「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 08

平成30年度

石川の伝統的建造技術の習得・継承及び後継者の育成活動

PROJECT DATA

運営組織:長野県時計宝飾眼鏡商業協同組合

拠点:長野県茅野市

開始:平成16年6月

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Overview

機械式時計が刻む時を、止めないように。
修理士の技能を、後世に受け継ぐ。

機械式腕時計の修理士の減少を背景に、次世代の修理士育成を目的として始まった「信州 匠の時計修理士検定」(以下、検定)。独自の技能評価基準を策定し、4階級の検定を実施しています。また、検定の合格に必要な知識・技能を養うため、現役の熟練技能者を講師とした養成講座を開講。日本全国から受講生を受け入れ、指導を行っています。検定は技能の客観的証明として活用されており、時計修理店の信用度向上にもつながっています。

代表者
Interview

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

長野県時計宝飾眼鏡商業協同組合
理事長

中澤 國忠 さん

昭和15年、山梨県生まれ。山梨県甲府市で時計修理士の技能を習得。昭和39年、茅野市で時計店「鐘のなる店 中沢」を創業。代表取締役社長として現在に至る。

背景・きっかけ

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機械式時計のブーム再来が、
職人不足を浮き彫りにした。

昭和40年代から、クオーツ時計が普及しはじめたことから、機械式時計の数が激減。機械式時計の修理技術は、町の時計修理職人により受け継がれてきましたが、職人は年々減少傾向にありました。ところが、平成5年頃から、スイス製をはじめとする機械式腕時計が再び脚光を浴びるようになりました。「機械」ですから点検が必要ですし、永く使えば不具合も出る。しかし、点検や修理ができる職人が充分にいないことがこのとき浮き彫りになったんです。この危機に手を打たねばと、付き合いのあったセイコーエプソンの方に相談したのがはじまりです。

これまでの取組み

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メーカーや長野県と連携し、
15回目の検定を迎えた。

平成16年、セイコーエプソンとシチズン時計、長野県と共同で検定を立ち上げ、同年に長野県が創設した「技能評価認定制度」の第一号として認定。同時に、検定合格者に向けた養成講座を開講しました。講師を担当してくれたのは、技能五輪のメダリストである時計修理士の皆さんです。回数を重ねるごとに改善を行い、今年で15回目の検定を迎えることができました。これまでに、260名の検定合格者、421名の受講生を輩出しています。

今後について

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検定を通して、業界発展の
歯車を回していきたい。

この長野の地で技能を高めた方々が、今や全国各地で活躍しています。取り組みがきっかけとなり、同業者同士の交流が活発になりました。講習会で習得した技能で、自分たちがつくった腕時計を責任をもってメンテナンスし、2代3代と使い続けてほしい。その想いで「信州 匠の時計修理士」にちなんだ「TAKUMisM(Shinshu タクミズム信州)」という、新たなオリジナル機械式腕時計ブランドを立ち上げました。今後も検定を軸に活動を行い、時計業界を盛り上げていきたいと考えています。

PROJECT STORY

時計業界の未来を担う修理士を、
長野から輩出しつづける。

小松 郁清さん 講師

(写真_右から2番目)セイコーエプソン株式会社 ウエアラブル機器事業部 技能強化チーム エキスパート時計の製造に携わりながら、平成20年より講師を担当。平成26年、「卓越した技能者(現代の名工)」として表彰された。

