「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 07

令和元年度

サポート企業が生徒のやる気を応援 インターンシップで学ぶゼロからのものづくり

PROJECT DATA

実施主体:愛知県立愛知総合工科高等学校専攻科

拠点:愛知県名古屋市

開始:平成28年4月

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Overview

愛知県名古屋市発
超小型モビリティを用いた
プロジェクト型学習による自動車産業教育

自動車産業集積地に立地する愛知県の工業高校専攻科の生徒が、地域企業の支援を得て近い将来に実用化されるであろう超小型モビリティを開発するプロジェクト。実際の自動車開発を通した地場産業の後継者育成教育が行われています。

代表者
Interview

特に力を入れているのが、学科・コースを超えて製作実習を行うプロジェクト型学習の総合実習です。
超小型モビリティの開発もその一つです。

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

愛知県立愛知総合工科高等学校
専攻科 責任者

久保全弘 さん

昭和20年生まれ。名城大学理工学部卒。名古屋大学大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了。工学博士(名古屋大学)。名城大学副学長を経て平成29年から現職

背景ときっかけ

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工業高校専攻科の総合実習として
超小型モビリティ開発に取組む

平成28年、名古屋市千種区の東山工業高校の敷地内に建設された愛知総合工科高等学校

愛知県立愛知総合工科高等学校は、愛知県の“ものづくり人材”育成の中核拠点とすべく愛知工業高等学校と東山工業高等学校の二つの県立高校を統合し、平成28年4月に開校しています。

本校には、3年制の本科と高校卒業後さらに専門技能を学ぶ2年制の専攻科が設置されています。専攻科の定員は40人。本科には各学年400人が在籍していますが、そのうち約30人が同校から進学し、残りは他校の普通科も含めた外部から募集します。超小型モビリティの開発は、この専攻科で行われている取組です。

専攻科は全国で初めて公設民営化された教育機関で、平成29年4月から運営は名城大学が行っています。生産現場のリーダーとなる人材育成を目標に、教育課程は講義60%、実習40%で構成され、講義・実習も、優れた研究開発実績を持つ大学教員や生産現場で活躍する技術者・技能者や現代の名工、ものづくりマイスターに協力してもらっています。

実習はコース別実習と総合実習に分かれますが、特に力を入れているのが、総合実習です。学科・コースを超えてグループを組み、それぞれに研究テーマを設定し製作実習を行うプロジェクト型学習で、さまざまなテーマの総合実習があり、超小型モビリティの開発もその一つとして行われています。

これまでの取組・今後の展開

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地域企業の協力を得て
東京モーターショーに出展

東京モーターショー2017に出展した「コラプス」。前輪がせり上がり全長が3分の2になる

平成28年度から平成29年度の取組が、折りたためる電気自動車「コラプス(COLLAPSE)」の製作です。車体が前後に縮まり駐車スペースの削減が図れる車で、「東京モーターショー2017」にも出展しました。実は、車の製作費やモーターショー出展費用も、生徒が地域の企業にコラプスを使ったビジネスプランをプレゼンし、集めています。

平成30年入学の生徒がこの活動を引き継ぎ行ったのが、誰もが乗って楽しめるシティコミューター(小型乗用車)「TRE-III」の開発です。開発にあたっては、協力企業内で実習を行い、部品等の製作を行っています。そのための仕組みが「あいちT&Eサポーター」です。本校の教育活動を支援してもいいという事業所などにサポーター登録してもらう制度で、TRE-IIIの企業実習で協力いただいたNC CRAFTや龍城工業もサポーター企業です。

また、令和元年度はこの開発で得た技術や知識を発展させたTRE-IVも開発中で、TREシリーズ開発の集大成として「東京モーターショー2019」で発表を行う予定です。

メンバーズインタビュー

現場の技術者との接触が
生徒を成長させる

田渕英樹さん

愛知県立愛知総合工科高等学校専攻科愛知県派遣教員

長田宗大さん

愛知県立愛知総合工科高等学校専攻科2年。愛知工業高等学校卒

水野壱星さん

愛知県立愛知総合工科高等学校専攻科2年。豊田工業高等学校卒

企業人と接することで
コミュニケーション能力が向上

── コラプスとTREシリーズの開発メンバーは、2年間同じですか。

田渕 同じです。平成28年度入学の5人で作ったのがコラプスで、東京モーターショー2017に出展しました。平成30年度入学の8人で作っているのがTRE-IIIとTRE-IVのTREシリーズで、東京モーターショー2019への出展を予定しています。2年間同じメンバーで開発に携わることで、役割分担やチームワークが生まれてきますね。

── TRE-IIIの開発では、企業で実習も行っていますね。

田渕 コラプスの開発でできた企業との協力関係を活かして、昨年インターンシップとして実施しました。TRE-IIIの部品製作をNC CRAFTで、電装関係の製作を龍城工業で5月~7月に週1回のペースで行っています。専攻科には工業高校出身者も普通科高校出身者もいますから、入学時のレベルがバラバラです。NC CRAFTでは、工作機械の操作に慣れた長田君にCAMを覚えてもらい他の生徒に教えてもらいました。電装関係は高校時代ロボット部だった水野君が回路、メーター類は誰というように、最初から担当箇所を決めて製作を行っています。今年はそこで身につけた技能・技術を活かしてTRE-IVの製作を行っています。

