「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 04

令和3年度

ものづくり教育・学習フォーラム

PROJECT DATA

実施主体:大田区教育委員会

拠点:東京都大田区

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Overview

地域のものづくりの価値を知り、
子どもたちが自らものづくりの楽しさを体験

技術立国・日本を支えてきた東京都大田区の町工場。現在、大田区教育委員会では、区内の町工場、団体と連携しながら、児童・生徒とその保護者を対象にものづくり産業への理解を深めるイベント「ものづくり教育・学習フォーラム」を開催している。小・中学校だけでなく、特別支援学校や区内の高校、専門学校、大学も参加して、ものづくりの重要性や技能・技術が果たす役割への理解を深める機会として、毎年多くの来場者を集めている。小学校では、大田区の特色を活かしたものづくりの体験を通じて、実践的な教育への展開へと取組は地域に広がっている。

代表者
Interview

大田区の地域振興のため、学校教育の立場からものづくりを次代に伝える役割を担う

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

大田区教育委員会 統括指導主事

志賀 克哉 さん

背景ときっかけ

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自分たちが住む地域の価値を再発見してほしい

ものづくりのまち・大田区には4,000もの製造工場があり、特に中小の工場が多く集まっています。巨大な宇宙ロケットの部品から手のひらに収まるIT機器のパーツまで、多様な最先端テクノロジーを支える「削る」「磨く」「形成する」など匠の技を有した職人が集まった、世界でも類を見ない地域といえるでしょう。大田区に空から図面を投げ込むと、どんなものでも翌日には見事な製品になって出てくる…。そんな言葉があるぐらいです。

大田区は平成12年度からスタートした文部科学省のものづくり学習振興支援事業における推進地域にも選ばれ、その取り組みの延長線上として平成14年にスタートしたのが「ものづくり教育・学習フォーラム」でした。大田区に住んでいても、自分たちの地域が世界に冠たるものづくりのまちだと知らない子どもや保護者が少なくありません。このイベントには、自分たちが住む地域の価値や楽しさをあらためて発見し、日々の学びや将来の職業選択につなげてほしい…。そんな願いが込められています。

これまでの取組

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新しいものづくりを取り入れるなど、「ものづくり教育・学習フォーラム」を発展させていきたいと語る志賀統括指導主事

ものづくりのまちとしての地域振興活動の一環として大田区全体で取り組んでいるものに、2021年度で開催20回を迎える「ものづくり教育・学習フォーラム」があります。現在は大田区産業プラザPiOを会場として年に一度開催し、ここ数年は6,000~10,000人程度の来場者を集める人気イベントとなりました(令和2年度はコロナ禍で中止)。

「ものづくり教育・学習フォーラム」では、学校での教科学習や総合的な学習の時間などでものづくり体験を舞台で発表する「学習発表会」と、作品や成果の「展示発表」、技術科・家庭科各部門の「技術コンテスト(中学生のみ)」、さらに区内の企業・団体のものづくり指導者等が子どもたちに、ものづくりの楽しさを伝える「ものづくり体験会」を実施しています。

各学校の先生方も多忙な日々の中で準備や子どもたちの指導に意欲的に取り組んでくださっています。

フォーラムの「ものづくり体験会」は様々なものづくりを実際に行えるということで、毎年行列ができるほど人気を集め、親子でリピーターとなり毎年参加される方も少なくありません。多くのブースを見ていただくため、スタンプラリーを実施し、また、区の環境清掃部による環境やSDGsに関わる学びの場もあり、子どもと保護者に材料~製作~廃棄までのトータルなものづくりの知識を広げる取り組みを行っています。

今後の展開

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ものづくり体験会の様子(ものづくり教育・学習フォーラム)

好評をいただいている「ものづくり教育・学習フォーラム」ですが、今後の課題として町工場の方々が高齢のために参加を辞退されることが増えてきているので、関係団体の力も借りつつ新しく協力していただける町工場を新規開拓し、また、3Dプリンターなど新しいものづくりも取り入れていきたいと考えています。

これまでも、区内にある私学の大森学園高等学校や蒲田女子高等学校のほか、都立六郷工科高等学校、都立つばさ総合学校の生徒のみなさん、さらに都立矢口特別支援学校のみなさんにもフォーラム開催に協力していただいています。今後はさらに区内の高校や特別支援学校、専門学校、大学、ものづくり関係のNPOなどの団体にも協力を仰いで、人と人のつながりを大切にものづくりのまち・大田区が一丸となって取り組む教育イベントにしていきたいと願っております。

現在、区内の小学校では「未来ものづくり科(仮称)」という大田区オリジナルの新しい教科のカリキュラム開発に取り組んでおり、その成果もフォーラムの発表や展示で垣間見ることができます。今後は伝統的な技能・技術とともに、近年の技術革新の成果も盛り込みながら、双方の良さを学ぶことができるプログラムの充実を「未来ものづくり科(仮称)」との連携を踏まえながら進めていきたいと考えています。

メンバーズインタビュー

自分の手を動かし、自分の頭で考えて
創意工夫する楽しさを知ってもらいたい

大田区立道塚小学校
校長
大場 寿子さん

――道塚小学校と「ものづくり教育・学習フォーラム」との関わりについてお聞かせください。

大場 私たちの小学校では、大田区が構想している新たなものづくり学習「未来ものづくり科(仮称)」のカリキュラム開発のための研究授業を全学年で行っています。「新たな『知』を創造する児童の育成をめざして」をテーマとするこの研究授業では、大田区工業連合会や区内の町工場などとも連携したものづくり体験を含み、いままでのものづくりから最近のデジタル技術までをカリキュラムに取り入れています。

たとえば、2年生の生活科では紙テープによるコマづくりに取り組んでいますが、大森工場協会「おおたコマプロジェクト」の方々にご協力いただきました。5年生では「道塚YouTuber」と銘打ち、生徒たちが動画による「自分が好きなこと」に関する情報発信を通して、生活の楽しさや笑顔をつくる動画のアイデアを考える中で情報発信の課題や著作権の大事さも学んでいきます。道塚小学校の子どもたちは、こうした研究授業の成果の発表と展示を行っており、多くの方々にご覧いただいています。

未来ものづくり科 (仮称) 地域伝統ものづくり(コマ)の授業風景

――小学生が地域の「ものづくり」について学ぶ意義はどのようなところにあると思われていますか?

