「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 05

令和3年度

『テクノ小千谷名匠塾』地域の企業全体で取り組む技術者養成制度

PROJECT DATA

実施団体:小千谷鉄工電子協同組合

拠点:新潟県小千谷市

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Overview

「技能者が集まるまち」として誇れるよう
企業が連携して技能継承を進める

新潟県のほぼ中央に位置する小千谷市は、古くから機械加工が盛んな町だったが、2000年初頭、団塊世代の退職等による技能の低下や製造業の海外移転等への対応が課題となっていた。2004年中越地震により多くの企業が操業停止に追い込まれたが、「自らの強みを活かしていくにはどうすべきなのか」を考える契機になった。何度も話し合いを重ね、導き出した結論が、強みである手加工の技能を活かした人材育成のための「テクノ小千谷名匠塾」の設立だった。現在、多くの技能者を育成し、「技能士のまち」であり、「だから仕事が来る」、その結果「さらに人が集まる」という良い循環を目指した取組を進めている

代表者
Interview

技能継承の取組を小千谷の発展につなげる

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

小千谷鉄工電子協同組合 副理事長
テクノ小千谷名匠塾 塾長

酒巻 弘和 さん

背景ときっかけ

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復興のため強みはなにかを考える

小千谷市内を一望

小千谷市は、古くから機械加工が盛んな地域です。最近、小千谷の歴史について長岡大学の教授に聞いたところ、1900年頃にこの地で石油が産出され、全国から技術者が集まってきたことが産業発展の始まりだと言われているようです。石油産業の衰退後は企業誘致に成功し、1938年に(株)理研旋盤小千谷工場が旋盤の主軸台などの生産を開始しました。太平洋戦争がはじまると、東京から多くの工場が疎開してきて機械加工業が集積する地域となり、戦後も多くの企業が残りました。

消費地から遠く雪も多く、決して恵まれた立地とは言えません。だからこそ、当時の経営者は自分たちの力で何とかしようという思いが強かったのではないかと思います。ある社長に聞いた話しですが、小千谷の企業が独自の道を歩んだのは「この町には大企業がなかったため、自ら販路を切り開くしかなかった。だから、自社ブランドを持ったメーカーが多くなった」とおっしゃっていました。

多くの企業が独自の技能・技術を競争力の源泉として、長年、経営してきたわけですが、大きな転換を図らざるを得ない事態が起こりました。2004年10月に発生した新潟県中越地震です。市内の多くの企業が被災し、操業停止を余儀なくされました。幸いにも建物の柱が大雪に耐えられるよう太く頑丈だったので、多くは一部損傷程度の被害で済みましたが、それでも操業再開まで半月以上かかりました。これを機に、小千谷鉄工電子協同組合の組合員は今後について考え直す必要性を実感しました。当時、製造業は工場の海外進出とともに国内の空洞化が進み、また、団塊の世代の退職が始まり技能の低下が危惧されはじめた時期でもありました。そうした中、我々は何をすべきなのか何度も夜遅くまで話し合いました。

中越地震後のまちの様子

「小千谷の強みってなんだ?」という話しになり、「ボタンを押すだけの仕事は海外に出て行ってしまったが、マニュアルの技能は小千谷に残っている」という考えに、皆がはっと気付かされたような心持になりました。話を続ける中で、技能士の育成が必要であるとの結論に至り、若手社員の技能継承を目的とした研修機関を立ち上げることになりました。

これまでの取組

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若手社員の技能継承のための「テクノ小千谷名匠塾」

講座(座学)の様子

スタート時は試行錯誤の連続で、特に研修カリキュラムに関しては頭を悩ませました。ようやく納得できる内容が固まり、2007年4月、汎用旋盤、NC旋盤などの工作機械ごとに実技や学科が学べる技能士育成機関「テクノ小千谷名匠塾」を開講しました。

2009年には看板を掲げた建屋ができ、技能継承に役立つ研修ができるようになりましたが、内容については試行錯誤を続けました。旋盤ならこの人、フライスならばあの人というように際立った技能を持つ人が市内に何人もいましたので、時には会社の垣根を越えて、弟子入りのような形で講義をしてもらうこともありました。もちろん知識だけでなく、設備や道具を大切にする心や挨拶といった内面の学びも取り入れています。

