PROJECT 10
平成30年度
運営組織:山口県立防府商工高等学校
拠点:山口県防府市
開始:平成27年4月
Overview
ものづくりの上流から下流までを体験。
高校生による1 年間の長期インターンシップ。
高校に在籍しながら、企業での就業体験を得られる本制度。1週間程度の短期インターンシップではなく、1年間を通して学びを深められる機会として活用されています。地元企業を研修先とし、これまでにゴム製品メーカーと鋳造メーカーにご協力いただき、新製品の企画から開発、製造、販売までの流れに沿った実践的な取組みを行ってきました。就業前に実務経験を積める貴重な場であることはもちろん、学生の進路選択にも役立つ新たな取組みとして注目されています。
代表者
Interview
代表者プロフィール
代表者プロフィール
山口県立防府商工高等学校
校長
小土井 実 さん
昭和36年、山口県生まれ。同校の代表として、地域とともにある学校づくりに取り組む。
山口県立防府商工高等学校
教頭
矢上 博 さん
昭和45年、山口県生まれ。担当教諭と共に、学校と現場の橋渡し役として、本プロジェクトを進行。
背景・きっかけ
学校の外で、学びを
得られる場をつくる。
「防府商業高校」として山口県の商業教育をリードしてきた当校は、県内の高校再整備計画に伴い、平成24年に機械科を新設。「防府商工高校」へと生まれ変わりました。商業で培ったビジネスの知見に、ものづくりの技能を融合し、独自の教育方法を模索したことが、当制度をはじめたきっかけです。制度の骨組みは、平成16年度に文部科学省の主導で実施された「実務・教育連結型人材育成システム」を参考に組み立てました。社会人としての基礎を身につけ、地域社会に貢献できる人材を育てています。
これまでの取組み
ものづくりの上流から下流まで、
一気通貫で手がける。
これまでに地元の企業2社にご協力いただき、製造・販売の実地研修を行ってきました。特に、平成27年度から3年連続で生徒を受け入れていただいている王子ゴム化成様では、新製品の企画から開発、製造、販売まで、企業のサポートを受けながら、そのすべてを生徒主導で取り組んでいます。平成27年には、当校のマスコットキャラ「たぬ防」の形のゴム材を使った傘ハンガーを企画製造したところ、地域ブランドに認定。生徒自ら販路を開拓し、市内の店舗で生徒たちが生み出した商品が販売されました。
今後について
商工の専門性を深め、
社会で活躍できる人材に。
今後も地域社会と連携しながら、生徒の技能向上と学びの深耕、そして将来の進路選択に寄与できる取組みを行えたらと思っています。制度を利用し、商業と工業の専門性を深めながら、ビジネスとものづくりの両軸を理解できる人材を多く輩出することが目標です。また、地域企業との繋がりを深めることで、生徒から社会人へのスムーズな橋渡しができればと思っています。ゆくゆくは、当校の卒業生が、地域の産業を盛り上げてくれるような、そんな学びの場にできると嬉しいですね。
PROJECT STORY
就業体験で得られる、さまざまな学びを通して、
生徒たちの技と心を育てていきたい。
角 雅伸さん
(写真_後列中央)山口県立防府商工高等学校 機械科教諭
尾髙 盛巨さん
(写真_後列右)王子ゴム化成株式会社 管理部総務課 課長
入船 公太さん
(写真_後列左)王子ゴム化成株式会社 技術部技術課
長尾 栄祐さん
(写真_前列左)山口県立防府商工高等学校 機械科3年
山田 直樹さん
(写真_前列右)山口県立防府商工高等学校 機械科3年
繁富 僚さん
(写真_後列左から2番目)山口県立防府商工高等学校機械科3年
甲斐 紀成さん
(写真_後列右から2番目)山口県立防府商工高等学校機械科3年
ひとりの先生の想いが、
地域を巻き込む取組みに。
