PROJECT 06
令和3年度
実施主体:石川県立大聖寺実業高等学校
拠点:石川県加賀市
Overview
高校生が主体となってものづくりや修理を行い、
技能向上と地域貢献を実践
石川県立大聖寺実業高等学校は昭和40年に開校した石川県唯一の実業高校。地元の小中学校や公共施設等からの要望を聞き取り、高校生が主体となって培った技能を活かし、それに応えるものを製作する地域貢献の取組が「実高ものつくり隊」である。使う人の立場で考え、課題を克服する実践的な教育が地域の課題を解決し、貢献し続けている。
代表者
Interview
地域のためのものを作る活動を学校の伝統に
代表者プロフィール
代表者プロフィール
石川県立大聖寺実業高等学校 校長
六反田 雅宏 さん
背景ときっかけ
取り組む課題を地域に求めた生徒全員の試み
本校には全学年の生徒一人ひとりに課題を与え、ものづくりや研究をしたりする「課題研究」という授業があります。以前は校内で役立つ備品の製作などが主で、製作に取り組む前から完成品の最終形や作業のプロセスが決められており、生徒が自分で一から"考える"ことをしなくてもよいものがほとんどでした。また、課題研究でつくった製品は学校内でしか活用されていませんでした。こうした問題点を解消するため、近隣の小中学校や公共施設へ「何か困っている事はないか」「作って欲しいものはないか」などと声をかけ、新たな課題を地域に求めたことが、「実高ものつくり隊」誕生のきっかけでした。
「実高ものつくり隊」は令和元年に始まった取組で、電子機械科(旧機械システム科)全員が課題研究の中で主体となって行う活動です。地域のためにものをつくる活動を、「ものをつくりたい」に掛けて「実高ものつくり隊」と名付けました。依頼があった時に、やってみたいと手を上げた生徒たちが集まり「実高ものつくり隊」として課題を担当します。
使う人が求めていることを踏まえて、その人たちのために創意工夫して"考える"という取り組みは、課題研究の教育効果を高めてくれたと思います。
これまでの取組
実高ならではの技能を活用したチャレンジ
最初の課題は加賀市立三木小学校からの依頼で、渡り廊下と体育館をつなぐ、持ち運び可能な木製スロープの製作でした。完成品をお届けすると、車椅子での出入りや台車を使った荷物の運搬がスムーズになったと大変喜んでいただきました。生徒たちが使う人の立場で考え、試行錯誤しながらものづくりを行い、一つの課題を克服する姿を見て、手応えを感じました。
加賀市立片山津中学校からは、溶接部分が外れていて使うには危険な机1卓、椅子17脚、卓球台3台の修理依頼を受けました。この課題では、実際の授業で習うガス溶接の技能が活かされ、使用できなかった机や椅子を再生することができました。
また、加賀市の観光文化施設「蘇梁館(そりょうかん)」からは、老朽化した襖の引手の復元依頼がありました。蘇梁館は、北前船主で巨額の財を築いた「久保家」によって1841年に建てられた屋敷です。約180年前に製造された真鍮製の飾り引手の修理は難しいものでしたが、本校の3Dプリンターを使って復元を試みました。実物の写真を基に正確な3D図面を作成するという高度な作業が必要でしたが、なんとかして復元したいという思いが生徒の学習意欲を高め、技能向上にもつながりました。
本校の生徒が習得した技能を活かして地域に貢献する「実高ものつくり隊」は、令和3年3月までに7つの活動実績を残すことができました。取り組む際の生徒の目の輝きや、しっかりとしたものを作らなくてはという緊張感のある表情は、これまでに見られないものでした。依頼された方々から感謝の言葉をかけられたり、「地域発!いいもの」に選定されたりしたことは生徒にとってかけがえのない体験になっていると思います。
今後の展開
「実高ものつくり隊」の活動を本校の伝統へ
社会に出て役に立つ技能を教えるのが実業高校の教育ですが、一方的に学ぶだけ、インプットするだけでは教育効果は上がりません。学んだことを実践するアウトプットがあって、はじめてインプットが活きてきます。機会が増えれば、自分に足りないものや必要なものを勉強したいと考え、新たなインプットを求めるようになります。このサイクルを確固たるものにするため、今後は地域に対して何ができるのか、もっとアピールしていく必要があります。「実高ものつくり隊」は令和元年に始まったばかりの取組です。溶接や金属加工、3D CADや3Dプリンターを使った部品づくりなど、本校の得意とするところを広く知ってもらい、生徒と地域社会が密接につながっていく活動を続け、学校の伝統となるようにしていきたいと考えています。
メンバーズインタビュー
人に役立つものをつくることの楽しさ、やりがい、
そして、大変さを実感
西坂 美飛さん
(写真手前左)
電子機械科3年
續宗 聖大さん
(写真手前中央)
電子機械科3年
佐藤 孝太さん
(写真手前右)
電子機械科3年
古場田 良之さん
