PROJECT 09
平成30年度
運営組織:岐阜県金型工業組合
拠点:岐阜県岐阜市
開始:平成28年4月
Overview
金型づくりで形づくる、
企業と学校の新しいつながり。
ものづくりのうえで、欠かすことのできない金型。一般にはなじみが薄く、工業学校の生徒はもちろん先生でさえ、あまり知らないのが現状です。岐阜県では重要な基幹産業。金型をもっと身近に感じてもらい、地域の産業に関心を持ってもらおうと、はじめたのが工業高校生によるコンテスト。地元の企業や大学が地域を挙げて支援し、学校の授業の中で、生徒にものづくりの楽しさを体験してもらい、将来を担うものづくり人材を育成する。若者の地元への定着やものづくり企業で働くために必要な知識、積極性、創造性までも育てることのできる取組みです。
代表者
Interview
代表者プロフィール
代表者プロフィール
岐阜県金型工業組合 理事長
黒田 隆 さん
昭和22年生まれ。昭和45年に発足した岐阜県金型工業組合の第6代理事長。自身が設立した株式会社 黒田製作所をはじめ、岐阜県内の製造業界を牽引する。「工業高校生金型コンテスト」といった新しい取組みを仕掛け、若者へものづくりの魅力を伝えていく。
背景・きっかけ
岐阜の金型産業の魅力を
地元の若い世代へ。
工業製品を作り出すのに欠かせない金型。ものづくりを行う現場でしか見ることのないものですが、製品の形状、品質、性能を大きく左右します。県下の多くの中小企業がその製造を行っています。県の重要な産業として、地元のものづくりを支えてきた金型の魅力を次世代に伝え、少しでも興味をもってほしいという想いから、「工業高校金型コンテスト」は誕生しました。
これまでの取組み
コンテストで築いた、
学校と企業のパイプライン。
第1回のコンテストは平成28年に開催。学校では、金型の設計や製作の授業は行わないのが通常。金型についてまったく知識がないため、まずは先生方向けの講習会と作業実習を行いました。さらに、初めて挑戦する学校をサポートするために、金型工業組合に加盟する企業から社員を近隣の学校へアドバイザーとして派遣。OJTで指導を続けていく中で、学校と企業との間に新しいパイプラインが築き上げられました。
今後について
金型職人をめざす若者が
1人でも多く増えるように。
大会では予想を越えたレベルでの競い合いが繰り広げられました。現在までに、コンテストは2回開催。今では県内で10校13チームが出場してくれています。おかげさまで当初の目的であった、工業高校の生徒さんにも金型づくりをアピールすることができ、この2年の間に数名が組合企業に就職しています。これからもコンテストを継続していくことが大事。1人でも多くの若者が、我々のような金型づくりを行う企業の一員となってくれることに期待しています。
PROJECT STORY
教える、教わるの関係を越え、
ひとつのチームが創られた。
近藤 英寿さん
(写真_左)岐阜第一高等学校工業科主任。事務関連や渉外などでチームを支える。
石黒 健彦さん
(写真_左から2番目)岐阜第一高等学校 教務部長 教諭。
ものづくりへの情熱でチームを率いる熱血漢。
青山 富士夫さん
(写真_中央)有限会社希光モールド製造部 技術課 課長。講師として同校に金型製作を教える。
川島 典華さん
(写真_右から2番目)岐阜第一高等学校教諭。主にCADを担当。経験がないことにも、誰よりも一所懸命に挑む。
中岡 由紀さん
(写真_右)岐阜県高等学校教育研究会工業部会 事務局長として、当コンテスト全体の運営をサポートする。
先生も、生徒も、
経験ゼロからのスタート。
石黒さん コンテストの話を学校長から聞いたとき、最初は驚きました。「え、金型?どうやってつくるんだ…」という状態でしたから。教員として26年の経験はありますが、当校ではまったく金型製造に関する授業はありません。何から始めればいいかもわからない状態だったので、参加者を募るときも生徒に「金型を勉強したい人、先生と一緒に勉強しないか?」といって集めたくらいです(笑)。
青山さん 私も同じく。社長に呼ばれ、いきなり「岐阜第一高等学校に行って、金型づくりを教えてきてくれ」と言われて焦りました。今までまったくの未経験者に教えた経験は、ほぼなかったですからね。しかも短期間の中で、高校生たちと一緒にコンテストで作品をつくらなければいけない。なかなかに無謀なスタートでしたね(笑)。その溝を埋めようと、言葉では伝わらないところは、ネットで動画を見つけてきて説明するなど、いろいろと工夫を重ねました。今になってみると、私も勉強させてもらいました。会社の後輩からは、「青山さん、教え方が優しくなりましたね」って言われるようになりました。
失敗の先に、
本物の学びがある。
近藤さん みんながゼロからコンテストに挑みましたが、初年度にはいきなり理事長賞をいただけました。もっと上を目指そうと挑んだ第2回大会では惨敗…。悔しかったですが、生徒一人ひとりの意識が明らかに変わったように感じます。
川島さん 慣れないことも多くて、意識していても必ず失敗してしまうんですよね…。それが当たり前の状態だったので、むしろ失敗をどう活かすか?という意識は強くなりました。先日も金型づくりの際に誤って穴を空けてしまって。その時も生徒から、「ここを反対側にすればまだ使えるんじゃないですか?」と言われ、はっとさせられました。状況に応じて考える力、相手に意思を伝える力がついた気がします。
中岡さん ものづくりは自分の頭で考えて、どう対処していくのがベストか?を繰り返すことでレベルが上っていきます。普段の授業だと、そこまで細部にこだわる時間はないと思うんです。コンテストで実際にオリジナルなものをつくるからこそ、ものづくりの本当の醍醐味を味わえる。これを学校のカリキュラムに取り入れたことが、このプロジェクトの大きな功績かもしれません。
最高のチームメイトと
頂上を目指そう。
石黒さん 前大会で受賞できなかったことは、想像以上にこたえました。燃え尽きそうなくらい、気合いを入れていましたから。けれど、ここで立ち止まるわけにはいかない。ありがたいことに、毎年10名を超える生徒たちがコンテストに参加してくれます。3年生のメンバーが挑むので、毎年が生徒みんなにとっての集大成だから。
川島さん 子どもたちには結果がすべてじゃないと伝えていますが、それでもやっぱり悔しいです。まさか大人になってから、高校球児のようにがむしゃらになって熱中することがあるなんて、思いもしませんでした。
青山さん 先生たちがここまで金型づくりに熱中してくれるのは、本当に嬉しいことです。初めは私も手探りで進めてきましたが、みなさんとも3年のお付き合い。もう企業と学校といった関係を越えて、チーム一丸となってコンテストに挑んでいます。ものづくりで一番嬉しい瞬間は、アイデアが形となって出来上がる時。そして、それが評価されればなおさらのこと嬉しい。簡単なことではないですが、どうせやるなら目指すは1番。最高のチームで、最高の瞬間をつかみたいですね。
Column
プロジェクト関係者に聞いてみました。
金型を理解できれば、ものづくりの奥深さが見えてくる。
私たちはプロジェクトの発起人として、コンテストを盛り上げています。いざやってみて、予想以上にヒートアップしているのには、嬉しさと困惑があります。というのも、他よりも優れたものをつくろうとすると、どうしても金型の形状が複雑になる。あくまでデザイン性ではなく、金型の精度を問うコンテストなので、そこが難しいところです。ただ、ほとんど知られていなかった金型づくりが、こうして注目されたことには感激しています。金型づくりの難しさを知ることで、より奥深いものづくりの魅力を知ってほしいと思います。