づくり/用尺の説明
3回目
スカートの効率的な裁断方法の説明/オーバースカートの型紙づくり
4回目
表地の裁断・縫製
5回目
装飾部分の裁断
6回目
装飾部分の縫製
7回目
全体のバランスを考えながらの縫製
8回目
全体のバランスや色彩を考えながらのまとめ

Crosstalk Interview

生徒の「作りたい」を
形にするドレス作り

Talk member

ものづくりマイスター(婦人子供服製造)

伊賀 玲子(いが れいこ)さん

ものづくりマイスター(婦人子供服製造)

大平 恵美子(おおひら えみこ)さん

家政科3年生

砂見 愛華(すなみ あいか)さん

実現可能となるよう
デザイン画を徹底検証する

ドレス製作に長年携わってこられた伊賀マイスターと大平マイスター。指導ではどのようなアドバイスをされたのでしょうか。

伊賀マイスター生徒たちが「作りたい」「着てみたい」ドレスを製作するのが大前提なので、実技指導ではできる限り希望を叶えたいと思っています。ドレス作りは最初に生徒が描いたデザイン画を細かく検証することから始まります。「このスカートの優雅なフレアーは円形のパターンにしましょう」「この部分は少し難しいのでこういう方法はどう?」など話し合いの中から布を立体にするイメージを作っていきます。そして「これはできない」とは言わないようにし、どうしたら夢を形にしたドレスが実現可能になるか、その方法を探ります。

大平マイスター生徒のレベルに合わせ、難しい工程も本人がやり遂げられる方法を提案するようにしています。例えば製作の難しいオフショルダーのデザインを希望している生徒さんがいましたが、話し合う中で最終的に、ドレスの重さに耐えられるよう身頃をボーンの入ったベアトップ(胸から上の肩や背中の開いているデザイン)にし、袖はバレリーナの衣装のように筒状にして脇で留める方法に切り替えることにしました。生徒さんは、最初のデザインよりも製作しやすくなり、デザインも損わず進めることができたようです。この方法は、偶然テレビで観たアイドルの衣装をヒントにアドバイスしたものです。このように、色々な所にデザインのヒントがあり、それを見つける楽しさ、喜びも味わってもらいたいと思っています。

砂見さんはマイスターの講義でどのようなことを感じましたか。

砂見いざ指導が始まると、自分が希望するデザインを本当に作ることができるのか不安になりましたが、マイスターが見本図や写真、でき上がりのわかるサンプルを作成して説明してくださったので、完成したドレスのイメージがしやすくなり、スムーズに作業が進められるようになりました。また、私のドレスはオーバースカートが少し複雑なので、何度か説明を受け、実現できるようにパターンの製作作業を手伝っていただきました。そうして徐々に「思い描いたドレス」の完成を実感できるようになって、授業も楽しくなりました。マイスターからのご指導と励ましは、とても心強かったです。

アイデアや技能を
惜しみなく伝えたい

ドレス製作を進めやすいように、工夫されたことなどをお聞かせいただけますか。

伊賀マイスタードレス製作はデザインと生地選びが一番のポイントです。初めてのドレスを作る時の生地としては、薄いものではなく、ハリがある生地の方がうまく縫うことができることを伝えますが、生地との出会いがなかなか難しいのが今の状況です。生徒さんが購入してきた生地はさまざまですが、その特徴をうまく生かしたデザインや使い方、アイデアやヒントを提案して、夢を形にしたドレスの完成に向かって楽しく作り上げるよう、あと押しをしています。高校生のパワーを引き出すことができれば本当に嬉しいです。

大平マイスター生徒さんの製作のヒントになるよう、言葉だけではなく「イラスト・写真・実物」などを用いて視覚的にもアプローチするようにしています。例えば、2分の1サイズのトルソー(人台・ボディ)に合わせて見本を作ってみせることで、スカートのギャザーの分量の程度によってどのくらいのボリュームになるのかなど、完成イメージがわかると自分がやるべきことを理解できるので作業がスムーズになります。

マイスターには、どんなことを相談しましたか。

砂見一人ひとりの進み具合を気にかけてくださっていたのを感じました。同級生の中には、裾が後ろに長いデザインのドレスで、裾の加工方法を相談しアドバイスを受けている人もいました。私は布地選びでかなり迷っていたのですが、マイスターから「布の質感や布の幅などで裁ち方が変わり、でき上がりの雰囲気なども違ってくる」という具体的なアドバイスをいただき、イメージに合う生地を選ぶことができました。卓越した技能をお持ちのマイスターに、初めてドレスを製作する私たちの目線に合わせて、基礎からわかりやすく丁寧に教えていただき、本当に感謝しかありません。

「作業を終える」ことではなく
「作り上げる」ことが大切

今回の実技指導から得られたことや今後の目標など教えてください。

砂見伊賀マイスターと大平マイスターから、たくさんのビーズをあしらった作品を見せていただいた際、「ビーズの見え方」を様々な角度から検証して、付け方を工夫したと伺いました。その話を聞いて、多角的にものごとを見る大切さを学びました。マイスターの作品を見せていただき、授業でアドバイスを受けて、私もものづくりへの姿勢として発想を大切にしながら作品を作っていきたいと思うようになりました。また、マイスターのお二人が話されるファッション用語も興味深く、自分でもいろいろと調べるようになりました。今は、製作中のドレスの仕上げを頑張って、高校卒業後は服飾系の専門学校に進学したいと思っています。将来的には多くの人から信頼されるスタイリストになりたいです。

最後に、ドレス製作の実技指導を通し、どのようなことが大切だとお考えですか。また、今回の感想などをお聞かせください。

伊賀マイスターものづくりというものは「作業を終える」ことがゴールではなく、「心をこめて作り上げる」ことを大切にしてほしいと思います。もっと良く、もっともっと良くならないかと粘り強く考えて「作り上げる」ことが大事だと思います。そして仕事には納期がありますから、時間を逆算して考えることもとても大事なことです。課題でも校内ファッションショーという最終目標があり、皆さん期日までに仕上げられるように努力されています。この経験はきっと今後の人生に活かされることでしょう。完成したドレスを装う生徒さんの笑顔を見るのは最高です。

大平マイスター夢いっぱいにデザインしたドレスを完成させるには、思っていた以上に大変な作業が続きますが、粘り強く一つ一つ難題を乗り越えた経験は社会に出てからも必ず役に立つことと思います。また、これらの経験から「自分のイメージを実際に形にする楽しさ」も感じてほしいと思います。みんなで力を合わせて成功させる校内のファッションショーも良き思い出、良き経験になることと楽しみにしています。