「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 03

令和2年度

「飛騨の匠」技能育成プロジェクト ~技能開発委員会による若手、後継者育成の取組~

PROJECT DATA

実施主体:協同組合飛騨木工連合会

拠点:岐阜県高山市

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Overview

若手に「飛騨の匠」の心を育む

飛騨木工連合会に技能開発委員会が設置されたのは平成8年。バブル崩壊後、家具の海外生産、機械生産が進む中、飛騨木工連合会が推進してきたのは「技能労働者の技能向上」と「技能を尊重する社内風土を育むこと」だった。24年の時を経て、技能教育に力を入れる企業も増え、技能検定合格者は倍増、技能五輪全国大会でも毎年入賞し、その取組は確実に実を結んでいる。

代表者
Interview

「飛騨の匠」を育てる技能講習会

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

協同組合 飛騨木工連合会 技能開発委員会顧問
飛騨産業 株式会社 生産設計

板屋 敏夫 さん

背景ときっかけ

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機械化で疎かになった個々の技能

豊富な森林資源に恵まれた飛騨は、昔から木工が盛んです。奈良、平安時代には都の造営に飛騨の木工職人が税の代わりに駆り出され、彼らは「飛騨の匠」と呼ばれていました。その飛騨で、洋式家具が作られ始めたのは大正時代。協同組合 飛騨木工連合会(以下、飛騨木工連)も昭和25年に設立されています。

飛騨の家具が転機を迎えたのがバブル崩壊後です。家具の海外生産、低価格化が進む一方、飛騨の木工会社も機械化で個々の技能の向上を疎かにしていたのです。このままでは「飛騨の匠」は死語になり、木工業界に未来はない。今後、飛騨の木工業界が勝ち残っていくためには、「技能労働者の技能向上と技能を尊重する社内風土を育むことが大事だ」という問題意識から、平成8年に飛騨木工連の中に作られたのが「技能開発委員会」です。木工技術の維持・向上を推進していくための専門部会です。

これまでの取組

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若手を対象に「技能講習会」を実施

技能開発委員会が取り組んだのは、若手を対象にした「技能講習会」でした。これには「基礎技能講習会」と「技能検定学科試験事前講習」がありました。

「基礎技能講習会」は、家具づくりの基礎から学習するものです。今はかなり講座の種類が増えていますが、初年度は「一般家具製作知識」「刃物研磨方法と工具・機械の手入れ方法」「木工工具・機械の種類と使用方法」の3講座で、それぞれ土日の午前9時から午後4時までの2日間です。「刃物研磨方法」なら刃物メーカーから講師を招くなど、それぞれの分野の専門家を招いてカリキュラムを組んでいます。

「技能検定学科試験事前講習」は、技能検定を受検増だけではなく、家具づくりをカバーする職種や作業を増やす努力もしてきました。同時に、委員会メンバーによる実技研修も積極的に行ってきました。当初、受講できたのは「家具製作(家具手加工作業)」「塗装(木工塗装作業)」「家具製作(家具機械加工作業)」の3つでしたが、今は「家具製作(いす張り作業)」「機械木工(機械木工作業)」「機械木工(木工機械整備作業)」を加え6つになっています。

この結果、技能検定の合格者は当初は全体で1級・2級合わせて203人だったものが、令和元年度は532人に増えました。当初は飛騨木工連が主体となって行っていた事前講習も、受検者が増えてからは各企業が独自に行うようになっています。

今後の展開

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いい仕事はトータルなものづくりから

地域団体商標として登録された「飛騨の家具」のロゴ

平成20年に飛騨木工連として実施したのが、「飛騨の家具」の地域団体商標の取得です。飛騨木工連の組合員企業であっても商標を使えるわけではなく、産地基準、木材基準、品質基準など6つをクリアーした製品でなければ使用できません。現在、所属する22社のうち「飛騨の家具」を使えるのは8社だけです。

四半世紀近く、技能開発委員会が取り組んできたのは、技能向上と技能を尊重する社内風土を育むことで、飛騨の家具の品質を上げることでした。そこには、トータルにものを作れなければいい仕事はできないという「飛騨の匠」から受け継いだものづくりの信念があるからです。

メンバーズインタビュー

ものづくりにトータルに関わる機会を増やす

桂 正彦さん(写真右)

柏木工 株式会社 商品開発室

澤田 桐有さん(写真中央)

柏木工 株式会社 商品開発室 技術課 参事
協同組合 飛騨木工連合会 技能開発委員会相談役

片桐 太平さん(写真左)

柏木工 株式会社

後輩に教える立場になって「技能開発講習会」を改めて受講したという片桐さん

――社員研修の中で「技能開発講習会」をどう位置付けているのでしょうか。

澤田 一言で言えば、自己啓発的な位置づけです。社内研修は業務に即した内容中心に行われますが、「技能開発講習会」は体系的に学べる違いがあります。

片桐 僕は入社10年目です。実は入社2、3年目にも一度受講しているのですが、2年前「技能開発講習会」を再度受講しました。柏木工では若い人の入社が多く、先輩として教える立場になって、木工知識を体系的にわかっていないと改めて気付かされたからです。会社では機械でやっていることを講習会では手加工でどうやるか見せてもらえるなど、知っていることを別の角度から教えてもらえることも、後輩に教える時にすごく役立ちますね。

