PROJECT 02
平成30年度
運営組織:墓地景観創造研究会
拠点:山形県東村山郡山辺町
開始:平成11年11月
Overview
石で創造する、多種多様の可能性。
地域貢献を通じて、技能を次世代につなぐ。
山形県内の石工業者15社で結成された墓地景観創造研究会は、墓石や石垣、石畳、石段、石碑など、広く石造物の製作・施工に携わっています。地域の歴史・文化・環境との調和を大切にし、景観に配慮した墓石づくりを行うほか、「草木塔」と呼ばれる石碑を小中学校に寄贈するなど、石材施工を通した地域貢献に取り組んでいます。また、石工技能の継承や若年技能者の育成を目的に、修繕が滞っていた石造物を無償で修繕するなど、職人が技能を磨く場を積極的につくり出しています。
代表者
Interview
代表者プロフィール
代表者プロフィール
墓地景観創造研究会
会長
吉田 朝夫 さん
昭和27年、山形県生まれ。長年に渡り石工業を営み、本会は立ち上げ時から会長を務め、現場を指揮。また、県内の美術展において数々の受賞歴を誇る。
背景・きっかけ
本質的な視点から、
墓地のあるべき姿を考える。
石工業者の重要な仕事として、墓石の施工がありますが、当会が発足する少し前から大きくきらびやかな墓を施工するたびに「墓地にふさわしい景観があるのでは」と思うようになりました。当時、景観保全への意識が高まったこともあり、墓地の持つ意味を表現できる景観や墓参しやすい墓を研究する「墓地景観創造研究会」は生まれました。会では石工の仕事を単なる「石のものづくり」に終わらせず、周囲の環境との調和や、古くからの精神風土との関係に結びついた仕事として捉え、技能伝承など「ものづくりの本質」を追及しようと活動をはじめました。
これまでの取組み
石材が活かされる場で、
当会のチカラは活きる。
地元で採掘された蔵王石や最上石を積極的に使用し、地域環境や歴史文化に根ざした墓地景観をつくってきました。しかし昨今は、お墓の需要が減少傾向にあり、またその他の石造物も減っています。このままでは業界の衰退に加え、若い職人が技能を磨く場もままならない。そこで当会では、資金難などを理由に未修復だった石造物を、技能訓練を兼ねて施工する場を設け、技能の伝承・向上に努めています。また、石工事業の認知を広めるため、小中学校へ「草木塔」の寄贈を行ない、地域貢献に励んでいます。
今後について
技能を磨き、地域に応える。
未来に継承したい山形文化。
景観保護の観点から墓地づくりを考える取組みは、県内の寺社仏閣から多くの賛同の声をいただけるようになりました。また、ボランティアでの石垣や石段の修復作業を通して、職人同士の交流・技能の研鑽も実現しています。今後は私たちが見据える墓地やお墓のあり方を一般の方々に知ってもらうため、「墓地景観デザインコンクール」と称したコンテストの開催を予定。山形の伝統文化を墓地を通して未来に継承していくことを目指し、活動していきます。
PROJECT STORY
育ててくれた山形への感謝を込めて、
私たちの手で、石工産業の未来を切り開きたい。
舩越 文弘さん
(写真_一番左)舩越旭弘石材店代表。墓地景観創造研究会幹事。
山形県石材技能士会の会長も務める。一級石材施工技能士。
吉田 純さん
(写真_中央)吉田石材店 代表。墓地景観創造研究会 事務局長。自身が手がけた石造物作品が、山形県美術展に4度の入選を果たす。
吉田 朝夫さん
(写真_一番右)石の浄朝有限会社代表。墓地景観創造研究会会長。
墓地の現状と、
地場産業の未来を憂いた。
吉田(朝)さん ひと昔前は「お墓を大きく豪華にみせたい」と思う家庭も多かったため、墓地を見渡すと、まるで権威を象徴するかのようなお墓が乱立していました。本来、墓地とは魂の安息の地。その「静なる場所」とのギャップを、私が感じてきたのが平成10年ごろでした。ちょうど当時、我々の業界だけでなく、世の中全般で景観保全や環境整備の考え方が広まってきたこともあり、墓地景観の現状を変革していこうと、周囲の石工事業者に声をかけたのです。
