PROJECT 06
令和2年度
実施主体:長崎県立島原農業高等学校
拠点:長崎県島原市
Overview
農業高校と地元企業がコラボ
「島原手延べそうめん」の新商品を継続開発
長崎県立島原農業高等学校とメーカーが共同で、地域の特産品である「島原手延べそうめん」を使った商品開発を継続的に実施している。部活動の商品開発から始まった活動は地域産業の活性化、研修企業への就職だけでなく、生徒が地元産業に愛着や誇りを持つ契機になっている。
代表者
Interview
部活動を超えて広がる「そうめんプロジェクト」
代表者プロフィール
代表者プロフィール
長崎県立島原農業高等学校 教諭
西村 恵一 さん
背景ときっかけ
地域の特産品を使って継続的に商品開発
「島原手延そうめん」の発祥には諸説ありますが、350年前には島原半島で作られ始めたと言われています。意外と知られていませんが、長崎県の手延そうめんの生産量は全国2位。そのほとんどは南島原市を中心とした島原半島で作られています。
「そうめんプロジェクト」は、島原農業高等学校と手延べそうめんメーカーの株式会社山一が連携して「島原手延べそうめん」の知名度アップを図り、そうめん産業を活性化させることで地域の雇用を促進することを目的に、平成21年から取り組んできたプロジェクトです。これまで10年以上にわたって、「島原手延べそうめん」に地域農産物を取り入れた商品開発を継続的に行ってきました。
これまでの取組
農業高校の部活動として商品開発に取り組む
島原農業高校では農業専門学習を課外で深めるために、部活動として農事部(野菜部、畜産部、社会動物部、食品加工部など)を置き、プロジェクト学習を推進しています。「島原手延べそうめん」の商品開発に携わってきたのは食品加工部員です。
開発の基本方針は、①年間を通して食べられる、②全国的な流通を目的とする、③長期的にシリーズ化したものを考える、というものでした。
最初に開発したのがスープで食べるそうめんシリーズです。平成22年から「スープ生姜めん」「スープほうれん草めん」「スープにんじんめん」「薬草麺のスープカレーそうめん」を開発していきました。特に「スープ生姜めん」は、すばやく茹で上がるそうめんの特質と低カロリーで栄養価を考えたスープを組み合わせた健康志向の食品として高く評価され、長崎県特産品新作展最優秀賞を受賞しました。その後、即席めんタイプの「スープなそうめん かぼちゃ」「手延べそうめん梅茶漬け」を開発しました。
今後の展開
地元に愛着と誇りを持つきっかけに
部活動以外でもさまざまな活動を行っています。平成23年から始めたのが「手延べそうめん製造研修」です。食品サイエンス科の1年生が山一を訪ね、手延べそうめんの製造を学んでいます。また、長崎県に外国からの観光客が増えてきたことから、パッケージに記載されている手延べそうめんの歴史や食べ方の英訳を本校の国際研究同好会が行いました。
「そうめんプロジェクト」をスタートしてから2人が山一に就職しましたが、それ以上に地域の特産品の商品開発や製造に関わることで生徒が地元に愛着や誇りを持つことが、地域の将来にとってより大きな財産になると思います。
メンバーズインタビュー
高校生の自由な発想から生まれた「スープで食べるそうめん」
七條 真実さん
(写真左)
長崎県立島原農業高等学校 食品サイエンス科1年
北平 侑那さん
(写真左から二番目)
長崎県立島原農業高等学校 食品サイエンス科1年
久保田裕子さん
(写真右から二番目)
株式会社 山一 品質保証室主任
西村 恵一さん
(写真右)
長崎県立島原農業高等学校 教諭
―― 「そうめんプロジェクト」を始めたきっかけはなんだったのでしょう。
西村 当時、島原市では地域資源や農林水産物を活用して新商品を開発する高校生の活動を支援する事業を始めました。その一環で、島原農業高校と新商品開発を一緒に行ってくれる企業を島原市が公募して、そこに手をあげていただいたのが山一さんだったのです。
久保田 そうめんの8割は夏に売れます。年間を通して売れるそうめんの新商品を作ることは会社にとって長年の課題でした。それで、いつでも手軽に食べられる、全国に売れる商品シリーズを「おいしい!簡単!ヘルシー!」というコンセプトで考えて欲しいとお願いしたのです。高校生の柔軟な発想に期待したんですね。
―― その最初が「スープ生姜めん」だった?
