PROJECT 16
平成30年度
運営組織:沖縄県琉球赤瓦漆喰施工協同組合
拠点:沖縄県島尻郡八重瀬町
開始:平成18年6月
Overview
青い空に映える赤い屋根。
沖縄の美しい伝統風景を守りたい。
南国・沖縄らしいイメージを形成している青空と赤い屋根の鮮やかなコントラスト。首里城などに代表される漆喰で縁取られた赤い瓦屋根は琉球赤瓦と呼ばれ、17世紀から使われてきた伝統的なものです。「沖縄県琉球赤瓦漆喰施工協同組合」は、沖縄県独特の赤瓦建築文化財とその施工技法を残していくために、文化財等の修復をはじめ、技能評価試験の導入や講習会の開催などによって後継者の育成に取り組んでいます。
代表者
Interview
代表者プロフィール
代表者プロフィール
沖縄県琉球赤瓦漆喰施工協同組合 副代表理事
田端 忠 さん
昭和38年生まれ。沖縄県認定琉球赤瓦葺き・漆喰塗り1級技能者。脱サラ後、赤瓦屋根の職人であった父親の跡を継ぎ、ものづくりの道に。幼い頃から慣れ親しんだ現場で職人として働くかたわら、世襲や縁故による人材の確保、徒弟制度による技能継承に頼ってきた業界の裾野を広げるため、積極的に後継者育成活動に取り組む。
背景・きっかけ
技能者の高齢化に伴い、
後継者を育てることが課題に。
沖縄の土からつくられる伝統的な赤瓦を使った屋根葺きは、瓦同士の繋ぎ目を漆喰で塗り固めて完成させます。台風などの雨風に強く、通気性や断熱性にもすぐれた赤瓦建築は、王府、役所や神社等の建物で用いられてきた地域独特の技法。近年、コンクリート建築の急速な普及に伴って赤瓦の需要は減少。技能者も高齢化し、このままでは伝統が途絶えてしまう危機に直面していました。このため、この美しい赤瓦屋根の景観を維持するには、後継者の育成が急務であると考え、協同組合として動きはじめました。
これまでの取組み
新たな人材を発掘し育成。
地域振興による周知活動も。
「卓越した技能者(現代の名工)」が先頭に立ち、若手技能者への指導を進めながら伝統的な赤瓦建築文化財等の修復作業を行っています。技能評価試験を導入し、技能と技術の衰退に歯止めをかけ、技能者の確保とその技の向上を図っています。資格取得者には定期的に熟練技能者による技能講習会を開催するなど、より高度な技法を伝授しています。一般向けには「漆喰シーサーづくり教室」、小中学校での「ものづくり体験教室」の開催などを通して、伝統的な漆喰琉球赤瓦屋根建築に親しみ、魅力を伝える活動を行っています。
今後について
新たな資格制度を設け、
より裾野を広げていく。
多くの若い人たちに伝統的琉球赤瓦施工への理解を深めてもらうためには、これまでの人材育成では、仕事への興味や関心を持ってもらうことは難しい。だからこそ今後はいかに間口を広げていくかが課題。「ものづくり体験教室」を通して未来の人材確保や興味がなかった人がどんどん飛び込んでこれるよう、実務経験者を対象にした1級・2級の試験だけでなく、新たに技能を習得する者を対象に3級をつくり裾野を広げることにも取り組んでいます。今後も若者へ琉球赤瓦施工の魅力の周知と普及に努力していきたいと考えています。
PROJECT STORY
門戸を開き、業界を変革する。
未来の人材確保のために一丸となって。
田端 忠さん
昭和38年生まれ。沖縄県琉球赤瓦漆喰施工協同組合理事。
山城 富凾さん
昭和7年生まれ。沖縄県琉球赤瓦漆喰施工協同組合顧問。「 沖縄県優秀技能者賞」受賞、「卓越した技能者(現代の名工)」受章、「黄綬褒章」受章など輝かしい実績を誇る沖縄県を代表する技能者。
この地で育った職人として
この手で伝統技能を守りたい。
山城さん 沖縄県琉球赤瓦漆喰施工協同組合を立ち上げるきっかけとなったのは、平成4年の首里城正殿の復元工事。修繕を行うためには、法人格が必要でした。当初は任意団体でしたが、平成18年には法人登記して再スタートし、正式に施工者認定をいただきました。私のように沖縄で育った職人としては、沖縄を代表する文化財を自分たちの手で守ってきたいという思いがありますから。
