PROJECT 04
令和2年度
実施主体:各務原人参ブランド推進連絡協議会
拠点:岐阜県各務原市
Overview
農業協同組合、地域産業、大学と自治体が一体となって目指す
「各務原にんじん」のブランド化
農業協同組合がにんじんの提供、大学は商品開発やレシピの考案、商工会議所は事業者への働きかけや協力依頼、自治体は商品の販売などの広報活動と、産学官がそれぞれの強みを活かした役割を担って、地域の特産品である「各務原にんじん」の商品化、ブランド化に取り組む。
代表者
Interview
産学官がそれぞれの得意分野を生かし、特産品の商品化・ブランド化をサポート
代表者プロフィール
代表者プロフィール
各務原人参ブランド推進連絡協議会 会長
各務原市園芸振興会 にんじん部会 部会長
薫田 雅之 さん
背景ときっかけ
地域の特産品のブランド化に産学官が連携
「各務原(かかみがはら)にんじん」は、岐阜県各務原市で栽培されているにんじんの通称です。各務原市は岐阜県最大のにんじんの産地で、全国的にも珍しい5~6月に春夏にんじん、11~12月に冬にんじんを収穫する二期作を行っています。
「各務原にんじん」のブランド化を目指して、ぎふ農業協同組合(JAぎふ)、各務原商工会議所、東海学院大学、各務原市が産学官連携協定を締結し、「各務原人参ブランド推進連絡協議会」を組織したのが平成29年4月です。
設立のきっかけは、同年3月の「JAぎふ各務原にんじん選果場」の完成でした。選果場の稼働で生産農家の負担は大幅に軽減され、生産量の拡大も期待されました。そこで出てきたのが、地域を挙げた「各務原にんじん」の商品化、ブランド化です。「各務原にんじん」を使ったお菓子や新メニューができれば、街の名産品にもなり、にんじんと各務原を一緒にPRできます。こうした商品化は、規格外のにんじんを含めた「にんじんの消費拡大」「農業経営の安定」にもつながります。
これまでの取組
学生の新商品のアイデアを関連団体がサポート
プロジェクトがスタートして3年目ですが、今はさまざまなことに挑戦しています。平成29年からスタートしたのが「各務原にんじん商品開発検討会」です。東海学院大学管理栄養学科で学ぶ学生が各務原にんじんを使ったレシピを考案し、市内の事業者に向けてプレゼンテーションを行うもので、毎年6月に開催しています。飲食店・菓子事業者などへの参加の呼びかけは商工会議所が行っています。
「各務原市にんじん料理コンクール」は市園芸振興会主催として平成20年から実施していたものですが、平成29年から各務原人参ブランド推進連絡協議会主催の「にんじん料理・スイーツコンクール」としてスイーツ部門を新設。このコンクールの優秀作品も、春夏にんじんと冬にんじんの収穫期に街の飲食店等で販売されます。
このほか、にんじんを使った料理教室、にんじん収穫体験、にんじん子ども食堂、レシピ本の制作・配布など市民に対するさまざまな各務原にんじんの普及・啓発活動も行なっています。
今後の展開
「各務原にんじん」の商品化とブランド化
全国のコンビニで販売された「コロロ各務原にんじんスムージー」も東海学院大学管理栄養学科の学生の発案です。各務原にんじんのブランド化は、「地元の特産品である各務原にんじんを使ったお土産を作ろう」ということから始まったプロジェクトです。東海学院大学が商品開発、JAぎふがにんじんの確保、商工会議所が事業者とのパイプ役になり、各務原市が広報を担う。それぞれの強みを活かしてタッグを組み、ブランド化を推進していることが、プロジェクトに活力を生む要因になっていると思います。
メンバーズインタビュー
「各務原にんじん」の商品開発が学生の実践的な学びの場に
デュアー貴子さん
(写真右)
東海学院大学健康福祉学部
学部長
豊田 愛菜さん
(写真左)
同 管理栄養学科4年
亀山 凌さん
(写真左から2番目)
同 管理栄養学科4年