久保田 そうです。最初からプロジェクトに関わっていますが、高校生の考えるアイデアは私たちが思いもよらないものが出てきます。“スープで食べるそうめん”というアイデアは高校生から出てきたものです。片手鍋でも簡単に調理できるよう麺は12cmと短くし、お湯を沸かして麺を3分ほど茹でて、粉末スープを入れるだけで食べられます。
西村 “スープで食べる”は、規格外の農産物を有効活用するというところから生徒たちが考え出したアイデアです。「スープほうれん草めん」「スープにんじんめん」も同じです。味、麺の長さ、太さに拘りながら試作を繰り返し、山一さんと何度も話し合いながら、一つの商品開発に1年、長いものは2年かけています。それが可能なのは部活動だからで、1年生から1つの商品開発に取り組めるからです。
久保田 パッケージのデザインも高校生が原案を考え、プロに完成してもらっています。
西村 最終的な商品化のプロセスにも参加できるなど、生徒は非常に貴重な体験をさせてもらっていると思います。
久保田 「スープなそうめん かぼちゃ」「手延べそうめん梅茶漬け」はさらに簡単に食べられるよう、器に麺とスープを入れてお湯を注ぐだけにした商品です。
西村 島原城の梅園は長崎県下では有数の梅の名所で、梅干しは島原の特産品です。そうめんに梅を足したときに合うダシを探すのに生徒たちは苦労しました。試行錯誤の結果たどり着いたのが長崎県産のあごだしでした。
―― 「手延べそうめん製造研修」は、どういう経緯で始めたのでしょうか。
西村 「そうめんプロジェクト」に関わっている食品加工部の部員の多くが食品科学科(現食品サイエンス科)の生徒だったこともあり、高校から山一さんにお願いして平成23年から授業の一環として始めたものです。今年はコロナの影響で1日でしたが、昨年までは1年生が2班に分かれ2日間かけて、山一さんの深江工場でそうめんの製造を学んでいます。
久保田 最近は若い人たちは、そうめんを食べなくなっています。若い人たちにそうめんを気軽に食べてもらいたいという狙いがありますが、その前に「手延べそうめん」を知ってもらいたいということで協力させていただいたんですね。
―― 実際に、手延べそうめん作りを体験した二人の感想を聞かせてください。
七條 暑かったです(笑)。手延べそうめんは、めんを熟成させて伸ばすので、常に部屋の湿度を高く保っておく必要があることを初めて知りました。
北平 面白かったのは、最後の「大引き」です。力を均等に加えないと切れます。職人さんのようにはうまくいかなかったですね。
―― 若い人はそうめんを食べなくなっているということですが、どうですか。
北平 私はそうめんは好きで、夏になると週1回は食べます。冬でも冷たいそうめんが時々食べたくなりますね。
七條 私も好きです。島原で面白いのは、めんつゆに入れる具材が家ごとに違うことです。うちではツナを入れますが、キムチの素を入れる家もあります。それから、味噌汁にそうめんを入れる家も多いですね。
関係者インタビュー
プロジェクト関係者に聞いてみました。
継続のカギを握るのは提携企業の意欲
「島原スペシャルクオリティ」は島原市の優れた特産品であることを市が認定する制度で、平成25年からスタートしています。島原農業高校と山一さんのコラボで作られた商品では、平成26年に「薬草麺のスープカレーそうめん」、平成30年に「手延べそうめん梅茶漬け」が認定されています。
共に、そうめんの新たな食べ方を提案しただけでなく、島原をアピールする商品である点が高く評価されました。島原農業高校の隣にある「旧島原藩薬園跡」は、江戸時代後期に完成した島原藩の薬園の遺構で、日本三大薬園跡の一つです。また、島原城の梅園は長崎県下では有数の梅の名所で、梅の花は島原市の市花にもなっています。それらを若い人たちや女性にアピールするそうめんの新商品としてアレンジした点は斬新でした。
「島原スペシャルクオリティ」の認定は3年ごとに更新されますが、その間になくなってしまう商品も少なからずあります。私たちがさらに評価するのは、島原農業高校と山一さんの商品開発が10年以上にわたり継続的に行われ、長く売れ続ける商品を生み出していることです。