「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 06

令和元年度

発明クラブを支えてきた指導員の情熱 想像力豊かな子どもを地域で育てる

PROJECT DATA

実施主体:湖西少年少女発明クラブ

拠点:静岡県湖西市

開始:昭和51年8月

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Overview

静岡県湖西市発
郷土の偉人 豊田佐吉翁
「報恩・創造」思想の継承

豊田佐吉翁の生誕地・湖西市では、「報恩・創造」思想を継いで、40年以上にわたって小学生を対象にものづくり体験教室を実施。近年は高学年のカリキュラムにITロボットや3Dプリンターの講座を設けるなど新たな取組も進めています。

代表者
Interview

発足以来43年。
今後は企業との協力関係をさらに強化し、発明クラブのレベルアップを図りたいと思っています。

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

湖西少年少女発明クラブ 会長

中村哲也 さん

昭和32年生まれ。父はプラスチック製のバトミントンの羽の発明者。父が設立した羽立工業株式会社を継ぎ代表取締役に。平成26年クラブ会長就任

背景ときっかけ

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豊田佐吉翁の思想を引き継ぎ
全国6番目の発明クラブとして発足

豊田佐吉翁生誕150年・クラブ創設40周年記念にクラブ員・OB等で復元した「豊田式木製人力織機」

「湖西少年少女発明クラブ」の設立は昭和51年8月。翌年5月に発明協会から全国で6番目のクラブとして認可を受け、活動をスタートさせています。創る喜び、考える喜びを通して、親子のふれあいを図り、郷土が生んだ発明王・豊田佐吉翁の「報恩創造」の思想を引き継ぐ、想像力豊かな子どもを地域で育てることが目的です。

平成28年度には豊田佐吉翁生誕150年とクラブ創設40周年を記念し、市内の企業の協力を得て、クラブ員、OB、指導員で「豊田式木製人力織機」の復元事業を行っています。

これまでの取組・今後の展開

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会員数は過去最多の86人
来年から発明クラブの専用施設も

発明クラブはこれまで何度か会場と対象学年を変えてきました。今は湖西市西部地域センターを主な活動会場に、小学3年生から6年生を対象にしています。最近は入会する児童も増え、平成30年度の会員数は過去最多の86人になっています。

通常活動は毎月第2、第4土曜日の午前中で、学年に分かれ作品を製作しています。指導員はボランティアで、今は27人います。当初は小学校の教員退職者が主でしたが、10年前から企業出身者も増えています。

平成29年度から地元企業の協力で、5・6年生を対象にITロボットと3Dプリンターの講座も設けています。また、通常活動以外にも、市内の小中学生を対象に「湖西発明くふう展」を開催し、県展及び全国展への出品も行っています。

発足以来43年間、いろいろな場所を借りて活動を続けてきた発明クラブですが、来年度から専用の建物に移転することになりました。地域の企業から使わなくなった労働組合の会館を提供していただくことになったからです。これまでの場所は道具もほかの部屋から持ってきて毎回設置する必要がありますし、歴代の優秀な作品を保管する場所さえありませんでした。これからは大きな工具は設置したままでいいですし、材料の保管倉庫や作品の展示室も作れます。

今後は企業との協力関係をさらに強め、発明クラブのレベルアップを図りたいと考えています。中学生の会員も募り、発明協会の「全国少年少女チャレンジ創造コンテスト」に参加することが近い将来の目標です。湖西市の企業には、毎年約500人の新卒者が市外や他県から就職してきます。しかし、そのほとんどは近郊の豊橋市や浜松市に住むと言われています。家賃は変わらないのに、街としての魅力が湖西市に少ないからと言われています。想像力豊かな子どもを育てる湖西少年少女発明クラブの活動が、湖西市が少しでも子育てしやすい街、住みたい街になることに貢献できればいいと思います。

