「手で縫いあげ、
手から教わる」
衣服づくりを和裁に学ぶ

令和3年度 
学校編
和裁

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佐賀県立牛津高等学校

佐賀県立牛津高等学校は、全国的にも数少ない家庭科専門の高校として設立されました。現在は生活経営科、服飾デザイン科、フードデザイン科、食品調理科の4学科を構え、きめ細かな進路指導から、進路内定率100%の実績を誇っています。人間性と専門性を兼ね備えた職業人を育成すべく、知・徳・体のバランスを大切にした教育を推進し、魅力ある学校づくりを行っています。

ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由

間近でプロの技に触れ
アパレル業界を
目指す生徒に
技能と知識の向上を

佐賀県立牛津高等学校
教師
堤 佳奈子(つつみ かなこ)さん

背景

若いうちにプロによる
確かな指導を受けてほしい

本校には「有為な職業人を志す」という学校目標があり、早い段階からプロフェッショナルの指導を取り入れて生徒の職業意識と技能を高めたいと考えています。服飾・アパレル業界を志す生徒たちのためにもこうした理由から、プロの技を間近で拝見し学べる「ものづくりマイスター等事業」を活用し、和裁と洋裁の両方において、ものづくりマイスターからご指導いただく機会を設けています。各講義において複数のマイスターにお越しいただき、スペシャリストの技を時には手を取ってご指導いただいています。

効果

「手縫い」による製作が、
技能を大きく向上させる

一つひとつの作業において、「なぜこのようにするのか」「どうすればうまくできるのか」という基礎技法から教えていただき、生徒たちの技能向上につながりました。普段、服飾デザイン科では、主にミシンで縫う洋裁を勉強しています。浴衣のすべてを手縫いで製作する経験はゼロに近い状態でしたが、取り組んでみると生徒たちは手縫いがみるみる上達して和裁と洋裁の違いを体感できたことで、知識の広がりにも役立っているようです。また今回、複数のマイスターからご指導いただいた結果、プロの中でも縫い方や進め方の違いがあることを知り、より幅広い知見を得られたと思います。生徒たちが得た学びを今後の進路に、近いところでは学内ファッションショーの「着物リメイク」に活かしてほしいと思っています。

実施したプログラムの内容

今回のものづくりマイスターによる実技指導では、和裁の技能検定3級レベルまでの技能水準到達を目指しました。講義の中ではできる限り、生徒たちに和裁の基本である「手縫い」を経験してもらえるように心がけました。また、なるべく一人ひとりを丁寧に見て、遅れる生徒が出ないような指導を実施しました。

実施プログラム

実施内容
手縫いでの浴衣の製作
目  的
技能検定3級レベル相当の技能水準の到達
受講対象
服飾デザイン科19名(2年生)、2名(3年生)
1回目
オリエンテーション、和服の特徴・構成・各部の名称についての講義など
2回目
印付け(袖)、袖作り
3回目
肩当て作り、背縫い
4回目
肩当て付け、くりこし揚げ
5回目
脇縫い、脇縫い代始末、衿下くけ
6回目
袵(おくみ)付け、袵縫い代始末
7回目
印付け(衿)、衿付け、裾くけ
8回目
袖付け、袖縫い代始末、仕上げ、たたみ方

Crosstalk Interview

一人ひとりに向き合う、
丁寧な指導で、着実に技能を習得

Talk member

ものづくりマイスター(和裁)

多良 しづ子(たら しづこ)さん

ものづくりマイスター(和裁)

江副 惠子(えぞえ けいこ)さん

服飾デザイン科2年

中嶋 梨乃(なかしま りの)さん

服飾デザイン科2年

指山 彩桂(さしやま あやか)さん

もっと和裁を知りたい
洋裁とは異なる裁縫技能を学ぶ

以前から牛津高校での指導を担っていたという、多良マイスターと江副マイスター。マイスターの印象を受講者にお聞きしました。

中嶋受講前は、「和裁って難しいのかな」と想像し、不安でした。でもいざ講義を受けてみると、マイスターの皆さんは話しやすくて、そんな不安は払拭されて作業の中でもいろいろなお話ができました。身近な雑談なども交えながら作業ができて、とても楽しかったです。

一方、マイスターのお二人には、指導について心がけたことをお伺いしました。

江副マイスター和裁は工程が多いので、裁断やへらつけなどは私たちの方で済ませておくように工夫しました。受講者には、なるべく和裁の基本である「手縫い」を経験してもらえるように心がけました。

