「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 03

令和3年度

「拓陽キスミル」で地域を活性化~届け私たちの思い 10,000人の後輩へ~

PROJECT DATA

実施主体:栃木県立那須拓陽高等学校

拠点:栃木県那須塩原市

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Overview

高校生が開発したオリジナル乳酸菌飲料で、地域の活性化に貢献

那須拓陽高等学校の食品化学同好会が、那須塩原市と連携し、地元牧場の協力の下、オリジナル乳酸菌飲料「拓陽キスミル」を開発。市内の小中学校への提供やイベントを通じて、乳製品についての理解を深めてもらう活動とともに、地元の産品のPRにも貢献している。産官学一体となって、製品開発、製造、販売やイベントでのPR等を行い、地場産業を支える人材育成と地域の活性化に取り組んでいる。

代表者
Interview

地域への貢献とともに、生徒たちの人間的成長にも役立つ取組

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

栃木県立那須拓陽高等学校 校長

小川 浩昭 さん

背景ときっかけ

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地元の高校生の発案から始まった製品開発

那須塩原市は、酪農を基幹産業とする全国有数の市です。しかし、人口減などに伴う牛乳消費量の低迷や酪農家の後継者不足などの問題を抱えており、市では平成27年4月に、牛乳等の地域資源を活用し、地域の活性化を図ることを目的とする「那須塩原市牛乳等による地域活性化推進条例」を施行しました。その取組の一つとして、地元高校生による新たな乳製品開発というアイデアが市の農務畜産課から生まれ、食品化学科のある那須拓陽高校へ話が持ちかけられたのが「拓陽キスミル」誕生のきっかけです。

本校の食品化学科には、3年生になるといくつかのテーマに分かれてより専門的に学ぶ「課題研究」という授業があります。当初、拓陽キスミルはこの課題研究の乳加工班で開発がスタートしました。校外における製造実習や休日のイベント参加など、授業の枠組みには収まりきらない形に発展していったため、平成31年より食品化学同好会として活動を引き継ぐことになりました。

これまでの取組

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製造から販売、商品のPRを通じて効果の高い取組に成長

小学校へ出向いての食育活動

拓陽キスミルは、那須拓陽高校の牧場で生産した生乳に合う乳酸菌を市販の乳酸菌8種の中から生徒が選び出し、専門家の指導を仰ぎながら開発した乳酸菌飲料です。那須町の「森林ノ牧場」に製造を委託するとともに、森林ノ牧場の工場で生徒による製造実習も行っています。

食品化学同好会の生徒たちの提案により、地域の特性を知ってもらう機会をつくり、食育にも貢献できるという観点から、年に一度、那須塩原市の小中学生の給食およそ10,000人分の拓陽キスミルを提供しています。実際に生徒が小学校へ出向き、拓陽キスミルの特徴や乳製品の大切さについて紙芝居で説明し、動画の配布なども行ってきました。また、年間を通じて市内のイベントに参加したり、JR那須塩原駅構内の「那須カフェ」で一般の方に試飲をしていただいたり、PR活動や販売活動にも積極的に取り組んでいます。平成30年には茨城県小美玉市で開催された「第1回全国ヨーグルトサミット」に招かれ、これまでの取組を発表や拓陽キスミルの試飲会を行い、多くの酪農・乳業関係者と交流を持ちました。

第1回全国ヨーグルトサミットではこれまでの取組を発表

生徒が開発・製造・販売まで一貫して行ったことで、充実感や自信を得られ、商品が世に出るまでの大変さを実感できたと思います。また、乳業に関わる様々な方と触れ合えたことも貴重な体験であり、市が抱える問題に対して自分たちに何ができるかを考える良いきっかけになったと思います。食品化学同好会の生徒は畜産系や農業系の大学への進学をはじめ、乳関連会社へ就職する生徒も多く、教育面においても、人材育成の面においても効果の高い取組になっています。

今後の展開

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拓陽キスミルの可能性を広げ、新たな製品の開発にもチャレンジ

市は「牛乳で乾杯条例」を制定し、地域の活性化を目的とした「ミルクタウン戦略」を推進しています。本校としても、拓陽キスミルの認知度向上がミルクタウン戦略に寄与すると考え、また、社会教育の一環として、引き続きイベント参加や試飲会などを継続していきたいと考えています。

学校内の活動としては、単に飲み物としての拓陽キスミルではなく、サラダのドレッシングや料理に加える調味料としてのレシピを考案するなど、拓陽キスミルの可能性を広げる研究も行っています。さらに、新たなオリジナル乳製品の開発にも着手しており、今後も生徒の自主性を重んじ、地域と連携した本校独自の活動として食品化学同好会を発展させていきたいと考えています。

メンバーズインタビュー

自分たちで食品を作り出す楽しさ、様々な人と触れ合う楽しさが
食品化学同好会の魅力

平塚由紀奈さん
食品化学科3年

(写真左)

斎藤彩花さん
食品化学科3年

(写真左から2番目)

中嶋亮介さん
食品化学科教諭
食品化学同好会顧問

(写真中央)

渡邉步さん
食品化学科3年

(写真右から2番目)

奈良原誠也さん
食品化学科3年

(写真右)

――なぜ、食品化学同好会に入ろうと思ったのか教えてください。

奈良原 1年生の時に拓陽キスミルを試飲したのがきっかけです。とても美味しくて、自分も拓陽キスミルの製造に関わってみたい、そして沢山の人に知ってもらいたいと思い同好会に入りました。

