「地域発!いいもの」
好事例集

PROJECT 02

令和2年度

おおたオープンファクトリー

PROJECT DATA

実施主体:おおたオープンファクトリー実行委員会
(事務局:一般社団法人 大田観光協会)

拠点:東京都大田区

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Overview

「住工共生のまち」へ 町工場を年に一度一斉公開

大田区に集積する多くの町工場を年に一度公開する「おおたオープンファクトリー」が始まったのは平成24年。産業振興、観光振興、後継者確保だけでなく、住民と工場の交流を通して「住工共生のまちづくり」を目指す、ものづくりのまち大田区の未来を見据えた取組でもある。

代表者
Interview

住工共生のまちづくりを目指した
オープンファクトリー

代表者プロフィール

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代表者プロフィール

一般社団法人 おおたクリエイティブタウンセンター副センター長
東京都立大学 都市環境学部観光科学科 准教授

岡村 祐 さん

背景ときっかけ

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「ものづくりのまち」をアピールする地域を巻き込んだプロジェクト

オープンファクトリーが行われる下丸子駅・武蔵新田駅周辺
(2019おおたオープンファクトリーガイドMAPから)

「おおたオープンファクトリー」は、東急多摩川線の下丸子駅・武蔵新田駅周辺や、羽田空港に近い臨海部・島部を主なフィールドに、日常的に工場見学を受け入れるのが難しい町工場を1年に1日だけ一斉公開し、「ものづくりのまち大田」をアピールする地域を巻き込んだプロジェクトです。地元の工業会である工和会協同組合、大田観光協会、東京都立大学、横浜国立大学に加え、公民学でまちづくりを推進する(一社)おおたクリエイティブタウンセンターとが一体となって企画・運営しています。第1回の開催は平成24年。9回目となる令和元年は51社が参加し、4,930人が来場しました。

来場者は区内、区外半々ですが、最も重視してきたのが、近隣住民の方々にこの地域の価値を知ってもらうことでした。オープンファクトリーを始める前、下丸子駅・武蔵新田駅周辺は隣に町工場があるのに「全然見たことがない」「職人さんと話したことがない」という住民の方々がほとんどだったと思います。町工場との接点を作り、「住工共生のまち」へと変えられないか、という問題意識から企画したのがオープンファクトリーです。

これまでの取組

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“大田区のものづくり”を身近に感じてもらえるコンテンツ

オープンファクトリーでは工場を見学できるだけでなく、大田の工場の製品開発力を知ってもらう企画や工場を巡って楽しんでもらう企画など“大田区のものづくり”を身近に感じてもらえるコンテンツを豊富に用意しています。

「モノづくりたまご」は工場の製品開発力、MADE IN OTAをアピールする企画です。大田区の工場は B to B の製品を得意としていますが、「図面がなくても、言われたものは何でも形にする」大田の町工場の力をアピールするために考えたのが「モノづくりたまご」です。「モノづくりたまご」は大田区の町工場が作ったカプセルトイ製品、いわゆるガチャガチャです。最近は地元の日本工学院専門学校の学生がアイデアを出し、工場が製品にしています。

大田の工場では、受注したものを製作する際に自社が専門としていない工程を、その分野に強みを持つ他社に依頼して製作する「仲間回し」が行われていますが、いかにも大田らしい工場見学を促進する企画が「仲間回しラリー」です。その仲間回し方式で一つの製品を得意分野の違った複数の工場を巡って完成させていくものです。例えば輪ゴム銃なら、設計(図面化)、アルミ製グリップ、アクリル製本体パーツなどを別々の工場を巡って受け取り、最後にそれを組み立てて完成させます。工場の二代目三代目や若手職人が「チーム仲間回し」を作ってアイデアを出しています。

「モノづくりたまご」はガチャガチャから出てくる
町工場の技術を集めると輪ゴム銃もこうなる

今後の展開

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ものづくりに関連した人たちを惹きつけるプラットホーム

地元の子供や若者に興味を持ってもらってもらうことで、将来、町工場の担い手になってもらうという狙いが当初からありました。2年前からさらに一歩進めて、「町工場のシュウカツ」プロジェクトも始めています。製品と設備を紹介する「B to B」の会社案内ではなく、働いている人の思いや工場の魅力を伝える若者向けのパンフレットを我々の手で作って工場に置いています。

また、オープンファクトリーは、「ものづくりに関連した人たちを惹きつけるプラットホーム」だと思っています。工場には地元の人たちだけでなく、クリエイターやデザイナーも数多く訪れます。この人たちが工場の技術・技能に関心を持ち、「大田は面白い」と情報発信してくれることが、新たな製品開発にもつながります。「チーム仲間まわし」も、「仲間回しラリー」で作る製品を考えるだけではなく、将来のMADE IN OTAのプラットフォームになると考えています。年々工場が少なくなっていく中で、「ものづくりがあるまち」をどう活性化させていくか。オープンファクトリーは、「住工共生のまちづくり」の一つの試みだと思っています。

メンバーズインタビュー

オープンファクトリーが生んだ地域とのつながり

柳澤かおりさん

シナノ産業(株)代表取締役

遠藤 晃毅さん

シナノ産業(株)製造部主任

ボールが入った色のシナちゃんストラップがもらえるミニゲーム

――参加したのはいつからですか。

柳澤 第1回から参加しています。開催日が土曜日だったので社員2人が出勤し対応することにしました。サンプルを展示して来場者に仕事の説明をするくらいだったのですが、お昼も食べられないくらい見学者が来てくれました。2回目からは全員出勤にしています。

