PROJECT 08
令和元年度
実施主体:愛媛県立西条農業高等学校
拠点:愛媛県西条市
開始:平成28年4月
Overview
愛媛県西条市発
地域とともに育てる
未来の担い手プロジェクト
愛媛県西条市では愛媛県立西条農業高等学校が中心になり、地域の事業主団体や企業と一体となって「地域とともに育てる未来の担い手プロジェクト」を推進しています。環境工学科では愛媛県造園緑化事業協同組合の協力で造園の実践的な技術・技能を習得。食農科学科では石鎚山サービスエリアと共同で地元食材を使った新メニューの開発を行っています。
代表者
Interview
地域の将来を担う人材をどう育てていくか。
農業高校が地域の中心になった農業の六次産業化にこそ活路はあると思っています。
代表者プロフィール
代表者プロフィール
愛媛県立西条農業高等学校 校長
松永泰 さん
愛媛県立西条農業高等学校創立100周年の平成30年から校長に着任。西条市と連携し、農業高校を中心にした六次産業育成プロジェクト(仮称)を推進
背景ときっかけ
農業高校に後継者が
入学しない現実をどう変えるか
愛媛県ははだか麦生産日本一で、西条市がその半分を生産しています。農業高校の入学者というと昔は農家の後継者が多かったのですが、農業が盛んな西条市の農業高校でも今はそういう生徒はほとんどいません。動物好き、植物好き、料理好き、勉強が苦手など、いろいろな生徒が入学し、7割は地元企業に就職します。その一方で、農家の高齢化、後継者不足は深刻です。そういう中で、地元事業主団体や企業と農業高校が一体となって地域の将来を担う人材を育てていこうというのが、平成28年から行っている取組です。
これまでの取組
マイスターと創る「十坪(とつぼ)庭園」、
サービスエリアとのメニュー開発
環境工学科では技能検定の課題を活用し、愛媛県造園緑化事業協同組合の協力で造園の技術・技能を習得しています。指導に来られるものづくりマイスターの方も最初は東予地区のみでしたが、今は全県から来ていただいています。さらに3年生時には、マイスターのアドバイスを得ながら「十坪庭園」の施工も行っています。伊予青石など地場産品を使用しながら本格的な庭園の作成にも取り組んでいます。
食農科学科では、石鎚山サービスエリアと新メニュー開発に取り組んでいます。これまでトマトを麺に練りこんだトマトラーメン、愛媛県で西条市が生産量一のほうれん草の麺を使ったホウレンソウうどん、愛媛県産の味噌とマヨネーズを使ったフィッシュバーガーを開発しています。また、ホウレンソウうどん、フィッシュバーガーには、学校内で水耕栽培し、商品登録もしているサラダ菜「うまいぞ菜」を使用するなど地域の産品を活かした商品開発をしています。
今後の展開
農業の六次産業化を通して
未来の担い手を育てる
こうした地域との人材育成の取組を、今後はもうひとつ大きな枠組みの中で展開していこうと考えています。西条農業高校では今、市と一緒になって「六次産業育成プロジェクト(仮称)」を進めています。農業高校が中心になって、市はもちろん、県やJA・地元農家、関係団体、愛媛大学、小・中学校などと連携しながら、地域の未来を担う人材を育て、農業の六次産業化を通して西条市の発展に寄与していこうというプロジェクトです。環境工学科と食農科学科の取組は、地元の関連産業への就職を促すだけでなく、農業の六次産業化による西条市の発展につながる第一歩だと考えています。
メンバーズインタビュー
授業では学べないこと プロが教えてくれたこと
造園メンバー
池内剛三さん
愛媛県造園緑化事業協同組合理事長。平成24年から理事長を務める
谷口哲宏さん
愛媛県立西条農業高等学校環境工学科教諭。造園コースを教える剣道部顧問
倉本永遠さん
愛媛県立西条農業高等学校環境工学科造園コース3年。技能検定2級を目指す
森まゆきさん
愛媛県立西条農業高等学校環境工学科造園コース2年。技能検定3級を目指す
造園組合のマイスターが
造園実習に協力
谷口 環境工学科造園コースの3年生は、造園職種3級合格、毎年11月に校内で行われる産業祭に向けた「十坪庭園」の施工を大きな目標にしています。技能検定合格に向けた実習は、2、3年生を対象に毎年5月から7月にかけて5回、愛媛県造園緑化事業協同組合の方を毎回3人ほど派遣していただき、指導に当たってもらっています。昨年度は2年生の3級合格者が3人いて、今年度彼らは2級検定に臨みます。
池内 組合が派遣を始めたのは、マイスターのスキルを肌で感じてもらうことで、若い人に造園の魅力を知ってもらいたかったからです。造園が若い人の就職の選択肢に入っていないんですね。指導を受けたマイスターとのつながりが、将来の就職のきっかけになることも期待しています。
