「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 02

令和元年度

山形盲学校と寒河江工業高校が教材製作で連携手作り3Dプリンターで進む山形の次代を担う人材育成

PROJECT DATA

実施主体:やまがた メイカーズ ネットワーク

拠点:山形県山形市

開始:平成26年2月

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Overview

山形県山形市発
Made in やまがた! 高校生が作る3Dプリンター
「次代を担う子どもたちに3Dプリンターを贈ろう!」
教育用3Dプリンター導入プロジェクト

山形県の教育界、産業界、関連行政機関の有志が個人の資格で参加する「やまがた メイカーズ ネットワーク(YMN)」は、県内の100の小中学校、特別支援学校、高等学校に県産部材を使用した手作り3Dプリンターを贈る活動に取り組んでいます。次代を担う人材育成を目標にした活動から、学校間の連携も生まれています。

代表者
Interview

山形にはものづくりを変えると言われる3Dプリンターを県産部品で手作りできる環境がありました。それを教育に利用しない手はないと考えたのです。

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

やまがた メイカーズ ネットワーク 代表

大津清 さん

昭和27年山形県生まれ。大学卒業後、米沢工業高校校長を経て平成29年3月まで、山形県産業科学館館長を務める傍ら本会を立ち上げた

背景ときっかけ

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ものづくりを変える3Dプリンターで
山形の次代を担う人材育成を

「やまがた メイカーズ ネットワーク(YMN)」は、ものづくりを通じて山形の次代を担う人材を育成する教育活動を展開・支援する任意団体です。設立は平成26年2月。県内の教育界、産業界、関連行政機関の有志が個人の資格で参加しています。設立当初から取り組んでいるのが、県内の小中学校、特別支援学校、高等学校100校に県産部材を使用した手作り3Dプリンターを贈るプロジェクトです。

きっかけは平成25年、米国オバマ大統領が一般教書演説で「3Dプリンターはものづくりを変える」と演説し、1000校に3Dプリンターを備えた工作室を作ると発表したことです。YMNの100校という目標も「全米で1000校なら山形は1県で100校に贈ろう」ということから立てたものです。

YMNが提供する3Dプリンターは、FDM(熱溶解積層法)といって熱に溶ける樹脂を1層ずつ積み上げていく方式です。平成21年に米企業の特許切れで開発が進み、特に貢献したのが、ハード、ソフトともオープンソースのRepRapの3Dプリンターでした。誰でも自由に改良・再配布できる「オープンソース」という考え方をものづくりに持ち込んだ意味でもRepRapは画期的で、YMNの3Dプリンターもこれをベースにしています。しかも、山形にはその部品を調達できる企業がたくさんあります。3Dプリンターを手作りできる環境が目の前にあったのです。

これまでの取組・今後の展開

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3Dプリンターの教育的活用へ
学校間の連携も生まれる

2号機(写真右)は製作できる立体物を1号機(写真左)の1辺140mmまでから190mmまでに大きくし、フレームを長ネジから板金にして強度を増加させるなどの改造を行った

プロジェクト開始から5年、これまで80校に3Dプリンターを贈っています(令和元年8月1日現在)。平成26年に作った1号機(RepRap YMN)は工業高校11校に設計図を渡し、分担して部品を作ってもらい、工業高校教員らが参加した3Dプリンター組立て研修会で組み立てています。3Dプリンターそのものを作ることに重点を置いたのが1号機でした。平成27年から導入した2号機(Mirai 0→∞)は、製作できる立体物をさらに大きくし、3Dプリンターで何を作るか、いかに教育に活用するかに重点を移しました。

寄贈した3Dプリンターによって、山形盲学校の教材作りを寒河江工業高校が3Dプリンターのデータ作りで支援するなど、学校間の連携も生まれました。鶴岡工業高校の生徒は自分用の電動義手を3Dプリンターで作りましたが、その電動義手の設計図もオープンソースとして公開されているものです。

YMNは今後も3Dプリンター100校導入を目指しつつ、3Dプリンターを使った作品コンテスト、3Dプリンター教室、ロボット教室などを通して、3Dプリンター活用研究やプログラミング教育を推進したいと考えています。

メンバーズインタビュー

自分たちが作ったものが
人の役に立つ

田中祐輔さん

山形県立寒河江工業高等学校教諭。課題研究で「3Dプリンターの教材製作」担当

森谷 碧さん

山形県立寒河江工業高等学校情報技術科3年

佐藤晃大さん

山形県立寒河江工業高等学校情報技術科3年。3級テクニカルイラストレーション技能士

矢萩光輝さん

山形県立寒河江工業高等学校情報技術科3年

課題研究の一環として
教材製作に取り組む

── 山形盲学校と県立寒河江工業高校が教材製作で連携する意義はどこにあると考えていますか。

田中 3Dプリンターで立体物を出力するには、3Dデータを作成する必要があります。山形盲学校からの依頼を受け、そのデータを作成するのが寒河江工業高校の役割です。盲学校の教材製作に工業高校の生徒が関わる意義は、自分たちが作ったものが人の役に立つことを実感できること、ものづくりの学校が教えるべき一番大事なことを体験できる点にあると思っています。

── 教材製作はどういう体制で?