角さん 本プロジェクトは、私の前任の先生が中心になって立ち上げた制度なのですが、1年にも及ぶ長期の企業研修は前例が少なかったため、受け入れ先の企業さんを見つけるのを苦労したと聞いています。そのような中、王子ゴム化成さんは制度の立ち上げ初年度から私たちの想いを汲んでいただきました。
尾高さん 教育、学校、そして生徒たちへの愛の深さを感じましたね。「工業人としての技と心を磨くために、生徒たちには教室だけでなく、学校外での活動を通して学びや経験を得て欲しい」と。その想いに触れ、私たちも地元企業として、活動にご協力しようと思ったのです。新しい取組みではありましたが、スムーズに会社の了承も得られ、長期企業研修がスタートしたんです。
入船さん とはいえ、最初は現場も困りました。何しろ、1年間のカリキュラムが特に決まっていたわけではありませんから。当社は毎年、複数名の学生を受け入れていますが、カリキュラム自体も学生と一緒になってつくっているんです。ここで何を学びたくて、どんなものをつくりたいのか。生徒たちと一緒になって、毎年、イチからものづくりに励んでいます。
実体験を重ねることで、
学びは深まっていく。
入船さん 研修では、初めはゴムの性能や製造の基礎を学ぶ時間を設け、その後、市場調査、商品企画、製品仕様の検討、設計図面及び金型の製作、サンプルの作成、製品の量産まで、ものづくりの上流から下流までのすべてに携わってもらいました。過去に実際つくり上げた商品は、ゴム製の「傘ハンガー」。防府商工のキャラクター「たぬ防」を模した生徒たちの努力が詰まったアイデア商品です。
長尾さん 難しかったのは、材料の配合です。ゴム素材をつくる際、配合を少し間違えるだけで、ゴムが切れやすくなったり、柔らかくなりすぎたり。何度も試しては改善しましたね。自分たちが主体となり、手を動かしながら考えて取り組めたことで、自分なりの発見や正しい理解に繋げられたと感じています。
山田さん 僕たちの代では実現しませんでしたが、先輩たちが研修に取り組んでいた際は、「製造した商品を実際に販売した」、と聞いています。「たぬ防傘ハンガー」が、地域ブランドに認定され、自分たちで販路を開拓し、市内の店舗で販売される。モノを「つくる」だけでなく、実際に「売る」ところまで携われるのは、「学校では得られない貴重な体験になるだろうな」、と感じています。
あらゆる経験を通して、
技能のスペシャリストになる。
甲斐さん 普段の学校生活では、先生を除いた、大人の方と接する機会はほとんどありません。だから、研修を通して企業の方々とたくさん接することができたのは新鮮でした。社会人の方と実務を通してコミュニケーションを図ることで、会話する力や振る舞いなども学ぶことができたように感じます。
繁富さん 就業前に長期で働く経験を得られたことで、将来の選択肢が広がったようにも感じます。自分が将来どんな仕事に就きたいのか、どんな働き方をしたいのか、これまでは自分の想像でしかなかった物事が、実際に働く経験を得られたことで、将来像がより明確になったと思います。
角さん 最近は、専門高校でもIT化が進み、実際にモノや技能に触れながら教える機会は少なくなりました。ものづくりの原点は、自ら手を動かし、トライアルアンドエラーで製品を作り上げるものだと思います。生徒たちには実務を通して、成功も失敗も経験しながら、技能のスペシャリストへと成長してほしいですね。
Column
プロジェクト関係者に聞いてみました。
地元の若者たちに、地場産業を盛り上げてほしい。
鋳造技術を活かした製品づくりを事業とする当社では、平成28年と29年度に制度を利用し、生徒を受け入れました。研修では、あえて昔ながらの鋳造方法で製品をつくることで、ものづくりの難しさや面白さを感じてもらえるように工夫。生徒たちも、学校では得られない経験を積めたことで、非常に喜んでいたかと思います。企業と学校がタッグを組んで、地域を盛り上げる取組みが増えると、「より地場産業は活性化するのではないか」、と感じています。