「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 01

令和2年度

摘花された花たちの再利用 ~天然色素から生まれるホップ和紙の新たな挑戦~

PROJECT DATA

実施主体:岩手県立遠野緑峰高等学校 草花研究班

拠点:岩手県遠野市

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Overview

地域を巻き込み広がる
ホップ和紙から始まった高校生たちの活動

ビールの原料であるホップの一大産地、遠野。そのホップの蔓の廃材を利用した「ホップ和紙」の研究がスタートしたのは平成21年。和紙作りから始まった高校生の研究は、和紙の染色、そしてポップそのものの栽培へ、継続した研究を元に地域の人々と協力しながら進化を遂げている。

代表者
Interview

遠野市のまちづくりと連動し、ホップ和紙作りから緑峰オリジナル品種のホップ栽培へ

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

岩手県立遠野緑峰高等学校 生産技術科3年(草花研究班 チームリーダー)

小森 陽太 さん

背景ときっかけ

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10年かけて完成させたホップ和紙

ホップ和紙プロジェクトは、遠野緑峰高等学校生産技術科の草花研究班の先輩たちが平成21年から継続して取り組んできた研究です。3年生がプロジェクト学習の一環として取り組んできたものです。

遠野市はホップの一大産地です。ホップは蔓が10m以上になりますが、ビールの原料になる毬花(きゅうか)以外は焼却処分され、遠野市だけで年間200tにもなります。草花研究班の先輩たちは、この“農業廃棄物”の有効活用を考え、ホップ農家から蔓の提供を得て、平成21年から和紙づくりに取り組み、10年かけてホップ和紙の生産方法を確立してきました。最初苦労したのは、繊維の取り出しでした。ホップの皮に繊維が多く含まれることを発見し、和紙を漉(す)けるようになるまでに4年かかっています。それ以降も、和紙を作るための化学薬品の使用を極力減らしたり、和紙の製作工程を見直したりと毎年研究を重ねてきました。

10m以上伸びたホップの蔓は毬花を収穫した後に廃棄される
ホップ和紙を漉くのは草花研究班の基本技術

これまでの取組

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ホップ和紙に付加価値をつける

僕らの1年先輩が考えたのは、ホップ和紙に付加価値をつけることでした。着目したのが、毎年、草花研究班が学校の温室で栽培している花の「摘花」です。摘花とは、植物の株を大きくするため一度咲いた花を摘み取ることです。学校では年間500kgもの花が廃棄されます。この花びらを活用したホップ和紙の染色「草木染」の研究です。“農業廃棄物”である蔓を利用してホップ和紙を作ったのと同じ発想です。

摘花廃材から色落ちしないように色素を抽出し、ホップ和紙を染色するのですが、最も苦労したのが発色の鮮やかさです。実験を繰り返す中で、同じ花でも染色液のPHで発色が違うことを発見したのは大きな成果でした。

今までホップ和紙は遠野緑峰高校の卒業証書や賞状、地元のホテルのしおりなどに採用されてきましたが、「草木染」の和紙にすることによって、さらに活用の場が広がると思っています。

摘花された花びらは冷凍保存し、染色に使われる

今後の展開

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ホップ和紙の普及と「ホップの里からビールの里へ」の参画

御朱印用のホップ和紙を染色する

今後、ホップ和紙を地域に普及させるべく、中学生のホップ和紙体験教室や緑峰祭(文化祭)でのホップ和紙漉き体験、市内で開かれるイベントにも草花研究班は積極的に参加しています。また、ホップ和紙そのものを販売するだけでなく、文房具やアクセサリーといった商品としてのホップ和紙を増やすことも考えています。

普及活動をする中で知ったのは、農家の高齢化による担い手不足でした。ホップ生産量もピーク時の4分の1にまで減少しています。そこで草花研究班が今年から着手したのが、ホップの栽培です。遠野市では「ホップの里からビールの里へ」を合言葉に、ホップ生産に留まらず、ビールを核としたまちづくりや産業振興のプロジェクトがスタートしています。その一翼をできれば草花研究班も担いたいと考え、自分たちの力でホップ栽培を行い、緑峰オリジナルの品種を作ってみたいと思っています。

ポップ和紙にさらに付加価値をつけて広めていくこと、緑峰オリジナルの品種作りを通して遠野市の「ホップの里からビールの里へ」の取組に参画していくことで先輩から受け継いだバトンを後輩たちにも受け継いでいけたらと考えています。

メンバーズインタビュー

ホップ和紙の染色からホップの栽培へ

(写真左)
小森 陽太さん

岩手県立遠野緑峰高等学校
生産技術科3年(草花研究班 チームリーダー)

(写真中央)
萩野 白蘭さん

岩手県立遠野緑峰高等学校
生産技術科3年(草花研究班)

(写真右)
松田 充弘さん

岩手県立遠野緑峰高等学校
生産技術科3年(草花研究班)

ホップ和紙の染色からホップの栽培へ

――ホップ和紙を知ったのはいつごろですか。

萩野 私は小学生の頃から知っていました。小さい時からフラワ─コ─ディネ─タ─になりたくて、緑峰高校のこともよく知っていました。だから、草花研究班には最初から入ろうと思っていました。

小森 僕が知ったのは中学3年生の時です。母親も母親の友人も緑峰高校出身で、僕が緑峰高校に行くと決めてからホップ和紙の話はよく聞かされました。それから草花研究班に興味を持つようになりました。

