「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 01

令和3年度

地域のブランド旭川家具を支える取組

PROJECT DATA

実施主体:旭川家具工業協同組合

拠点:北海道旭川市

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Overview

地元産の良質な木材を活かし、
デザインを重視した質の高い家具づくりを推進

旭川家具工業協同組合では、平成2年より3年毎に「国際家具デザインフェア旭川」(IFDA)を開催し、地場産業である家具の魅力を国内外に発信している。また、ものづくりを支える若手技能者を育てる取組を産官学が連携して行い、技能五輪国際大会へ日本代表選手を輩出するなど、家具製作の将来を担う人材の育成にも成果を上げている。

代表者
Interview

クラフトメーカーや行政、教育機関と手を取り合い、旭川家具の発展や若い技能者の育成をサポート

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

旭川家具工業協同組合 代表理事

藤田 哲也 さん

背景ときっかけ

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"箱物"からデザインに力を入れた"脚物"へ

旭川デザインセンター内に展示されたIFDAの入賞入選作品

旭川の家具づくりは、明治時代に北海道の開拓にあたった屯田兵や入植してきた人々が地元の木材を切り出し、生活のための建物や調度品などを作ったことが原点とも言えます。

旭川家具工業協同組合は、前身である旭川家具事業協同組合を昭和24年に結成し、その後昭和32年より旭川家具工業協同組合として活動をしております。主な取組として全国の百貨店や小売店のバイヤーを招いた「旭川家具産地展」を毎年開催し、組合員をサポートしてきました。しかし、平成に入り、バブル経済の崩壊やウォークインクローゼットなどあらかじめ収納が整った住宅形態が主流になったことなどにより、当時旭川家具の柱であった婚礼たんすの出荷が激減し、たんすメーカーが淘汰されました。そんな状況の中で旭川家具が生き残っていくために、たんすなどの"箱物"を中心とした家具づくりではなく、消費者の生活にあった椅子やテーブルなどの"脚物"へシフトしたものづくりを推し進め、さらに旭川のデザインや品質の高さを世界へ向けて発信しようという気運が高まっていきました。

これまでの取組

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家具にとらわれない、「デザインのまち」旭川を世界へ発信

「旭川デザインセンター」では、地元家具メーカー約30社が常設展示ブースを設けている

旭川家具のデザインやものづくりを変革していこうと、平成2年に「国際家具デザインフェア旭川」を開催し、以降3年毎の開催を重ね、令和2年で11回目を迎えましたが、コロナの影響により令和3年に延期となりました。同フェアでは世界の家具デザイナーの登竜門とも呼ばれる「国際家具デザインコンペティション旭川」が行われ、今回は世界37ヵ国、588点の応募があり、世界から注目されるコンペティションとなっています。

また、長年開催されてきた「旭川家具産地展」を見直し、家具産業だけでなく様々な産業や組織に声を掛け、「デザインのまち」旭川をアピールするイベント「旭川デザインウィーク」として平成27年より毎年開催しています。家具バイヤーのみならず、建築家やデザイナーなど多くの方々が来場し、平成29年は総来場者1万9千人超を記録しました。主会場となる「旭川デザインセンター」は、平成29年にリニューアルされました。特徴は、地元家具メーカー約30社が常設展示ブースを設けており、木のぬくもりに触れながら家具を選ぶことができる点です。「旭川デザインウィーク」の開催を機に、建築設計事務所から問い合わせがあったり、様々なプロジェクトから引き合いがあったり、既存ルート以外のマーケットが広がり、家具の出荷数も増加しています。

旭川の家具産業が発展し続けていくために、若い技能者の育成、定着は必須です。昭和42年、第16回技能五輪国際大会で桑原義彦さんが銀メダルを獲得したことを契機に、デザインや品質を重視したものづくり、人づくりの考えに共感する気風・環境が培われてきました。技能検定や技能五輪への挑戦をはじめ、若い技能者の育成を組合が中心となり企業や行政、教育機関が連携して進めています。その結果、第46回技能五輪国際大会(令和4年)に旭川から8大会連続で代表選手を輩出するという快挙を成し遂げています。

今後の展開

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インテリア産業にとってのチャンスを活かす

これからは、環境問題への取組も必要となってくると考えます。旭川家具は、良質な地元材を使えるという強みがあります。地元の木材を使うことで地元の林業が活性化し、森林資源の健全な育成が図れます。そうなれば、化石燃料を使って船で木材を大量に輸入する必要がなくなり、エネルギー問題にも貢献できると考えています。

働き方改革やコロナ禍で在宅勤務が多くなり、快適に仕事ができる椅子や机に買い替えようとか、リフォームしようとか、生活環境を整えるための出費を増やす世帯が増えています。インテリア産業にとってのチャンスと捉え、「素材の力」「技能の力」に加え「国際家具デザインコンペティション旭川」選出作品の商品化など、「プロダクトデザインの力」を全体として高め、旭川家具工業協同組合としてさらに世界へ発信していきたいと考えています。

メンバーズインタビュー

技能五輪や授業を通じて生まれた家具作りへの熱い思いが
技能向上の原動力に

株式会社プレステージジャパン 工場長
大谷 周平さん(第43回技能五輪国際大会<ブラジル・サンパウロ>出場)

(写真左)

株式会社ガージーカームワークス
山口 智大さん(第45回技能五輪国際大会<ロシア・カザン出場>)

(写真左から2番目)

株式会社プレステージジャパン
吉田 理玖さん(第46回技能五輪国際大会<中国・上海>出場予定)

(写真右から2番目)

