PROJECT 11
平成30年度
運営組織:柳井縞の会
拠点:山口県柳井市
開始:平成4年2月
Overview
一度は幻となった、手織り木綿の柳井縞。
その復活から、柳井のまちおこしへ。
江戸時代に柳井市の特産品として全国に広まった柳井縞。高品質な木綿織物としてその名を馳せましたが、全国的な織物業の衰退により、大正時代には幻の織物となってしまいました。しかし1台の古い機織り機の修理をきっかけに地元の有志による「柳井縞の会」が発足。技能習得を目的とした織物産地研修、一般向けの体験工房の開催や現代的な感覚を取り入れた商品の開発などに着手。また、小・中・高校における体験授業を行うなど、幅広い活動を通して、柳井縞の普及、後継者育成に取り組んでいます。
代表者
Interview
代表者プロフィール
代表者プロフィール
柳井縞の会
会長
多治比 輝明 さん
昭和17年、柳井市生まれ。先代よりつづく履物屋を営む。平成30年3月より、柳井縞の会の会長に就任。
背景・きっかけ
活動開始のきっかけは、
地元に眠る1台の機織り機。
平成2年、ある家庭に眠っていた古い機織り機が柳井市に寄贈されました。その修理に立ち上がったのが、柳井縞の会先代会長の石田忠男氏。石田氏は大工の技能があり、織物会社に勤めていた経験から、機織り機の仕組みに明るかったのです。修理を機に、まちおこしとして柳井縞を復興しようと、地元の有志によって柳井縞の会が発足しました。当時の素材を復刻するために、石田前会長が各地に足を運び、糸の仕入先を確保。こうした活動が実を結び、平成6年、“新生”柳井縞の織物ができあがったのです。
これまでの取組み
柳井縞で地域が
盛り上がっていく。
柳井縞の継承のために、国内の織物産地を訪ねて技能を学ぶほか、小学校での体験学習、一般向けの機織り体験、オリジナルの商品開発など、幅広い活動を行ってきました。平成13年には、柳井市との協働により、観光施設「やない西蔵」に体験スペースを開設。今では年間1,500名以上の方が体験に訪れるまでになりました。本格的に柳井縞を学びたい方を対象とした半年間の講座、山口県立大学とのコラボレーションによるファッションショーなども開催。これらの取組みが、多くのメディアに紹介されるようになりました。
今後について
若い世代に、全国に、
柳井縞の魅力を伝えたい。
現在、60名を超える会員がいますが、年々高齢化が進み、若いメンバーも50代。今後はもっと若い世代にも柳井縞に興味を持ってほしいですね。地元では、山口県立柳井商工高等学校の生徒さんが自ら機織り機をつくって、新しい織り柄や商品を開発したり、市内の小学校で機織り指導を行ったりと、活発に活動中。私たちもそのお手伝いをしています。柳井縞の会としては、地域や世代を超えて柳井縞に愛着を持ってもらうために、地域団体商標の申請に着手。地域ブランドとして、柳井縞を全国に広めたいと考えています。
PROJECT STORY
トントンカラリ。機織りの音が、町に響く。
かつての柳井を蘇らせたい。
藤坂 和子さん
(写真_左から2番目)柳井縞の会副会長。柳井市生まれ。京都の短大を卒業後、家業の製菓店がある柳井市に戻る。夫が柳井縞の会に所属していたことがきっかけで、自身も参加。
三浦 清美さん
(写真_左端)柳井縞の会事務局長。岩国市生まれ。広島で広告の企画・制作プロダクションを営み、平成27年に柳井市に拠点を移す。
長谷川 樹子さん
周防大島町集落支援員。関東で生まれ、「柳井縞を極める体験」の受講生、父の実家である周防大島町に移住。
柳井といえば、柳井縞。
次第に認知度が高まった。
藤坂さん 初めの数年は、毎月有志で集まり、柳井縞の歴史を学んだり、今後の活動について話し合っていました。織りの技能を学ぶために研修を企画したのは、発足から3年目。愛媛県の伊予と広島県の府中に研修に行きました。
