ものづくりマイスター / ITマスター / テックマイスター事業

企業・学校の活用事例

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令和4年度 中小企業・団体編
テックマイスター(佐賀県)

遠隔地に設置した制御システムをリモートでメンテナンスを行うためのIT導入と若手社員の技能向上

指導先

株式会社戸上電機ソフト

事業内容
  • 制御系ソフトウェアのシステム開発
  • 組込みソフトウェアの設計・開発
  • Webシステム開発
  • システム構築に関するコンサルタント
  • 企業における人材育成のための各種教育

従業員数
17名
テックマイスター

南里 等(なんり ひとし)さん

令和元年(2019年)テックマイスター認定
平成27年(2015年) ものづくりマイスター認定(機械保全職種)

建物の設備設計をするため建物用の制御盤を製造している企業にて従事した後、独立し建物用の設備設計事務所を始める。需要が少ないことから、制御設計へ事業を変更し、それ以来、ファクトリーオートメーションの技術コンサルタントとして、設計や試運転調整などを手がけている。
機械保全職種のものづくりマイスターとして認定され長年指導を続ける中で、令和3年度には68歳でさらに電気機器組立て職種のシーケンス作業1級も取得し、ハードシーケンスとPLC(Programmable Logic Controller)ソフトによる制御について基礎から高度な応用までの指導を工業高校や中小企業で行っている。また、テックマイスターとしては、生産設備において自動化、省力化による生産性の向上や品質の安定化のためのPLCの活用法、現状の生産体制の分析による課題の明確化と改善案の策定、生産設備の機械的能力を十分に発揮するための制御方法の構築とプログラミングへの展開手法、トラブルによるダウンタイムを最小限にするためのHMI(Human Machine Interface)の活用法、上位システムとPLCとの通信(ネットワーク)による生産管理システムの構築、産業用ロボット導入についての検討方法と全体システムの構築法、生産設備の安全とリスクアセスメントなどの指導が行える。

実施したプログラムの内容

実施プログラム

実施内容
遠隔地に設置した制御システムをリモートでモニターし、メンテナンスを行うためのIT導入について、リモートメンテナンスの概要・構築するシステムの説明、モニターを使用した実践、制御システム(PLC)以外の装置への対応方法、運用上の注意点、運用試験など
目  的
遠隔地からでもリアルタイムに制御システム(PLC)の状態をモニターし、メンテナンスを行えるようにすることで、制御システムにトラブルなどがあった場合の機械のダウンタイムを減らし生産性を上げる。また、制御システムの設置に関する知識だけでなく、リモートでメンテナンスするためのVPN(Virtual Private Network)環境の構築に必要な機材の種類や接続方法について学ぶことで、社員の技能向上を図る。
受講者
16名
実施日程
令和3年12月~令和4年2月 1回あたりの実技指導は3時間
1回目
リモートメンテナンスの概要、リモートメンテナンスの方法、リモートメンテナンスのセキュリティ、実施例について
2回目
PLC以外の装置(HMI装置)への対応、運用上の注意点について、運用試験、総評

実技指導の目標と目標への到達度

No. 目標 到達度
01[指導の1回目] [指導の1回目]リモートメンテナンスの概要について説明し、リモートメンテナンスの方法やセキュリティについて理解する。 指導後に活発な質問などもあり、理解ができていた。
02[指導の1回目] [指導の1回目]現場で動いているPLCのソフトウェアがどのような状態で動いているかモニターする。 自社製品への応用などで妥当な案がでるなど、システムについて理解できている。
03[指導の2回目] [指導の2回目]リモートによるPLCの設定及び付随する機器(HMI装置)の設定等についての理解とリモートメンテナンスの実践 PLC以外のHMI装置などとのインターネット通信が可能であることを理解できていた。また、実際に運用し、遠隔地にある装置の通信を体験することができたが、ポイントを押さえた操作ができていた。

実技指導の成果

リモートメンテナンスの方法やセキュリティについて理解し、実際に運用することができた。体験したことを元に、過去に納品したシステムについてもリモートメンテナンスが可能になるかの検討を始めている。

今後の課題

実際に実機への応用を行い、その際に内在する問題点について想定できるようになること、また、インターネットの通信環境を利用することから、セキュリティについて指導側も受講側も引き続き熟知する必要がある。

テックマイスターの
実技指導を依頼した理由

株式会社戸上電機ソフト 営業技術マネージャーの中原 保治(なかばる やすはる)さんに、
実技指導を依頼した背景や指導にあたっての準備などを伺いました。

背 景

ものづくりマイスター制度については、以前より知っていましたが、弊社のようなシステム開発事業に関連する分野が対象となるか分からないということもあり、利用する機会がありませんでした。依頼するきっかけとなったのは弊社の制御システム(PLC)の納入先が遠隔地にあり、システムにトラブルが発生した際などに現地へ赴く必要があることから、その間に機械が止まってしまう時間などを極力減らし、生産性を上げたいという思いが常々あったことです。たまたま別の業務でお仕事をさせていただいた南里テックマイスターに弊社の課題をお伝えする機会があり、リモートメンテナンスの方法について指導いただけそうだと分かったため、佐賀県地域技能振興コーナーに相談し制度を活用してお願いすることになりました。
受講者は、PLCについてシステム開発に業務で携わっている16名の若手社員が中心です。弊社自体がシステム開発をメインとした事業を行っておりますので、基礎的な知識からではなく、リモートメンテナンスに関する実践的な内容を指導いただきました。指導回数は令和3年の12月に1回、令和4年2月に1回の全2回の実施で、1回目の後、運用のための準備などもあり、期間を空けて2回目を行いました。