纐纈(こうけつ)千智さん
(写真右から2番目)
同 管理栄養学科4年
――「各務原にんじん」のブランド化になぜ参画しているのですか。
デュアー 本学の管理栄養学科の1年生~4年生まで320人の学生全員がなんらかの形で「各務原にんじん」に関わっています。管理栄養学科は、「管理栄養士」「栄養士」「臨床検査技師」を育成する学科ですので、専門性を活かし社会に貢献できる地域活動や健康増進活動の実践を重視しており、この取組もその一つとして参画しています。
――具体的にはどういう形で参画しているのでしょうか。
デュアー 「商品開発検討会」に向けて、全学生がその年のテーマに基づき1人1品お菓子や料理を提案し、管理栄養士専門教員と学生で選定します。選ばれた学生が飲食店や販売店等が参加する「商品開発検討会」でプレゼンテーションし、試食品を提供するという手順で行われます。
――3人は大学4年生ですが、いつからどんな形で「各務原にんじん」に携わってきたのですか。
纐纈 にんじんの成分や栄養価を分析するなど1年生から関わってきました。
豊田 私は他県出身なので、大学に入学するまで各務原がにんじんの産地だと知らなかったのですが、今では見ると何か新しいお菓子や料理をできないかと考えるようになりましたね。
亀山 各務原市生まれですが、大学に入るまで「各務原市で採れるにんじん」くらいの認識でした。商品開発に取り組んだり、大学の圃場(ほじょう)で自分たちも栽培するようになって、ぼくらも「各務原にんじん」を大切に守っていかなければいけないと思うようになりましたね。
――商品開発する中で、学んだことは何でしょうか。
豊田 「にんじん料理・スイーツコンクール」に「各務原にんじんロールケーキ」で最優秀賞を受賞し商品化の機会を得たのですが、職人の方に商品化の過程でクリームと生地のバランスや盛り付け方などについてアドバイスいただきました。栄養価は気にしても見た目は気にしていませんでした。商品として売れるために何が大切かプロから学べたことは良い経験になりました。
纐纈 「商品開発検討会」ではプロの方のアドバイスいただける機会があります。岐阜県は日本書紀にも登場する薬草の宝庫ですが、私が考えたのはその丸薬を模した「各務原人参薬膳丸」です。にんじんは水分が多く、口の中でホロホロと崩れる触感をだすのに苦労していたのですが、後でプロの方に材料の下準備の大切さを教えていただきました。水分の多い食材の場合は、小麦粉を乾燥させて使うなど下処理に手間をかけることが大事なんですね。
亀山 ぼくが考えたのは、にんじん味とココア味の層を重ねて各務原台地の黒ぼく土をイメージしたシフォンケーキです。1年前の「商品開発検討会」で試食会の手伝いをしていた時に、そこにいた職人さんにアレルギーのある人にも食べられるシフォンケーキの作り方のアドバイスをもらって作ったものです。小麦粉の代わりに米粉、牛乳の代わりに豆乳を使っています。小麦粉のグルテンがアレルギーの原因になっているのですが、グルテンのない米粉は粘りがなくまとまりにくい。水の量や捏ね方など、検討会の後も何度もアドバイスをもらいながら作ったのが、このシフォンケーキです。
デュアー 商品開発検討会やコンテストでプロの方が真剣にアドバイスしてくださることが、学生たちの大きな財産になっていると思います。当初は栄養価や野菜摂取量の向上という観点から、にんじんの配合率の高いお菓子や料理を考案することが多かったのですが、提案した商品が採用されない現実に直面し、「商品が売れるためには何が必要か」を考えられるようになったと思います。最近は、事業者の製造ラインに負担がないことまで意識して商品を考案するようになってきています。
産学官連携で行っている「各務原にんじん」のブランド化は、PDCAサイクルを回しながら自分たちが地域社会で何ができるのかを考え実践する貴重な学びの場になっていると思います。
関係者インタビュー