平塚 校内で売っている拓陽キスミルを使ったアイスクリームが大好きで、興味を持ちました。同好会に入って拓陽キスミルを使った製品や様々な食品加工を研究してみたいと思いました。

座談会の様子(1)
座談会の様子(2)

――拓陽キスミルに関わる活動の中で、苦労したことや楽しかったことは何ですか。

奈良原 新しいレシピとして、カボチャのサラダに拓陽キスミルを入れて、酸味の効いた風味を出そうと考えたのですが、拓陽キスミルの最適な配合量を見つけるのが難しく、苦労しました。みんなと目標に向かって試行錯誤することはとても楽しい経験でした。

斎藤 初めて市のイベントに参加した時、人前で声を出すことが恥ずかしくて最初は苦労しましたが、様々な人と触れ合える機会が増えるにつれてそれが楽しみになってきました。

市主催のイベントに参加し「拓陽キスミル」をPR

――製造実習で印象に残っていることはありますか。

渡邉 一番印象に残っているのは、工場の衛生管理がしっかりしていることです。長靴の消毒や器具一つ一つを分解して清掃するなど、食品をつくるにはここまで徹底する必要があることに驚きました。

斎藤 すべてが機械任せではなく、バターの成形などは手作業で行っていて、心を込めた製品が出来上がっていくことに感動しました。

出来上がった「拓陽キスミル」をボトルに充てん
製造終了後は部品を一つ一つ分解し、清掃・消毒

――拓陽キスミル以外に、チャレンジしていることはありますか。

平塚 コロナ禍で余った牛乳が廃棄されたという話を聞いて、SDG'sの意識を持って何かできないかと思い、生乳から拓陽キスミルを製造する際に採れる生クリームに着目して、発酵バターの開発を進めています。

――卒業後の目標や将来の夢は何ですか。

奈良原 大学に進学して、もっと食品や乳製品について学びたいと思っています。将来的には、栃木県の特産品を使った新たな食品の開発や普及活動に携わって地域に貢献したいと考えています。

渡邉 自分も食品について学ぶため大学進学を希望しています。子どもの頃から食品アレルギーを持っているので、誰もが安全・安心に食べられる食品の開発に興味があります。

――食品化学科、食品化学同好会で生徒を指導する立場で、大切にしていることは何ですか。

中嶋 生徒たちは牧場の工場やイベント会場などへ出向いて活動することで、教室で教える以上のことを吸収し、成長してくれます。様々な生の現場を見るというのは、大きな教育的価値があります。私としては、なるべくそうした多くの学びや体験の場を提供してあげることを大切しています。

関係者インタビュー

プロジェクト関係者に聞いてみました。

さまざまなイベントを盛り上げてくれる食品化学同好会

那須塩原市は生乳生産額が本州1位、全国で4位という酪農畜産業が盛んなまちです。市としても牛乳や畜産を柱とした地域の魅力向上を図っています。地域活性化に若い力を起爆剤にしたいという思いから、市内で唯一農畜産・食品系の学科を持つ那須拓陽高校にお願いし、高校生によるオリジナル乳酸菌飲料「拓陽キスミル」の開発に着手してもらいました。また、製造にあたっては専門的な設備の整った森林ノ牧場さんが快く引き受けてくれました。

那須拓陽高校には多くのイベントへ参加をお願いしており、高校生が手掛けたオリジナル乳製品というのは珍しく、インパクトがあり、注目度や話題性を高めることに貢献してくれています。今後は、拓陽キスミルを市民の誰もが知り「我がまちの特産品」として愛着を持ってもらえるよう継続的に活動をしてもらいたいと考えています。また、生徒の皆さんにはその経験を活かして、ぜひ酪農畜産に関連した仕事に携わってもらい、卒業後も那須塩原市を盛り上げていただきたいと願っています。

那須塩原市役所 産業観光部 農務畜産課 畜産振興係 主任
君島 悠太さん

プロジェクト関係者に聞いてみました。

拓陽キスミルをきっかけに、多くの地元産乳製品が生まれることを期待

森林ノ牧場が拓陽キスミルの製造に協力することになったのは、市からの働きかけと同時に、那須拓陽高校で採れる生乳の量が、私どもの小ロットに対応した製造ラインを持つ牧場が適切であったことも理由のひとつです。

製造実習は、見学ではなくて、生徒さんに作業してもらうことを重視していますが、工場の中に入ると緊張してしまう生徒さんもいるため、できるだけ声を掛けたり、質問させたり、考えさせたり、こまめにコミュニケーションをとりながら、製造できるよう指導しています。

森林ノ牧場では、クラフトバターなどの小ロットの乳製品の製造も請け負っています。拓陽キスミルのようなロットでも製造できることが広く認知されれば、オリジナルの乳製品を生み出そうと考える地域の牧場がもっと出てくると思います。地域の酪農業の活性化にもつながっていきます。拓陽キスミルに関わる那須拓陽高校の今後の活躍に期待しています。

森林ノ牧場株式会社 製造部門リーダー
野田 航平さん
森林ノ牧場での製造実習。作業工程の確認
  • 撮影用にマスクをはずした写真が掲載されておりますが、ソーシャルディスタンスを確保するなど、取材は新型コロナウィルス感染症対策を講じて行っています。