「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 07

令和2年度

「スマコマながさき小型モビリティコンテスト」による後進若年技能者育成への取組 高校生・大学生と中小企業の交流企画行事

PROJECT DATA

実施主体:信栄工業有限会社

拠点:長崎県長崎市

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Overview

小型モビリティコンテストが実現する
中小企業と高校生・大学生のものづくり交流

坂の街・長崎の小型モビリティカーの製作コンテストを通した高校生・大学生と中小企業とのものづくり交流の取組。若者の地元企業への雇用促進だけでなく、若い力による産業振興で地域課題を解決していくことを目指している。

代表者
Interview

電動車両の製作を通して長崎の若い力で産業振興を目指す

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

スマコマながさき実行委員会 委員長
信栄工業有限会社 代表取締役社長

樫山 和久 さん

背景ときっかけ

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ものづくりを通した地元の中小企業と高校生・大学生の交流の場

長崎県の中小企業と高校生・大学生がものづくりを通して交流し、長崎の若い力による産業振興を目指す民間発の取組です。スマコマ:SMACMAは「small and medium enterprises and academia collaboration Manufacturing」の略、目的をそのまま英訳したものです。

長崎は三菱重工創業の地で、造船関連産業を中心にものづくり企業が集積し、技術力に優れた中小企業は数多くあります。長崎の工業高校は技能競技大会などの入賞者が多く、全国的に見ても非常に優秀です。しかし、その7割は福岡や愛知等を中心とした県外の企業に就職してしまいます。大学生もほぼ100%県外に就職してしまいます。長崎の工業系の高校生や大学生と地元の中小企業とがお互い知り合える場を作ることで地元企業への雇用を促進したい、ということで平成26年にスタートしたのが「スマコマながさき小型モビリティコンテスト」です。残念ながら今年はコロナ禍で中止になりましたが、昨年までに6回開催しています。

これまでの取組

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小型モビリティの走行性、登坂性、操縦性を競うコンテスト

コンテスト会場のあたご自動車学校

「スマコマながさき小型モビリティコンテスト」の運営方針は、協賛企業と参加大学・高校の先生など20人前後で構成される実行委員会で2カ月に1度の会議を開き決められます。4月にキックオフ、6月まで参加者募集、8月には県内の中小企業と参加する高校生と大学生の交流会、11月に本番というスケジュールで行われます。

コンテストには、県内の高校や大学のほか、第3回から県内や福岡県の企業も加わり、高校生、大学生、社会人チーム合わせて10チーム前後が参加。各チームで製作した電動の小型モビリティを走行させ、その車両の走行性、登坂性、操縦性などの性能を競うもので、長崎市のあたご自動車学校を会場に行われます。

今後の展開

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雇用促進だけでなく、地域への貢献、新たな産業の創出も

企業にとってスマコマには高校生・大学生の地元企業への入職だけでなく、電動車両の製作を新たな産業として創出し、化石燃料に頼らないまちづくりを進めるというもう一つの目的があります。坂が多く、自動車が日常生活に欠かせない長崎市の実情があります。コンテストを単なるスピード競争ではなく、走行性、登坂性、操縦性などの性能を競うものとしたのも、そうした理由からです。長崎大学工学部などとの協働で開発した「電動手すり」も同じです。長崎は坂だけでなく、階段道も多い街です。その階段道の昇降をアシストしてくれる装置が地域への貢献だけでなく、新たな産業の創出につながればと思っています。

メンバーズインタビュー

長崎市で活躍できる電動車両の性能を競う

藤山 恒彰さん(写真左)

スマコマながさき実行委員会 事務局

樫山 和久さん(写真右)

スマコマながさき実行委員会 委員長/信栄工業有限会社 代表取締役社長

――参加チームの電動車両の開発はどのように行われているのでしょうか。

藤山 高校生はクラブ活動か3年生の課題研究、大学生はサークル活動か卒論のテーマとして参加しているところが多いですね。4年前の第3回からトヨタ自動車九州など企業もコンテストに参加するようになりました。トヨタの場合は開発グループの入社2年目の社員が参加しています。スマコマは入社間もない社員が車両の全体の開発に関われる貴重な機会になっていると聞いています。

――コンテストは、どういう仕組みで行っているのでしょうか。

樫山 まず、モーター、バッテリーやコントローラーはスマコマ実行委員会が同じ部品を提供し、改造も禁止しています。電動車両の性能はこれらの性能に大きく左右されるからです。各チームはステアリング、サスペンションなどその他の部分の、製作力、設計力で競うことになります。

