仕事で役立つ
わかりやすい製図を目指す

令和3年度 
学校編
機械・プラント製図

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  • 指導先
  • ものづくりマイスター

山口県立防府商工高等学校(全日制課程)

山口県防府市に昭和4年に開校した防府商業学校は、防府商業高等学校を経て、平成24年4月に機械科を新設し、防府商工高等学校に改称されました。機械に関わるものづくりを学びながら技能士を目指す機械科では、3年生時には生産・制御・環境の3つのコースから興味のある分野を選択でき、機械科ならではの学びを深めることができます。また、学科を超えた選択総合科目を整え、将来に向けた広い視野を養えるようになっています。

中野 龍一(なかの りょういち)さん

設計事務所で働きながら職業訓練指導員の免許を取得し、職場や派遣先で製図の指導をされてきた、中野マイスター。現在は、大手製造会社で鉄道車両の設計を取りまとめるかたわら、ものづくりマイスターとして、学校や企業での指導も行っています。主に、コンピュータの製図用ソフト(CAD)を用いた製図の書き方を指導していますが、製図の基礎を知っておくことが大切であると考え、手書き製図を基礎にして、その後どのようなCADアプリケーションソフトであっても対応できるような製図技能の習得を目指した指導に力を入れています。

ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由

学校の授業だけで
学ぶことが
できない製図技能を
深く学べる
機会にしたい

山口県立防府商工高等学校
機械科 教諭
角 雅伸(すみ まさのぶ)さん
竹森 勇(たけもり いさむ)さん(写真)

背景

教科書には書かれていない部分を
補いたい

機械科では全学年を通して「機械製図」を学ぶ機会があり、図面の記号などの基礎を教える時も、教科書の演習課題を用いて進めています。授業では、手書きによる製図を教えますが、CADを使用した、より高度な内容は授業時間内に教えることができません。そこで、放課後を利用して、現場経験の豊富なものづくりマイスターから指導いただくことで、生徒の学習理解が深まることを期待して、制度開始時より毎年、指導をお願いしています。熟練のマイスターの技能を目の前で見られることは生徒にとって大変刺激になりますし、本校の機械科が目指す「技能士の技能を身につける」「スペシャリストを育成する」という目標にも合致します。また、現在は機械・プラント製図に限らず、機械加工、機械検査、仕上げ、電気溶接など、さまざまな職種においてものづくりマイスターにご指導を依頼させていただき、学科全体での技能向上をはかっています。

効果

仕事現場に即した学びは
生徒の自信に

技能検定の「機械・プラント製図職種(機械製図CAD作業)」3級は、高校3年間の授業をカバーする内容だと考えています。その技能を現場に即した形でマイスターから学ぶことは、生徒の自信につながっていると感じています。実際にマイスターの指導を受けて、2年生で技能検定2級に合格する生徒も出てきました。クラス内から技能検定合格者や「若年者ものづくり競技大会」への出場者が出ることは、ほかの機械科の生徒たちへの刺激にもなっています。マイスターから実際の仕事現場の話を聞くこと、そして技能を教わることで、教科書だけでは知り得なかった、「生きた製図」を学ぶことができるので、大切な機会にしていきたいと思っています。また、マイスター視点の教え方や生徒たちとの接し方は、私たち教員が学校で指導する際にも大変参考になっています。

実施したプログラムの内容

世界的に使用されている製図のアプリケーション“AutoCAD”を使用して、技能検定3級レベルの技能を身につけることを目標としています。生徒が製図を描いていく中で、マイスターは作業途中で気になった点、また、完成した製図に対して留意点を伝え、実践のなかで製図の基本を身につくように指導しています。課題は回を追うごとに、易しいものから、徐々に難易度を上げていきますが、難しいものであってもわかりやすいシンプルな図面を描けるように指導していきます。

実施プログラム

実施内容
機械・プラント製図(機械製図CAD)作業実習
目  的
技能検定3級レベルの実技に必要な技能の習得
受講対象
機械科生徒5名(3年生)
1回目
CADの基本的な操作方法
2〜8回目
課題に即した製図作業
実際に自分で製図していくなかで下記作業を学ぶ
製図の基礎、読図練習、CAD操作反復練習、ねじ製図、記号
完成図面の印刷練習、検定時間の使い方
トレース練習、製図記号の見方と注意点、表面粗さ
組図の理解、時間配分指導、操作反復練習

Crosstalk Interview

自主的に
描き進む工程を大切に
製図の基本を伝える

Talk member

ものづくりマイスター(機械・プラント製図)