── 開発資金調達も生徒たちが行ったということですが。

田渕 実際は私から事前に200社くらいに資金援助の打診をし、了解いただいた企業に生徒にプレゼンに行ってもらっています。東京モーターショー出展には宿泊費を含めると500万円近い費用が必要です。生徒は主に春休み、夏休みを利用して企業を訪ね、開発プランを説明し、資金援助をお願いします。こうしたことにこだわるのは、生徒をできるだけ多くの大人とかかわらせたいからです。現場の技術者と話をするだけでも生徒の成長に繋がるんですね。

TRE-IIIは「誰もが乗って楽しめる超小型シティコミューター」がコンセプトの電動3輪バイク ナンバー取得済みで公道を走れる

開発を通して学んだ
モノを完成させるプロセス

TRE-IVのコンセプトは「そうだ、月へ行こう」。月面のような過酷な環境でも問題なく走行できる性能を持った車両を目指している

── TREシリーズの開発は総合実習の時間に行っているのでしょうか。

長田 TRE-IIIの完成は昨年10月でしたが、最後は授業時間内では終わらず、遅くまで作業に没頭していました。

── TREシリーズの開発で学んだことは何ですか。

水野 高校でロボコンに挑戦していた時は図面通りに配線して動けばよかった。それが完成車では、半田付けの見た目も大事だし、配線と制御基板を決まった箱の中にレイアウトしなければならない。どう見せるかだけでなく、どう隠すかの大事さも学びましたね。

長田 モノを作るとはどういうことかを学べました。コンセプトを考えるところから始めて、実際どう作るのか、どういう技術がいるのか、誰が作るのか、いつまでに作ればいいのか。技能・技術は学べても、モノを完成させるプロセスはほかでは学べなかったと思います。

FOCUS

プロジェクト関係者に聞く

ゼロからモノを作ることを体験して欲しかった

田渕先生との繋がりはサポーター企業への登録からです。愛知県職業能力開発協会の活動で後進の育成指導に関心を持ち、ネットを検索していて愛知総合工科高等学校の存在を知ったんですね。NC CRAFTは、5軸マシニングセンタなどを使い高精度・高難易度の精密機械部品を製作する会社です。数値制御装置を使いこなす少数精鋭の職人で高付加価値の製品を生み出すべく、平成23年に創業しています。TRE-IIIの部品製作のために長田君たちをインターンシップで受け入れた時は、その日は仕事を止めて付きっきりで対応したのですが、小さい会社だからできたことだったと思います。

1 回目は労働安全衛生教育、2回目はCADの基礎、3回目から部品製作で、5パーツ製作しました。彼らが考えてきた部品のCADデータをチェックし、機械加工が不可能なら、その箇所を指摘し、学校に持ち帰って作り変えてもらうことの繰り返しでした。

通常は、1つの部品を図面から1日で作るのは不可能です。少なくとも1週間はかかります。正直言えば、かなりの下準備をこちらでしていました。なぜ、そこまでしたかというと、生徒たちに自分たちが作った部品が、実際に使われる体験をしてもらいたかったからです。

ホームセンターで部品を買ってくれば何でも作れる時代ですが、その部品を作っている人が必ずいます。世の中の形のあるものは、必ず誰かが作っている。それをゼロから作る大変さと楽しさを生徒たちにも体験して欲しかったんですね。

株式会社 NC CRAFT 代表取締役
新井秀隆さん(写真右)

プロジェクト関係者に聞く

実装とは「 全体として動くかどうか」

龍城工業は、プリント基板の部品実装や電子機器製品組立を行っている従業員50人の会社です。開発は4人で行っていて、TRE-IIIのインターンシップは、主に若い2人が対応しました。

最初に行ったのは、3人の生徒の担当分けでした。1人目がヘッドライトやウインカー、バッテリーをどこに取り付けるかという電気部分の構造設計、2人目がメーター画面の表示のプログラミング、3人目がそれらを動かす電気回路の実装です。

週1回、3ヶ月のインターンシップ期間内にこれらを完了させるのは困難でした。それで提案したのが全く同じ電装品を2セット購入し、我々の会社と学校で同時進行で作業を進めることでした。会社の机の上で組み上げて実際に動くか試し、それと同じものを学校にある三輪バイクのフレームに実装していったのです。

なぜ、そうしたかというと、部品ごとに動いたとしても、全体で動くかどうかは実際にやってみなければわからないからです。教科書の計算と実装は違います。もう一つは、学校ではスケジュールの先延ばしがある程度できますが、企業では難しいことが多いからです。モノを完成させるには、分業、段取り、日程管理が大事なのです。それを生徒にも知って欲しかったのです。

今回のようなインターンシップを受け入れた理由は、開発に直接携われる我々のような企業の面白さを知ってほしかったからです。このインターンシップの経験が、生徒たちの将来の選択肢を増やすことにつながればうれしいですね。

龍城工業株式会社 常務取締役
附柴明俊さん(写真上段中)
龍城工業株式会社 営業部部長
柴田昌仁さん(写真上段左)
作業は龍城工業だけでなく愛知総合工科高等学校内でも行われた