藤山 コンテスト当日は、まず各チームの車両のプレゼンテーションが行われ、その後タイムアタックレースが行われます。

タイムアタックレース前に行われる車両プレゼンテーション

タイムアタックレースは、会場に同じコースを2つ作り、1レース2チームが同時にスタートします。順位は走行タイム+ペナルティタイム=合計タイムで決定します。コースにはパイロンや階段などが設置され、パイロンに触れたら+5秒、階段を登れない時は+1分30秒というようにペナルティタイムが加算される仕組みです。

長崎市の眼鏡橋をイメージした階段。ピンポン球が1個落ちると3秒のペナルティ

樫山 階段は市内にある眼鏡橋をイメージしたものです。タイムアタックレースに出る車両には走行中の安定性や操作性を問うため、ピンポン球が入ったボウルが取り付けられ、一個落ちるたびに3秒のペナルティタイムが追加されます。階段を入れているのは、長崎市を走行できる電動車両の開発がスマコマの目的の一つになっているためです。

――「電動手すり」の開発もその一環ということでしょうか。

樫山 そうです。長崎市十人町の階段道に設置した「電動手すり」は、我々と長崎大学工学部、医学部保健学科との協力で実現したものです。これまで階段道にゴンドラを設置した例はありましたが、欠点は高齢者が運動不足になることとコストでした。「電動手すり」は、もともと階段道にある手すりを利用して設置でき、コストもゴンドラの10分の1で済みます。

手すりにはセンサーが付いていて、握ると動き、手を離すと止まる

――スマコマは、今後どういう展開を考えているのでしょうか。

樫山 スタート当初から考えていたことですが、できればこの活動を小中学校まで広げていきたいと思っています。小中学生に長崎で活躍する未来の電動車両を描いてもらい、高校生・大学生が具体化し、さらにそれを企業が支援する。そうしたスマコマの活動が地域の産業振興の新しいタネになればと考えています。

メンバーズインタビュー

大学では学べないトータルな車づくり

齋藤 菖平さん(写真左)

長崎総合科学大学 大学院工学研究科生産技術学専攻 修士2年

平子 廉さん(写真右)

長崎総合科学大学 工学部工学科機械工学コース 教授

ーー齋藤さんがスマコマに参加したのはいつですか。

齋藤 第5回と6回に参加しています。私ともう一人の機械工学コースの研究室のメンバーが中心となって製作に当たっています。行き詰ったり作業に人数が必要になったりした場合は、同じ研究室の先輩方や同期に協力してもらっています。

ーー最近のコンテストでは企業や大学ではなく、工業高校が優勝しています。要因は何だと思いますか。

平子 初期に比べると工業高校の実力が上がっています。指導する先生方のノウハウの蓄積が大きな要因だと思いますが、企業や大学は車両に組み込む技術にこだわり過ぎていることも優勝できない要因ではないかと思います。

齋藤 第5回から階段コースが設置されたこともあり、オフロードでも走破性を発揮する四輪駆動車の製作を目指しました。チェーンとスプロケットを用いて四輪駆動を実現させたのですが、過去に四輪駆動車の製作例がなかったので、この案にたどり着くまでにかなりの時間を要しています。また、その影響でコンテスト直前にステアリング機構の変更も行っています。すでにある技術で臨む方がコンテストには有利なのかもしれませんが、それでは面白くない。やはり、技術的にも納得のいく車両でコンテストには参加したいと思いますね。

コンテスト会場で製作した車両のプレゼンテーションをする齋藤さん
タイムアタックレースに挑む長崎総合科学大学チーム

ーースマコマに参加して長崎の中小企業に対するイメージは変わりましたか。

齋藤 参加前は造船のイメージが強かったですが、自動車などほかの産業にも注目するきっかけになりました。長崎で造船以外の製造業がさらに盛り上がればいいと思います。

ーーこれまでのスマコマの活動をどう評価していますか。

平子 高校、大学、県内中小企業、銀行、大手自動車会社および長崎県を巻き込み、これまで6回も継続できたことは大きく評価できます。長崎総合科学大学はスマコマを第1回から後援してきましたが、その大きな理由は、スマコマは自動車産業がない長崎に自動車産業を呼び込む活動だからです。「ものつくりとしての実行力」という長崎総合科学大学の理念とも合致します。加えて、スマコマに参加したことが学生や生徒の就職の際のアピールポイントになっている点も評価できると思います。しかし、それ以上に評価したいのは、スマコマが学生たちに、自ら電動車両のコンセプトを考え、設計、製造、走行までを行うトータルな車づくりの機会を提供していることです。これは大学や高校の授業では決して学べないことだと思います。