入職促進
ガイドブック

求められる力が変化する中で学校外と連携しながら、高い技能を育む

専門家に聞く建築業界の魅力

専門家に聞く建築業界の魅力

求められる力が変化する中で学校外と連携しながら、高い技能を育む

「職人」的な能力から、「施工管理」的な能力へ。いま、建築業界が工業高校生に求める力が変化しています。そうした環境の中、「技能の習得」と「ものづくりへのこだわり」は一層、重要視され、教育現場では活躍できる人材を輩出すべく、育成に取り組んでいます。より高いレベルの技能実践のために、大学・企業・専門家と連携しながら専門教育に励む工業高等学校。建築業界における高卒者の就職状況、求められる人物像、工業教育のあり方など、東京都立墨田工業高等学校の古藤一弘校長にお話を伺いました。

業界分析

「技術の継承」「多能工の育成」が、今後のキーポイント

「国土交通分野の将来見通しと人材戦略に関する調査研究」(国土交通政策研究所)
(出典)「国土交通分野の将来見通しと人材戦略に関する調査研究」(国土交通政策研究所)
4-4)-12.(「10年後の建設業界の市場規模の見通し」×「建設現場の生産性向上の取組」)より作成

専門家プロフィール

東京都立墨田工業高等学校 古藤一弘(ふかい かずひろ)さん
東京都立墨田工業高等学校

古藤ことう 一弘かずひろさん

プロフィール
日本大学生産工学部機械工学科卒業後、昭和63年に入都し都立高校の教員となる。都立工業高校校長会直轄のロボット研究会事務局長を歴任し、相撲ロボットを教材としたロボット工学やプログラミング技術を推奨する傍ら、関東甲信越地区機械工業教育研究会、東京都機械工業教育研究会に所属。令和3年度に墨田工業高等学校の校長に就任。また、学校外の活動として、関東甲信越地区機械工業教育研究会会長、東京都自動車工業教育会会長を務める。これからの工業高校教育のあり方について積極的に意見交換をしている。

日頃の教育活動の評価が高い「墨工ブランド」

はじめに、墨田工業高校の求人状況のお話をさせていただきます。当校では新型コロナの状況もありながらも、ありがたいことに令和3年8月時点で2500件以上の求人票が集まっています。その中で建築関係の求人は約600件と、建築科の生徒数約30名に対して非常に多くのご期待を賜っている状況です。ひとえに、当校創立から120年以上の歴史が積み重ねてきた信頼によるものが大きいかと思います。工業高校なら100%の就職率は当然で、質の向上が求められているのではないかと考えます。そこで当校では、生徒たちの建築に対する知識を深め、技能を向上させるためにも、建築関係の資格取得に力を入れています。その結果、多くの生徒が複数の資格を取得して、学校を卒業しています。実際に、企業に務めた後も基本を徹底して働いてくれる卒業生たちが、墨田工業高校の「ブランド」になり信頼を得ているのがその証拠です。就職後の定着率も高く、多くの卒業生たちが3年、5年、10年以上と同じ企業で働き続けている定着率の高さは、就職活動時に生徒本人の希望を尊重しながらも、進路指導の先生方のアドバイスをもとに、一人ひとりの人生を見据えた進路へと後押ししていることも関係しているかもしれません。教育現場では、建設業界内にどんな仕事があり、先々でどんなスキルが身につくのかを、生徒たちに具体性をもって伝えることで、より自身にマッチした職業を見つけられるようにサポートしています。建築の専門性を持ち、目的意識の高い若者を輩出することで、生徒と企業の双方が納得した上で採用活動ができているのでは、と感じています。

求められる人材が変わっても、職人的な知見は必要

採用活動でよく聞かれる「求める人材」に関しては、ひと昔前と比べると、変化しているように感じます。昔は工業高校の生徒に求められたのは、いわゆる職人としての技能・技術だけでした。切る・削る・打つ・組むなど、建築業界で必要な技能を磨き、高いレベルで遂行できる人材が重宝されました。現在は、外国人労働者や機械がそうした仕事の多くを担っているのが現状です。現在、現場監督や施工管理など、技能・技術だけでなく俯瞰した視点で業務を「マネジメント」できる広い視野を持つ人材が求められています。高卒生に対しても、将来的には「管理」の仕事を任せたいと考える企業は増えてきました。当校でも、外部の講師の方と連携しながら、マネジメント力を身につけられるように力を入れています。では、「工業高校生は職人的な技能・技術を身につける必要がなくなったのか」と問われると、答えはNOだと考えます。現場を監督する際も、職人的な技能・技術を身につけていないと、的確な判断や指示ができません。だからこそ、「技能を磨く」というのは、この先いかに建築現場の環境や求められる役割が変わろうとも必要なことではないかと考えます。当校では技能を磨くためにも、少人数にクラス分けした授業を行い、各人の習熟度に応じた丁寧な指導体制を整えることで生徒たちの技能の向上に努めています。企業の専門職の方々から直接、技能指導を受けられる授業も取り入れることで、応用的な技能を学べる体制を整えています。また、ものづくりに大切なのは「こだわり」だと思っています。どんな些細なことでも、自分なりの「こうあるべき」を、つくる過程に取り入れることでワンランク上の製品に仕上がります。生徒たちの能力や個性を伸ばすためにも、技能士の方々から教わる「ものづくり体験活動」などを積極的に取り入れて、「こだわり」を見つける教育を図っています。「こだわり」とは何か?それは「個性」だと私は思っています。自身を出すこと、見せること、製作物に自身の色を出すことが「こだわり」ではないかと思います。例えば、実習において、木材を直に手に取り、その触感や性質などの特性を理解し、いかにそれを活用した使い方をすれば良いかを考えさせる授業であったり、寒冷地や温暖地、気候風土の特性、国ごとに定められている規則やルールの基礎基本を建築計画や建築法規、建築設計製図等を通して学びながら、主体的、対話的で深い学びを行っていく探究的な学習から「こだわり」が見えてくるのではないかと思っています。プラスαのこだわりを形にできるのは、まさに技能・技術などの職人的な知見です。そうした点でも、生徒たちには学校生活で自己を磨いてもらえたらと考えています。

大学・企業・専門家と連携し未来を担う「芽」を育てていく

専門教育への取り組みとして、当校の事例をご紹介させていただきます。墨田工業高校は、都立工業高校のリーディング校として、大学・企業・専門家の方々と多くの交流を重ねてきました。例えば、大学と連携して家具づくりを行ったり、企業が保有する研修所を利用して指導を受けたり、著名な建築家を招いてデザインや設計に関するお話をお伺いしたり、学校の中だけでは得ることができない「刺激」を生徒たちが感じられる取り組みを実施しています。さまざまな課外授業を通して、生徒たちは夢や目標を見つけ、進路選択の幅が広がっていくことも多く、そうした声を聞くと非常に嬉しく思います。学校というのは、生徒たちの未来を豊かにする場、機会を広げていく場だと思いますので、これからも新たな教育の形を取り入れていけたらと考えています。こうした連携は、生徒だけでなく当校の教師たちの学びの場にもなっています。インプットいただいたことを、次は学校の中で復習し、実践していく。こうした学びのサイクルをつくることで、より高いレベルでの技能指導を実践できるのではないでしょうか。当校だけでなく周囲のみなさまのご協力があってこそ、墨田工業高校の「技能レベル」や「ブランド」を維持できていると感じています。今後も地域社会と連携しながら一丸となって、未来を担う「芽」を育てていけたらと思います。

大学・企業・専門家と連携し未来を担う「芽」を育てていく