国家技能検定の合格を目標に、現在は実技と学科あわせて年間32講座、うち10講座が初心者向け、1級、2級合格を目標にした中級者から上級者向けは22講座になっています。15年が経ち、合格者数は2020年末時点で170名を超えています。

今後の展開

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「匠が巧みな製品をつくる町」小千谷を目指して

今後も若手社員の技能継承については第一優先で進めていきます。さらに、テクノ小千谷名匠塾に関する情報を新聞等さまざまな媒体を利用して積極的に発信し、技能士の地位向上のための活動も行っていきたいと考えています。

いま、小千谷鉄工電子協同組合に加入している企業の従業員の総数は約3,500名になります。テクノ小千谷名匠塾での研修を経て合格した人数は170名程度と数を把握できていますが、各企業に在籍する国家技能検定に合格した技能士は相当な人数になるはずです。一度、技能士の数を調査したいと考えています。そして、この点をまちのアピールポイントとして活用し、「小千谷は技能士のまち」であり、「だから仕事が来る」、その結果「さらに人が集まる」という良い循環を継続し、それが町の活性化につながるように、テクノ小千谷名匠塾の取組を今後も続けていきます。

メンバーズインタビュー

技能継承が企業の発展、さらにはまちの発展につながる

佐治 正人さん

研修参加者
日本ベアリング株式会社
スプライン製造部

佐々木 辰徳さん

研修参加者
エヌ・エス・エス株式会社
製造部 製造第1課
グループリーダー

草野 洋さん

日本ベアリング株式会社
スプライン製造部
リーダー

永野 一哉さん

エヌ・エス・エス株式会社
製造部 製造第1課
課長

――本日はテクノ小千谷名匠塾の研修を受講した佐治さん、佐々木さんにお集まりいただきました。またお二人の上司である草野さん、永野さんにも同席していただいています。まず佐治さん、佐々木さんは、普段どのようなお仕事をされていますか。また、お仕事に就かれて何年目でしょうか。

佐治 日本ベアリングは産業機器のメーカーです。私は、スプラインと呼ばれる、外側に多数の歯をもつ軸の製造に携わり、旋盤工程で普通旋盤やNC旋盤を使用してスプラインシャフト(軸)の切削加工を担当しています。勤続9年目になります。

佐々木 工作機械用の精密機械部品を設計・製造するエヌ・エス・エスに勤めており、製造部のオペレーターとして縦型のNC旋盤で筒状の大型製品の加工を行っています。今年で18年目です。

――今回の研修はどのような内容だったのですか。また、その技能を学ぶ理由はどんなことでしたでしょうか。

佐治 当社の製品に搬送装置やロボットなどで使うボールスプラインと呼ばれる部品があります。これは長い棒のような形状で、部品の精度を決める重要な工程が最初の旋盤加工になります。部品の善し悪しが最初の旋盤で決まると言っても過言ではないほど、重要な工程になります。加工精度が求められ、高度な技能が求められます。そのスキルアップのために参加しました。今回、機械加工(普通旋盤作業)1級に取り組み、無事合格することができました。学科の対策として、テキストを使って機械加工全般の基礎知識、また実際に出た過去の問題を、解説を交えながら教わりました。実技の講義では目指す資格ごとに分かれるので少人数になります。私の時は4名でしたので、分からないところも詳しく指導していただき大変濃い内容でした。検定合格に必要な技能を習得するには大変良い環境でしたので、集中して学ぶことができました。

佐々木 当社の製品は、スピンドルという長い軸やハウジングと呼ばれる軸の外側の筒状のもので、旋盤加工に関する高い技能が必須な製品です。そこで、旋盤加工の担当者である私が挑戦したのは機械加工(数値制御旋盤作業)1級でした。名匠塾の研修では、基礎から教えてくれ、検定受検に向けたアドバイスを受けることもできました。学科講習では、過去の試験問題を中心に1問ずつ丁寧な説明を受け、また実技講習や加工手順、試験のポイント、加工チップの選定、加工ワークの“ビビリ対策”など細かいところまで教えていただきました。新型コロナウィルス感染症拡大の影響もあり研修参加者は私だけでしたが、その分、マンツーマンで指導を受けることができました。

