入職促進
ガイドブック

製造業界に詳しい専門家に聞く

専門家に聞く

製造業界に詳しい専門家に聞く

基盤産業の優れた技能が新しい産業のベースに

ものづくり大国として、数多くの高品質の製品を生み出し、国内から世界にまで信頼感を高めている日本の製造業。その土台にあるのが、工作機械関係や金属加工などの産業です。日本の「基盤産業」と呼ばれるこの分野は、派手さはなくとも、精度や品質へのこだわり、長年継承された技術・技能によって毎日の暮らしを豊かにするあらゆる製品の製造、そして、日本の質の高いものづくりを支えてきたのです。

業界分析

産業が進化していくごとに必要になる次の基盤産業

これから日本で成長する新しい分野には、自動車の自動運転システムやAIの技術。そして、航空機などがあります。これまでジュラルミンなどの部品を加工する技術は、今まで日本にあまりなかったものです。さらに、炭素繊維など、新素材を使用した製品の需要が伸びれば、当然加工する機械も必要になってきます。一方、高齢者の増加で、使い勝手のよい福祉関係の機器の開発需要も高く、さらにはエネルギー関連、構造物の耐震補強にともなう鋼材など、幅広い分野で基盤となる製造技術が求められています。

産業が進化していくごとに必要になる次の基盤産業

専門家プロフィール

職業能力開発総合大学校 教授 博士(工学) 岡部眞幸(おかべ まさゆき)さん
職業能力開発総合大学校 教授
博士(工学)

岡部おかべ 眞幸まさゆきさん

プロフィール
上智大学大学院理工学研究科 機械工学専攻博士前期課程修了。東芝機械株式会社、上智大学理工学部機械工学科助手・講師・准教授を経て、厚生労働省所管職業能力開発総合大学校で現職。同大学校能力開発院 基盤ものづくり系 NC・CAMユニット長、同大学校 総合課程機械専攻を兼任。主な著書に「厚生労働省認定教材 機械製図」の【基礎編】と【応用編】、「ザ・手仕上げ作業 ものづくり現場で受け継がれる技術と技能(日刊工業)」など。

日本のものづくりの文化を支える機械・金属加工産業

日本の産業を大別するとき、機械産業は「一般機械産業」「自動車・輸送機械産業」「電気機械産業」「精密機械産業」という4つのジャンルに分かれます。生産機械関係や修理・整備、金属加工などは主に「一般機械産業」に含まれます。現在、自動車産業が3割、一般機械産業が3割を占め、近年この比率は比較的安定しています。生産高などはやや低下傾向にあり、一般機械産業の従業員数も100万人を切っている状況ではありますが、機械産業の中で見ると近年はずっと同じです。この均衡が実は日本の産業構造の強みといえるのです。「一般機械産業」は、自動車や電気機器など日本のすべての製造業を支える「基盤産業」だからです。一般機械産業の機械設備によって、他の機械産業の設備機器の製造や生産ラインを自国で調達できることは、日本のものづくり文化と経済成長を支えてきた大きな強みだといえます。

! Keyword

Keyword

工作機械は「機械を生み出す機械」としてヨーロッパで発展した時代から「マザーマシン」と呼ばれています。母なる機械と呼ばれる理由は、自分の中の部品も作り出す機械であること。そして「精度の高い工業製品は精度の高い工作機械にしか生み出せない」ということにあります。自動車の金属部品、プラスチック部品を作る金型にしても工作機械が関わっており、日本のものづくりの生命線なのです。

ものづくりの魅力とは創意工夫して品質を保ち使う人に満足してもらうこと

機械関係にしても金属加工にしても、もともと基盤産業であるがために、他の産業に比べると、さほど大きな規模ではありません。しかし、この一般機械産業が仮に3割から1割にまで減少してしまうような事態になると、日本の製造業は一変してしまいます。工作機械のほとんどを海外からの輸入に頼ることになり、外国製の機械では微調整なども日本語では難しくなります。世界でも高い品質を保っている日本の工作機械が失われた結果、これまでと同等の日本の誇りである精度の高いものづくりができなくなる可能性があります。

日本のものづくりの魅力とはコストなど厳しい条件の中でも、きわめて質の高いものを創意工夫して作り出すことにあります。使っていただくお客さんに満足してもらい、最終的には人々の生活が豊かになったり幸福になったりしていく。そういう魅力のある製品を送り出し、社会との繋がりを実感するためにも品質は重要なのです。

方法は違っても技能者を大切に育てる方向はどこの企業も同じ

製造業が製品を世に出す流れとは、まず市場調査を行って企画を立て、設計、製造、検査を経て出荷をする。その後、セールスやメンテナンスサービスもあります。企業の規模や作るものが違っても、ものづくりの流れはすべて同じです。このように製造業には製品を送り出すまでにさまざまな仕事があります。

かつて大企業などで技能を重視せず、臨時の従業員で対応した時代がありました。しかし、それではものづくりがうまくいかないことが分かり、現在は社内で技能者を育てて尊重する方向になっています。

ただし、会社によって技能者を育てるシステムはさまざまです。大手企業ではトレーニング部門などを持っている場合もありますが、中小の企業では現場で実際に働きながら経験を積み、ベテランの技能者から技能を学んでいくというのがほとんどです。

就職する会社について実際に目で見て確かめることが必要

これから入職を考える方にお伝えしたいのは、大まかでもまず自分のやりたい職業分野や方向をよく考えること。そして、企業を選ぶ段階にある人は、その会社が何を作っているのか、社会にどのように貢献しているのかなど、企業研究とともに、必ず自分の目で確かめてほしいということです。今は実際に工場実習として仕事を体験するインターンシップや工場見学など企業や業界団体がさまざまな機会を設けています。そういうチャンスがあれば積極的に参加して、実際に見ること。ここで自分が働きたいと思うか思わないか。特に、会社の雰囲気が自分の肌に合うという感覚を少しでも持てることは、とても大切なのです。

就職する会社について実際に目で見て確かめることが必要

※ 所属・役職・年齢・入社年数は取材当時のものです。