準備・環境づくり

座学での指導は、会社の会議室にモニターを設置して、PLCだけでなく、タッチパネルのリモートなどについて指導いただきました。また、実際に使用している制御盤の前で、リモートメンテナンスについて実践も行いました。南里テックマイスターからは指導内容のポイントを押さえた資料をいただき、1回目はその資料を基に講義が進みました。2回目は、実際にリモートメンテナンスを行うにあたり、機材を購入して準備しました。

指導内容

テックマイスターの南里 等(なんり ひとし)さんに、指導の詳細について伺いました。

今回のリモートメンテナンスについては、テックマイスターの実技指導のために一から準備したものではなく、実際に自分の仕事でも運用しているものです。
リモートメンテナンスの概要としては、制御システムの納入先が遠隔地、時には海外というケースがあり、こうした制御システムは納入後、定期的なメンテナンスやトラブル発生時の適切な対処が必要となります。遠隔地であるため制御用のコンピュータであるPLCの状態をすぐに確認することができず、技術者が何時間もかけて出向くことになります。定期的なメンテナンスのためであればまだ良いのですが、トラブルの場合には制御システムが止まってしまいお客様の生産性が著しく低下するだけでなく、技術者の出張に伴う費用や時間も発生します。そこでITを利用して遠隔地であってもリアルタイムにPLCの状態をモニターして制御システムのダウンタイムを最小限に抑えるシステムを構築することを目標に、実技指導を実施しました。

実技指導は、担当者の中原さんとご相談し、全2回の実施となりました。受講された社員の方々は、シーケンス制御については業務で携わっていることもあり、既に十分な知識と技能がありました。同じ場所、例えば構内の設備についてはLANケーブルで繋いであれば、事務所から工場設備のモニターができるのですが、場所が離れている場合について機器等を設置した経験はないということでしたので、その部分をお教えしました。

1回目の指導については、主に講義形式で基本的なリモートメンテナンスについての方法を10ページほどのPowerPointで作成した資料を見ていただきながら説明しました。内容は、リモートメンテナンスの概要、リモートメンテナンスの方法、セキュリティ、最後に実際のリモートメンテナンス実施例についての4項目です。

リモートメンテナンスについては、前述のとおり遠隔地からでも納入した制御システムをリモートでモニターする、つまり保守を行うことで原因の特定が事前にでき、必要な部品などの準備をしてから現地に赴くことができるので、出張回数や対応時間の削減につながり、生産性が向上するということを説明しました。
また、リモートメンテナンスの方法として、VPN環境の構築に必要な機材や広域イーサネットを利用した接続の仕方についてお伝えしました。今回はリモートメンテナンスということで、戸上電機ソフトさんの事務所と遠隔地と繋ぐための専用回線が必要になります。ただ、物理的な専用回線というのはコストもかかるため、何カ所も繋ぐというのは現実的ではありません。そこで、広域イーサネットを利用し、地理的に離れたLAN同士を1つの大きなLANとして構築し、VPNというバーチャルな専用回線を用意することで、セキュリティを担保しながら、保守ができるという方法をお教えしました。また、自分で一から構築しようとするのは大変なのですが、VPNを利用するための機器とクラウドサービスをユニットで販売しているメーカーがあるので、どのメーカーを利用するか、またそのユニットを利用するためにはどうしたらよいかという説明をさせていただきました。
さらに、実際に私が運用しているリモートメンテナンスの実施例について紹介し、実際にPLCのソフトウェアがどのように動いているかを見ていただきました。次回は、実際に戸上電機ソフトさんの設備で運用するため、リモートメンテナンスに必要な機材をご準備いただくようにお話させていただきました。

2回目では、実際に機材が揃い事前に福岡にある現場にセッティングをした上で、進めました。会社の会議室に設置された大きなスクリーン画面にリモート接続中の画面を映し出し、受講者の中で代表者を1人決めて操作してもらいました。PLC自体を直接モニターしていますので、遠隔地にあるPLCの動きが直接わかります。また、この回でPLC以外の装置で、HMIでもリモートメンテナンスができるということをお教えしました。今回、戸上電機ソフトさんにはタッチパネルのついている制御盤がありましたので、タッチパネルがインターネット接続できることを確認し、タッチパネルの画面をタブレットで離れた場所からでも見ることができるように設定の指導をしました。

