専門家に聞く製造業界の魅力
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専門家に聞く製造業界の魅力
製造業界がつくりあげた「日本」という最高級ブランド
メイド イン ジャパンというだけで、商品の価値や安心感がぐんと高まる。日本製という、世界から愛されるブランドをつくりあげたのは、まぎれもなく、ものづくり産業が誇る“技術力”です。世界屈指のものづくり大国ニッポン。戦後復興から現在の日本の地位を築いた立役者ともいえる製造業の魅力について、業界に詳しい橋本氏にお話を伺いました。
業界分析
製造業は、新たな力を求めている
日本の製造業の企業数は約42万社あり、そのうち99%以上がいわゆる中小企業です。また、製造業の従事者のうち中小企業に勤める人の割合は約66%です。製造業は、GDP※(国内総生産)の約20%を算出しているほか、非製造分野と比べると生産波及効果・雇用誘発効果が大きく、製造業が元気であることは他の産業における雇用機会の創出につながるなどの重要な役割を果たしています。
しかし、製造業の企業のうち約80%は、人材の確保を課題としており、若い世代をはじめとする人材の活躍を期待しています。
※GDPは国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額
専門家プロフィール
橋本 久義さん
プロフィール
福井県生まれ。東京大学工学部 精密機械工学科を卒業後に、通商産業省へ入省。機械情報産業局 鋳鍛造品課長、中小企業技術課長、総括研究開発官などを歴任する。後に埼玉大学教授(政策科学研究科)を経て、政策研究大学院大学の教授に就任。現在は、政策研究大学院大学の名誉教授、同客員教授。
通産省時代から、「現場に近い行政を」という信念のもと、全国の中小企業の働く方々に話を聞き、リアルな声を反映させた政策を目指す。行政や学会では珍しく、現場主義を貫く同氏。発展途上国の産業発展や、中小企業の活性化などのテーマを、次の世代に問い続ける。
中小企業の貢献は、とてつもなく大きい。
私は元々通産省(現在の経済産業省)にいて、中小企業を盛り上げようと働きかけてきました。この30年ほどの間に、3,800社以上もの現場を訪ね、社長さんや社員の方からいろいろなお話を聞いてきました。それがまた、実に面白い。社名や製造しているものだけ聞くと、どこも同じように見えてしまうのかもしれませんが、実際にはそれぞれにオンリーワンのやり方、技術力をもっているんですよ。こんなにたくさんの会社に伺っていても、今でもその一社一社を覚えています。
大きな船や飛行機だって、小さな部品を組み上げた集合体。海を越えて、その名をとどろかせている日本のトップメーカーであったとしても、製品づくりにおいては中小企業からの部品提供がなければ成り立たない。世の中の99%以上を占める中小企業が、この国のものづくりの基盤を支えているといっても過言ではありません。バブル崩壊やリーマンショックといった不況の波にも負けず、踏ん張り続けている中小企業が多いのはその現れ。数多くの現場に足を運んでいたからこそ、ものづくりをする中小企業のたくましさを実感してきました。
町工場から、未来はつくりだせる。
ひとつの会社でつくられている製品は、例にあげた飛行機でいえば、機体の中のひとつの部品かもしれない。けれども、その小さな部品をつくりあげるためには、ものすごいパワーとアイデアがいるんです。同じ部品や商品を何十年とつくっていたとしても、世の中が変われば、そのもの自体に求められるものだって変わる。時代と共に進化を続けないといけないんです。
最近、巷(ちまた)では「IoT(モノのインターネット化)やAI(人工知能)が、人間の仕事を奪っていくのでは…」というニュースをよく耳にしますよね。たしかに生産の自動化によって、ものづくりの現場もどんどん効率化されています。でもこれは、なにも今に始まったことじゃない。ちょっと話を変えますが、みなさんは音楽をなにで聞きますか?
私の時代はレコードだった。それがカセット、CD、MD、ポータブルプレーヤー、スマートフォンへと進化していった。それによって、つくられる機械が変わる。もちろん必要な部品も変わっていくわけですね。
みなさんの街にもある町工場の中には、そんな時代の移り変わりを読んで、先駆けたものづくりをしている会社がたくさんあります。もちろん部品づくりだけではなく、若手社員自らの考案で、大ヒット商品を生みだした会社だってあります。小さな町工場だからこそ、若手社員たちの自由な発想を活かせるチャンスが多い。成熟した製造業界がさらに飛躍していくためには、今までの考え方に縛られないものづくりが必要。身軽にカタチを変えていける中小企業のほうが、これからの時代にはフィットするのかもしれません。
ものづくりは、ひとづくり。
先にも申し上げたとおり、製造業界の未来をつくりだしていくのは、みなさんのような若い世代の力です。一人ひとりがもつ影響力が大きいのも、中小企業の大きな魅力のひとつです。あなたが何気なく提案したことが、会社の将来を背負って立つ事業に発展したり、その先には産業全体を変え得る可能性だってあるかもしれません。
職人気質のある仕事ですから、慣れるまでは大変なこともあるでしょう。けれど、それはどんな業界でも同じこと。仕事を覚えてくれば、できることも増えて、自然と毎日は楽しくなっていく。それに中小規模の会社なら、社長と従業員、先輩と後輩の距離感が近いので、技術うんぬんの前に、あなたを一人の人間として大切に育てようとしてくれます。私の知っている社長さんの中には、わざわざ採用した社員の親にあいさつに行く人もいます。地方から出てきた社員を自宅に住まわせて、家族のように面倒をみる人もいます。先輩はときに厳しく接しながらも、社会人としての立ち振舞いを、しっかりとあなたに身につけさせるために、正面から向き合ってくれるはずです。
どんなに時代が変わっても、どこまで技術が進化しても、この、人との関わりの温かさは、人の手でしかつくりだすことができません。日本のものづくり産業が衰退せずに、世界をリードするまでに成長してこられたのは、こういった“ひとづくり”を疎(おろそ)かにしていないからだと思います。もし、ものづくりに少しでも興味があるなら、安心してこの業界に飛び込んでください。きっと周りの諸先輩方が、あなたを立派な職人へと、育てあげてくれることでしょう。
※ 所属・役職・年齢・入社年数は取材当時のものです。