PROJECT 07
平成30年度
運営組織:石川の伝統的建造技術を伝える会
拠点:石川県金沢市
開始:平成12年2月
Overview
いにしえの時を超え、よみがえる建造技術。
“匠の技”で繋がる、新たな歴史を刻め。
「石川の伝統的建造技術を伝える会」は、県内の伝統建造物の復元に必要な建築技術の習得・継承、関係する情報の収集、伝統工法に精通した後継者の育成を目的とした組織です。これまでの主な取組みとして、金沢城公園整備工事を舞台に技術の研鑽に励んできました。加えて、伝統工法の重要性や当会の技術力の高さを啓発するため、「匠の技」セミナーを開催。「伝統的建造物の技術者集団といえば石川県にあり」と全国で知られることを目指し、活動しています。
代表者
Interview
代表者プロフィール
代表者プロフィール
石川の伝統的建造技術を伝える会
会長
川元 傳 さん
昭和22年、石川県生まれ。本会の立ち上げに尽力し、現在も会長として指揮を執る。石川県建築組合連合会の相談役、石川県技能士会の会長も務める。
背景・きっかけ
地元の宝は、地元の手で。
9団体の想いをひとつに。
金沢城は石川の職人の手で復元させたい。そんな想いから、建築大工・石工・左官・建築板金・建具製作・瓦葺き・タイル張り・鳶・造園の9団体が手を組み、当会の母体が発足しました。工事には、各専門分野において高度な技術力が必要とされ、個々の連携が必要不可欠。そこで単なる修復作業に止まらず、伝統建造物を手がける際に必要な技術の習得・継承および後進の育成を目的とした組織の必要性を感じ、「石川の伝統的建築技術を伝える会」が生まれたのです。
これまでの取組み
順々と工事が進むたびに、
組織の成長もみえてきた。
菱櫓・五十間長屋・橋爪門の第一期復元。つづく、河北門の第二期復元。そして現在は、第三期復元として鼠多門の整備が始まります。いずれの工事も技術や工法の知見が少ないため手探りで工事を進めてきましたが、徐々に伝統技術を身につけ、互いに教えあってきたことで職人が一丸となり、当会は成長できたと感じています。また、習得した伝統工法の大切さや技術力の高さを一般市民の方に伝える「匠の技」セミナーを年に1度開催し、広く啓発活動も行ってきました。
今後について
プロジェクトを通して、
職人の地位向上に努めたい。
金沢は昔からものづくりに対する意識が高く、職人文化が定着していた街。しかし近年は、9団体すべてで人材が不足しています。そのため、まずは今後も金沢城や県の歴史的建造物の工事に携わることで、建築等の仕事の魅力発信に繋げたいですね。復元工事を通して痛感した高いレベルの職人技から刺激を受け、各団体が研鑽を重ねて、得た知見を後世に伝えていく。かつての技術者集団のような腕の立つ職人を育成し、全国に活動を発信していくことで、職人の地位向上に繋げられると嬉しいですね。
PROJECT STORY
建造技術の習得、後進の育成、職人の地位向上。
金沢城を中心に、石川の未来を描いていく。
佐田 秀造さん 建築大工
(写真_一番左)金沢城鼠多門工事 総棟梁。ものづくりマイスターの資格を持つ。第一期工事から参加。
川元 傳さん 会長
(写真_左から2番目)石川の伝統的建造技術を伝える会 会長。
宮本 修一さん 建築大工
(写真_右から2番目)金沢建築事業協同組合 理事長。ものづくりマイスターの資格を持つ。第一期工事から参加。
大谷 哲司さん 建築大工
(写真_一番右)大谷建築 代表。第一期工事から参加。
過去→現在→未来へ。
職人が持ち寄った、熱き想い。
佐田さん 私がプロジェクト参加の誘いを受けたのは、大工として知識も技能も一定レベルまで達したかな、という頃でした。当会が「本物志向、真正性の追求、史実性の高い整備」を工事の基本方針に掲げ、要ははるか昔、「金沢の街に存在したお城と同じものをつくろうとしている」という話に胸が高鳴りましたね。自分の培ってきた経験がどこまで通用するか試してみたいのはもちろん、伝統的技術とはどういったものか興味がありました。