澤田 社内研修には実務に即したものだけでなく、自己啓発を目的にしたものもあります。「社内木工講座」もそのひとつです。新入社員の希望者を対象に、5、6月の土曜日3回に分けて行っているフォトフレームを実際に作る講座です。トータルにものをつくる楽しさを体験してもらうのが狙いです。この講座を受講した新入社員の中には、社内有志で作っているサークル「木工倶楽部」に入る人も少なからずいます。

「社内木工講座」でつくるフォトフレーム

 社内研修とは違いますが、ものづくりにトータルに関わるという意味では「社内クラフト展」も同じです。今年で28回目を迎える社内のものづくりコンペです。参加資格は社員なら誰でも、事務職で参加する人もいます。毎年6月から7月にかけて、仕事が終わった後と休日に、自分の技術で自分の思った作品を作ります。最後は社長が審査するので、自分をアピールする貴重な場にもなっています。優秀作は9月の「飛騨の家具フェスティバル」に合わせ開催される「匠・DNA展」に出品されます。

令和2年の社内クラフト展の入賞作(一部)

――過去には商品化された作品もある?

 アイデアをもとに商品化されたものはありますが、会社がこのコンペを重視している目的は、やる気とアイデアと技術・技能を持った社員の発掘ですね。

――技能検定試験については、どういう取組をしてきるのでしょうか。

澤田 実技試験の練習を中心に行っています。飛騨木工連の技能開発委員会は、家具に関わる技能検定をこの地域ですべて受検できるよう努力してきましたが、技能検定に合格するというのは、単に仕事に必要な技能を習得したということではありません。合格することが「一人前の職人になろう」という意思表示になる。その意義のほうが大きいと思います。

技能検定試験は一人前の職人になる意思表示と澤田さんは言う

メンバーズインタビュー

自分が成長できる場を提供してくれる環境

宇次原 清明さん(左上)

飛騨産業 株式会社 生産技術課/協同組合 飛騨木工連合会 技能開発委員会委員長

馬場 潤一さん(右上)

飛騨産業 株式会社 リビング機械

浦谷 大司さん(左下)

飛騨産業 株式会社

川辺 瑞葵(みずき)さん(右下)

飛騨産業 株式会社

ーー宇次原さんは現在、飛騨木工連の技能開発委員会の委員長ですね。

宇次原 初代委員長が当社の板屋さんで、2代目が柏木工の澤田さん、3代目が私です。若手の指導と技能検定の取りまとめをしています。

ーー飛騨産業の若手育成では、「飛騨職人学舎」があると聞きましたが。

宇次原 学舎は平成26年開校の企業内家具職人養成学校です。1年生は手加工、2年生は機械加工を集中して学びます。学生は技能五輪に出場することが目標になっていて、最近の技能五輪で上位入賞が多いのは学舎によるとことが大きいですね。

第57回技能五輪全国大会表彰式。右から6人目が飛騨職人学舎出身の川辺瑞葵さん

ーー馬場さんの入社はいつですか。

馬場 私は平成29年で、大学の農学部出身です。DIYは好きでしたが、入社まで技能を学んだことはなく、同期の学舎出身者の技能レベルには驚くことが多かったです。自分も身につけたいと思い、会社の「ものづくりクラブ」に入ること、それから飛騨木工連の「技能開発講習会」に参加することから始めました。

宇次原 「ものづくりクラブ」は、自分の作りたい作品をつくる社内クラブです。メンバーは20人くらいいます。私も時々顔を出します。柏木工さんにもありますし、クラブがある会社は組合員企業には多いですね。

手工具も機械も両方使えることが理想と語る馬場さん

ーー馬場さんは「技能開発講習会」を受講した目的はなんですか。

馬場 道具の使い方を学ぶことです。全8回のうちCAD関係を除く6回、土日に毎回6時間学びました。今年は「2級手加工検定対策講座」を受けようと思っていたのですが、残念ながら新型コロナで前期は技能検定そのものが中止になってしまいました。

ーー技能検定の講座も「技能開発講習会」に加えた理由はなんですか?

宇次原 受検者数は変わっていませんが、合格率が下がっているからです。以前は試験日前になると、終業後や土日も練習するのが当たり前でしたが、そういう時代ではなくなりつつあるんですね。技能開発委員会がそれを補う必要が出てきたということです。なぜ技能検定を重視するかというと、実技試験に合格するために何度も練習が必要だからです。その過程でものづくりのコツを覚えていく。分業化された日頃の仕事では体験できないことです。

ーー川辺さんと浦谷さんは「飛騨職人学舎」出身で、技能五輪にも出場していますね。

川辺 学舎に入校したのは平成28年、飛騨産業に入社したのは平成30年です。学舎の時は技能五輪は予選落ちでしたが、先輩が本戦に出るので連れて行ってもらい、絶対出るぞという思いが強くなりました。入社した年に初出場を果たし、昨年銅メダルを獲得できました。次回に向けて、今年もお盆明けから練習を始めています、

浦谷 僕は学舎も入社も川辺さんの1年前ですが、技能五輪に出場したのは一緒で平成30年からです。学舎の1年からずっと出たかったのですが、実際出場できたのは最近の2回。結果は2回とも銅賞でした。学舎も飛騨産業も、競技に集中できるよう周囲がサポートしてくれるし、自分が成長できる場を提供してくれているのは感謝しかないですね。