切る、削る、組む、打つ……
技能は「没頭」により、
磨かれていく

令和3年度 
学校編
建築大工

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大分県立大分工業高等学校

令和3年に創立120周年を迎え、約3万坪にもおよぶ広大なキャンパスに工業教育に必要な最新鋭の施設・設備を備えていることから、その規模は西日本一の工業高校と評されています。「正確」「勤勉」「健康」を教育方針に掲げ、地元産業界から求められる優秀な人材の輩出、大分県の次世代を担い、技術で世界に羽ばたく人材の育成を目指しています。

ものづくりマイスターの
実技指導を依頼した理由

工夫しながら実践を繰り返し
建築のイロハを身につける

大分県立大分工業高等学校
建築科 主任
木村 智治(きむら ともはる)さん(右)

建築科
大東 一八(だいとう かずや)さん(左)

背景

「教科書」では教えられない技能指導を

学校の授業では工具の扱い方や図面の見方など、建築に関する基本的な技能を「教科書どおり」に教えることはできます。しかし、私たち建築科の教員は、建築大工のプロフェッショナルではないため、より実践的な「技能」を生徒たちに教えることは難しいように思います。「生徒たちの技能を向上させる、何か良い方法はないだろうか」と思案していた3年ほど前、「ものづくりマイスター等事業」を知り、技能指導をお願いするようになりました。昨年度からは、建築大工の技能検定3級合格レベルの指導を両吉岡マイスターに、生徒の長所・短所を見極め、個々にあった指導をしていただいております。

効果

自ら反復練習する姿、日毎に成長を実感

マイスターのお二人には「自ら考える」実技指導をしていただいているおかげで、生徒たちが自分なりに工夫して作業に取り組む姿勢が見て取れるようになりました。考えながら何度も反復練習することで、日を追う毎に技能が磨かれているように感じます。マイスターの実技指導の後には、教師たちも生徒から質問を受けることが多く、指導の回を重ねるごとに、より具体的な内容の質問が増えるようになりました。指導に参加した生徒たちには、目標の一つである技能検定においても良い結果が訪れることを期待しています。また、指導を通じてプロの技能に間近で触れることで、建築への興味の幅が広がり、将来の進路選択にも役立ってくれたら、尚一層うれしく思います。

実施したプログラムの内容

建築大工の技能検定3級レベルの実技指導を実施。実際の試験で課される「切妻小屋組み」の精度を上げるべく、マイスターにご協力いただきました。プログラムでは、まずは学校側で基礎練習(課題図面の見方・印の付け方・工具の使い方)、墨付け・加工などひととおり課題に取り組んだ後、マイスターから指導を受け、課題を生徒それぞれでブラッシュアップ。反復練習と講評を繰り返し行うことで技能向上を目指しました。

実施プログラム

実施内容
技能検定3級の試験課題
目  的
建築大工の基本的な技能の習得
受講対象
建築科7名(2・3年生)
1回目
基本技能の確認・指導
2回目
課題に対する講評、修正点の指導
3回目
最終確認

Crosstalk Interview

技能指導は、
きっかけに過ぎない
その人ならではの
「面白さ」を感じてほしい

Talk member

ものづくりマイスター(建築大工)

吉岡 康二(よしおか こうじ)さん

ものづくりマイスター(建築大工)

吉岡 雅也(よしおか まさや)さん

建築科3年

松田 颯佑(まつだ そうすけ)さん

建築科2年

清水 凱登(しみず がいと)さん

基本の正しい姿勢と
自身の最適な方法を学ぶ

今回、マイスターには、特にどんなことを教わりたいと思っていましたか。

清水僕はノコギリの扱い方です。材木を直線でまっすぐに切るのが難しくて、どのようにすれば綺麗に切れるのかを知りたいと思っていました。マイスターに教わったのは、木を切る際の姿勢。「切る線の真上に身体を構えてノコギリを引かないと、知らず知らずのうちに刃が斜めになり、切断面がズレてしまうよ」と教わりました。

松田僕は「墨付け」です。墨付けにはいろんな方法があるので、どんなときにどの方法を用いるのがベストなのか、いまいち理解しきれていなかったので、詳しく学べたらと思っていました。また、芯墨をキッチリ引くのも苦手だったので、上達を目標にしていました。