中野 龍一(なかの りょういち)さん

機械科3年生

家本 唯大(いえもと ゆいと)さん

実際に図面を描けるようになって初めて
製図を理解できる

生徒に自らたくさん製図を描かせることに重点を置いているとのことですが、中野マイスターが指導するうえで大切にされていることはどのようなことでしょうか。

中野マイスターものづくりの企業では、図面の良し悪しが製品価値の80%以上を決めると言われているため、設計、そしてそれを落とし込む製図は、ものづくりには欠かせないものなのです。現場では、設計者も、実際にものをつくる人も、すべての人が図面を共有します。読むことは簡単そうですが、実際に描くことができて初めて、本当の図面を理解することができるようになります。ですから生徒の皆さんには実際に製図を描く作業をたくさん行ってもらい、そのなかで大切なことを伝えていきたいと思っています。自分で製図をする中で、困ったことがあれば質問してもらうようにしています。質問が出ない時は気持ちよく図面が描けているはずなので、そういう時はこちらから声をかけることはしません。ただ、後ろから見ていて基本ができていない時には、声をかけて指導していきます。そして最後に留意点を伝えています。

中野マイスターの指導は実践重視とお伺いしましたが、「AutoCADを使って製図を描く」という指導を受けて、理解はしやすかったですか。

家本はい、わかりやすかったです。プログラムの1回目では基本的な操作方法を教えていただき、2回目からは、「まずは、自分でAutoCADを使用して製図を描いてみる」という指導方法でした。基本的なことは学校の授業で学んでいるので、実際に“AutoCAD”を使って製図を描く作業は楽しく、自分で一度描いた図面をマイスターに見ていただいて、悪いところを指摘してもらえるので、「なぜ失敗したのか」、「何に気をつけなくてはいけなかったのか」、といった改善点がよくわかりました。次回はどのようにしたらいいのかを考えるきっかけをもらえるので、どんどん上達していける気がします。

設計に興味を持ってもらうように
現場で必要なことを伝えたい

現在、職場では鉄道車両の設計に携わっている視点から、指導の際、工夫されていることはどのようなことでしょうか。

中野マイスター設計は難しいと思っている生徒さんが多いので、最初から高いレベルを要求するのではなく、まずは興味を持ってもらうことを大切にしています。そのためにも現場の話をしたり、設計する姿を見せたりもしています。現在、現場では3DCADも使用していますので、そのような話をする機会もあります。技能五輪に出場したことのある職場の部下に来てもらい、トップクラスの作図のスピードを感じてもらう場を設けたこともありました。設計の基本は、「手描き」でも「進化したアプリケーション」でも変わりません。製図へ興味を持たせつつ、基礎をしっかり伝えていきたいと思っています。

現場での話は、生徒さんにとってモチベーションのアップにもつながりそうですね。

家本実際の仕事に役立つようなことを教えてもらえます。今まで気がつかなかった製図上の細かなルールや気をつけるべきことも丁寧に指導してくれます。仕事をするようになってから知るような製図時間を短縮するコツや方法など、教科書ではわからないことがどんどん身につき、上達したことが自分でもわかります。マイスターから学んだことを手で描く製図の授業にも活かしています。

ものづくりのミスを防ぐ
わかりやすいシンプルな図面

これから機械製図の道に進んでいく生徒さんにマイスターが伝えたいこと、またマイスターの指導から生徒さんが感じていることをお聞かせください。

中野マイスター設計図面でミスが起きると良質な製品はできません。複雑な図面を描くことでミスが起きやすくなるので、とにかく「シンプルにわかりやすく描く」ということが大切です。私も設計する際は、常に「単純化」を頭に置いています。作業する人が「わかりやすい図面だな」「ものがつくりやすいな」と思えるものがいい図面ですので、それが最も重要であることを生徒に伝えていきたいと思っています。
ものづくりマイスターとしての指導では、生徒が成長する姿を見られることが私のやりがいになっています。技能検定で合格する生徒、「若年者ものづくり競技大会」で入賞する生徒がいると、一層うれしく感じます。将来のものづくりを支えるエンジニアを育てている喜びもあります。

家本さんは2年生で技能検定機械・プラント製図職種(機械製図CAD作業)2級を取得し、「若年者ものづくり競技大会」では敢闘賞をとりました。高2で2級の合格は県内で初めてだと伺いました。

家本2年生で2級取得、また大会で敢闘賞をいただけたことは、学校の先生にもマイスターにも褒めてもらいました。これもマイスターに実際の製図を描く想定で丁寧にご指導していただいたからだと思っています。将来は設計の仕事に就いて、よい製品の設計図をつくることが目標です。機会があれば、「技能五輪全国大会」にも挑戦してみたいです。