――名匠塾へ社員を派遣している目的は何ですか。

草野 名匠塾の研修を参加させるようになったのは、今から15年前のことです。団塊の世代の定年による退職者の増加に伴い、技術の継承が会社としての課題となってきた時期でした。長い棒状の部品を製造しているので、全社的に旋盤の技能のスキルアップは不可欠になります。名称塾のベテランの講師の方から指導していただくことで、国家資格である技能士への挑戦を促し、個人の意識と技術のレベルアップを図りたいという考えから、ある程度経験を積んだ社員を優先しながら2005年頃より毎年数名、研修に参加させています。

永野 うちの社員が初めて名匠塾の研修を受けたのは、11、12年前のことです。当初は汎用旋盤の2級習得のための技能、知識向上が目的でした。その後も1年に2名ずつ技能取得を目指して参加しています。名匠塾ならベテラン講師が揃っていますので、旋盤加工について基礎から学べ、また、講師の方から評価を受けることで、自分自身に技能がどれくらい身についているのか知ることもできます。

――受講したお二人は、合格して変わった点とこれから受けてみたい講座はなんですか

佐治 1級を合格したことで、自信が持てるようになったことが大きいですね。以前は、加工を始める前に上司や先輩の指示を受けてその通りに行うのが精いっぱいでしたが、1級を合格したことで知識の幅が広がりました。技能面では、1級試験のための練習を積み重ねたことで加工精度、加工速度が向上し、自分なりに方法や手順を考えて進めていけるようにもなったと思います。そうした結果、職場でも高度な業務を任せてもらえるようになりました。次は、機械加工(数値制御旋盤)にチャレンジしたいです。

佐々木 私も同感です。また、名匠塾の研修を受けることで、普段業務の中で学ぶとの異なり、基礎から学ぶことができます。また、受講前は弊社の加工方法が当たり前と思っていましたが、まったく知らなかった加工方法を学ぶことができ、日常業務に役立っています。改めて安全を第一に考えようになり、初心に戻って仕事に取り組めるようになりましたし、1級の取得は大きな自信につながりました。次は特級を目指したいです。

――上司の方に伺いますが、社員を名匠塾に派遣するメリットは何ですか?

草野 作業者の技能が向上すると、製品の精度と加工スピードも上がります。結果的に弊社の製品のコストダウンになりますのでメリットとして大きいと思います。また、今までできなかった顧客要求精度を出せることによって受注の幅が広がりました。さらに、本人も述べていましたが、技能を習得した社員が自信を持てるようになったことは端で見て感じています。結果、仕事に対する姿勢が積極的になり、技能面以外でも成長が期待できることです。

永野 名匠塾の研修に参加しているのは、若手から会社の中核を担う中堅社員の幅広い層です。旋盤の基礎となる加工方法を学べるので、中堅社員は復習の意味も込めた学習を行い、実務での生産活動に役立てています。若手は基礎知識を0から学び、スキル向上に役立てています。また、国家技能検定という客観的な指標に基づいて評価されることで、仕事に対する意識が前向きなものに変わりますし、後輩への指導にも良い影響を及ぼします。そうしたさまざまな効果が出ています。

――今後、名匠塾に期待することはどんなことでしょう?

永野 名匠塾が企業間の交流の場になっています。同業種の方たちと仕事の情報交換を行い、同じ空間で受講することでお互いの会社の技能レベルを見て、感じることができ、良い刺激にもなります。他にはない特別な場所なので、これからもずっと続けてほしいですね。

草野 名匠塾の存在を多くの人たちに認知してもらい、技能の向上を目指す人がさらに増えてほしいです。優秀な人材がこの地域に集まるようになれば、技能の町としてさらに多くの人を引き付け、まちの活性化につながると思います。名匠塾はそうしたことを実現できる素晴らしい取組だと感じています。