他に、運用上の注意点についてもお伝えしました。1つ目はインターネット回線を使うので、絶対に繋がるわけではないということです。こちらに問題がなくとも、インターネット回線自体のトラブルがあり得るということを知っておく必要があります。今回の接続先は山の中にあるということもあり、通信状況の確認などを行った上での実践となりました。2つ目はセキュリティの問題です。VPNのユニットを製造・販売しているメーカーも万全のセキュリティ対策は取っていますが、セキュリティがあればそれを破る人も必ず出てくるため、インターネット回線のトラブルと同様に知っておくことで、何かあったときのために対策を取ることができると思います。また、3つ目はリモートでメンテナンスを行う時は、必ずお客様に事前に連絡をしてお客様が見ている状態で操作するということです。これは、遠隔地から操作できるからといって、勝手に操作してはいけないということです。

今回の指導で苦労した点というのは、殆どありませんでした。ただ、VPNで使用する製品が海外からの輸入製品でしたので、取り寄せた当時は、日本版のマニュアルがないこともあり、最初に自分で使い方を研究したときには時間がかかりました。使い方に確信を得るまでには、1週間ほどかけましたが、戸上電機ソフトさんに講習する時点では問題なく、むしろ若い方で十分な知識と技能を持っているので、説明もよく理解してくれました。この製品は日本のメーカーでも取扱いはあるのですが、セキュリティ面や今回のケースに対応できること、また最近日本版のマニュアルも出てきたことから、適していると思いましたので、海外の製品を選びました。社員の皆さんは非常に優秀な方ばかりで、こちらの説明もよく理解し、きちんとポイントを押さえた操作ができていましたので、到達度としては十分ではないかと思います。

テキスト抜粋

実技指導を終えて

株式会社戸上電機ソフト 営業技術マネージャーの中原 保治さんに、実技指導を通して感じたことなどを伺いました。

指導中、受講者の様子を見ていましたが、今回リモートメンテナンスに使用した機器が海外製ということもあり、インストール及び設定手順を習得する事に大変苦労していました。頻繁にインストールソフトがバージョンアップされたり、初期版の手順書の大幅な変更があったことで情報の更新をする必要があったりと、常に最新を意識することの大切さを実感していたようです。実技指導の後は、受講者が過去に納めたお客様のシステムをどの様に進めればリモートメンテナンスが可能になるかの検討や、また、お客様によりシステムの構成に違いがあることから、リモートメンテナンスに切替え可能ではあるものの費用負担が発生することなどを意識して進めるなど、生産性向上に向けた指導の効果がありました。また、リモートメンテナンスが構築されたことにより、リアルタイムの情報が取得できる状態になりましたので、IoT化に向けデータ保存やデータ活用を目的にWebシステム開発に取り組む準備を始めています。

今後の展開としましては、引き続き、リモートメンテナンス導入を本社の他、グループ会社と共に全国のお客様への展開を考えております。北は北海道から、南は鹿児島まで既に取引のあるお客様含め新規のお客様へリモートメンテナンス導入に伴う迅速な対応が出来る会社として認識していただけるようにしたいと思います。

受講者の方に、実技指導を通して感じたことなどを伺いました。

普段は、設備の設計・施工及び保守メンテナンス業務に携わっております。今回の指導内容は経験した事のない分野でしたが、現場における悩みや改善点を解決することができるのではと思い受講を決めました。受講前の目標としては、IoTを活用し、日常業務の負担軽減やトラブル対応を適切かつ迅速に対応できるようにしたいと思っていました。南里テックマイスターの実技指導は、基礎知識の教育と現場での立上げと私たちの立場に合った指導を考えていただきましたし、よく理解できました。

受講後の変化としては、お客様からの問合せに対し、出張先でも現場の状況をモニタリングし、今までより適切な回答をお伝えできるようになりました。また、IoTを活用することで業務負担を減らし、既存設備の見直しに繋げるきっかけになりました。
今後の目標としては、お客様からの要望を吸い上げ今まで以上にお客様が管理しやすく、自社でメンテナンスが適切に行えるようなシステムを構築していきたいと思います。

テックマイスターの南里 等さんに、指導して感じたことや受講者へ伝えたいことなどを伺いました。

今回の指導内容も含め制御の技術は非常に幅が広く、そして対象が機械になりますから、電気制御だけではなく機械的な知識も必要です。特にこのPLCをはじめとした制御機器というのは、40年前にはなかったものばかりです。そのため、教えてくれる方がいないという状況で試行錯誤しながら身に付けてきました。

また、制御関係、シーケンス制御を専門に仕事されている方というのは、どの地域でも不足しています。若い方が育っていれば若い方へ行くはずの仕事がいつも私のほうへ来るというのは、これはいかんなというふうに思っています。それだけでなく、この劇的に進化する制御の世界で10年がかりで身に付けたものを、若い方にまた10年かけるのはもったいないという考えがあります。私自身は、ある程度身につけた知識や技能を教える内容を整理しているつもりなので、若い方がスムーズに習得できるようなお手伝いができればと考えています。戸上電機ソフトさんの若い社員の方たちは一生懸命取り組んでおられ、スキルのレベルは高いのですが、やはり色々な経験をするためには、どうしても必要な時間というのがあります。そういう意味で、これからもっともっと色々な機械や現場を経験して成長されることを願っています。