多良マイスター私は、生徒たちに用語や指示内容がしっかり伝わるように心がけていました。なぜなら、私たちが長年使っている単語や言葉は受講者には伝わらないケースがあるからです。生地や縫い方の名称など、わかりづらい内容は伝わる言葉で言い換えるように意識しました。指示する際も、例えば、返し縫いが必要な場合に「返しで縫ってね」と伝えるだけではなく、「一針、返しで縫ってね」と細かく言葉にするなど、生徒が混乱して間違えないように気をつけました。

中嶋さんと指山さんには、それぞれ受講の動機があったとお聞きしています。

指山1年生のときに甚兵衛をつくったのですが、手縫いが多く「自分でつくる」感覚があって、「和裁は面白い!もっと知りたい」と思っていました。学校の授業で習うのは、ほとんどが洋裁についてなので、「和裁をもっと学んでみたい、自分の技能をもっと高めたい」と思い、受講しました。

中嶋私は将来、服飾関係の仕事に就きたいと思っています。そのためには、高校でたくさんのことに挑戦してみたいです。2年生からこの講座があることを知り、チャレンジの一環として受講を決めました。卒業後は服飾(系)の専門学校への進学を考えているので、和裁を学んでおけば視野が広がるかも、と思ったのも理由の一つです。

距離の近い、丁寧な指導
手縫いの「コツ」を教わる

ほぼマンツーマンに近いスタイルの指導に、受講者も安心して取り組めたようです。

中嶋今回の実技指導は、グループに分かれていましたので直接たくさんご指導をいただくことができ、わからない点や細かい点も気軽に質問できるのがとても良かったです。手縫いの方法にもさまざまな種類があるのですが、マイスターが「こういう風に縫うんだよ」と実際に縫って見せてくださるなど、非常にわかりやすかったです。手縫いは難しいところもありますが、縫うスピードは格段に上がったと思います。

指山最初は長い生地をまっすぐ縫うのが大変でしたが、だんだん慣れてきました。マイスターがすぐ隣にいてくださるので、何かあれば質問しやすく、手縫いで大事な指の使い方も直接習うことができて良かったです。また、布が少し硬くて縫いづらい箇所は、滑りをよくするために布に石鹸を塗るという方法を教えてくださいました。教科書に載っていない方法を使って縫いやすくしたマイスターは凄いなと感じました。

江副マイスター指導の際は、なるべく一人ひとりを丁寧に見て、遅れる生徒が出ないように心がけています。クラス全体の時間がかかっても、時間を気にせず楽しんで学んでもらう方が良いですよね。あと、着物は縦縫いが多いので、運針が速くないとなかなか先に進みません。空いた時間で練習するなど、とにかく手を動かして運針への慣れを大事にしてもらいました。

多良マイスター着物はすべてを手縫いで、長くまっすぐに縫うのが難しいところです。「運針」とはまっすぐ縫い続けることなのですが、この和裁独特の縫い方に、慣れていない受講者たちは苦戦していました。重ねた布がズレたり、しるしどおりに縫えなかったりするため、コツとしては、「待ち針と待ち針の間は手で持たずにその外側を持つ」よう伝えました。生徒からも手を動かしていくうちに、「先生、今日の私、上手に縫えているでしょ?」と、縫った箇所を見せに来てくれたりします。上達して喜ぶ生徒たちの姿を見ると、私も嬉しいですね。

マイスターの教え方も勉強に
普段の生活にも技能を応用

マイスターの指導を通して和裁の技能が上達した受講者のお二人は、学んだことを今後どのように活かしたいと考えているか教えてください。

指山実際に教えていただいた手縫いの技能をまず身近で役立てたいなと思い、クマのぬいぐるみに私が手縫いしたドレスやタキシードを着せて、結婚した親族へプレゼントすることを計画中です。また、将来は、家庭科の教員免許を取得して教師になりたいと思っています。マイスターの教え方や伝え方は、教師を目指す身としても大変勉強になりました。

中嶋私は昔から和服を着る機会が多かったので、家にある和服をリメイクできたら楽しそうだと思っています。学校のファッションショーなどの披露する場もあるので、学んだ技能を活かせそうだと感じています。

マイスターのお二方にも、今後の活動についてお伺いしました。

江副マイスターいま、和裁の業界では、後継者が不足しています。私が和裁を習った先生も後継者がおらず、この職業に対する危機感を持っています。そんな中、若い方に伝統技能を伝承し、後継者を育てる「ものづくりマイスター等事業」は、とても意義のある活動だと思います。

多良マイスター洋裁が好きでも和裁のことはよくわからない、という若い方は多い気がします。そんな中、和裁の技能を伝えるきっかけを与えてくださり、「ものづくりマイスター等事業」には感謝しています。着物を着るのが好きな方もまだまだいらっしゃいますし、皆さんにはもっと気軽に着物を楽しんでいただけるよう活動していきたいです。