技能五輪国際大会エキスパート(ものつくり大学 教授)
佐々木 昌孝さん

(写真右)

――家具づくりに携わるきっかけを教えてください。

大谷 生まれも育ちも旭川で、高校卒業後に旭川高等技術専門学院の造形デザイン科へ進学しました。そこで家具作りに出会い、技能五輪に出場し、家具づくりを仕事にしたいと考えるようになりました。担任の先生に今の会社を紹介していただき、最初はアルバイトでしたが現場を知れば知るほど魅力を感じ、今は正社員として働いています。

第43回国際大会の競技の様子

山口 埼玉県の行田市の出身で、地元のものつくり大学へ進学しました。入学当初は家具づくりにそれほど強い思いはなかったのですが、技能五輪全国大会に挑戦しているうちに、将来家具で勝負をしてみたいと思うようになりました。それなら本場である旭川で働きたいと考え、今の会社に入社することになりました。

吉田 幼い頃は旭川に隣接する東神楽町で過ごし、小学生から高校までクロスカントリースキー競技に打ち込んでいました。スキー漬けの毎日でしたが、旭川高等技術専門学院の存在を知り、思い切って入学することを決めました。はじめは何もわからなかったのですが、どんどん木工の奥深さや楽しさに気付き、家具づくりを仕事にしたいと思うようになりました。

――技能五輪に出場してみて感じたこと、仕事に活かされていることは何ですか。

大谷 学生の頃にも技能五輪に出ているのですが、社会人になってからは、会社を背負うからなのか、プレッシャーが違いました。大会で結果を出すために、限られた時間で精度を上げるためにはどうしたら良いかを考え、練習の仕方を工夫するなど、考える力が身に付いた気がします。

山口 技能五輪国際大会に向けて、出るからには金メダルを取るつもりで一生懸命に取り組みました。結果は9位敢闘賞でしたが、1番を目指していたからこそ入賞につなげることができたのだと思います。つねにワンランク上の目標を自分に課すことが良い仕事につながる。そんなことを技能五輪が気付かせてくれました。

第45回国際大会の競技の様子

吉田 私の場合、年齢制限の関係で国際大会への出場のチャンスは1度だけでした。スキー競技では完全燃焼できなかったという悔しい思いがありましたので、悔いのないよう技能五輪全国大会には必死で取り組みました。国際大会に向けて最近練習を始めたところですが、あの時の熱意を忘れないようにしています。

第58回全国大会の競技の様子

――次回大会も含め、技能五輪国際大会に旭川から8大会連続で選手を送り出していますが、どう見ていますか。

佐々木 技能五輪国際大会の選手が同じ地域から連続して輩出されるというのはあまり例がないです。偶然ではなく、送り出す企業、支援する組合や行政、教育機関がしっかりと連携していること、言わば産官学の三位一体が機能しているからこそ実現できた偉業だと思います。

――仕事における今後の目標などをお聞かせください。

大谷 現在は、テーブルやキャビネットの製造が多いですが、今後は椅子やもっと複雑な形状の新たな家具づくりにも挑戦していきたいです。

山口 打ち合わせや見積りの最初の段階から家具づくりに参画して、外部の方とのやり取りなども任せてもらえるような、ものづくりにもっと深く関われるような職人になりたいです。

吉田 技能者として自分の技能を高めていくと同時に、技能者の立場から製造部の情報を社内に発信し、また他部署とも積極的にコミュニケーションを図り、会社が組織として最大限に力を発揮できるよう働きかけていける、そんな存在になりたいと考えています。

関係者インタビュー

プロジェクト関係者に聞いてみました。

旭川家具の品質を支える製品の試験・検査機関として

旭川市工芸センターは、旭川市産業指導所として発足し平成8年に現在の場所へ移転したのち、今の名称へ変更しました。支援の対象業種は、家具・建具・小木工といった木製品製造業と窯業です。かつては指導所と名乗っていましたが、時代の要請にあわせ、木製品の加工技術・技能に関する研修を組合とも連携しながら業界全体に向けて行うなど、人材育成のサポートを行っています。

また、技能五輪出場選手の支援も行っています。企業所属の選手は通常の仕事場では大会に向けた練習を行うことが難しい場合が多いため、大会のレギュレーションに沿った区画割りや使用工具、材料を準備した練習場所を工芸センターが提供しています。また、企業の選手と旭川高等技術専門学院の選手が合同で模擬練習をすることもあり、指導者を含め、産官学の交流が自然となされています。

旭川市工芸センターには、家具の材料や部品の強度、PL法(製造物責任法)への対応など、製品の耐久性・安全性を確認する試験・検査機器があります。企業からの試験分析依頼も多く、現在の支援業務のメインとなっています。消費者の安全・安心を求めるニーズが年々高くなっているため、新しい樹種・素材や接着剤についての強度試験などの依頼も増えています。行政の支援というのは長いビジョンを持って行うというのが一般的な形ですが、時代の変化によって役割を変えることも必要です。現在は、技術指導という役割をベースに、クオリティの高い製品をつくっていくための検査機関であることも工芸センターの大きな役割であると考えます。

旭川市工芸センター 所長
鈴木 三千仁さん(写真右)
旭川市工芸センター 副所長
小関 敬之さん
平成29年にリニューアルされた旭川デザインセンター
製品部材の性能を試験するための工芸センターの試験機器
  • 一部撮影用にマスクをはずした写真が掲載されておりますが、ソーシャルディスタンスを確保するなど取材は新型コロナウィルス感染症対策を講じた上で撮影しています。