メンバーズインタビュー

指導員の仕事で大変なのは
実は事前準備です

渥美 孝さん

湖西市立鷲津小学校の校長時代から指導員に。指導員歴は30年近い

高橋優実さん

湖西市立岡崎小学校6年

酒井秀明さん

湖西市立岡崎小学校6年

子どもたちができるレベルまで
工程を単純化する

── 指導員を始めて何年ですか。

渥美 80歳を過ぎたし、そろそろ引退を考えていますが、指導員歴はトータルで30年近いと思います。「トータル」というのは、湖西市の鷲津小学校の校長を経て退職してから本格的に指導員を始めたのですが、校長時代も数年間指導員をやっていたからです。湖西市の小学校は各校一人ずつ指導員を出す決まりがあるんですね。

── 発明クラブの活動内容は、その30年の間に変わってきたのでしょうか。

渥美 大きく変わったのは7、8年前です。学年別に活動内容を変え、指導員も学年担当にしました。それまでは全学年同じものを作っていたのです。毎年7、8月は「くふう作品」といって、自分で考えた作品を作っていたのですが、3、4年生にはまだ自分で作るものを考えることが難しいんですね。「くふう作品」は今は5、6年生のみにしています。

── 指導員の仕事で大変なことは何ですか。

渥美 準備に時間がかかることです。4年生の担当で、今日作ったのは「ゴム動力レースカー」だったのですが、準備に丸2日かけています。新しく作るものに関しては、自分でまず試作し、子どもたちに作れるレベルか判断します。難しそうなら、子どもたちができるレベルまで工程を単純化します。今回なら、車体のゴムを巻く部分の切れ込みは線だけ引いて、切るのは子どもたちにしてもらいます。4年生では等間隔に線を引くことができない子が多いんですね。

 実際の活動では、「気づき」を大事にしています。車を走らせている子に話しかけ、「まっすぐ走らないのはどうしてだと思う」「距離を長く走らせるにはどうしたらいい」など、考えるヒントになる質問を心がけています。タイヤにゴムを巻いて滑らないように工夫する子どもも出てきます。そういう予想される材料も、あらかじめ用意しておきます。そして、その日の活動が終わったら、ほかの子が困っていたことや工夫したことをみんなに伝え、次回に備えます。

 来年度からは発明クラブの拠点ができるので、そういう指導員の準備もかなりやりやすくなると思います。

子どもたちの人気は
電子工作とプログラミング

── 発明クラブに入ったのは、二人とも小学校3年生ですか。

酒井 そうです。親に機械が作れて楽しいよと言われて入りました。

高橋 私も工作が好きで入ったんですが、予想以上に面白かったです。特に好きなのは電子工作のハンダ付けです。残念なのは、そういう女子が少ないことで、ここの6年生は私だけです。

酒井 僕も好きなのは電子工作です。去年はプログラミングでロボットを動かすこともやりました。そういうのが、これから増えたらいいと思います。

FOCUS

プロジェクト関係者に聞く

息子が「湖西発明くふう展」で市長賞に

まだ会社に勤めていますが、5年前から発明クラブの指導員をやっています。60歳を前にして、世の中の役に立つことを何かやってみようと思ったからです。

指導員になったきっかけは、息子が発明クラブにお世話になっていたことです。学校の成績はあまり良くない息子でしたが、ものづくりには興味を持っていました。それで発明クラブに入れたのです。平成16年、息子が小学校4年のことです。当時の発明クラブは、小学校4年生から中学1年生までが対象でした。

その息子が中学1年生の時、「湖西発明くふう展」で市長賞をもらったのです。棚板が斜めになったブックエンドのいらない本棚でした。似たような本棚を写真で見て、思いついたらしいんですね。家族全員で大喜びしました。

私は、会社では最初は開発、そのあと特許の仕事に携わってきました。発明クラブで担当しているのは小学3年生ですが、子どもとの接し方に慣れているわけではありません。でも、面白いんですよ。毎回毎回、奇抜なことを考える子どもがいて飽きません。丸い円盤をゴムで回すぶんぶんゴマがありますが、円盤に穴を開けるときれいな音が出ることを発見した子どもがいました。穴の数で音の高さも変わるんですね。

他の地域の発明クラブでは、子どもたちのアイデアの実用新案を取得しているところもあります。このクラブでもいつか、私の特許の知識が役立つ日が来ることを願っています。次の目標は、孫をこの発明クラブに入れることですね。

湖西市少年少女発明クラブ
指導員
武部肇さん