田中 情報技術科3年の「課題研究」の一環として取り組んでいます。授業は毎週月曜日4、5、6時限の3時間。情報技術科の3年生は今年38人ですが、教材製作は3人が取り組んでいます。昨年度は4人、2人1組で1つの教材を作りましたが、3DCADソフトウェアの習熟度も生徒によりまちまちで、どちらが責任を持って作るかという話になりがちでした。それで今年は、自分のペースで教材製作に取り組めるよう1人1教材を担当するようにしています。

 今後の課題を挙げるなら、盲学校との連携を継続する仕組みづくりだと思います。私自身が関わったのは平成28年度からですが、それまで盲学校の教材製作を「課題研究」のテーマにしていた先生が異動になり、私が引き継いだのです。その間、盲学校の窓口の先生は変わっていないので引き継ぎもスムーズでしたが、教員は一定期間で異動します。組織的な仕組みがないと継続は難しい面があると思いますね。

3DCADへの興味が
教材製作を選ぶきっかけに

── 盲学校の教材製作を「課題研究」のテーマに選んだ理由は何ですか。

森谷 去年の先輩の課題研究の発表を見て、誰かの役に立つことをしてみたいと思ったからです。

佐藤 今年1月テクニカルイラストレーション職種3級に合格。その技能を活かせると思い選択しました。

矢萩 2年生の秋に3DCADデータを作成する「ソリッドワークス」を授業で初めて習ったのですが、簡単な操作で、いろいろなものができる。そこが面白いと思って、教材製作を選びました。

── 今年の盲学校からの製作依頼は?

森谷 4つきています。工業地帯のモデルを佐藤、原爆のキノコ雲を森谷、東北三大祭りを矢萩が担当し、月の満ち欠けは先に終わった人が担当します。

佐藤 工業地帯のモデルはすでにできたので、月の満ち欠けは僕がやることになると思います。工業地帯のモデルは、複雑にすると盲学校の生徒がわからなくなるというので、かなり簡略化して作っています。ただ精密に作ればいいというわけではないのも、教材製作の面白いところだと思います。

FOCUS

プロジェクト関係者に聞く

盲学校の教材を3Dプリンターで作る意義

──盲学校に3Dプリンターが寄贈されたのはいつですか。

石澤 平成26年10月ですが、寄贈前からYMNを通して寒河江工業高校との連携の話は進めていました。3Dプリンターで出力する教材の3Dデータを教師自身が作成するのは難しいからです。

 提携が決まった平成26年の夏には寒河江工業高校に試作品を作ってもらっています。私が理科の教員なので、作ってもらったのは小学校5年で教える植物の維管束の模型でした。盲学校も健常者の学校も教科書の内容は同じです。違いは、写真や図の多くが文字での説明に代えられていることです。ですから盲学校には、写真や図を補う、手で触れる教材がより必要なのです。ところが、市販の維管束の模型は目の見える人向けに作られています。全盲の子供は手で触って学ぶわけですから、細かい細胞壁や出っ張りは余計な情報でしかありません。3Dプリンターなら、教えたい部分を強調した教材を作ることができます。

佐藤 全体をまず認識させるという意味でも3Dプリンターで作る教材は重要です。全盲の子供が自動車のような大きなものを認識する場合は、ミニチュアで全体を認識し、細かな部分は実物を触ることによって、自動車はこういうものだとわかってきます。市販のミニチュアがないものも、3Dプリンターなら作れます。

石澤 ピアノが上手な子がいるのですが、グランドピアノのミニチュアを作ったら、初めてピアノがどんな形か分かったと言っていました。ピアノをいつも触っている子でも、部分から全体を認識するのは難しいんですね。それから、市販のミニチュアがないので作ったものとしては原爆ドームがあります。小学校6年の国語の教科書に原爆ドームの破壊される前と後の写真が出てくるのですが、3Dプリンターがなかったら、簡単には再現できなかったと思います。

佐藤 昨年は、盲学校の全体模型を作ってもらっています。校舎の構造を手のひらに収まるサイズで理解し、自分がどこにいて、目的の教室はどこで、どの経路を通ると効率的に移動できるかを考えるための教材です。こういう学習をすることで、口頭で説明されただけで建物の立体的構造のイメージ、メンタルマップを頭の中に描き、移動経路を考えたり、経路を途中で修正することができるようになります。

石澤 以前は、こうした模型は手作りでした。子供たちは触って覚えるわけですから、一晩徹夜して作った模型が1回の授業で壊れることもありました。3Dプリンターで作った模型は、壊れにくい形状に作ってもらっていることもありますが、丈夫なんですね。しかも、生徒の数だけ同じものを出力できます。毎年1月には、教材の3Dデータを作ってくれた寒河江工業高校の生徒に子供たちが授業で使う様子を見学してもらっていますが、昨年はこの学校の模型を使う授業を見てもらいました。

 また、原爆ドームの模型は寒河江工業高校の了承を得て、東京と宮城の盲学校に教材として提供しています。3Dデータと3Dプリンターがあれば全国どこでも出力できるわけで、今後は全国の盲学校との教材連携も進めていきたいと考えています。

山形県立山形盲学校
山形県立山形盲学校高等部教諭
視覚障がい教育推進室長
佐藤尚生さん
山形県立山形盲学校教諭
石澤洋喜さん
教材として市販されている維管束の模型
3Dプリンターで出力した維管束の模型は道管と師管だけ強調されている
原爆ドームの爆破前と後の模型
学校の全体模型を手で触って建物の立体構造を学ぶ
寒河江工業高校から送られてきた3Dデータは、盲学校の3Dプリンターで出力する