大場 大田区には、最先端の技術の粋を集めて製造される宇宙ロケットや新幹線に欠かせない技術・技能を持った企業もあるのですが、多くの子どもやその保護者にはあまり知られていませんでした。フォーラムは、地域のものづくりの担い手の方々と子どもたちとの出会いの場をつくるという意味でも素晴らしい試みだと思います。職人さん、工場の方々が喜んでご協力いただいており、子どもたちもかけがえのない学びができていると感じます。

おもちゃをつくる面白さや見えない力で動く不思議さに気が付く

いまの子どもたちにとって、ものをつくるという機会が少ないのが現実です。そこでまず、自分の手を動かし、自分の頭で考えて創意工夫するものづくりの楽しさを知ってもらうことが大切だと考えました。生活科をはじめ、図画工作科、理科、社会科、総合的な学習の時間、さらに国語科などで教員がそれぞれとても魅力的な授業を考案し、実践されています。

身近なものを使い、工夫しながらものづくりに取り組む

――「未来ものづくり科(仮称)」の研究授業とフォーラム参加をどのように連動させているのでしょう?

大場 研究授業とフォーラムに関わる教員はお互いの授業見学とその結果を話し合う協議会を通して、よりよい授業やフォーラムでの発表ができるよう務めています。本校以外でも区内の2校が「未来ものづくり科(仮称)」の研究授業を行っており、それらの学校との情報交換も欠かせません。学校全体として、教員が同じ気持ちになって、双方に取り組んでいくことが大切だと考えています。そのための方策としては、フォーラムへの参加と各教科の教員の日々の教育活動とつなげて取り組んでもらうように心がけています。こうした取り組みを一つひとつ積み上げながら、大田区でしかできない「未来ものづくり科(仮称)」の学びを作り上げていきたいと考えています。

研究授業後の全体会 の様子

生徒はもちろん、教員の「ものづくり」への意識が高まった

大田区立大森第七中学校
校長
増元 啓彰さん

――「ものづくり教育・学習フォーラム」との関わりについてお聞かせください。

増元 私はもともと技術科教員です。かつて技術科と家庭科教員の研究部会の中で、「ものづくりのまち・大田区」にふさわしい取り組みとして生徒による夏休みの競技会を立ち上げました。技術科の課題は板を、家庭科の課題は布を使って、それぞれ時間内に本立てや袋など完成品を作り上げ、教員が中心になって採点する技術コンテストです。競うばかりではなく道具の使い方や安全教育の面でも大いに成果がありました。それが現在の「ものづくり教育・学習フォーラム」で実施されている中学生の「技術コンテスト」につながっていきます。

――平成14年度に「ものづくり教育・学習フォーラム」がスタートする以前から区内の技術科、家庭科教員の方々がその礎を築いていたわけですね。

増元 はい、そうなります。以後は、技術科、家庭科以外の図画工作、理科、社会、さらには総合的な学習の時間などの先生方も参加し、作品発表や体験学習などの成果発表が加わって、現在のスタイルになっていきました。もう20回を数えるわけですが、その歴史の中で児童・生徒はもちろん、教員側にも「ものづくりのまち・大田区」の意識が高まってきたと感じています。どの先生方もとても熱心に取り組んでいただき、一度他区へ転出して再び大田区に戻ってきた先生が「また、フォーラムの準備をやらせてもらいます!」と目を輝かせているのを見るとうれしくなりますね。

――中学生の技術コンテストへ参加する生徒はどのように選ばれるのですか?

増元 コンテストに出場する生徒は授業の中で優れた能力を身につけた生徒を選ぶ学校もありますし、また、部活動として取り組んで参加する学校もあります。中学生の場合は、小学生と異なりフォーラムでの発表や競技会への参加は部活動との兼ね合いがあります。各学校の先生方もそこは苦労されているかもしれません。もちろん、競技コンテストに情熱を燃やす生徒も少なからずいて、3年間通して出場し、見事入賞を果たした生徒もいました。

――今後の「ものづくり教育・学習フォーラム」にどのようなことを期待されていますか?

増元 近年は区内の高校生や専門学校生の協力が増えており、今後も大学を含め区内教育機関の輪を広げていきたいと思っています。フォーラムで、年齢の近い「おにいさん、おねえさん」からものづくりの喜びを伝えてもらうことの意義は大きいと感じます。高校生と接した小学生が「あの人が学んでいる高校に自分も進学したい」と志望校を決めるきっかけとなったケースもあったそうです。子どもたちにものづくりへの大きな夢と希望を与えてあげられるよう、私たちも精一杯知恵を絞っていきたいですね。

ものづくり競技会の様子(木工部門)
ものづくり競技会の様子(ソーイング部門)
  • 一部撮影用にマスクをはずした写真が掲載されておりますが、ソーシャルディスタンスを確保するなど取材は新型コロナウィルス感染症対策を講じて撮影しています。