松田 僕がホップ和紙を知ったのは、緑峰高校に入ってからです。

──小学校の卒業証書にもホップ和紙が使われていると聞いています。

松田 ホップ和紙で小学校の卒業証書を作り始めたのは5、6年前です。毎年11月~12月ごろ、遠野の2つの小学校の6年生が20人くらいずつここに卒業証書を漉きに来ます。今年の緑峰高校の1年生には自分で小学校の卒業証書を漉いた子もいますね。同じ頃から緑峰高校の卒業証書も、卒業生自身がホップ和紙で漉いています。

──小学生や中学生のホップ和紙体験教室もやっていますね。

小森 夏休みなどに緑峰高校に来てもらって、ホップ和紙を漉く体験をしてもらっています。体験教室で作るのは、コ─スタ─やしおりなど簡単にできるものが中心です。簀桁(すけた)を使った紙漉きは、僕らが実演するのを見てもらっています。

──昨年から始めたホップ和紙の染色に使う花は、学校で育てているということですが。

小森 以前から、草花研究班が育てた花を遠野駅や街の花壇に地域の人たちと一緒に植えていました。そのためにパンジ─やビオラ、シクラメンなど10種類前後の花を草花研究班で育てています。それぞれ千単位、多いものでは万単位で花を育てている。それを摘花したものをホップ和紙の染色に使っています。

──今年からホップの栽培も始めていますね。

萩野 草花研究班のホップ和紙プロジェクトは平成26年度日本学校農業クラブ全国大会最優秀賞(文部科学大臣賞)を受賞するなど、さまざまなタイトルを獲得してきました。農業クラブの全国大会は農業を専門とする高校の甲子園のようなものですが、ホップ和紙を作る技術は2年前の先輩たちが確立しました。それに付加価値をつける研究が私たちの1年先輩の行ったホップ和紙の染色の研究でした。次の研究テ─マとして何があるか。私たちが新しく選んだテ─マが「ホップの栽培」ということなんです。

小森 ホップの新しい品種を作るには10年かかると言われています。僕らの代では新しい品種は完成しないと思いますが、海外から品種を取り寄せたり、ホップ農家から品種を分けていただいたり、まずは育てるところから始めています。

関係者インタビュー

プロジェクト関係者に聞いてみました。

生徒たちの活動を地域ぐるみで支える

「遠野ホップ和紙を育てる会(以下、育てる会)」を立ち上げたのは平成27年2月です。7人から始まった育てる会のメンバーは現在、ホップ農家、一般農家、地域住民など30人近くになっています。目的は、緑峰高校の生徒のホップ和紙作りのサポートとホップ和紙の普及です。生徒は毎年卒業します。ホップ和紙という緑峰高校の生徒が作り出した、いかにも遠野らしい技術を継承し、ホップ和紙の普及を図ることで地域の産業振興に結びつけたいというのが私たちの願いです。

ホップ和紙作りは、ホップ畑からの蔓の回収からボイル、繊維の取り出し、紙漉きまで20工程以上に及びます。それぞれのプロセスで育てる会のメンバーが可能な限り協力しています。また、今年からトロロアオイの栽培も始めました。和紙作りには繊維を均一に水に溶かす「ネリ」が必要で、その原料となるのがトロロアオイの根です。国内では最近、入手が困難になってきています。それで、このトロロアオイもメンバーの畑を借りて、生徒といっしょに今年から栽培を始めています。

ホップ和紙の普及活動としては「ホップ和紙体験工房」があります。県内外の観光客にもホップ和紙を知ってもらおうと、遠野市立野外博物館「遠野伝承園」で毎年5月の連休に緑峰高校と育てる会共催で開催しています。草花研究班の生徒と日頃から一緒に活動しつつ、生徒たちのホップ和紙の取り組みを地域ぐるみで支え、盛り上げていくことが育てる会の役割だと思っています。

遠野ホップ和紙を育てる会 会長 菊池 範子さん(写真左)
遠野ホップ和紙を育てる会/遠野緑峰高等学校 学習支援員
番匠 眞理子さん
草花研究班の生徒と一緒に植えたトロロアオイ
ホップの繊維を溶かした水にトロロアオイのネリを加える

プロジェクト関係者に聞いてみました。

摘花で染めたホップ和紙を御朱印に

ホップ和紙の御朱印の頒布を始めたのは平成31年2月からです。きっかけは育てる会からのお誘いでした。宮司が緑峰高校の草花研究班出身ということもあり、ぜひやろうということになったのです。

初回は染色なしの白いホップ和紙でした。100枚限定で頒布したのですが、地元の新聞やテレビが取り上げてくれたこともあって、頒布日の朝、あっという間になくなりました。数日後、高校に残っているホップ和紙をいただいて追加頒布しました。

摘花で染めた御朱印の頒布を始めたのは翌月からです。最初は3月3日のひな祭りで、シクラメンで染めたピンクのホップ和紙の御朱印でした。以後、月に一度、「ホップ和紙御朱印の頒布日」を設け、デザインを変えて染色あり30枚、染色なし20枚、合わせて50枚ほど頒布しています。

ホップ和紙は、毎月作れる量は50枚が限度です。毎回、数時間でなくなってしまうことがほとんどです。やはり、生徒たちが頑張って作っているホップ和紙を応援する人たちが多いからだと思います。

遠野郷八幡宮 宮司 多田 頼申さん(写真左)
遠野郷八幡宮 禰宜 多田 宜史さん