栃木県立宇都宮工業高等学校
栃木県の工業教育基幹校として、産業界を支える人材を育成するという役割を担い、全国トップレベルの施設・設備を備え、「科学技術高校」として、先進的な教育に力を入れています。また、平成27年度より文部科学省の『スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)』に選ばれ、令和元年度からは、新たに文部科学省の『地域との協働による高等学校教育改革推進事業(プロフェッショナル型)』に指定されています。
ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由
学校では学べない
現場に即した技能を
学んで欲しい
栃木県立宇都宮工業高等学校
機械システム系機械科 実習教員
大門 正樹(だいもん まさき)さん
背景
“製品をつくる技能”を学ばせたい
学校で教えられるのは旋盤作業の基礎的な技能です。実際に製品をつくって利益を上げる中で求められる技能については、長年現場を経験されたものづくりマイスターならではの指導だと思っています。普段学校では習うことができない細かな部分を学んでもらいたいと考えています。また、当校は技能検定への挑戦にも力を入れています。学校から勧めるのではなく、生徒自ら検定に挑戦しており、学校として生徒たちを応援し、高い技能に触れ習得できるよう「ものづくりマイスター等事業」は平成25年から毎年お願いしています。「自ら考え・行動する力」を養い、さらに外部講師のマイスターにご指導いただくことで対人コミュニケーション能力も磨いて欲しいという期待もあります。
効果
生徒の成長を感じる指導
指導を受けて、生徒たちが大きく成長していることを感じます。マイスターの長年の経験や専門知識・技能を学ぶことで、普段使用している工具の加工条件、加工方法など、同じものをつくるのにも答えはひとつではないことに気づくようです。課題への取り組み方も変わってきています。作業中に浮かんだ疑問をマイスターに「どう質問するか」を考えてから言葉にする、「コミュニケーション能力」も養われているように感じます。技能の習得だけでなく人間的にも成長し、生徒一人ひとりが自信をつけています。マイスターのご指導は人を育てる私たち教員にとっても「学びの場」になっていると感じます。
実施したプログラムの内容
技能検定3級、2級で求められる技能の習得と、社会に出てから工場などの現場で求められる基本的な普通旋盤の加工について学びます。機械加工を学ぶ上での基礎ともなる「安全に作業する環境づくり」をまず伝え、課題の加工精度を上げ、状況に応じて敏速に対応できるチカラを身につけられるように、各生徒の習熟度に配慮しながら指導にあたりました。
実施プログラム①
ものづくりマイスター 野口 公夫さん
- 実施内容
- 普通旋盤作業実習
- 目 的
- 技能検定3級レベルの実技課題に必要な技能の習得
- 受講対象
- 機械科9名(2年生)、3名(3年生)
- 1回目
- 習熟度の確認
- 2回目
- 測定具の正しい扱い方と機上での
正しい測定方法の指導 - 3回目
- シリンダーゲージの扱い方、
機上での使用方法の指導 - 4回目
- 内径加工方法の指導
- 5回目
- コーナービビリの原因と対策の指導
- 6回目
- 外径寸法の出し方の指導
- 7回目
- 検定課題部品の端面荒加工方法の指導
- 8回目
- 最終確認
実施プログラム②
ものづくりマイスター 渡邉 好成さん
- 実施内容
- 普通旋盤作業実習
- 目 的
- 技能検定2級レベルの実技課題に必要な技能の習得
- 受講対象
- 機械科2名(3年生)
- 1回目
- 生徒による検定課題部品①の
加工実施/現場の技能習熟度の確認 - 2回目
- ものづくりマイスターによる検定課題部品①の荒加工実演/最適切削条件および
切込み手順の指導 - 3回目
- ものづくりマイスターによる検定課題部品①の仕上げ加工実演/仕上げ手順および
目盛の活用法指導 - 4回目
- 生徒による検定課題部品①の全加工実施/問題点の洗い出しおよびフォロー
- 5回目
- ものづくりマイスターによる検定課題部品②の加工実演/加工手順および精度確保の要点説明
- 6回目
- 生徒による検定課題部品②の加工実施/問題点の洗い出しおよびフォロー
- 7回目
- 再度検定課題部品②の加工実施/タイム測定およびテーパ勘合を含む精度確認
- 8回目
- 検定課題部品①、部品②の最終加工実施/総括
Crosstalk Interview
機械加工が好きになるように
難しいことほど指導は
生徒の立場で
Talk member
ものづくりマイスター(機械加工・機械保全)
野口 公夫(のぐち きみお)さん
ものづくりマイスター(機械加工)
渡邉 好成(わたなべ よしなり)さん
機械科3年生
齋藤 楓真(さいとう ふうま)さん
機械科3年生
山根 結花(やまね ゆいか)さん
機械科3年生
渡部 綾太(わたべ りょうた)さん
「どうしてその手順なのか」を考えて
理解することが技能向上につながる
