事例
05
2019
「ゴム印」「木口」の二刀流が彫り上げる印章
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昭和41年創業の「有限会社国峰印房」2代目。
平成25年度ものづくりマイスター、平成27年度横浜マイスター、平成8年度「技能グランプリ(印章ゴム印彫刻職種)」労働大臣賞、平成18年度「技能グランプリ(印章木口彫刻職種)」厚生労働大臣賞、神奈川県印章業組合連合会副会長
彫る前に出来が決まる木口彫刻の印章
私で二代目となる「国峰印房」では、木口彫刻による実印や会社印、銀行印、認印と、手彫りゴム印を手掛けています。木口彫刻とゴム印彫刻の両方を手がける職人は少ないのですが、私は父が両方手がけていたこともあり、自然とどちらもできるようになりました。
その内、木口彫刻の印章でキモとなるのは、文字のバランス(配字)と正確な書体ですね。意外かもしれませんが、印章の出来は彫る前に8割方決まってしまうのです。美しい配字とは、印面の小さな中に文字がゆったりと大きく見えている状態。それには、印面全体を俯瞰(ふかん)して配字を考えなければいけません。例えば、4文字を使用する際、単に4等分して配置するのではなく、画数の多い文字は大きめ、少ない文字はやや小さめに、といった調整をします。全体を見て調整を行うことで、まとまりのある良い配字となるのです。
正確な書体を使用するためには、古代中国発祥の漢字と書道に関する広範な知識が必要になります。紀元前からある篆書(てんしょ)という書体の場合、1つの線を上に曲げるか、下に曲げるかというわずかな違いで全く違う字になってしまうこともあるのです。そのため、現在も私は漢字に秘められたルーツや歴史などを探求しています。こうした技能も知識も、すべてはお客様の要望に応えるためのもの。柔和な雰囲気の人にはやわらかな線の書体を、銀行員の方などには重厚感のある書体を、と使う人の個性に合った印章をお渡し、ご満足いただくことが私の仕事だと考えています。
心の目で彫るゴム印彫刻
ゴム印彫刻による印章のつくり方は、木口彫刻と全く異なります。
まず、和紙に文字を墨で書き、ゴム板に転写して切れ味が良い専用の切り回し刀で集中力を切らさず一気に切っていきます。大切なのは、刀は止めたまま、印面の方を動かして切る点。刀を動かすとどうしても印面に対する角度が微妙に変わってしまいます。そのちょっとした変化が、柔らかいゴム板では大きな狂いとなって表れてしまうのです。
木口彫刻と違って途中や最後での修正ができないため、少しでもミスをすれば最初からやり直しと、まさに一発勝負。肉眼で確認しにくいコンマ何ミリという細かなところも、心の目で見ながら切っています。「見えていないのに見えている」、と感覚的で言葉では説明しづらい部分ですね。これまで様々な方を指導した経験を通し、そうした感覚の部分も、練習の積み重ねによって技能とともに磨くことができると感じています。
こだわりの印刀
印章彫刻士の世界では刀の研ぎ具合を見れば、その職人の力量がわかるとされています。國峯さんは、木口彫刻で粗彫り刀8本と仕上げ刀3本、ゴム印彫刻で切り回し刀を3本とさらい刀1本をメインに使っています。数種類の砥石を使い分けながら研ぎ、どの印刀も常に最高の切れ味を保つように心がけているといいます。
技能検定
印章彫刻(木口彫刻作業)(ゴム印彫刻作業)
印章彫刻には、印材として牛角、水牛の角、柘(つげ)などを使用して印面彫刻を行い、印章を作成するのに必要な技能・知識を対象とする木口彫刻作業と、ゴム板を対象とするゴム印彫刻作業があります。
國峯伸之/有限会社国峰印房
〒232-0061 神奈川県横浜市南区大岡2-13-36
TEL 045-731-5137/FAX 045-715-5730