宮本さん 私も、県内で働く大工として、絶対に参加したいと思いました。過去の文化財から伝統工法を学び、この先、何十年、何百年と残り続ける建築物に技術で貢献したい。大工だけでなく、9団体それぞれに歴史的建造技術があり、それらを習得し活かすことへの関心は高かったように感じます。
大谷さん 自分は20歳そこそこの駆け出しだったので、右も左もわからずに参加。周りは親方レベルの方々ばかりで日々勉強の毎日でしたね。今では、当会の若手陣に自分が学んできた技術を伝承し、後輩の育成に励むことで貢献しています。
建物の端々から感じる、伝統的
建造技術の価値の高さ。
川元さん 古絵図、古文書、古写真をもとに史実を確かめ、設計図を描き、建築技法を明らかにして、復元作業は進んでいく。プロジェクトは職人同士、そして組合の垣根を超えて、意見を出しあいながら進めていきました。それでも、難しいことばかりで…。
佐田さん 例えば、天守閣のない金沢城でシンボル的な役割を果たす菱櫓は、その名の通り「ひし形」の建物です。平面の四隅が80°と100°で形づくられているだけでなく、柱、階段、破風、登る小屋梁等、すべてがひし形で統一されています。現代ではお目にかかれない不思議な建物だからこそ、初めての仕立ても多くて。作業を通して感じたのは、細部まで行き届いた職人の並々ならぬこだわり。どこまでも手を抜かないその姿勢に、ただただ感激しました。
宮本さん 仕口や継手にはボルトや金物を一切使用せず、木材の抜き差しだけで強度を高めていく。その難しさに職人一同、悪戦苦闘。そんな仕事を当時の大工は当たり前にやっていたと思うと。技術力の高さや知識の幅広さに感服しますよね。建築材の活かし方、道具の使い方など、伝統的な建造技術は決して廃らせてはいけない、後世に残すべき財産だ、と肌で感じました。
後進の育成、認知の向上、
私たちが伝え拡げていく意義。
大谷さん 今後、第3期、4期と復元プロジェクトが続くと思いますが、これまで同様に後輩の育成に力を注いでいきたいですね。
宮本さん 大谷くんが育ってくれたように、教わった人が次の世代、また次の世代へと技術や知識を伝承できる場にし続けることが本会の目的であり、組織を長く維持していきたいですね。そうして石川県全体の職人の技術レベルが向上し、職人に憧れて一人でも多くの若者たちが建築の世界を目指してほしいと、切に願います。
佐田さん そのためには、我々の内輪だけで盛り上がっても意味がないので、平成16年から「匠の技」セミナーと題して、一般の方々に伝統的建造技術を伝える場を設けています。9団体それぞれから講師を招いて講習をしていますが、回を重ねるごとに参加者も増えていますね。熱心に話に耳を傾け、体験実習される姿を見ると、復元プロジェクトへの注目度の高さが伺えます。
川元さん 金沢は城だけでなく、街全体に昔ながらの色合いが残る都市でもあります。古くから残る歴史、文化や伝統を重んじつつ、現代の暮らしと融合していくために少しでも貢献できたら。私たちが新たな歴史を刻んでいけたらと思っています。
Column
プロジェクト関係者に聞いてみました。
石川県に熟練の技術を習得した「匠」を増やしていきたい。
我々、石川県としては、会の立ち上げ時から技能者の皆さんに対して継続的な支援を行っています。例えば、本プロジェクトに大きく貢献していただいた方や技能レベルの向上に努めていただいた方を、県の認定技術者「匠」として表彰する制度を設けました。歴史の中で磨かれた建造技術は県の宝と捉え、石川の工匠育成事業として職人の意識や地位の向上に役立てたいと考えています。また、重要建築物や文化財の修繕や補修などに、「匠」をはじめとした「石川の伝統的建造技術を伝える会」のみなさんにご協力いただけたらと思っています。