プロジェクト関係者に聞いてみました。
規格外にんじんの商品化は生産農家の長年の夢
規格外のにんじんの廃棄は、にんじん生産農家の長年の課題でした。根が二股や三ツ股に分かれるのを岐根(きこん)といいますが、生育初期の天候不良や発育状況でどうしても出てしまうものです。岐根や形が少しだけ悪い規格外のにんじんは廃棄処分されます。畑ではキャロベスタ(にんじん収穫機)の後ろに1人付き、こうしたにんじんを除いて収穫し、「選果場」に運ぶのですが、それでも「選果場」から1コンテナ、悪い時には2コンテナが戻ってきます。引き取らなければ「選果場」で有料廃棄されます。
JAぎふ、各務原商工会議所、東海学院大学、各務原市が連携して進めている各務原にんじんの商品化は、にんじん生産農家の長年の夢でした。今まで泣く泣く捨てていた規格外のにんじんが、学生たちのアイデアで、地元の名産品や全国のコンビニで売られるような商品になるなら、こんなうれしいことはありません。祖父の代から各務原にんじんを作ってきた生産農家の率直な気持ちです。
プロジェクト関係者に聞いてみました。
「各務原にんじん」のファンを作る
「各務原市にんじん料理コンクール(現にんじん料理・スイーツコンクール)」は、各務原市園芸振興会にんじん部会主催、JAぎふ後援で、平成20年から実施してきました。
「各務原にんじん」の出荷量は全国20位前後で、主な出荷先も、岐阜県、名古屋市、石川県の市場が中心です。にんじんの主な産地は北海道、徳島県、千葉県ですが、にんじんを買うときに産地を意識する人はほとんどいないと思います。「各務原にんじん」のブランド化の目標は全国に出荷先を広げていくためではなく、岐阜県、名古屋市、石川県の市場に出荷された時に優位になるためのブランド化だと考えています。イオン各務原店やアピタ各務原店といった地元の量販店でも、それは同じです。「各務原にんじん」の商品化を通してファンを作っていくことが、「各務原にんじん」の安定販売につながると思っています。
プロジェクト関係者に聞いてみました。
商工会議所のネットワークをフル活用
「各務原にんじん」ブランド化のための連携協定に参加要請があったのは、市内の事業者とのネットワークを期待されたからだと思います。
「各務原にんじん商品開発検討会」は最初地域貢献に関心のある飲食店や洋菓子店、喫茶店などに声をかけました。参加した職人の皆さんが、試食の時、学生に真剣にアドバイスをしている姿を見て、各務原にんじんの商品化やメニュー化に手応えを感じました。
各務原にんじんは二期作とはいえ、収穫時期が決まっています。お店の定番メニューとして年間を通して出せるわけではありません。それで考えたのが、「各務原にんじん大収穫祭」の時期に、市内の飲食店や洋菓子店に商品開発検討会やコンクールの入賞メニュー、あるいは事業所独自に考えた季節限定メニューを出してもらうことです。今後はこうした展開を広げて、商品開発検討会の参加者をさらに増やすことが目標です。
プロジェクト関係者に聞いてみました。
次は各務原にんじんを使った和菓子を
商品化してお店で販売したのは「各務原人参薬膳丸」です。平成30年に「商品開発検討会」に参加して、丸薬を模したお菓子という発想が面白いと思い商品化しました。ただ、レシピ通りの作り方だと1日経つと硬くなってしまったので、商品化にあたり、このお菓子のもつ魅力をもっと引き出すように仕上げました。
「各務原人参薬膳丸」はバターを使っている洋菓子です。和菓子店が洋菓子を作るのも面白いと思っています。先代も、各務原にんじんを使った洋菓子を作っています。昭和63年の「ぎふ中部未来博」に、出品したにんじんゼリーです。
地元の特産品であり、春夏にんじん、冬にんじんという季節感がある各務原にんじんは、いい素材になり得ると思います。今後も各務原にんじんを使ったユニークな商品のアイデアが出てくることを期待しています。