三浦さん メンバーが少しずつ技能を身につけ、地域の催しへの出展、小学校での体験授業などを開催するうちに、次第に新聞やテレビに取り上げられるようになりました。「伝統ある文化財や古き良きものを見つめ直そう」という時代の流れも追い風になったのだと思います。
藤坂さん 平成12年に、かつての醤油蔵を観光施設「やない西蔵」として改築するという話を聞きました。その際、市職員の方から「柳井といえば、柳井縞。拠点にいかがですか?」とお誘いがありまして。ちょうど活動拠点や体験スペースを構えたいと考えていたので、入居したのです。機織りと藍染めの体験講座を始めてからは、観光客が訪れる機会が増えました。じゃあ次は商品を販売できる場所を借りようという声が上がり、活動も勢いにのりました。
活動の幅はさらに広がり、
後継者育成へと歩みを進める。
藤坂さん 平成26年に、「柳井縞を極める体験」を開始しました。半年間かけて、柳井縞の基礎から織りの技能まで、一連の流れを身につけてもらう講座です。会の発足当初から、柳井縞の担い手を増やしていきたいという想いがありましたので、山口県からの助成も受けて実現することができました。その受講生の一人が長谷川さんです。
長谷川さん 私が柳井縞を知ったのは、地域活性化に興味があり、山口県立大学のサテライトカレッジの中に、「地域資源としての柳井縞」という講座があったのがきっかけでした。受講はかないませんでしたが、せっかく山口に移住してきたので新しいことに挑戦しようと思い、柳井縞に興味が湧いたんですね。
三浦さん まずはコースターの大きさで色々な縞をつくる練習をしてもらって、最後は三反の織物をつくってもらいました。
長谷川さん 講座は、とっても楽しくて。機織りだけでなく、染色も教えていただいて。藍、たまねぎの皮、ひじきなどを使った草木染めも身につけることができました。
担い手を増やして、
機織りの音が響く町へ。
藤坂さん 今後も、柳井縞の伝統は大切にしつつ、新しい挑戦をしていきたいです。最近では広島東洋カープと共同制作したコースターが好評で、多くの人に手にとっていただきました。
三浦さん 講座を通して担い手を増やして、柳井縞がもっと盛んになる仕組みもつくりたいですね。織り手が多くいれば、織物の受注があったときに仕事を依頼する体制ができます。趣味、ライフワークや副業の選択肢の一つとして、柳井縞をより身近な存在にしていきたいです。長谷川さんのように熱心な織り手さんが、どんどん増えてくれるといいですね。
長谷川さん 実は先日、自前の織り機を購入しまして、裏庭で綿花の栽培も始めました。綿花が糸になり、糸がさまざまな色や模様の織物になる。その過程には、人の知恵や試行錯誤がつまっていて、それを少しでも知ることで、人生が豊かになると思うのです。この感覚を共有できる仲間を増やしていきたいです。
三浦さん 白壁の連なる通りを歩けば、あちこちから機織りの音が聞こえる。そんな町を目指したいですね。
Column
プロジェクト関係者に聞いてみました。
普及活動から商品開発まで。高校生の視点で考える。
当校では、商業系と工業系の学科が併設されている特徴を活かして、ものづくりから商品開発、マーケティングまで一貫した研究を行っています。一例としては、現代の生活に合わせた小型機織り機の製造、地元企業と連携したオリジナル製品の開発・ブランディングなど。また、柳井縞の会と連携し、地元の小学校における機織り指導も実施しています。小学生が扱いやすい機織り機の製造から携わり、柳井縞の歴史を伝える授業や実技指導を実施。高校生の視点を活かして、地域や企業と連携し、柳井縞の研究と普及活動に取り組んでいます。