田端さん 山城さんと大城さんの2名の「現代の名工」を中心に、私らのようなその下の世代が集まって、少しずつ組合をカタチにしていきました。これからの課題は、後継者となる若者をどうやって集めるか。本物の技能を持っていらっしゃる山城さんから、現場で直に指導してもらえるなんて、とても貴重な機会です。沖縄独特である漆喰琉球赤瓦の職人を育てるには、7年~10年くらいの時間が必要となるため、今のうちに若い人たちを育てていきたいというのが本音です。沖縄県の支援のもと「技能評価制度」を立ち上げ、経験のない若者へ門戸を開くなど、ここ数年の間に徐々に仕組みはでき上がってきています。
“ものをつくる喜び”を、
創意工夫でつくりだす。
山城さん 昔の沖縄では、みんな自分たちの技を持ち寄りながら、自分たちの家をつくっていました。父親が大工だったので、小さい頃から現場をよく見ていたんですよね。ときどき手伝ったりもしながら。今はそういう機会が少ないでしょう。沖縄に住んでいても、漆喰と赤瓦を触ったことがない子どもがほとんどですから。
田端さん まずは興味を持ってもらう、とっかかりが必要ですよね。ものをつくる喜びを、いかに子どもたちに伝えるかというのが大切ではないでしょうか。「面白そう」という出会いから、未来の選択肢にも繋がっていくと思うんです。そういった機会を設けるために、組合では子どもたちに向けた「漆喰シーサーづくり教室」なども行っています。魔除けの意味をもつシーサーは、「かつて瓦職人が屋根を施工したお礼として作った」などという小ネタなども交えながら、まずは遊び感覚で触れていただき、楽しんでもらう。そういったことから、漆喰と瓦に親しんでもらうようにしています。
業界を変革させるために
自らも変わっていこう。
田端さん 屋根工事を行った名護市の重要文化財「津嘉山酒造所施設」では、酒造所の職員さんが工事の見学会を開催してくれました。施工していた職人は恥ずかしがっていたけど、これはすごく良い機会になりました。ものづくり体験もそうですが、実際の施工現場を見せたら「職人ってカッコいいな!」と思う子どもが絶対にいると思うんですよ!
山城さん やはり職人の良さを感じるには現場で技を見てもらうのが一番いいと思います。私は18歳から職人になったので、かれこれ70年近くこの仕事をやっていますが、今になっても、まだまだ工夫できることがたくさんあると思っています。純粋につくることが面白いんですね。見てもらえば私達の職人魂にも火が点くし、もっと良いものを作ろうという想いがどんどん湧いてきます。そうすれば若い人たちにもっと影響を与えられると思っています。
田端さん 組合には、「現代の名工」を受章した2名の技能者がいます。二人とも現役。古民家や重要文化財など本当に難しい現場では、私たちが長い時間かかって悩んで出した答えを、名工たちはずばりと即答します。やはりその力はすごい。そういった技を目の当たりにした若い人たちが感動し、業界が盛り上がっていけば良いと思います。
Column
プロジェクト関係者に聞いてみました。
「現代の名工」の技能を継承するための組織づくり。
青い空、青い海、そして赤瓦の屋根というのが沖縄らしさ。私たちも沖縄出身ですが、誰もが地元の原風景として、赤瓦のある景色を思い浮かべます。将来、子や孫にも見せたいこの美しい景観は、なんとしても守り続けたい。そこで私たちができるサポートとして、「琉球赤瓦施工 技能評価試験」を沖縄県で認定しました。これまでに累計45名の合格者を輩出することができました。新しい若い力を招き入れ、後継者の育成を図るうえでこの取組みは鍵になるはず。今後は3級という入門の級を設けることなどで、組合のお力になれればと思っております。