(写真奥)
機械システム科・電子機械科※
教諭
令和2年度入学生より、電子機械科から機械システム科に科名変更されました。
――最初に「実高ものつくり隊」の活動の第1弾となった、三木小学校のスロープ製作に古場田先生から声を掛けられた時はどう思いましたか。
西坂 ただ課題を製作するだけでなく、作ったものが三木小学校の子供たちの役に立つスロープということで、すごくやる気が湧きました。
續宗 話を聞いた時、目の前にあらかじめ図面があるわけではないので、どういうものを作るのか想像が付きませんでしたが、それがかえって面白い、やってみようという気になりました。
佐藤 実際に人が使うものを作るということなので、自分にちゃんとできるか不安でしたが、みんなと力を合わせて製作することに魅力を感じました。
――これまでの活動で苦労したこと、楽しかったこと、印象に残っていることは何ですか。
西坂 どんな依頼も同じですが、製作や修理の方法を考えたり図面を引いたりといったように一からものづくりや作業を行うので失敗もしますし、本当にできるのか半信半疑の時もあります。だからこそ、苦労して少しずつ完成が見えてきた時の喜びは何とも言えません。
續宗 ネジを真っ直ぐさすことや、木製のスロープにかんなを掛けて微妙な調整をすることなど簡単に思える作業が意外と難しく、実際にやってみないと分からないことが多いと気付かされました。
佐藤 卓球台の修理で初めてガス溶接を使いました。自分はもともと溶接に興味があったので、「実高ものつくり隊」のおかげで授業よりも早く溶接を行えたのが楽しかったです。
――活動に取り組んでいる生徒の様子をどのようにご覧になっていますか。
古場田 依頼者の要望に応えなくてはならないという責任感からなのでしょうか、生徒たちの真剣な顔つきが印象的です。また、さまざまなアイデアが生徒から自主的に出てきたり、簡単に妥協しなかったり、課題に対して前向きに取り組むところに意欲の高さを感じます。
――卒業後、将来どんなものづくりをしていきたいですか。
西坂 生活で使うものを作る仕事に就きたいと考えています。誰が使っても快適に使えるように考えられたもの、バリアフリーに配慮されたものなどを作っていきたいです。
續宗 エンジニアを目指しているのですが、日本だけでなく世界でも役に立つものを作れるようなスケールの大きなエンジニアになりたいです。
佐藤 将来はロボット製品を動かすプログラマーになりたいと考えています。「実高ものつくり隊」で体験したように、困っている人のためになるようなものを作っていきたいと思っています。
関係者インタビュー
プロジェクト関係者に聞いてみました。
文化財をハイテク技術で高校生が復元
管理している建築文化財「蘇梁館」の襖の古い真鍮製の飾り引手が破損してしまいました。早急に修理したかったのですが、同じものを再現するとなると、コストがかかり、二の足を踏んでいました。そんな時、「実高ものつくり隊」のことを聞き、古場田先生に相談したのが依頼のきっかけでした。
学校に3Dプリンターがあり、ハイテク機器を使って修復に挑戦することになました。私もアドバイザーとして参加させてもらい、生徒さんの熱心な取組によって見事に復元することができました。
材質は樹脂ですが、見た目は本物と遜色ありません。蘇梁館には襖が多くあるので、今後、引手の修理が必要になっても安心です。地域のちょっとした困りごとを気軽に相談できる「実高ものつくり隊」にこれからも大いに期待しています。
プロジェクト関係者に聞いてみました。
一つの手づくりスロープが生み出す地域の安心・安全
私が加賀市立三木小学校の校長を務めていた平成30年7月、西日本を中心とした広い範囲で集中豪雨が発生し、三木小学校の向かいの三木地区会館が避難所となりました。もし、避難指示の範囲が広がっていたら、三木小学校の体育館が避難所に指定されることになっていました。
学校としてもいざという時に備えて、受入体制を整えなければならないと考え、秋に体育館にテレビ回線とインターネット回線を引いたのですが、問題は渡り廊下と体育館の入口に段差があることでした。災害時にお年寄りや車椅子の方の通行に支障があってはなりません。ちょうど、大聖寺実業高等学校の校長先生から生徒が実習を兼ねて、地域のために協力できることはないかという相談を受けていたのを思い出し、スロープの製作を依頼しました。
私は金明小学校へ移りましたが、車椅子も通ることができるように丈夫に作られたスロープは今でも活躍していると聞いています。高校生が地域ことを思う気持ちで作った製品だからこそ、受け取った児童に自分たちのために作ってくれたのだから大切に使おうという気持ちが生まれます。今後もこの取組をぜひ続けて行ってもらいたいと思います。
- 一部撮影用にマスクをはずした写真が掲載されておりますが、ソーシャルディスタンスを確保するなど取材は新型コロナウィルス感染症対策を講じて撮影しています。