事例
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2021
400年前の製法と技能士の技の融合により触れる人を感動させる陶磁器
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400年の伝統を持つ山口正右衛門窯の代表。平成9年度、陶磁器製造職種1級技能検定に合格。平成18年全技連マイスター、平成22年現代の名工、平成27年黄綬褒章。その他、国内外で数々の受賞歴を誇る。
「大物ろくろ」で一気に作り上げる
山口正右衛門窯は、400年前から受け継ぐ伝統的な技法を用いて、波佐見焼を制作しています。波佐見の中でも、旧来の技法で制作する窯元は当窯以外には存在せず、唯一の伝承者として制作を続けています。昔ながらの青白磁の色合いを活かした柔らかく温かみのある作品を作り、目にした人の感情を震わせられるように一つひとつ心を込めて作り上げています。伝統的な波佐見磁器の制作者として、より味わいのある磁器を広めるべく、活動に勤しんでいます。
当窯の特徴の一つとして「大物ろくろ」が挙げられます。私は、大壺や大鉢、大花瓶など、縦横50cm四方を超える大物磁器の制作を得意としています。多くの窯元では、これほどの大きさの磁器になると分解したパーツを作り、最後に組み上げる方法がほとんどですが、私の工房では、部品に分けた作り方をせずに、ろくろ全体を一気に成形して仕上げます。そうすることで、生きたフォルムを形作ることができ、美しい曲線を持った気品のある作品に仕立てられるのです。早いときは1時間ほどで完成させます。
「人の心を動かす何か」を込める
焼物は、「造形」・「加色」・「窯焚き」の3つが命だと考えています。
「造形」とは、作品のフォルムです。気品・バランス・味わい・色気など、人を感動させる形とは何かを追求し、作品作りに心血を注ぎます。参考にするのは、絵画・建築・花・風景など、身の回りにある素晴らしい作品や自然です。それらに触れた時に「なぜ、良いと感じるか」を考え尽くして造形に取り入れています。
「加色」は、焼き上がりの色味のこと。私の作品が持つ青と白の絶妙な色合いはすべて緻密な計算によるものです。秘密は「釉薬」にあります。当窯では染料を一切使用せず、自然からいただく陶石と木灰を配合した釉を使用。それらは波佐見の自然が与えてくれたものであり、私はこの地の自然と一体となって、ものづくりに励んでいます。
求めている「加色」と「造形」を作り出すために、釉薬や施釉の1級レベルの知識や技能、形を作り出す1級レベル以上の技能が不可欠になります。
最後が「窯焚き」です。焼き物は「炎の芸術」と捉えており、窯焚きによって作品の良し悪しは決まります。自作の窯を使って、気温・湿度に気をつけながら焼き上げます。薪の一本一本にもこだわり、含まれる油分の多少を選別して、焚べるタイミングも見計らいます。最大1300℃を超える温度でじっくりと焼き上げる作品は、作品の風合いを決める重要な工程になります。
陶磁器に限らずものづくりは、できあがるのは当たり前であり、「人の心を動かす何か」を込めるのが一番大変ではないでしょうか。だからこそ、私は数々のこだわりを込めることが、触れた人の心を動かす作品作りにつながると信じています。これからも本物の波佐見焼を生み出せるように、精進していきたいと思います。
こだわりの陶石
磁器の原料となる「陶石」は、工房を構える山中の岩肌から採掘しています。この陶石は器の原料にもなりますし、釉薬にも使用できるものです。採掘したときは数cm大の石ころですが、それを工房で細かく粉砕しています。波佐見の山肌は、その多くが陶石であり、この地で陶磁器文化が栄えた原点となるものです。
技能検定
陶磁器製造
陶磁器製造職種は、陶磁器を製造する仕事を対象としています。製造方法には多様な技法がありますが、基本的には粘土・磁土により成形、乾燥、焼成、絵付け等の工程を経て作られます。
山口 正美/山口正右衛門窯
〒859-3701 長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷1439-4
TEL 0956-85-4320
https://hasami-syouemon-gama.com/