吉岡(康)マイスター姿勢が大切、というのはどんな作業にも通ずるかもしれません。ノコギリも墨付けも、やはり「正しい姿勢」というのがあるので、そうした基本の所作をアドバイスしてあげると、生徒たちはどんどん上達していきます。何より、大分工業高校のみなさんは素直な子が多いので、こちらも声を掛けやすく教えがいがありましたね。

吉岡(雅)マイスター指導する際に気をつけたのは、私たちのやり方を一方的に押し付けないこと。作業に正しい姿勢はあっても、最適な方法は人それぞれ違うんですよね。だから、アドバイスする際は「こんな方法もあるよ」「俺だったら、こうするかな」ときっかけを与えるだけに留めます。その方が生徒たちも自分なりに考えて、そして楽しんで作業に没頭できる。その結果、いつの間にか成長できると思うんです。

一人ひとりの個性を尊重し
作ることの楽しさを伝える

生徒さんによって、指導の仕方も変えていらっしゃるとお聞きしました。実際どのような風に生徒さんたちと接していたのですか。

吉岡(雅)マイスターものづくりには、その人自身の性格が反映されるものだ、と私は思います。すごく手際は良いけれど、細かな部分が雑になってしまう子。丁寧な仕上がりになっているけれど、一つひとつの作業に時間がかかる子。それぞれに個性があるので、その良い部分を潰さずに技能を向上させるように指導しています。

吉岡(康)マイスター私たちの時代は、ときには厳しく叱られて教わるのが当たり前でした。しかし正直、それでは人が育ちません。何より大切なのは、「楽しい」と感じられるかどうか。どんな作業も楽しいと思うことができたなら、不思議と没頭できるものです。

指導と指導の間の期間には宿題を出されたようですが、生徒のお二人は、実際に取り組んでみていかがでしたか。

松田技能検定3級課題の「切妻小屋組み」を3つ製作する、というのが宿題でした。はじめは、一つ作るだけでも結構時間がかかっていたのですが、何度も作っていくと自分なりのコツがわかってきて、スピーディに、綺麗に仕上げることができるようになりました。

清水一緒に指導を受けていた仲間が頑張って宿題を仕上げていたので、僕もみんなに負けたくない、という気持ちが原動力になり、製作することができました。

吉岡(雅)マイスター指導を受ける仲間、みんなで上達して欲しい。そうした思いを込めていたからこそ、一体感を生んだように思いますね。提出された宿題が順を追ってミスが少なくなっていったのを見ると、みんな頑張って努力してくれたんだなと、非常に嬉しくなりました。

建築技能の基礎を固めて、
未来へと羽ばたいてほしい

建築大工の技能を磨いた松田さんと清水さんは、将来はどんな仕事に就きたいと考えていますか。

清水僕はバスケットボールが大好きなので、バスケの試合ができるコートを備えた体育館を造る仕事に携わってみたいです。大分にある学校の体育館を新しくしていけたら、と考えるとワクワクしてきます。

松田僕は、将来は住宅の設計士になりたいと考えています。職人的な手仕事をする機会は少ないかもしれませんが、学校で学んだ木工の知識は設計する際にも必ず役に立つと思っています。マイスターお二方のプロの手仕事を間近で見られたことは、とても刺激になりました。

最後にマイスターから、これから建築に携わる若者たちにメッセージをお願いします。

吉岡(雅)マイスター検定試験に出てくるような技能はすべて、建築に携わる際の基本技能となるものです。まずはそういった基本をきっちりと習得して欲しいと思います。基本ができるようになると、どんな場面でも応用が利くようになります。現場管理や設計など建築大工ではない仕事についた際にも必ず役に立ちます。建築を取り巻く環境は時代と共に変化していますが、必要な技能は変わりません。ぜひ、自身の技能を磨いて、建築業界で活躍してもらえたら嬉しいです。

吉岡(康)マイスター私たちが暮らす大分県には、まだまだ昔ながらの工法を用いた住宅がたくさん残っています。そうした住宅の修繕や、立て替えの際に必要となるのが、建築大工の技能です。古い工法の建築に携わるのは高い技能が必要なためとても難しい反面、やりがいのある仕事です。できあがったときの喜びや楽しさなど、将来、みなさんにも味わってもらえたなら、先輩としてこんなに嬉しいことはありません。