谷口 技能検定に向けた実習は基礎技能の習得が目的ですが、「十坪庭園」は生徒の自由な発想で設計してもらっています。まず、3年生全員が「十坪庭園」の図面を制作。生徒同士の投票で2作品に絞ります。選ばれた図面を制作した2人がリーダーとなって、2つの「十坪庭園」を施工します。
池内 図面が選ばれた後、実際の「十坪庭園」の施工にマイスターも協力していますが、高校生の発想には刺激を受けますね。「たたき」の通路の中に数ヶ所、ビー玉と楕円形の石や細長い石を組み合わせ「猫の足あと」や「トンボ」を描いたアイデアがありました。小さいお子さんのいる家庭で実際に喜ばれる面白いアイデアだと思いましたね。
──「十坪庭園」を実際に作る3年生として、そのあたりをどう見ていますか。
倉本 僕は庭園をデザインするより、図面どおり作ることに関心があります。マイスターが教えてくれる技は、竹垣の結び方一つ取っても違います。種類も多いし、時間がたっても緩まない。学校の学習だけでは、そういう技のすごさは学べなかったと思います。
森 私はデザインが好きで、どちらかというと図面を描くことに関心がありますが、マイスターが教えてくれる技能は、一つ一つが実際に仕事で使われている技です。マイスターの言葉には、授業とは違う説得力を感じます。
メンバーズインタビュー
授業では学べないこと プロが教えてくれたこと
新メニュー開発メンバー
髙内康雄さん
愛媛県立西条農業高等学校食農科学科教諭。食品製造班、3年学年主任
川﨑稜也さん
愛媛県立西条農業高等学校食農科学科食品製造班3年。将来は農業関連の公務員に
岡田隆杜さん
愛媛県立西条農業高等学校食農科学科食品製造班3年。将来は寿司職人に
サービスエリアの
新メニューを共同開発
髙内 石鎚山サービスエリアとの連携は平成28年からです。そのころ食農科学科野菜班は「廃棄トマトの有効利用」の研究をしていて、それを利用した製麺方法を確立させ、地元の小中学校でトマト麺を使った料理の体験実習を行っていました。それがきっかけで、石鎚山サービスエリアからメニューの共同開発の申し出があったのです。昨年は野菜班から私の担当する食品製造班に変わり、「西農味噌マヨフィッシュバーガー」を商品化しました。私自身は、生徒が考えた商品のアイデアに対してアドバイスはしますが、基本的には生徒たちとサービスエリアで商品開発を行っています。
川﨑 今回の依頼内容は、ファストフードコーナーを改装するので、ハンバーガーを作って欲しい。「高校生らしさ」と「西農らしさ」のあるものという条件でした。「西農らしさ」で考えたのは、学内で水耕栽培しているサラダ菜とはだか麦から作った味噌を使うことでした。豚味噌炒め、ライスコロッケ、フィッシュの3種類のバーガーを提案し、選ばれたのが岡田くんのフィッシュバーガーでした。
岡田 魚は味噌に合うのと僕が魚が好き好きだったから出てきたアイデアですが、サービスエリアの設備やコストから最終的には選ばれたんですね。
川﨑 ファストフードコーナーには炒める設備がなく、フライヤーしかない。豚肉は衛生管理が難しい。カット野菜はコスト高になる。売るものを作るとはどういうことか。学校では得られない貴重な経験だったと思います。
FOCUS
プロジェクト関係者に聞く
「ここでしか食べられない」コラボメニュー
インターネットでなんでも買える時代だからこそ、「ここでしか食べられないもの」が強みになります。松山自動車道の石鎚山サービスエリアに近い西条農業高等学校とのコラボメニューがまさにそれです。地元の生徒が作ったメニューということで、新メニュー登場のたびに新聞やテレビに取り上げられます。「若い人ががんばっているサービスエリア」というお客様の声も多く、リピートも非常に多いメニューです。
新メニュー作りは毎年6月ごろから。サービスエリアの厨房に生徒たちに実際入ってもらい、料理長とナンバー2の料理人の立会いで、販売することを前提に改善し、少なくとも3回は試作を繰り返します。
昨年の「西農味噌マヨフィッシュバーガー」発売は11月。生徒さんの家族にも来てもらい、石鎚山サービスエリア初のイルミネーションの点灯式もいっしょに行いました。実は、コラボメニューの共同開発を西条農業高等学校に持ちかけたのは、サービスエリアのスタッフにOBがいて、その活動を知ったからでした。伊予鉄会館には毎年数名、西条農業高等学校の生徒が入社してきますが、自分で考えたメニューを社員として売ってくれる生徒が現れたらうれしいですね。