――オープンファクトリーではどんなことをされているのですか。

柳澤 当社はプラスチック樹脂部品の切削加工を専門にする会社ですので、部品サンプルの展示や加工しているところを見てもらうのが中心です。より身近に感じてもらうために数年前から始めたのが、会社のキャラクター「シナちゃん」のストラップをプレゼントするミニゲームやクイズです。ミニゲームでは、ボールが入った場所の色のシナちゃんストラップがもらえます。プラスチック樹脂といっても用途によって特性も値段もさまざまですが、クイズは「この中で一番高いと思う材料はどれ?」といったプラスチックに興味をもってもらえるようなものを出題しています。

ミニゲームやクイズでもらえるシナちゃんストラップ

遠藤 切削加工では、コンピューターで動かす加工機より人手で動かす加工機の方が人気があります。「削るとき出る切粉(きりこ)を見ているのが楽しい」とよく言われます。小学生の男の子の多くは切粉を競って持って帰りますね。また、ベテランの人が動かしている今ではほとんど見かけなくなった彫刻機を見て「まだ現役なんだ」と感慨深げに言ってくださる年配の方もいます。見学に来る人の中には、人の手で加工するところに魅力を感じる人が意外に多いですね。

人気がある汎用旋盤(加工機)

――どういう方が見学に来られるのですか。

遠藤 1日の予定を決めて自転車で全社回る子供たちも多いですし、モノづくりにものすごく興味を持っていて、こちらが知らないようなことまで質問してくる年配の方もいます。以前は先生に引率されて来ることが多かったのですが、最近は1人か2人で来る若い人も増えています。オープンファクトリーは地域に浸透してきたと思いますね。

――オープンファクトリーに参加するようになって変わったことって何ですか。

柳澤 社員がそれぞれ自分の仕事を説明できるよう心がけるようになりました。以前、工場見学の受入れをしていた時は一度自分の仕事の説明をすれば終了です。オープンファクトリーの場合は1日中、しかも小学生から年配の方までいろいろですから、相手に合わせ説明しなければいけませんし、質問にも答えなければいけない。無口な職人ではいられなくなるんですね。

遠藤 町中を歩いているときに近所の方に「あっ、シナノ産業さん」と声をかけてもらえることが多くなりました。また、「仲間回しラリー」にも参加するようになって、今まで関係が持てなかった地域の異業種との繋がりもできました。いろいろな意味でオープンファクトリーは、地域とのつながりを作ってくれています。まだまだ、つながりを広げていきたいですね。

メンバーズインタビュー

技を知ってもらえば人は来る

赤塚刻印製作所
赤塚 正和さん

―― 参加した理由は何だったのですか。

最初は私の技術・技能を知ってもらうことで、若い人に会社に入ってもらいたいということで始めたんです。参加してから2人も希望者がきました。結局、こちらの事情で入社してもらえなかったのですが、技術・技能を知ってもらえれば人は来ることがわかりました。

赤塚刻印製作所は手彫りで刻印を作っている会社で、昭和36年、父の代に創業しています。自動車や家電の金属部品に刻まれているメーカー名や型番号の小さい文字、あれも刻印ですが、手彫りで作っているのは大田区では今はうちだけです。

―― 手彫りの刻印にこだわる理由はなんですか。

NC加工機などの機械彫りでは文字の角が加工できないんです。100分の1ミリの歯を使っても角は1000分の5ミリのRが付いてしまいます。文字が2、3ミリであれば目立たないのでいいですが、0.4ミリの文字になると、1000分の5ミリのRは目立ってしまって製品にはなりません。タガネで手彫りできる人は全国でもほとんどいなくなりました。

―― オープンファクトリーでは何をやっているのですか。

工場の公開と体験教室の両方やっています。対応するのは私一人ですから、大変なんです。工場の公開は中が狭いので、外に並んでもらって、10人ずつ入ってもらい仕事の説明をするようにしています。最初の頃、来るのは区外の人が多かったですね。私が東京マイスター(平成16年)や大田の工匠100人(平成20年)に選ばれたこともあって、有名海外ブランドの刻印の製作もするようになり、アパレルやアクセサリーなどこれまでとは違う業種の人に知られるようになっていたからです。近所の人が来るようになったのは、多摩川線沿線の町工場の職人5人のポスターが下丸子の駅に張り出されてからです。近所に有名な職人さんがいると思われたのかどうか知りませんが、それから地元の人もたくさん来るようになりました。

体験教室はストラップ作りで、金属のプレートに自分の名前をアルファベットで打ってもらっています。子供連れで来る方もいて、一緒に作ったストラップをバッグにぶら下げてあげると、子供が喜ぶんですね。毎年作りにきて、家族全員分作り終わったので、友達の分まで作りにくるリピーターの方もいます。そうなるとなかなか止められないですが、正直、歳も歳なので、今後は体験教室も予約制にして、少人数で刻印を実際に作るような内容に変えてもいいかなと思っています。少しでも私の技術・技能を伝えられる場になればと思っているんですね。