舩越さん 「大きさ」や「形」は、商売の儲けに直結する繊細な話。地元のライバル会社である会長から話をもらった当時は、純粋に驚きました。それでも一緒になって頑張ろうと思えたのは、会長が抱いていた山形、そして石工事業に対する想いと、これから先のビジョンに魅かれたからでした。
吉田(純)さん 山形の墓石づくりも、近年は中国など安価に製造・販売する業者が進出。石工事業者の数も減っており、このままで地場産業自体が危うい。この先、私たちが石工の仕事を通して、世の中にどんな価値を提供できるのか。未来を見据えるべき分岐点に来ているのだと感じました。
幅広い知識と経験が、
個人の可能性を拡げていく。
吉田(純)さん 景観に配慮した墓地づくりを目的に発足した当会ですが、これまでにさまざまな活動に取り組んできました。例えば、神明神社に積まれていた石垣の修復兼研修活動や白鷹山の山道に設置された石段の補修工事、地元の小中学校に「草木塔」を贈るプロジェクト、墓石デザインの展示発表会の開催などです。
舩越さん 石工といっても携わる事業は会社によってさまざま。私はお墓づくりを生業としてきましたが、石垣の修復工事は携わったことのない領域だったため、非常に勉強になりましたね。特に石積みでは、谷積みと呼ばれる手法を採用し、構造的に堅牢な方法を教えていただきました。
吉田(朝)さん 当会の会員同士がお互いに培ってきた技を教え学びあうことで、それぞれが石工としての技能を高めていく。結果、自身の事業でより質の高い仕事を手がけられるようになりますし、これまでの事業領域を超えた「石のものづくり」に携われるようにもなる。職人が活躍できるフィールドが広がることが、山形の石工産業の未来にも繋がると思うんです。
これからも心を込めて、
山形への恩返しを。
舩越さん また、地域への貢献を私たちの重要なテーマとして捉え、活動を続けています。例えば、草木塔の寄贈プロジェクト。私の母校である小学校には、創立120周年の記念として、この石碑を建立しました。山形は自然豊かな土地が多く、野山を駆け回って子供たちはすくすくと育っていく。だからこそ、自然に感謝する心を大切に成長してほしい、という願いを込めて各校にお贈りしています。
吉田(純)さん 地域貢献と言えば、山形で採掘された石材の積極的な活用を意識しています。地域環境の色が強い石を使うことで、より地元の精神文化との繋がりを強くできると思うんです。私たちが手がける製作物は、心を宿すものが多いですから。
吉田(朝)さん 発足から約20年、幅広いチャレンジの中で私たちの結束力も固まりました。その芯にあったのは、とにかくチャレンジするということ。その姿勢を崩さずに堅い意志を貫いてきたことで、可能性を切り開いてきたんです。山形に育ててもらった分、石工の仕事でたくさん恩返しをしたい。まだまだ道半ばですが、この地の未来を思うと、ワクワクしてきます。
Column
プロジェクト関係者に聞いてみました。
石造物のことは「墓地研」へ。安心して頼れる存在です。
白鷹山の山頂には、地元で有名な虚空蔵菩薩を祀る祠があり、多くの方がお参りに訪れる場所でした。しかし、参道に据え付けられていた石段は風化が激しく、足を踏み外せば大怪我を負う可能性も…。そこで、会のみなさんにお願いし、一部修復を行っていただくことに。その後、見違えるほど美しくなった石段は、安全に登り降りできるようになり、私も一安心です。まだまだ手が行き届いていない箇所が残っているため、みなさんとは今後も協力して修復を進めていけたらと考えています。