平田 茂美さん 受講生

(写真_一番左)時計メーカーにて製造を担当。さらなるスキルアップをめざして講座に参加。

花井 悠さん 受講生

(写真_左から2番目)時計修理士。高い技能を持った修理士に教わる機会を持ちたいと思い、講座に参加。

関野 尚美さん 受講生

(写真_一番右)時計修理士。時計の内部構造に関する知識を深めるため、講座に参加。

受講生たちの真剣さに、
指導にも思わず熱が入った。

小松さん 同検定は今年で15年目を迎えましたが、私は3年目から講師として参加しています。現在は、全12回で半年間の講座としています。講座の度に九州など遠方から長野に通う受講生も出てきたので、開講期間を短縮したことはありましたが、これまで講座の運営はスムーズでした。受講生が真剣に、熱心に取り組んでくれたことが一つの理由だと思います。ノートにびっしり講座のメモを取ってくれたり、自主練で修理した時計を見せに来たりと、受講生の意欲には、目を見張るものがあります。自分が指導をした受講生が、講座をきっかけに時計修理士として力をつけ、次のステップに進んでいく姿を見ると、やりがいを感じます。現在でも、機械式時計には根強いファンがいます。手入れができる修理士がいてこそ、機械式時計は時を刻みつづけることができる。時計メーカーの集積地であるこの長野の地で、時計業界の成長を支える修理士を、これからも育てていきたいと思っています。

深い知識、確かな目、集中力。すべてを磨いて、
技能は身につく。

関野さん 私は3級の講座を受講しています。時計修理の仕事を長く続けていると、だんだんと仕事が自己流になってきます。高い技能を持った方に指導をしてもらう機会が欲しくて参加しました。初心に返って、モチベーションアップをしたいという想いもありましたね。講座のレベルがとても高いので、毎回、とても刺激になっています。

花井さん 3級では、時計を分解して、100個ほどあるパーツのなかから不具合を見つけ出す作業を行います。私は実際に時計修理の仕事をしていますが、想像以上に奥の深い世界でした。髪の毛の太さほどのパーツもあり、その長さや曲がり加減にも目を配って、不具合を探さなければいけません。はじめのうちは、その細かな違いに気付けませんでした。講師陣に質問したり、何度も作業を繰り返したりするうちに、違いに気づくようになりました。

関野さん 不具合を見つけたら終わり、ではありません。パーツを洗浄して、不具合を直すために組み直して、油をさして、外装を磨いて…。検定では、それらの作業を7時間通しで行わなければいけません。講座での実習が、集中力を身につける機会にもなっています。

優れた修理士が育つことで、
時計業界は活性化する。

平田さん 私は、現在2級の講座を受講しています。3級合格者でも充分、国内の一般的な機械時計のオーバーホールと時間調整ができるのですが、2級の検定では、さらに高い技能が求められます。ここで問われるのは、時計の不具合の原因を追求して、どうすれば修復できるかを考える力。この力が十分に身につけば、時計修理士として個人で独立することもできるでしょう。さらなる高みをめざして、挑戦を続けていきたいと考えています。

関野さん 講座で教えられたことが仕事に活かせるので、モチベーションが上がりますね。また、検定に合格すると資格手当が出るなど、社内の評価にもつながることもメリットの一つです。今後も、積極的に受講していきたいと思っています。

花井さん 「現代の名工」に直接指導していただける、またとない貴重な機会だと思っています。職場ではなく「学校」なので、思う存分、質問ができるのが、ありがたいところ。「学校」で学んだことを存分に活かして、腕を磨いていきたいです。これからは、私たちの世代が、時計業界を盛り上げていく番だと思っています。

Column

プロジェクト関係者に聞いてみました。

機械式時計の技能は、長野県産業の貴重な“財産”。

時計産業は、長野県の伝統である精密機械産業の象徴です。なかでも、クオーツ式時計に比べ高価格で安定している機械式時計は、時計産業を支える重要な製品の一つです。同検定は、その機械式時計に関する技能の継承、発展に大いに貢献してきました。また、同検定の運営組織である「長野県時計宝飾眼鏡商業協同組合」では、1級取得者と共同で、オリジナル機械式時計を製作。この取組みは、長野県の時計産業のPR、ブランド力向上にもつながっています。

長野県 産業労働部 人材育成課 人材育成支援係 課長補佐兼係長
山崎 浩希さん