職場や専門学校で技能指導をされてきた野口マイスターと渡邉マイスター。生徒への指導にあたってどのようなことを大切にされているのでしょうか。
渡邉マイスター機械加工に限らないですが、物事にはやはり「手順」というものがあるんですね。最適と思われる作業手順と違う進め方をしている生徒がいると気になります。そういう生徒に、「違う」と言うのではなく、初心者の立場に立って「どうしてそっちからやるのかな?」と聞くようにしているのですが、生徒も何故そうしたのかがわかっていないといったことが多々あります。しかしこれも「なんとなく」ではなく、物事の手順、理由がわかれば理解が進み深まります。最後は、生徒自身にどうするのがいいのか答えを見つけてもらう、または一緒に考えるようにしています。物事を追究し、自分で改善する力をつけていって欲しいと思っています。
そうしたご指導で生徒さんの作業にも変化があったようですね。
渡部実際に、「どうしてこの手順でやるのか」「なぜここを削るのか」ということを考えることが増えました。言われたことをやるのではなく、なぜそうするのかを理解してから作業に取りかかると、自信を持って進めることができ、迷いがないので作業時間も短縮できていると思います。
齋藤以前は工作物を機械の爪で押さえる際、反転させるのに苦労していたのですが、マイスターに素早く作業ができる方法を教えていただき、その手順を自分でも理解してからは、格段にスピードがアップしました。早くて正確なプロの仕事ってこうなのかと思いました。
良い製品をつくるための
環境を整える
旋盤作業で良い製品をつくるためには現場の環境も大切だと話すマイスター。現場での経験から生徒に伝えたいことはどのようなことでしょうか。
野口マイスター機械作業で何よりも大事なのは、まず「安全」です。力も必要ですし、不注意が事故につながるので、機械の状態をよく理解して欲しいと思います。旋盤で言えば、スライド部分の止めがガタガタするようでは精度が出ない。きちんとメンテナンスをしていくことが大切です。そして整理整頓です。旋盤作業は細かな数値も求められるため、測定具がきちんと整理整頓されていれば、いい測定ができ、いい製品を仕上げることができます。製品の精度を上げるには環境を整えることが大切になるので、生徒さんには技能と一緒に「機械に向かう姿勢」も身につけて欲しいと思っています。
生徒さんからは、学校の授業にはないことを教わったと聞きました。
山根旋盤は工作物を削ると切粉(きりこ)というクズが飛んできます。熱くて危険なのですが、削り方によって切粉の飛び方が変わってくるので、「こっちから削るといいよ、自分に当たらない削り方をしよう」とアドバイスをもらいました。学校でも工作物の削り方は教わりますが、切粉の飛ばない削り方は今回初めて学んだことでした。マイスターには、授業にはない現場で作業していく上で大切なことを教えていただいています。
渡部僕も、どうすれば安全にうまく削れるかを学びました。製品をただつくることではなく、座学ではわからない、手順書には書いていない「いい製品」をつくるための技術、ヒントがたくさんありました。自分で試行錯誤して、マイスターに教わり、ものづくりがより面白くなってきましたし、深く追究したいと思うようになりました。
新しい学びを続けて
機械加工を楽しめるように
これから機械加工の道に進んでいく生徒さんに対して、マイスターのお二人が伝えたいこと、またご自身の技能やマイスターの指導について思うことはどんなことでしょうか。
渡邉マイスター仕事をしていく上では、納期に合わせていい製品を納めていくことが重要なので、そのためにも現状に満足せずに、常に改善することはないかという思いをもって取り組んでいってほしいと思います。
また、こういう機会に自分が身につけてきた技能を若い生徒さんに伝えられることは、私自身の喜びでもあります。
野口マイスター機械加工、整備、メンテナンスを嫌々やっていたら、いい仕事はできません。この仕事は新しい技能を身につけようと勉強すれば、できることがどんどん増えます。先日はカリキュラムとは別に、旋盤加工でサイコロをつくって、こんなこともできると皆さんに見せました。
できることが増えれば、楽しいし、好きになれば勉強も苦にならない。いい仕事ができるようになります。ものづくりが楽しいと感じるようなもっと興味が持てる指導をしていきたいと思っています。
生徒さんは、マイスターの指導を受けていかがでしたか。
山根マイスターは、工作物の最後の仕上げがすごくきれいで、細かなメモリの使い方も見事だなと思いました。測定が苦手だったのですが、マイスターのご指導のお陰でうまくできるようになり自信がつきました。
齋藤これから自動での切削なども増えていくと思いますが、自分で削っていくという旋盤の基礎を現場の体験を含めて学ぶことは大事だと感じています。先日、県の「ものづくりコンテスト」で1位を取ることができたのですが、この講座の効果が発揮されたと思うので地域や全国でもいい成績を残せるように頑張りたいです。
渡部野口マイスター、渡邉マイスターともに、私たち生徒の立場に立ってわかりやすくご指導くださいました。実習できる時間は多いほどいいと思うので参加して本当に良かったです。